48 / 49
第一章
第42話
しおりを挟む幸いティファレトさんがいた場所は監禁場所からほど近い場所にある。といっても入り組んだ路地を突き進めばという話ではあるが、とりあえず彼女を連れて件の場所に案内する。
さっきの場所では騎士たちがいっぱいいたから何事かと思ったけど、建物が壊れてたから爆破解体でもやってたらしい。でも中腹から爆発させるのは下手くそじゃないかな。やっぱり異世界だと技術が確立してないのかな?
まぁそんなことはともかく、僕は案内の最中、夜なのに街中がにわかに騒がしいことに気づいたのだ。
だからといって僕は何も知らないから、何かが変わるわけでもないんだけど、でも雰囲気と言うかちょっとワクワクするよね。
そうして到着する。目の前にある目的の建物は、いたってありふれた二階建ての民家みたいな感じ。
「ここの建物内にトラップドアがあるんで、そこを降りていけばアイリスがいますよ。体調というか調子はすぐれないみたいですけど、無事ですから安心してください」
「………」
「………行かないんですか?」
「いや…………」
建物の入り口を見つめ、直立不動で佇むティファレトさんを前にして、僕は問いかけた。
彼女は僕に振り返ることもなく、それっきり答えたままに深呼吸をしている。
おそらく久しぶりの妹との対面に緊張しているようであった。
うんうん、僕もその気持ちはわかる。僕もステラ姉さんに会うときは緊張しちゃうからね。まぁ、僕の場合、避けてるからしばらく会ってないけど。
「もしかして、怖いんですか?」
「っ!」
ようやく振り返った。
しかしその表情はかたく、ティファレトさんの目はやはり揺れていた。
ふむ、ここに来てまでためらうのはアイリスへの罪悪感、あるいは後悔だろうか。
夜だから気づかなかったけど、彼女の目の下にはクマがある。アーク騎士団の職務に追われつつも、アイリスを見つけたと言った時の反応から、妹の心配ばかりでまともな休息は取れていなかったのだろうことは想像がつく。
体を重ねたわけでもなければ、剣を交わしたわけでもないから正確なことはわからないけど。
まぁ……アイリスは友達だし、少なくとも彼女はお姉さんを待ってるだろうから、少し手を貸してあげようと思った
「しょうがないですよ。誰にだって失敗はあるんですから、今はアイリスに会って、話すことだけを考えればいいんです」
「もし、それで許してくれないなら、関係をお終いにしてもいいし、逆に許してもらえるまで諦めなければいいんですから」
「でもあなたたちは姉妹ですから、一生関係を引きずるわけで……まぁ何が言いたいかって言うと、偽らない心が大事ってことです……あれ、上手く説明できたかな?」
「………」
間断なく言い続けて首を傾げてしまう。
やっぱり所作だけで言い当てるのは確実性がなかったかもしれない。現にティファレトさんは僕を見つめたまま動こうとしない。
「そう……だな。すこし臆病になりすぎていたのかもしれない………」
と思ったら反応があった。よし、正しく話せたな。
「そうですよ!アイリスもあなたのこと自慢げに話してましたから」
「ふっ……君は、アイリスと呼ぶんだな……」
「え?そ、それがなにか……?」
微笑みながらアイリス呼称に突っ込んでくるティファレトさん。
僕はなぜか焦って、声が少し上ずってしまった。
「彼女が、アイリスが自分のことを“アイリス”と呼ばせるのには……いやこれはいつか本人から聞くべきことだろう」
えぇ……そこまで言いかけて途中でやめるのはやめてほしいんですけど。
「……ありがとう。」
「あぁ……いえ、どうってことないです」
目を見つめながら不意にお礼を言われて、照れ隠しで頭を掻いてしまう。
「もうほら行ってあげてください。アイリスが待ってますよ」
「ああ。またどこかで会えたら、その時はアイリスも交えて話そう」
「あー、それはー……いい考えですねー」
「では、僕はもう帰るんで、もう帰ったらぐっすり眠るんで。それはもう何が起きてもわからないくらいに。また会いましょうそれでは」
否定できる空気感じゃないから適当に誤魔化して早々に去る。
「ほんとにありがとう、クラウス君!」
すると後ろからティファレトさんの声が聞こえたから、
「あはは………」
それに僕は振り返り、苦笑いしながら手を振る。
そうしてやっと建物に入っていくティファレトさん。
「ここまで長かった……長すぎた………」
そもそもなんでこんな呑気に話すことになったんだ?仮にも妹誘拐されてるのに危機感なさすぎじゃないのか?
「ステラ姉さんの時とはだいぶ違ったな」
僕が誘拐された時は泣きながら抱き着いてきたのに、なんというか彼女たちは少しドライな姉妹なのかもしれない。
「たどり着けたか、いちよう確認しておこうか」
暗がりでメビウスに着替えてから、そろりそろり建物に侵入して耳を欹てる。
「……アイリス?」
「ティファ姉さま……」
「……アイリス……すまなかった……!さびしかっただろう……っ」
「姉さま、私……うぅ、ぁぁぁ……会いたかった……ぁぁぁああ………!ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」
「大丈夫だアイリス……もう大丈夫だから」
これくらいで十分、うん大丈夫そう。仲違いする心配もなさそうでなにより。
「さて、僕も会いに行きますか」
メビウスの使徒である彼女たちに。
だいたい向こうに感じるから……
「……やっと見つけたと思ったら、またあそこか。」
アレには人を惹きつける何かがあるのか?
「まだ終わってないといいけど……」
人の目がないことを確認して、瞬く間に着替え、彼女たちがいる広場に向かう。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる