32 / 49
第一章
第28話
しおりを挟むといっても、どこ探そうか。
ゴーストは指示通り行っちゃったし、実は相手がどんな服装かしらないのだ。
とりあえず闇雲に探すのではなく、ゆっくりと歩きながらレーダーであたりをつけて行こうか。
それにしても夜の街を自由に見るのも久しぶりだな。
入学当初は何があるかを手当たり次第に見ていたがそれもすぐに終わってしまったし放課後は遊ぶこともなく、ただ魔力の実験していたからこうして1人歩くだけでも気分がいい。
屋根から見下ろす人たちは空を見上げることなく、人の流れを形成しそれに逆らうことなく自らも流れていく。
ひと際大きな建物には夜だというのに長蛇の列が外周に沿って巻き付いている。
どういう建物か見ると『コング商会本店』と書かれている。
あのゴリラの実家か……看板見るまでいまのいままで忘れていた。
こんないい夜にどうでもいいことを考えたくない。
ここから離れよう……
「───?」
───ふと、後ろを振り返るとここからでもその巨大さが伝わる、黒く聳える塔が目に入った。
向こうは中心部から離れゴーストの範囲だが、一度くらいは離れても良いだろう。夜は長いし。
僕は懐かしいその塔みたいなオブジェに不思議と吸い寄せられるように向かう。
大きな広場の中心に地中から突き出てきたような建造物。
周囲の建物とは不釣り合いな大きさとデザイン。金属のような光沢感はあるが、周りが暗いため反射する光源がないため、その存在の不気味さを引き立てている。
脈動するような微かな光は近くで見つめなければ錯覚にも見える。
触れれば冷たくも、温かくもない。
僕は未だにこれの名前を知らない。
この高さなら探知範囲を広げるには十分だろうと思い、姿勢を作ろうとする直前───
「ッ!」
───前方に避ける。
「あれぇ?避けられるんだぁ意外~」
すると石畳と金属が猛烈な速さでぶつかる音と小ばかにしたような口調が後ろから聞こえる。
立っていた場所を振り返ればそこに振り下ろされたのは剣、佇むのは黒い塊。
よく見れば黒い外套に身を包み、顔の半分を覆うフードを被った少女。見るからに怪しい服装。
「殺ったと思ったんだけどなぁ。それ、魔剣士学校の剣でしょ?今までの奴らと同じで雑魚ばっかりかと思ったんだけどねぇ」
僅かに覗く口角はへらへらと笑い声音もそれを隠そうともせず、フラフラと横に揺れる動きをしている。
だが、ピタリとそのすべてが止むと少女は言い放つ───
「───お兄さん、強いでしょ」
「…………」
この子は強いかもしれない。
強者はいつだって実力を見抜く力がある。
だから彼女にもその力が───
「でも、反応が遅かったから私より弱いね!」
───なかったみたい。
「怪しい格好してるから襲っちゃったけど、『当たり』だったみたい」
「……」
どうやら彼女も昔の僕と同じように強者を探しているのだろう。
強さはともかく襲う瞬間まで気配を隠していたことから、もしかすると件の通り魔その1人かもしれない。
もちろんぼくは近づいてくる気配に気づいてたけどね……
いやほんと、登ろうとするオブジェを見上げることに気を取られてて反応が遅れたとかじゃないから……ほんとだから!
「魔剣士の学生かと思っちゃったけどよく見ると違うね。ううん、全然違う。今までの『ソルジャー』とも違う。やっぱりお兄さん《ナンバーズ》でしょ?本当はあそこの学生とも一回戦ってみたかったんだ。恵まれた環境にいるのにそれを自覚してない愚図だからさ」
一人で楽しそうにしゃべる彼女。
「でもいいや、《ナンバーズ》ならなんでも。でも、もしお兄さんが学生だったらこういうのを『イッセキニチョ』って言うんだっけ?あはは覚えてないやー」
ゴーストがこちらの異変に気づいて来てくれればいいのだが。
「もちろん知ってると思うけど、いちよう言っとくね」
でもまぁ、偶然とはいえ目標を見つけられた。
何を言ってるのかわからないが、さっさと騎士詰所に突き出して───
「───私たちは《メビウスの使徒》」
………ん?
「毎回思うんだけど、言う必要あるのかな?死んじゃうのに」
少女は構える。
「……」
なるほど。そう来たか
「でも、リーダーの指示だからしょうがないか」
僕もそれに準じて剣を抜く。
「これからよろしくね、クロージャーの『等級付き』さん──」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる