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デート

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「あの……手……手を、皆さん見てますよ。騎士団長」

「騎士団長では無いラインハルトだ」


あのまま手を引かれ、街中に連れて行かれた。人が混み合う午前中に、騎士服姿の名の知れたラインハルトと手を繋いだスタイルの良い煌びやかなラティラが、人目を引かないわけがない。


「ラインハルト様……私、一人で歩けます。あっルラック忘れた! 居ないわ」


ラティラは、忙しなく頭や肩をパタパタ片手で触り慌てた。


「大丈夫だ。アルベルトの近くに居たから、きっと一緒にいる。店を出る時最後に視線が合ったから、心配無いと思う。安心しろ。」


それを聞いたラティラは心底ホッとして、笑顔が出ました。


「良かったルラックは、お兄様と居るのですね。それで私達はどちらに?」

「昼を食べに行くんだろ」

「何処に行くんですか? なんだか、だんだんと人気のない道に、進んで居る様ですが? こんな所にお店ってあるんですか?」

「まあいいから。美味しいもの食べさせてやるよ」


ラティラは人通りの多い道から脇道に入り、だんだん奥に奥にと進んで行くラインハルトに、不思議と不安は湧き上がってはきませんでした。繋いでいる手と、身長差の為上にある横顔が以前よりも少しだけ凛々しく見えて、不思議に思い何でだろうと自問自答を繰り返していると。


「着いたぞラティラ」


その場所は。街中からそう離れていない筈なのに、何故か辺境の部隊にいる様な雰囲気がラティラには感じられた。


「ここは? なんだか王都に居るのに、懐かしい感じがします。辺境の感じ……」

「だろうな。普通の令嬢は来ないだろうが、ラティラが今1番食べたい物が、置いてあると思うから。まあ来いよ」


繋いだ手をそのまま引かれ、目の前の店に連れられ入って行くラティラ。


「あっこの匂い」


ラティラは入ってすぐに、なんだか懐かしい匂いに気付きクンクンしながら辺りを見渡していると。


「おい! 団長よ! えらいべっぴんさん連れてこんなトコにくんじゃあねぇぞぉー お洒落なカフェにでも行けよ! ここには、ご大層な食いもんねえぞ!あはははは!!」

「親父さん久しぶりだな! 最近忙しくて来れなかったんだが、まあ昼飯2人分くれよ」

「そのお嬢さんも食べんのか? 大丈夫か?」

「彼女は平気だから出してくれ」


見るからに強面の顔、ガッチリした身体付きは、一見料理人よりも違う空気を感じてしまう。その人は奥に行き、料理を作っている美味しそうな音が聞こえてきた。同時に良い匂いも漂ってきて、ラティラは自然と胸に期待が湧いてきた。


「ラティラ、こっちに座ろう。まだ早いから誰も来てないな。昼になるとここは人でいっぱいになるんだよ。 空いてるうちに来れて良かったよ。 まあ来る人間は、さっきの親父さんと似たり寄ったりの、人間ばかりだから、口は悪いが人は良い奴ばかりだから、安心しろ」

「できるかよ! 馬鹿団長が! こんな女神像みたいなのが、小汚い店に来て、ワシの料理を食べるなんぞ、今日は何の記念日だよ。お嬢さんできたが、本当に食べれるのか? 貴族様が? 」


ラティラは、親父さんが手に持っている二つのセットされた料理を見て。


「ご主人はじめまして、辺境伯令嬢ラティラと申します。その料理是非! 食べさせて下さい。久しぶりですロンバットの塩焼きですよね! 私良く傭兵達と狩をして、ロンバットを仕留めてその場で頂くんですよ。身がホロホロでジューシーで、塩焼きが1番だと思います。お屋敷では、ソースだのバターだのとかけてあり、直火で焼く塩焼きに勝るものはありません!  私に食べさせて下さい。お願いします」


ラティラは熱が入りすぎて周りを見ていなかったが、昼を食べに来た男達が、ぞろぞろ店に入って来ていたのだ。 ラティラのお願いを聞いた男達は、喝采をあげた。


「親父さんよお! この可愛らしい嬢ちゃんに、食べさせてやれよ! 俺らが奢ってやっから、たらふく食べろ! なっ」

「そうだな! お嬢さんに、そこまで言われちゃーこの店の主人として料理人としても、是非食べてくれよ。新鮮さはお嬢さんに劣るが、その分色々小細工はしてんだよ。  ただ炙った塩焼きとは少し違うぞ! ほれ嬢ちゃん食べてみてくれ」


ラティラの机の上に、ドンと肉の塊と生野菜とスープのセットが置かれた。一つ礼をして、ラティラはナイフとフォークで肉を綺麗に切り分け、大きめサイズを口に入れた。モグモグモグモグ噛みながら、目をキラキラ輝かせゴックン飲み込んだ後。


「美味しい~ 辺境で食べたのより美味しいです? 見た目は同じなのに? 何故ですか?」

「だろー 隠し味があるんだよ。味わって沢山食べな」

「はい!いただきます」


男達も盛り上がり、わいわいぎゃーぎゃー騒ぎながら、昼なのに酒まで呑んでいる輩もいるが、楽しい時間を過ごした。


「そろそろラティラ、出ようか」

「はい! お腹いっぱいです」


2人が立ち上がったら、店の奥から親父さんの声が。


「金は要らねえが、又ラティラ嬢ちゃん連れて来てくれよ! 騎士団長」


「わかった! 美味かったよ。ご馳走様親父さん」

「ご馳走様でした。又、是非ともお伺いしますね」

「おう! 来てくれな」


ラティラとラインハルトは、店の皆に冷やかされながら出てきた。店を出て、楽しく会話しながら自然と又手を繋いで、歩いているラティラ達だった。


「これから何処に向かっているのです? 来た道と違いますよね?」

「流石だな判るのか。この先にちょと俺のお気に入りの場所があるんだよ。特別に教えてやるよ」


右へ左へと少し歩くと、緑がどんどん増えてきて、突然水音がと思ったら、辺りが細い道からひらけた場所に出て、目の前には小さな滝が見えてきました。


「何故こんな場所に滝が?」

「俺も知らないが、たまたま見つけてな。以来よく来るんだよ。人に教えたのは初めてだから、誰にも言うなよ。お前だけだから」

「言いません。内緒ですね」

「そうだな…」


2人は、小さな滝の横の草の絨毯に座った。昼の暑い日差しを、木々の緑が程よく遮り、風の通り道のその場所は、まさに昼寝には最適だ。ラインハルトは寝転び、目を閉じた。 ラティラも少し躊躇しながらも、寝転んだ。


「どうだ? 気持ちいいだろ。ラティラ頭上げろ」


ラティラは、言われるまま少し頭を上げると、その下にラインハルトの逞しい腕が入り込み、枕の代わりになった。


「硬いだろうが、草よりはマシだろ」


ラインハルトは言い切りそのまま目を閉じた。暫くしたら寝息が聞こえてきた。


「もう寝ちゃたのね。私もお腹いっぱいで、気持ちも良いから寝ちゃいそうね……枕は本当に硬いわね……」


そよそよ気持ちのいい風に後押しをされて、いつの間にかラティラも寝ていた。ラインハルトは、そっと目を開け横を見て。優しく微笑みラティラを起こさないように、抱き寄せ伸ばしていた腕を曲げて厚みを増やした肩下、柔らかな場所に頭を動かしラティラを護る様に囲んだ後。安心して目を閉じた。
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