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第一章

第33話

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 夜にも騎士団との巡回はあったが、昼の内にアイリスには断っておいた。

 訝しげな表情だったが、駄目とは言われなかった。

「しばらくは不参加って言った時は断られるかと思ったけど」

 そもそも主導権がアイリスにあるのがおかしいし、それに今まで文句をたれずに働いていたのもおかしいのだ。

 「それはともかく」

 そして僕はお手製の制服に着替えながら昼に聞いたことを思い出していた。

 アーティファクトとは《超常的な現象を誘引する道具。太古に存在した魔道具であると推定されており、現代の魔道具とは比較にならない影響や効果範囲を持つ場合もある》

「なるほどね」

 つまりなんかやばい道具がアーティファクトということ。国家機密事項に抵触するとかで具体的なことはおしえてくれなかったけど、今度探してみるのもいいかもしれない。

「さて、今夜も行くか」

 《メビウスの使徒》を見つけに。

 警らが面倒だからゆっくり探すのもいいかもしれない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 クラウスがいないその日の夜もイリスはルークと共にパトロールをしていた。

 ハクバが目撃したという《クロージャー》と通り魔らしきものたちの戦闘から約一週間後、

 彼女はいつも通り巡回をしていた。

 ハクバがいない理由はイリスの姉であるアーク騎士団騎士団長ティファレト・マルクトから徴集を受け、現状報告をしているためだ。

「行くぞ」

「ええ」

「……」

「……」

 二人の間には近くもなければ遠くもない微妙な距離が存在し、平行して歩いている。

 イリスはこちらを伺うようなルークの視線を煩わしく思いながらも、口にはしない。

 ルークの父は近衛騎士ということもあり、イリスとルークは幼馴染だ。

 ハクバも同様ではあるが彼の父は剣術指南役、加えて年齢的にはティファレトの方が近いこともあり、イリスとルーク、ティファレトとハクバのペアの方が長い付き合いと言える。

 気兼ねなく遊んでいたこともあるが、それは過去。

 片や王女、片や騎士に属する彼女らには社会的地位と言う前提の付き合いでしかなくなった。

「なぁ、なんで今日もあいつがいないんだ?」

「あいつ?」

 イリスは“あいつ”という言葉が指す人物を一瞬思い出せなかった。

「あぁ彼ね。なんでも用事があるとか言ってたわ。詳しいことは知らないけど」

「……そうか」

 クラウスはここ何日間か騎士団との巡回に参加していなかった。

 今回も不参加をお願いした時は却下しようとも考えていたが、無理に連れてきたのは自分。彼の用事が何であれ、優先されるのは彼の意思だ。たとえ不遜な態度であったとしても。

(でも、次は絶対参加させる)

 イリスはそうも考えていた。

「ルークあなたが人を気にかけるなんて珍しいじゃない。そんなに彼が気に入った?」

「そんなわけねぇ。ただ……」

 イリスは右側を見ながら続く言葉を待つ。その時のルークは悩ましい表情をしていた。

 時間に急かされることもなく決められたルートをしばらく歩いていた時、ルークが足を止める。

「?」

「……」

 イリスは疑問に思い少し後ろにいるルークを振り返る。

「どうしたの?」

「なぁイリス──」

 いつになく真剣な表情でルークは語りかける。

「───あいつと付き合うのはやめた方が良い」

「……あなたになんでそんなことを言われないといけないの?」

 驚きはあったが、イラつきが先に来たイリスは口調に滲んでいる。

「あいつは……あいつは今回の通り魔の一人かもしれないからだ!」

「は?」

 突拍子のない発言に唖然とする。

「なにを言ってるの?彼は最近まで私たちと巡回までしてたしなにより学生よ?馬鹿げてるわ」

「……通り魔の目撃証言から俺たちと同じような年齢であることはわかってる……だいたいあいつがいない日に目撃されてる!」

「それがただのこじつけだと、自分で言ってて気づかないの?哀れね」

「俺はお前のために言ってるんだ!」

「黙って。これ以上私の友人を侮辱するのならただじゃおかないわ。たとえあなたが彼をどう思おうと」

「なんで……わかってくれないんだ……?あいつが……クソッ!」

「…………」

 イリスは先に進むが、ルークは茫然として立ち止まる。

 その時、イリスは覚えのある感覚に襲われた。

「?」

 ロジックではなく、直感。

 予定された巡回ルートから外れ路地を突き進み、歩き続ける。

 歩き続け誘われるようにたどり着いた場所は広場。

 中心には黒い塔が聳えたそこはハクバが通り魔らしき人物を目撃した場所。

 塔を見上げれば頂上は夜に紛れ、星がなければ輪郭をとらえるのが困難。

 だが、

「……!?」

 イリスは気づく。

 頂上に誰かがいることを。

 風に長い裾をたなびかせ、悠々と存在する人影を。

「……───」

「えっ、ちょ!」

 影は地面に倒れこむように身を投げ、イリスは慌てふためく。

 しかし地面と激突する寸前、その身体はふわりと止まりゆっくりと足をつける。

「あなたは……誰なの?」

「……」

「目的はなに?」

「……」

 イリスのいずれの質問にも答えない。顔は隠されており、ゆったりとした服装で体格も把握できない。

 しかしイリスは相対する人物の魔力を知っている気がした。

 その人物の影と目の前の彼が重なる。

「まさか……もしかして、ほんとに?」

「……」

「ねぇ、あなたもしかして───」

 ───イリスは言葉を止める。

 突如振り返った彼の膨れ上がる魔力に気づいたから。

 そして、姿勢を作った一瞬。

「あっ、待ちなさい!」

 制止も虚しく、彼は郊外へ飛び立っていく。

「…………」

 イリスの疑念に明確な答えは出なかった。

 しかしイリスには確かな事実がある───

「……彼に気を取られて、あなたたちの気配に気づいてないと思った?いい加減出てきなさい」

 イリスは振り返ることなく言い放ち、足音が聞こえてから振り返る。

 ───それは対処すべき事がすぐそこにあるということ。

 するとぞろぞろ出てきた人間は三人。

 その全員が目元しか見えない黒装束に包まれている。

「……我々は《メビウスの使徒》イリス・マルクトだな?抵抗するなよ。なに、殺しはしないからな」

 声からして男がイリスに剣を構えながら一歩前に出てくる。

「あら?みんな男かしら?か弱い女子に群がるなんていやらしいわね」

「フッ、お望みならそうしてやる。ずいぶんと……楽しめそうな身体だからな」

 前に出た男はじろじろと舐めるまわすようにイリスの身体を見続ける。

 後ろの男たちもクックックと気味の悪い笑いをしている。

「チッ……」

 多勢に無勢。明らかな人数不利に対してイリスはおとなしく───

「舐めてんじゃないわよ!」

 ───するはずもなく、勢いよく男に切りかかる。

「おっと、怖い怖い」

「くっ!」

 だが男は難なく躱す。イリスも追撃するが、剣によって防がれる。

「ま、学生だしこんなもんか」

 そして男はつばぜりあう剣を跳ね上げ、イリスの一瞬の隙を縫うように剣を滑らせる。

「がっ!ぁ……」

「威勢のいいお嬢様だぜ。おいお前ら、王女様を拘束しろ。連れて行くぞ」

「はい」

 二人の男は手際よくイリスを拘束し、人が入るずた袋に詰めると痕跡を残すことなく拠点に戻っていった。


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