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第10話【科学】魔女が箒で空を飛ぶ原理は解明されている 後編
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「これがカグヤの箒です。この箒シリーズにはブラックキャットという愛称があります。可愛がってあげてください」
アズラエルから箒を渡された。それは一見するとどこにでもある古びた箒。
「へー、箒が黒猫? よろしくね」
そう呼びかけても特に返事はない。
「今始動します。箒に跨り保持してください」
「うん、これで良い? 始動って何するの?」
「まずこれを飲んでください」
天使から瓶入りのコーラみたいなのを渡された。
「えっと、これ何? あと栓抜き持ってる?」
「ああ、剣で開けます」
彼女は器用に剣の突起に蓋を引っ掛けて開けた。
「はいどうぞ」
「だからこれ何って聞いてるの」
「魔力補給用のポーションです。カグヤはまだ変身できないので飛べるほど魔力がありませんから」
「魔法のポーション? じゃあ一口」
ゴクッ。
「まず……。薬みたいな味がする」
炭酸入りで見た目もコーラだが味は薬だった。
「それが良いのです。全部飲んでください」
「むぅ、仕方ない」
我慢して全部飲みきった。
「次はどうするの?」
「柄を何度か握ってください。プライマリーポンプでカグヤの魔力が箒に送られます」
にぎにぎ。これで良いのかな。
「心は平静に、魔力の絞り弁、スロットルを全閉にするイメージを思い浮かべてください」
平静に平静に……。スロットルって何だろう。
「そして箒の先端の魔法ハンドルを展開、次にはずみ車を毎分1万5000回転程度まで十分に回します。私がやります」
グーン、グイーン、グイングイン。
天使が光り輝くハンドルを回し始めた。徐々に速くなっていく。
「この箒の始動呪文は天界奇跡『コンタクト』です。言ってみてください」
「天界奇跡『コンタクト』」
バンッ! ババッ! パリパリパリ!
破裂音と閃光と共にフワリと風が舞った。
「ああびっくりした、成功?」
「成功です。まだブレーキをかけていてください」
「ブレーキブレーキっと、どこにある?」
「心の中でイメージすれば大丈夫です。そして計器盤を開いてください。イメージで」
念ずると青いメニューが空中に浮かんだ。これが計器盤か。数字と針の光が浮かぶたくさんの丸が現れた。天使は説明する。
「これがブースト圧力計、魔力残量計、速度計、高度計、針路計、神製水平義です。計器が正常か飛行前には必ず確認してください」
天使は呪文を唱えた。
「待って、どれがどれやら。メモ用にシール貼りたいけど宙に浮かぶCGだから貼れない」
「そのうち覚えられますよ。それではスロットルをゆっくり開きブースト圧力を30インチまで上げてください」
「30インチ? ブースト圧力というのはこれかな? ゆっくりひらいて……。これでいいのかな、あっ、凄い! 浮いた!」
「滑走し、針路をまっすぐ保つようにしてください。利き手が右手ですと低速で加速中に左へ強く振られる傾向がありますので反対方向に」
「私左利きなんだけどそれだと右へ傾く感じ? 気を付ける」
「はい、そうです。右へヨーイングが起きます。『前へ』と念じれば前進しますし、『後へ』と念じれば後退します」
前前…。心の中で私が念じると加速し始めた。
「おおっ! 凄い凄い! なんだ意外と簡単だね。右とか左とか思うだけでコントロールできるんでしょ?」
「ええ、その通りです。天空の奇跡が生んだ操縦者と箒の心を一致させるフライバイワイヤシステムを搭載しており、それはまさに手足や羽のごとく箒を操れます。そして魔力が続く限り──」
「よーし、それならひとっ走りして来よう! さあ箒よ! 空高く舞上がれ!」
コツがつかめた。テンションを高めて心を全開にするイメージを思い浮かべると凄まじい加速で空高く上がった。まるで鳥になった気分だ。
「ヒーハー! ハイヨー! シルバー! もっと速く!」
心から湧き上がる呪文を唱えるとさらにスピードが上がった。心のスロットルを開くとはこのことだったんだ。私はおそらくこの世界で一番速く飛んでいる。
ガタッ、ガタッ、ガタッ。
そのとき箒が突然振動を始めた。ん? なんだろこれ故障?
