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第一章
第30話
しおりを挟む「……君が噂に聞く『ソルジャー』か。仲間が逃走する時間を稼ぐつもりだろうが、そうはいかないよ」
「……」
「私は騎士だ。民を守る義務がある。異変に気付いた他の騎士たちもこちらに合流するだろう」
「……───?」
「だから君たちのような輩がこの王都で───なにっ!?」
面が良いと何を言っても様になるなぁと思いながら、ハクバの芝居がかった口上でどこまで引き延ばせるかと待っていたら、上に気配を感じた。
空を見上げた瞬間、突如ハクバと彼の間に降ってきたのは女の子。
舞い降りたのではなく、隕石のように衝撃音と共に降ったきたのだ。
すさまじいエネルギーに地面は耐えきれるはずもなく、無残に破壊され砕けた石畳がこちらにまで飛んできた上、余波の影響かこちらの足元までひび割れている。
ミツキよりも強いと確信せざるを得なかった。
そして先ほどまで対峙した彼女とは魔力量、魔力の使い方、気配の隠し方、そのすべてが一線を画していることも。
晴れた土煙から見えてくる、魔剣士学校の制服を着た少女、
長い黒髪が星の光のように儚く煌めいているこの少女は間違いなく───
「───強い」
ハクバと僕の思考が一致した。
「何者だ……?」
「わたしたち……わたしは───」
ハクバは問うが、中心に立つ少女はこちらを気にするように首を半分向ける。
「───………」
わずかに動く口が少女の逡巡として伝わるが、言葉を紡ぐことはない。
「仲間じゃないのか……?」
「………」
少女は沈黙を保ちながら前を向き、ハクバは胡乱げな眼差しで少女を見る。
「どちらにせよ武器は……ないみたいだな。おとなしくこちらに来なさい。君も逮捕する」
「………」
そういうハクバの指示に従い、近づいていく少女。
「君はファーストか?まったく、修繕費用がいくらかかると思ってるんだ。いくらなんでもこういうことは───」
少女はハクバの隣に立ち、ハクバは手元から拘束具を取り出そうとしている。
言葉から察するにハクバは制服を着ていることから魔剣士学校の生徒が自主的なパトロール、騎士団の真似事だろうと思い込んでいるのだろう。
だが僕は知っている。
こんな少女、魔剣士学校にはいないことを。
「───なにっ!?……ぐあぁ!!」
直後、ハクバが空中に浮き地面に倒れこむ。
「き、きみ!なにをするんだ!」
当然ハクバもすぐに立ち上がり、剣を抜こうとするが………
「あ?ない……剣が……賜った剣が………」
何度も腰に手を叩くが先ほどまであったはずの鞘に収まっていた剣が鞘ごとなくなっている。
見事な手つきだ。
「どこに……どこだ!!!どこに───」
周囲を見渡し、マントを翻しながらハクバはやっと目にする。
「───なぜ貴様が持っている?」
ハクバが探していた剣を少女はその手に持っていたことを。
「いい剣ね、大事になさい。あなたにピッタリだから」
「なにを……あっ!」
少女は天高く放ると、ハクバは落とさないように掴まえに行く。
無事その腕に抱え、
「くっ、傷は!?」
鞘から抜く。
良し今だ。
「ない……良かった……はっ……!?」
だが気づいたときにはもう遅く、突如飛来してきた少女は消え、それに乗じ僕もとんずらした。
「なんだったんだ………」
ハクバは合流してきた騎士たちに指示を割り振る素振りを見せ、それぞれが散開していく。
「彼に残されたのは困惑と始末書の山だった」
僕は彼を見下ろしながらそう思った。
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