蒼穹の魔剣士 ~異世界で生まれ変わったら、最強の魔剣士になった理由~

神無月

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第一章

〈第29話 裏〉

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 彼女は確信した。

「───あはっ!」

「………」

 相対する男が只者ではないと。

 でも自分よりは弱いとも考えていた。先の不意打ちの回避への反応速度がギリギリと言ったレベルだったから。

「へぇ、やるね」

 だから彼女は間断なく攻め続けた。

「フフッまだあるよ!」

 剣戟を躱され、太刀筋を止められたとしても──

「──また止めちゃうんだ!」

 彼女が笑ったのは受け止めた男がそこそこ歯ごたえのある実力者だとわかったから。

 感覚で自分の身体が見られているとは思ったが、男は『ヘル……なんちゃら』という物で顔全体を隠しているため視線がどこを向いているかはわからない。

「…………」

 突如弾かれる。

「……?!」

 彼女は男の魔力の使い方に驚いた。それは自分たちを救ってくれた少女のものと似ていたから。

 自分では決して到達できない魔力の流し方。それをこの男から感じ取った。

「魔力………面白い使い方するね、ウチたちと同じ使い方。やっぱりリーダーは凄いや。さすがだよ、こんなのにまで真似されてるんだから」

 彼女の言葉の称賛はあくまでリーダーへのもの。なぜなら彼がいともたやすく模倣することが不快だったから。

 とはいえ真似事だろうと実力は今までのソルジャーとは比べ物にならないだろう。

 等級付きナンバーズは伊達ではないのだろう。

「でも全然つまんない。なんで反撃しないの?ウチがやった奴はみんな抵抗したのに」

 だが攻撃してこないことが不愉快。

「もしかしてビビってんの?今更怖気付くことないよね?ウチたちをこんなにしたんだからさ、せいぜい足掻いてウチを楽しませて…よ!」

 同じような単調な動き──

「──!」

 に見せかけたフェイント。

 しかし届こうとする直前に躱される

「チッ……!」

 イラつきのあまり、舌が鳴った。

「ねぇ、今の……受け止めようとしたでしょ?ムカつくなぁ、まるで『私にはそれくらいできる』みたいな感じ。ならもっかいやってあげるよ、ちゃんと受け止めてね」

「………」

 刹那に感じ取った余裕を批難する。

 男は何も喋らない。

 今の今まで何の反応も示さない不気味さにイラつきを覚えながらも彼女は滔々と続ける。

「黙ってないで、なんか言ったらどう?さっきからウチしか喋ってないじゃん。女の子を盛り上げないなんてマナー違反だよ?せめて自分の等級クラスが何番か言ったらどう?」

 情報を引き出すといった駆け引きは自分には向いていないな、と思いながらも問う。 

「………」

「?…………ッ!?」

 気のせいか男が何かをしゃべったように思い、彼女が耳をすました直後、男は間近に迫る。

「………」 

「ッ」

 やはり何かを言ってるのだが、顔全体を隠す『アレ』で遮られ聞き取れない。なによりそんな余裕はない。

 それが男のかく乱戦術だったのかはわからないが、受け止められたのは幸運としか言いようがなかった。

 だから意識を突如迫った目の前の剣に集中しようとすると──

「──ぐァ!」

 右腹の衝撃。

「……」

「くっくく……蹴りとか卑怯でしょ……それでも魔剣士?」

 もごもごとわずかに聞こえる音を無視して、口の中の砂利を吐き出す。

「お礼を言うよ、あんたのおかげで身体を武器に使うことを思い出せた……じゃあ、次。どっちがさきにやる?」

「………」

 男は首を傾げるだけで、やはり何も言わない。

「そう、ならこっちが行くよ………再戦だ!」

 今度こそは絶対に突き刺してやる。

 続けざまに攻撃を繰り出す。

 男は防御に徹しているが姿勢を注視し一瞬の隙も見逃さない、つもりだった。

 繰り返される剣の応酬の中、彼女にはふと考えがよぎった。

 自分がこの男に敵わないのではないかと。

 もしかして最初のは弱者を演じていただけで、誘い出されたのは自分だったのではないかと。

「ッ!!」

「………」

 自分の悲観的な考えを打ち消すように、必殺を繰り出そうとする。

 本当は相手の隙を縫うようにしたかったが、自分の怯えた考えを振り払いたかった。

(こいつはきっとウチのことを弱い奴だと見下している。許せない。絶対あんたには勝つ)

 強い思いを抱きながら、次の一手で決める。

 それを察した男の魔力を感じ取り、その気配も変える。

 だが───

「なにをしている!」

 剣を止めたのは、後ろで誰かが叫んだからではない。

 ───彼女は見たからだ。届こうとするあとわずか。

 自分の剣先にある、人外の技術───光り輝く剣を。

(ありえない、ありえないありえないありえない…………!!!)

 男を見上げることにすらも臆し、無防備だとは思いつつも彼女は声の主を振り返る。

 すると自分に対する敵意をかき消したかのように男の魔力がおとなしくなるのを感じ取り、安堵する。

「っ……クソが………」

 そんな安堵した自分に、彼女は忌々しく吐き捨てる。

「邪魔が入った───」

 臆病な自分を悟られないようにわざと気丈に振舞う。

 だけど、一つの気配を感じる。

「───ふふっ、どうやらそっちもお仲間が来たみたいね」

「……申し訳ありません……遅れました……っ…はぁ…はぁ」

 隣に立つ彼女はきっと仲間。

 それも弱そうだ。

「また、会おうね。『ナンバーズ』さん───」

 (あの子を人質にとるのもいいかもしれない)

 そんな下衆なやり方は好きじゃないけど、自分の考えに思わず口角が上がる。

 なにより、この男に辱しめられたのだ───

「───次は殺す」

「おい待て!くっ、君たちは追いかけるんだ!」

 (そう言って待つバカはいないでしょ)

 騎士団くらいならどうってことないけど、問題はあの男だ。

「………──」

「──っ、はいわかりました」

 チラリと振り返れば、男は仲間にハンドサインで指示している。

 そしてその仲間が自分を追いかけてきた。

(今やりあうのは良くないな、近くにあの子もいるみたいだし……さっさと逃げちゃお)

 彼女は、背後で剣が重なり合う音を聞いた。

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