蒼穹の魔剣士 ~異世界で生まれ変わったら、最強の魔剣士になった理由~

神無月

文字の大きさ
上 下
39 / 49
第一章

第33話

しおりを挟む
 
 夜にも騎士団との巡回はあったが、昼の内にアイリスには断っておいた。

 訝しげな表情だったが、駄目とは言われなかった。

「しばらくは不参加って言った時は断られるかと思ったけど」

 そもそも主導権がアイリスにあるのがおかしいし、それに今まで文句をたれずに働いていたのもおかしいのだ。

 「それはともかく」

 そして僕はお手製の制服に着替えながら昼に聞いたことを思い出していた。

 アーティファクトとは《超常的な現象を誘引する道具。太古に存在した魔道具であると推定されており、現代の魔道具とは比較にならない影響や効果範囲を持つ場合もある》

「なるほどね」

 つまりなんかやばい道具がアーティファクトということ。国家機密事項に抵触するとかで具体的なことはおしえてくれなかったけど、今度探してみるのもいいかもしれない。

「さて、今夜も行くか」

 《メビウスの使徒》を見つけに。

 警らが面倒だからゆっくり探すのもいいかもしれない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 クラウスがいないその日の夜もイリスはルークと共にパトロールをしていた。

 ハクバが目撃したという《クロージャー》と通り魔らしきものたちの戦闘から約一週間後、

 彼女はいつも通り巡回をしていた。

 ハクバがいない理由はイリスの姉であるアーク騎士団騎士団長ティファレト・マルクトから徴集を受け、現状報告をしているためだ。

「行くぞ」

「ええ」

「……」

「……」

 二人の間には近くもなければ遠くもない微妙な距離が存在し、平行して歩いている。

 イリスはこちらを伺うようなルークの視線を煩わしく思いながらも、口にはしない。

 ルークの父は近衛騎士ということもあり、イリスとルークは幼馴染だ。

 ハクバも同様ではあるが彼の父は剣術指南役、加えて年齢的にはティファレトの方が近いこともあり、イリスとルーク、ティファレトとハクバのペアの方が長い付き合いと言える。

 気兼ねなく遊んでいたこともあるが、それは過去。

 片や王女、片や騎士に属する彼女らには社会的地位と言う前提の付き合いでしかなくなった。

「なぁ、なんで今日もあいつがいないんだ?」

「あいつ?」

 イリスは“あいつ”という言葉が指す人物を一瞬思い出せなかった。

「あぁ彼ね。なんでも用事があるとか言ってたわ。詳しいことは知らないけど」

「……そうか」

 クラウスはここ何日間か騎士団との巡回に参加していなかった。

 今回も不参加をお願いした時は却下しようとも考えていたが、無理に連れてきたのは自分。彼の用事が何であれ、優先されるのは彼の意思だ。たとえ不遜な態度であったとしても。

(でも、次は絶対参加させる)

 イリスはそうも考えていた。

「ルークあなたが人を気にかけるなんて珍しいじゃない。そんなに彼が気に入った?」

「そんなわけねぇ。ただ……」

 イリスは右側を見ながら続く言葉を待つ。その時のルークは悩ましい表情をしていた。

 時間に急かされることもなく決められたルートをしばらく歩いていた時、ルークが足を止める。

「?」

「……」

 イリスは疑問に思い少し後ろにいるルークを振り返る。

「どうしたの?」

「なぁイリス──」

 いつになく真剣な表情でルークは語りかける。

「───あいつと付き合うのはやめた方が良い」

「……あなたになんでそんなことを言われないといけないの?」

 驚きはあったが、イラつきが先に来たイリスは口調に滲んでいる。

「あいつは……あいつは今回の通り魔の一人かもしれないからだ!」

「は?」

 突拍子のない発言に唖然とする。

「なにを言ってるの?彼は最近まで私たちと巡回までしてたしなにより学生よ?馬鹿げてるわ」

「……通り魔の目撃証言から俺たちと同じような年齢であることはわかってる……だいたいあいつがいない日に目撃されてる!」

「それがただのこじつけだと、自分で言ってて気づかないの?哀れね」

「俺はお前のために言ってるんだ!」

「黙って。これ以上私の友人を侮辱するのならただじゃおかないわ。たとえあなたが彼をどう思おうと」

「なんで……わかってくれないんだ……?あいつが……クソッ!」

「…………」

 イリスは先に進むが、ルークは茫然として立ち止まる。

 その時、イリスは覚えのある感覚に襲われた。

「?」

 ロジックではなく、直感。

 予定された巡回ルートから外れ路地を突き進み、歩き続ける。

 歩き続け誘われるようにたどり着いた場所は広場。

 中心には黒い塔が聳えたそこはハクバが通り魔らしき人物を目撃した場所。

 塔を見上げれば頂上は夜に紛れ、星がなければ輪郭をとらえるのが困難。

 だが、

「……!?」

 イリスは気づく。

 頂上に誰かがいることを。

 風に長い裾をたなびかせ、悠々と存在する人影を。

「……───」

「えっ、ちょ!」

 影は地面に倒れこむように身を投げ、イリスは慌てふためく。

 しかし地面と激突する寸前、その身体はふわりと止まりゆっくりと足をつける。

「あなたは……誰なの?」

「……」

「目的はなに?」

「……」

 イリスのいずれの質問にも答えない。顔は隠されており、ゆったりとした服装で体格も把握できない。

 しかしイリスは相対する人物の魔力を知っている気がした。

 その人物の影と目の前の彼が重なる。

「まさか……もしかして、ほんとに?」

「……」

「ねぇ、あなたもしかして───」

 ───イリスは言葉を止める。

 突如振り返った彼の膨れ上がる魔力に気づいたから。

 そして、姿勢を作った一瞬。

「あっ、待ちなさい!」

 制止も虚しく、彼は郊外へ飛び立っていく。

「…………」

 イリスの疑念に明確な答えは出なかった。

 しかしイリスには確かな事実がある───

「……彼に気を取られて、あなたたちの気配に気づいてないと思った?いい加減出てきなさい」

 イリスは振り返ることなく言い放ち、足音が聞こえてから振り返る。

 ───それは対処すべき事がすぐそこにあるということ。

 するとぞろぞろ出てきた人間は三人。

 その全員が目元しか見えない黒装束に包まれている。

「……我々は《メビウスの使徒》イリス・マルクトだな?抵抗するなよ。なに、殺しはしないからな」

 声からして男がイリスに剣を構えながら一歩前に出てくる。

「あら?みんな男かしら?か弱い女子に群がるなんていやらしいわね」

「フッ、お望みならそうしてやる。ずいぶんと……楽しめそうな身体だからな」

 前に出た男はじろじろと舐めるまわすようにイリスの身体を見続ける。

 後ろの男たちもクックックと気味の悪い笑いをしている。

「チッ……」

 多勢に無勢。明らかな人数不利に対してイリスはおとなしく───

「舐めてんじゃないわよ!」

 ───するはずもなく、勢いよく男に切りかかる。

「おっと、怖い怖い」

「くっ!」

 だが男は難なく躱す。イリスも追撃するが、剣によって防がれる。

「ま、学生だしこんなもんか」

 そして男はつばぜりあう剣を跳ね上げ、イリスの一瞬の隙を縫うように剣を滑らせる。

「がっ!ぁ……」

「威勢のいいお嬢様だぜ。おいお前ら、王女様を拘束しろ。連れて行くぞ」

「はい」

 二人の男は手際よくイリスを拘束し、人が入るずた袋に詰めると痕跡を残すことなく拠点に戻っていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

処理中です...