そしてスーッと落下を始めた。ふと先程のおかしなテンションはどこへ行ったか我に返る。
あれ? これまずいのでは。
「ほ、箒よ箒、どうしたの? ご機嫌斜めなのかな? 単純に故障なの? ねえ答えてブラックキャット」
「シンクレート、シンクレート」
箒に問いかけるとノイズ混じりの無機質な神聖語が帰ってきた。
「はい? もう一回言って?」
「ドントシンク、ドントシンク、ドントシンク」
「待って、全然聞き取れないんだけど。シンなんだって? どうすればいいの?」
「プー! プー! プルアップ! プルアップ!」
警報音も鳴り出した。ブラックキャットも強く何かを訴える。
わかった、これ対処法を言っているんじゃなくて落ちてるからアップしろ上がれってことだ。どうすれば落ちるのを止められるかは自分で考えろと。
「テレイン、テレイン」
ブラックキャットはまだ何か言っているが構ってる暇はない。いよいよ地面が見えてきた。
「ど、どうすれば、そうだ! 始動奇跡『コンタクト』!」
ババッ! シューン……。一瞬、再起動できたように見えたがダメだ。
「何で!? どうして!?」
「テレイン、テレイン。プー! プー! プルアップ! プルアップ!」
警報音が鳴り響く中、走馬灯のように今までの人生が思い浮かぶ。1回死んだのにまた死ぬなんて嫌……! 目を瞑ったその時、誰かに腕を引っ張られた。
「魔力切れです。箒に心を操られましたね。初心者にはよくあることです。魔力ポーション1ガロンでおよそ3マイルほど飛べますが最大出力では燃費が悪化することに注意してください」
アズラエルにまた助けてもらった。
「うん……、気をつける。1ガロンって何リットル?」
「えー、そうですね、およそ3.8リッターです」
「それで1マイルは何キロ?」
「えーと、およそ1.6キロメーターです」
「それは燃費が悪いということじゃないの?車の免許持ってないからよくわからないけど」
「150ガロンドロップタンク1個で450マイル飛べますから問題ありません」
「ドロップ? 飴?」
「飴ではありません。追加の補助ポーション容器のことです。長距離飛行では必要に応じて搭載してください」
「ふーん、でもそれは単に量で解決しているだけのような。それに150ガロンだっけ? 500リットル以上の魔法のポーションを私運べるの?」
「その話は今度しましょう」
こうして箒で飛ぶスキルを私は獲得した。
アズラエルから箒を渡された。それは一見するとどこにでもある古びた箒。
「へー、箒が黒猫? よろしくね」
そう呼びかけても特に返事はない。
「今始動します。箒に跨り保持してください」
「うん、これで良い? 始動って何するの?」
「まずこれを飲んでください」
天使から瓶入りのコーラみたいなのを渡された。
「えっと、これ何? あと栓抜き持ってる?」
「ああ、剣で開けます」
彼女は器用に剣の突起に蓋を引っ掛けて開けた。
「はいどうぞ」
「だからこれ何って聞いてるの」
「魔力補給用のポーションです。カグヤはまだ変身できないので飛べるほど魔力がありませんから」
「魔法のポーション? じゃあ一口」
ゴクッ。
「まず……。薬みたいな味がする」
炭酸入りで見た目もコーラだが味は薬だった。
「それが良いのです。全部飲んでください」
「むぅ、仕方ない」
我慢して全部飲みきった。
「次はどうするの?」
「柄を何度か握ってください。プライマリーポンプでカグヤの魔力が箒に送られます」
にぎにぎ。これで良いのかな。
「心は平静に、魔力の絞り弁、スロットルを全閉にするイメージを思い浮かべてください」
平静に平静に……。スロットルって何だろう。
「そして箒の先端の魔法ハンドルを展開、次にはずみ車を毎分1万5000回転程度まで十分に回します。私がやります」
グーン、グイーン、グイングイン。
天使が光り輝くハンドルを回し始めた。徐々に速くなっていく。
「この箒の始動呪文は天界奇跡『コンタクト』です。言ってみてください」
「天界奇跡『コンタクト』」
バンッ! ババッ! パリパリパリ!
