ケミカル☆ファンタジア~研究職の薬剤師が異世界に転生した結果~

文壱文(ふーみん)

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1話 序章Ⅰ

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──ふと目が覚める。

(確か俺は薬を開発していて……あっ、車に轢かれたのか。それじゃあここは天国?)
俺は辺り一面を見渡すが、真っ黒な壁紙でも貼ったのかと思うくらいの暗い空間があるだけで何もない。そして上を見上げるほどに“闇”に吸い込まれるような感覚。それこそまるで深海の底と海面を逆転させたような。
「目が覚めたようですね~」
突如、何も無い空間からまだ幼さの残る透き通ったような女性の声が響く。俺は声の主を探すがやはり、何処にもいない。
「探し回っても無駄ですよ♪私は″概念″ですからっ♪」
クスクス笑うような口調でその″概念″とやらは俺に話しかけてくる。見えないことに対して笑っているようにも聞こえてしまうせいで無性にイラっとする。──ここはひとまず話題を変えるのがベストだろう。
「俺はさっき車に轢かれて死んだんじゃないのか?」
思いきって質問してみる。さっきからからかうような口調がイライラを俺の中に蓄積させるが、唯一知ってそうな奴が目の前(?)にいるのに聞かない訳にはいかなかった。
「ああ、そのことですか~貴方には異世界に転生してもらう魂の候補の一人なのですよ~♪」
(異世界!?異世界ってライトノベルで良くあるアレか!?)
「思ってる通りなのですよ~♪」
──コイツ、心を読みやがって!でも異世界って聞いて驚かない方がおかしい。だって異世界だぞ!?ファンタジーな世界で色々出来るんだぞ!?俺だって学生の頃、夢にまで見たし!
「それでぇ~転生してくれるんですかぁ~?」
口調はさっきと変わらないままだが転生するかどうか聞いてくる。
「わかった。なんかイラっとするがお前の言う通りにしてやる。……転生する」
結構強めに出てしまったな。反省、反省。転生できる機会なんてそうそうないから気をつけないとな。
「その方がいいのですよ~♪」
──またしても心を読まれていた。
「それでは転生する前に身体能力の強化と、あと一つだけ──欲しい物はありますか?あっ、勿論前世の記憶を持って転生しますよ」
流石に重要なときにはふざけた口調は使わないみたいだ。
「じゃあ、人体に害のある物質全ての抗体が欲しい」
俺は昔からもしもの場合で考えていた欲しいギフトを頼む。
「耐性じゃなくて抗体……ですかぁ……?」
ちょっと面倒くさそうな口調だ。
「そうだけど?だって毒とかに侵されても運が良ければ適応できるかもしれないし」
「はぁ……分かりました……貴方には抗体をギフトとして贈ります」
よっしゃー!!本当に貰えるとは思わなかった!ありがとうございます、神様!
(ん……?神様?まさかな……)
「あの……もしかしなくても貴女は神様ですか……?」
おそるおそる聞いてみる。
すると──予想通りと言って良いのだろうか、返答が返ってくる。
「えっ?勿論そうですよ~?何、当たり前のことを聞いているのです~?」
俺は失念していた。この手のライトノベルものだと、こういう展開は大抵神様がすることなのだと。

──そして俺、化野あだしの学は転生した。



──おぎゃぁぁぁぁぁ!!

「男の子ですよ!あなた!」
俺は見知らぬ女性に抱っこされていた。おそらくは俺を産んだ母親だろう。そしてその隣には父親らしき人が立っている。母親(?)は白金色の髪をしており、父親(?)は綺麗な青髪だ。
「この子の名前はロジークだ!ロジーク・オルト・グラストーン、グラストーン家の長男だ!」
そんなことを考えているうちに、俺の名前は気がついた時には“ロジーク”に決定していた。
(今日だけこちらの世界の文字と言語が分かるようにしておいたのですよ~♪状況把握にでも活かしてみるといいのですよ~)
転生してからすぐに神様からこんなことを言われたのだ。
──なるほどな、普通に考えたら言語とかも違うはずだもんな。
それともう一つ、俺は貴族の家の長男に転生してしまったようだ。その証拠に──
(母親と父親は豪華な服ではないが、明らかに生地の良い服を着ているもんなぁ……グラストーン家とか言ってたし)
「ロジーク、貴方はグラストーン家の跡取りなのですから……すくすく成長して下さいね」
「アミン、まだ言葉が分かる訳がなかろう」
「そうだけど……願っただけですのよ、カルボン……」
「あぅあぅ(アミンとカルボンってアミノ酸かよ!?)」
舌を含め、まだ発達してない身体なので意味のない言葉が出てしまう。

じゃあなんだ?この世界の学問は地球よりも発達しているのか?大抵は中世ヨーロッパぐらいの文明だろ!?
「「ロジークがしゃべった……!?」」
「あぅぁ!(ク〇ラが立った!みたいな言い方するなよ……)」
俺は某国民的アニメの名シーンを思い浮かべつつ、まだ言葉を発音することは出来ないので母親と父親の驚きの声に意味のない言葉で答える。
「この子……もしかして天才かもしれないわ」
「そうだな……私達の言葉を理解しているようにも見えてしまうな………」
親バカかよ!?でもなぁ……ように見えるんじゃなくて理解してるんだよなぁ……すまないパパン、ママン。
それともう一つ、俺はあることを失念していた。
「ロジーク!?」
(Zzzz……)
俺は眠ってしまったのだ。そうしてみて初めて俺は気づいた。

──赤子は起きている時間が非常に短いことに。



「うぁ……?(あれ……どこだここ?)」
気が付いたら俺は周りが柵に囲まれたベッド(?)の上で寝ていた。恐らく両親の家のどこか、というより子供部屋なのだろうか?
(家、豪華すぎね?)
そこには貴金属が装飾にあしらわれた縦長の鏡だとか、透き通ったガラス製のランプとかが置かれ、見るからに高価な調度品が並んでいた。
この部屋を見るとファンタジー系のライトノベルと同じように、文明は中世ヨーロッパくらいだと思われる。
──そしてこの部屋には本棚もあったが、並んでいる本はどれも埃をかぶっており本のタイトルを見てもお伽話がほとんどだった。それで学問については未だどのくらいの水準なのかよく分からない。

──はたして家はどのくらいの大きさなのだろうか?

しかしまともに発音出来ない今、それを知る術は無いに等しかったのであった。
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