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はじまり

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俺はある任務の為、王宮北門までやって来た。

 何やらそこで門番担当騎士達が揉めている様な声が聞こえて来る。嫌だなぁ。嫌な気しかしない。


「なんなんだ……揉め事かぁ~。巻き込まれたくないんだけどなぁ俺。日々の仕事で十分煩い奴等の相手はやってるんだよ、これ以上は遠慮したいんだけどなぁ。近衛騎士なんて辞めて、のんびり自由に冒険者でもやろうかな。

 実家の公爵家も今は安定してるし、兄貴に任せとけば、今後も大丈夫だろう。うるさ可愛いガキ達もスクスク成長してる事だしな。本気で計画たててやろうかな。

 やばっ門番に見つかったぞっ。逃げるわけにはいかねーか」


俺は観念して、すました顔で近寄ってみた。


「アンティスト副団長!お疲れ様です。良かったです。近衛騎士の方を呼びに行こうと思っていたんです」

「一体何があった」

門番達は、本当に困っていたのだろう。俺を見て、天使を見たかの様に顔を輝かせた。珍しいことだ、うちの門番達は冷酷で有名な筈では?少しでも怪しければ貴族だろうとなんだろうと王宮内へは、何人たりともいれぬ!!!が心情だった筈だが。

 門番達が相手をしていた一人の女を観察してみるが、これはまた、えらい変わった服装をしているな。

 大抵王宮へ来る女達は、着飾ってジャラジャラ色々な飾り物を重そうにつけて、化粧もバッチリで、その上匂いも臭い奴らが多数派だからな。

 俺の好みは出来るだけシンプルが好ましい。内側から滲み出る色気があれば普通に楽しめるんだよ。それに、化粧や香水は舐めると、苦いんだよ。致してる時に、口の中で香水や化粧の味がするのは懲り懲りだからさ。本当興醒めする。



「お嬢様。失礼します。私は、近衛騎士団副団長のアンティストと申します。王宮へは何か御用がおありでしょうか?」


俺は、いつも通りの人好きのする満面の笑顔で、ドレスではなく作業着の様な簡素な服を着た女に話しかけた。顔や身体の素材は良さそうなのに、きちっと手入れしてないのが、勿体ない女だと思う。


「あのーすみません。ごめんなさい。本当はちゃんとした格好で来る予定でした。準備もしてたんです。依頼者にも、出来るだけ身綺麗にして来る様に、と。何度も何度も伝えられたのですが、朝起きたら服が全て消えてました。宿中探してもなく。

 私の宿泊している宿の前に大きな湖がありまして、昨夜遅くまで、ベランダに出て月と湖が綺麗だったので、それを夢中で描いてて……そのまま朝まで寝てました。部屋に入って二度寝して、時間なので用意しようと見たら……服という服が無くなってました…」


何言ってんだこの女はって最初は思ったが、何となく意味がわかってしまった。賢い俺は推理して正解を導き出してしまったんだよ。


「理由はわかりました。それでは、貴女のお名前を教えてもらえますか?」

「はい。私はララミラと申します。皇女様の肖像画依頼をいただきましたので、今回此方に来たのですが……この様な事になってしまいました。申し訳ないのですが、また、日を改めて準備をして来ます」

「いえ、大丈夫ですよ。このまま行きましょう。私は女流画家のララミラ様の案内の為にこちらに迎えに来たのですから。御安心ください。因みに紛失した物は、衣服だけですか?」


俺が聞けば、ララミラは少し涙声で応えた。


「服と、あまりないのですが、化粧類と櫛等の小物類が無くなってました。他のお金などの貴重品は何故か全てありました」


流石、俺!推理当たってたわ。種明かしは後にして、先ずはこの可哀想な女を皇女の元へ連れていかねば、今日の俺のお仕事が終わらねーからな。

 明日休みだから今夜は街に出て、俺の中の溜まりに溜まった全ての廃棄物を一滴残らず、掃き出すのさっ。何故、わざわざ街に出るのかって。それはな。俺の経験上、王宮内の女や貴族の女は、後々何かあると厄介だからな。

 ちゃんと分別つく割り切った女が一番だ。後腐れ無く、お互い金で割り切った関係が一番だ!心など必要ない!!

 今夜のお楽しみの為に、お仕事頑張るぞ!
 

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