破裂音と閃光と共にフワリと風が舞った。
「ああびっくりした、成功?」
「成功です。まだブレーキをかけていてください」
「ブレーキブレーキっと、どこにある?」
「心の中でイメージすれば大丈夫です。そして計器盤を開いてください。イメージで」
念ずると青いメニューが空中に浮かんだ。これが計器盤か。数字と針の光が浮かぶたくさんの丸が現れた。天使は説明する。
「これがブースト圧力計、魔力残量計、速度計、高度計、針路計、神製水平義です。計器が正常か飛行前には必ず確認してください」
天使は呪文を唱えた。
「待って、どれがどれやら。メモ用にシール貼りたいけど宙に浮かぶCGだから貼れない」
「そのうち覚えられますよ。それではスロットルをゆっくり開きブースト圧力を30インチまで上げてください」
「30インチ? ブースト圧力というのはこれかな? ゆっくりひらいて……。これでいいのかな、あっ、凄い! 浮いた!」
「滑走し、針路をまっすぐ保つようにしてください。利き手が右手ですと低速で加速中に左へ強く振られる傾向がありますので反対方向に」
「私左利きなんだけどそれだと右へ傾く感じ? 気を付ける」
「はい、そうです。右へヨーイングが起きます。『前へ』と念じれば前進しますし、『後へ』と念じれば後退します」
前前…。心の中で私が念じると加速し始めた。
「おおっ! 凄い凄い! なんだ意外と簡単だね。右とか左とか思うだけでコントロールできるんでしょ?」
「ええ、その通りです。天空の奇跡が生んだ操縦者と箒の心を一致させるフライバイワイヤシステムを搭載しており、それはまさに手足や羽のごとく箒を操れます。そして魔力が続く限り──」
「よーし、それならひとっ走りして来よう! さあ箒よ! 空高く舞上がれ!」
コツがつかめた。テンションを高めて心を全開にするイメージを思い浮かべると凄まじい加速で空高く上がった。まるで鳥になった気分だ。
「ヒーハー! ハイヨー! シルバー! もっと速く!」
心から湧き上がる呪文を唱えるとさらにスピードが上がった。心のスロットルを開くとはこのことだったんだ。私はおそらくこの世界で一番速く飛んでいる。
ガタッ、ガタッ、ガタッ。
そのとき箒が突然振動を始めた。ん? なんだろこれ故障?
そしてスーッと落下を始めた。ふと先程のおかしなテンションはどこへ行ったか我に返る。
あれ? これまずいのでは。
「ほ、箒よ箒、どうしたの? ご機嫌斜めなのかな? 単純に故障なの? ねえ答えてブラックキャット」
「シンクレート、シンクレート」
箒に問いかけるとノイズ混じりの無機質な神聖語が帰ってきた。
「はい? もう一回言って?」
「ドントシンク、ドントシンク、ドントシンク」
「待って、全然聞き取れないんだけど。シンなんだって? どうすればいいの?」
「プー! プー! プルアップ! プルアップ!」
警報音も鳴り出した。ブラックキャットも強く何かを訴える。
わかった、これ対処法を言っているんじゃなくて落ちてるからアップしろ上がれってことだ。どうすれば落ちるのを止められるかは自分で考えろと。
「テレイン、テレイン」
ブラックキャットはまだ何か言っているが構ってる暇はない。いよいよ地面が見えてきた。
「ど、どうすれば、そうだ! 始動奇跡『コンタクト』!」
ババッ! シューン……。一瞬、再起動できたように見えたがダメだ。
「何で!? どうして!?」
「テレイン、テレイン。プー! プー! プルアップ! プルアップ!」
警報音が鳴り響く中、走馬灯のように今までの人生が思い浮かぶ。1回死んだのにまた死ぬなんて嫌……! 目を瞑ったその時、誰かに腕を引っ張られた。
「魔力切れです。箒に心を操られましたね。初心者にはよくあることです。魔力ポーション1ガロンでおよそ3マイルほど飛べますが最大出力では燃費が悪化することに注意してください」
アズラエルにまた助けてもらった。
「うん……、気をつける。1ガロンって何リットル?」
「えー、そうですね、およそ3.8リッターです」
「それで1マイルは何キロ?」
「えーと、およそ1.6キロメーターです」
「それは燃費が悪いということじゃないの?車の免許持ってないからよくわからないけど」
「150ガロンドロップタンク1個で450マイル飛べますから問題ありません」
「ドロップ? 飴?」
「飴ではありません。追加の補助ポーション容器のことです。長距離飛行では必要に応じて搭載してください」
「ふーん、でもそれは単に量で解決しているだけのような。それに150ガロンだっけ? 500リットル以上の魔法のポーションを私運べるの?」
「その話は今度しましょう」
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