【完結】爆薬聖女トリニトロトルエンの福音書

中島マリア

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第9話【科学】魔女が箒で空を飛ぶ原理は解明されている 前編

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 今日は礼拝堂を吹き飛ばして一日が終わった。
 その後、修道女のダレンから部屋を貰った。そこは大きなベッドがある部屋だった。
「明日はどんなことがあるのかなあ」
 そう思いつつ私は眠りについた。

『パッパッパパパーパー♪』
 翌朝、ラッパが鳴っていた。目覚し時計の代わりだろうか。廊下に出てみるが誰もいない。
 そうだ、猫のメイドさんはもう起きてるのかな。寝る前に紹介してもらった私専属のメイドさんだ。鐘を鳴らしてみる。
『チリーン、チリーン』
「お、おはようございます異界の魔女様。お早いお目覚めですね。なんなりと御用をお申し付けください」
 緊張した様子で猫耳のメイドさんが隣の部屋から来た。彼女は中学生ぐらいに見える。中世ファンタジー世界はこのぐらいの年齢でも働かないといけないのか。
「おはよー。ラッパが鳴ってたみたいだけど、あれは何かな?」
「あれは魔王軍一般兵士の人たち向けのラッパです。魔王軍幹部の方は始まりの曜日なら朝礼があるはずですが、今日は違いますので大丈夫なはずです。えっと……、二度寝されますか?」
「いや、もう起きるよ」
「かしこまりました。あっ、すみません。忘れていました。報告。昨晩から今朝まで事故ありません。メイド隊第13分隊欠員なし。よろしいです」
 ビシッと姿勢を正して報告してくれたけど私には意味がよくわからない。
「う、うん? 良かったね」
「は、はい……。あの、何か示達事項はありませんでしょうか?」
「シタツ? えーと何言えば良いんだろう」
「メイドたちへの作業などを命じていただければ」
「お掃除を頑張ってとか?」
「はい! 頑張ります! 第13分隊の本日の作業はお城の掃除! かかります!」
「お、お願いします……」

 ガンッ、ガンッ。
 人に命令することに慣れておらず困惑していると窓の方から音が聞こえた。誰かが窓の外にいるようだ。
「カグヤ、良い朝ですね。この鉄格子を開けてください」
 私を異世界へ連れてきた友人のアズラエルがいた。鉄格子を開けて部屋に入ってもらう。
「うん、おはよう、アズラエル。 えっ!? あなたここ何階だと思ってるの!?」
「100フィートぐらいありますかね」
「あ、そうか。アズラエルって一応天使だっけ。空飛べるのは当たり前か」
「一応ではなく正当な天使です。カグヤも魔法少女ですから空を飛べますよ。今日は空飛ぶ箒について教えます」
「おお! 教えて教えて!」
「魔女様、天使様、ひとまず朝食後にされたらいかがでしょう?」
 メイドさんにうながされてとりあえず朝食にすることにした。
 異世界の朝食は美味しかった。パンのようなものと肉料理のようなものを食べた。

 その後、私と天使は図書室らしき部屋に移動した。
「まずは天空魔法学の基礎について、魔法少女が空を飛ぶ原理は解明されていないと教会に仇なす異端者は吹聴することもありますが、実際は解明されています」
「えーと、天空魔法学っと……」
 私は携行黒板にチョークでメモを取った。この世界は紙が貴重品らしい。
「天が怒る日、つまり嵐の日に妖精の森の木の板を持って外へ出ると想像してください。その木の板を斜めに風に向けると天の力に反応して妖精に縁がある木の板は天界に帰ろうと浮かびます。これが空を飛ぶ原理の基本です」
「なるほど」
 わからない。木が天国に行きたがるのを利用してるのかな。
「同様に木の板を持つ人、魔法少女にも天の力が働き、力の大きさ次第で空を飛ぶことができます。妖精の木を触媒にすれば魔力が上下周囲を循環し頭上では魔力の流れが速いため圧力が低く、足元では魔力の流れが遅く圧力が高くなります。要するに魔法少女は妖精の木を使い、魔力で嵐を自ら呼び起こし、空を飛ぶのです」
 少し早口で天使は語った。物理法則が地球の常識と違い全然頭に入ってこない。魔法少女って結構頭使うなあ。
「妖精の木の周囲を天の力が循環してっと…。飛行機の原理とは結構違う?なんだっけ、なんとかの定理、ベルマークの……、いや、ベラルーシ……、ベルセルク……」
 理科で習ったと思うけど思い出せない。
「ヒコーキとはカグヤがいた世界に生息する鉄の鳥ですか。生態が解明されていない謎の生物です。鉄の塊がどうして宙に浮くのか、世界の理を無視しています」
「飛行機って空を飛ぶ原理解明されていないんだ……。でも一度乗ってみたかったなあ」
「ヒコーキは諦めるしかありませんが空飛ぶ雲はもう乗ったはずです。私達が降下する時にいた場所です。清く正しく幸せに生きて天寿を全うすれば誰でも乗れますよ」
「70年後ぐらいになりそう」
「もっとも魔法少女は不老不死の不滅の存在ですが」
「そうなんだ……。なら、永久に乗れなさそう」
 あれは雲だったんだ。何で雲に乗れるかは長くなりそうだから聞かないでおこう。
「少々脱線しますがなぜ雲に我々天使が乗れるかについてですが──」
「先生! 箒で飛ぶ実技を教えてください! 待ちきれないです!」
「そうですか、では外へ行きましょう」
 危ないところだった。話が長い天使の教官を無理やり外へ連れ出すことに成功した。
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