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学園編一年目

20話 学園編一年目ⅩⅦ

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無事に修了式が終わり、さあ学生寮へ戻ろうといったところで俺の事情を知る者──クラスメイトの皆が俺の行く手を阻む。
「道を空けてくれ!」
「ここを通りたければ私たちを倒してからにしてよね」(ラジカル)
「ここから先は通さない!」(フェルニル)
「諦めて学園長の元へ連行されることをお薦めするよ」(グリコール)
「……押し通るッ!!」
俺は猛ダッシュで“クラスメイトの壁”を抜けようとしたが数の圧力に負けて連行された。
──と茶番は終わりにして、今俺は学園長室で学園長と対面している。
「……では、さっそく用件を話すとしようかの」
ロキ学園長は神妙な面持ちで聞いてきた。
「ロジーク、“銃”という兵器に心当たりはないかの?なんでも金属の塊を飛ばすのだとか」
(ここで銃ということは……まさか!!)
「その顔は何か知っているようじゃな」
「……はい。銃は俺が元いた世界の魔法を一切使わない科学兵器です。俺が【鬼砂族】に対抗するために造ったのですが、【鬼砂族】に奪われてしまいまして……」
「……なるほど、よく分かった。今現在、【鬼砂族】によって王都ポリマーの南西にある“迷宮の都アミノ・ヘリックス”の迷宮に潜んで迷宮に潜る冒険者を殺しているらしいのじゃ」
「それを食い止める役割を俺にですか?」
「うむ。銃をこの世界に蒔いた者の責任じゃ」
「やっぱりそうですよね……。分かりました!引き受けます!」
勿論、勝算もある。研究は未完成ではあるが使えないということはないだろう。
これはある意味、俺の持つ“特性”を活かしたものなので実用性はないが、十分に戦える。
「その顔は勝算があるようじゃな?」
「はい!」
「移動は王国から兵を乗せた馬車が出るのでそれに乗るように」
「分かりました!」
──こうして、俺は学園長室を後にした。



☆☆☆



俺は学生寮に戻り、まだ未完成ではあるが──つくっておいた“薬”を荷物に入れ、万一のための短剣と動き易いように革製の鎧を身につけた。
そして学園を出て、正門前に停まっている馬車へと乗り込む。
「お待ちしておりました、ロジーク様」
「えっ?(ああ、俺が貴族家の者だからか……)」
「まもなく“迷宮の都アミノ・ヘリックス”へと出発します」
「分かりました!」
──前世の小学1年生でこんな過激なことをしただろうか?と思ってしまわないこともないが、これが俺の二度目の人生なんだ。仕方ない。
「……いよいよリベンジだ!!待ってろ……、【鬼砂族】ッ!!」



☆☆☆



“迷宮の都”アミノ・ヘリックスは円形の都市で、中心の迷宮──“ヘリックスタワー”の周りを囲むように水路が通り、放射状に水路が六本均等に伸びている。さらにその周りを分厚い壁が囲む。そしてそのまた外に水路が囲み、橋が立てられたようなとてもセキュリティが厳しい都市である。
「ここが、迷宮の都か……。ここに奴ら鬼砂族が潜んでいるのか……!」
ヘリックスタワーを見上げながら俺は拳を握る。
──因みに、ここまで来るのに距離はそう遠くないため、到着まで三日程しかかかっていない。
「ロジーク様、そろそろ都市内に入ります」
「分かりました、ありがとうございます」
門が開き、水路の上を渡るための橋が倒れ、道が通れるようになった。
「うわぁぁぁぁーーー!すげぇーーー!」
馬車が進み、壁を抜けると一瞬目が眩んだが、目の前の景色はそう──言葉に表しようのない幻想的な光景だった。
「皆、この景色を見た人はそう言うんですよ」
馬車の御者さんが誇らしそうに言う。
「そうなんですかー!」
「「「「「うおぉぉぉおぉ!!」」」」」
周りの兵士さんを見てみても、皆この光景に目を見開いている。
(うっ……眠気が……!)
──俺はかなり【鬼砂族】のことで思い詰めていたようでこの絶景を見た後、眠ってしまったらしい。



