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第一章
第28話
しおりを挟むといっても、どこ探そうか。
ゴーストは指示通り行っちゃったし、実は相手がどんな服装かしらないのだ。
とりあえず闇雲に探すのではなく、ゆっくりと歩きながらレーダーであたりをつけて行こうか。
それにしても夜の街を自由に見るのも久しぶりだな。
入学当初は何があるかを手当たり次第に見ていたがそれもすぐに終わってしまったし放課後は遊ぶこともなく、ただ魔力の実験していたからこうして1人歩くだけでも気分がいい。
屋根から見下ろす人たちは空を見上げることなく、人の流れを形成しそれに逆らうことなく自らも流れていく。
ひと際大きな建物には夜だというのに長蛇の列が外周に沿って巻き付いている。
どういう建物か見ると『コング商会本店』と書かれている。
あのゴリラの実家か……看板見るまでいまのいままで忘れていた。
こんないい夜にどうでもいいことを考えたくない。
ここから離れよう……
「───?」
───ふと、後ろを振り返るとここからでもその巨大さが伝わる、黒く聳える塔が目に入った。
向こうは中心部から離れゴーストの範囲だが、一度くらいは離れても良いだろう。夜は長いし。
僕は懐かしいその塔みたいなオブジェに不思議と吸い寄せられるように向かう。
大きな広場の中心に地中から突き出てきたような建造物。
周囲の建物とは不釣り合いな大きさとデザイン。金属のような光沢感はあるが、周りが暗いため反射する光源がないため、その存在の不気味さを引き立てている。
脈動するような微かな光は近くで見つめなければ錯覚にも見える。
触れれば冷たくも、温かくもない。
僕は未だにこれの名前を知らない。
この高さなら探知範囲を広げるには十分だろうと思い、姿勢を作ろうとする直前───
「ッ!」
───前方に避ける。
「あれぇ?避けられるんだぁ意外~」
すると石畳と金属が猛烈な速さでぶつかる音と小ばかにしたような口調が後ろから聞こえる。
立っていた場所を振り返ればそこに振り下ろされたのは剣、佇むのは黒い塊。
よく見れば黒い外套に身を包み、顔の半分を覆うフードを被った少女。見るからに怪しい服装。
「殺ったと思ったんだけどなぁ。それ、魔剣士学校の剣でしょ?今までの奴らと同じで雑魚ばっかりかと思ったんだけどねぇ」
僅かに覗く口角はへらへらと笑い声音もそれを隠そうともせず、フラフラと横に揺れる動きをしている。
だが、ピタリとそのすべてが止むと少女は言い放つ───
「───お兄さん、強いでしょ」
「…………」
この子は強いかもしれない。
強者はいつだって実力を見抜く力がある。
だから彼女にもその力が───
「でも、反応が遅かったから私より弱いね!」
───なかったみたい。
「怪しい格好してるから襲っちゃったけど、『当たり』だったみたい」
「……」
どうやら彼女も昔の僕と同じように強者を探しているのだろう。
強さはともかく襲う瞬間まで気配を隠していたことから、もしかすると件の通り魔その1人かもしれない。
もちろんぼくは近づいてくる気配に気づいてたけどね……
いやほんと、登ろうとするオブジェを見上げることに気を取られてて反応が遅れたとかじゃないから……ほんとだから!
「魔剣士の学生かと思っちゃったけどよく見ると違うね。ううん、全然違う。今までの『ソルジャー』とも違う。やっぱりお兄さん《ナンバーズ》でしょ?本当はあそこの学生とも一回戦ってみたかったんだ。恵まれた環境にいるのにそれを自覚してない愚図だからさ」
一人で楽しそうにしゃべる彼女。
「でもいいや、《ナンバーズ》ならなんでも。でも、もしお兄さんが学生だったらこういうのを『イッセキニチョ』って言うんだっけ?あはは覚えてないやー」
ゴーストがこちらの異変に気づいて来てくれればいいのだが。
「もちろん知ってると思うけど、いちよう言っとくね」
でもまぁ、偶然とはいえ目標を見つけられた。
何を言ってるのかわからないが、さっさと騎士詰所に突き出して───
「───私たちは《メビウスの使徒》」
………ん?
「毎回思うんだけど、言う必要あるのかな?死んじゃうのに」
少女は構える。
「……」
なるほど。そう来たか
「でも、リーダーの指示だからしょうがないか」
僕もそれに準じて剣を抜く。
「これからよろしくね、クロージャーの『等級付き』さん──」
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