☆☆☆



「あれ?ここは……?」
さっきまで馬車に乗っていたはずなのに気がついたら見知らぬベッドの上で眠っていた。
「目が覚めましたか?」
部屋の扉から入って来た修道着らしき服装をした金髪の少女が尋ねる。
「?あ、はい、大丈夫です……。それよりここは……?」
俺は修道女(?)に話しかける。
「ここはアミノ・ヘリックスの中にある教会です。貴方は馬車に乗っているところで倒れて兵士さんに運ばれたそうですよ?」
(そういえば、この都市の迷宮に【鬼砂族】が潜んでいるのにどうしてこの人は平気そうなんだろう?)
「ここ最近、何か犯罪が多発しているようなことはありますか?」
思い切って聞いてみる。
「最近、ですか……。そうですね、犯罪と言えるかは分かりませんが冒険者の活気が無くなっているみたいで、何かあるのかと思ってしまいます……」
(冒険者の活気が無い……やっぱり奴ら鬼砂族はいるんだ!)
「ありがとうございます!それと……、早めにこの都市から逃げる準備をしておいた方がいいですよ!」
「は、はぁ……」

──迷宮の外はあまり被害がないのかもしれないが、忠告して損はないだろう。

「それにしても、何故そのようなことを?」
修道女さんに尋ねられたが、これは答えてもいいことなのだろうか?
「あーえっと、【鬼砂族】の生き残りがヘリックスタワーに潜んでいるそうなんですよ。だから俺はそいつらを追ってここに来ました」
「!?」
──急なことで驚かせてしまっただろうか。さっきから口をパクパクとさせている修道女さん。
「それは本当なのですか!?早く皆を避難させないと!」
(近い近いィ……)
「本当ですよ……。でも討伐するために兵も王都から派遣されていますし、大丈夫だと思いますよ……?」
緊張をおさえて、少し早口になりながらも大丈夫だということを伝える。

そこへ──

「せいじょさまーあそぼー」
「「「「「あそぼー!!」」」」」
協会だから孤児院でもあるのだろうか、部屋の扉が開いて小さな子供がたくさん入ってくる。
「……聖女?」
(聖女というとアレだよな、慈愛に溢れる女の人のことだよな……?)
「ノックもせずに勝手に部屋に入るのはマナー違反ですよ!そこで正座でもしていなさい!ナウ早く!」
目の前には小さな子供に容赦なく正座させる鬼のような少女が。
(これが本当に聖女、様……?)
──俺の視線に気がついたのか、こちらへずかずかと歩いてくる。
「何か言い残すことはありますか?」
こいつ聖女様、怖い笑みを浮かべてやがる……)
「一応、避難の準備をしておいた方が、いいよ……?」

──ゴガッ

殴られたのか、鳴ってはいけない音を響かせて俺は気絶した。



☆☆☆



──またしても、見知らぬ天井で目を覚ます。
「あれ?今度はどこだ……?」
「派遣された兵士達の滞在している宿ですよ、ロジーク様……」
身体を起こすと、馬車の中で話した見覚えのある兵士さんがいた。
「まさか、教会に預けてから鼻血が出ている状態で返品される帰ってくるなんて思ってもいませんでしたよ……」
「何か失礼なニュアンスがなかったか?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
ケラケラ笑いながら兵士さんは答えるが、仮にも返品されるなんてニュアンスを使っていたら流石に伯爵の息子とはいえ、こいつ不敬罪にされるんじゃないか?別に不敬罪にするつもりもないケドナ。
「ところで、今の時間は何時だ?」
周りが暗いので時間を聞いたところ──
「深夜の3時ですよ。ロジーク様も直ぐに寝た方がよろしいでしょう」
(え?気絶してたからか分からないけど眠気が全くないんだけど!?)
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