蒼穹の魔剣士 ~異世界で生まれ変わったら、最強の魔剣士になった理由~

神無月

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第一章

第24話 騎士団多すぎな話

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「通り魔、ですか?」

「そうよ。夜の時間帯に多いみたいだから、寮に帰ったら外出は控えなさい。もし出かけるなら誰かと一緒にね」

 イリスを含めた4人での昼食、セレシアとギード、イリスは堅苦しい口調を除いて話せるようになっていた。

 それもそのはず、初めて4人で食べたあれが1か月ぐらい前だ。あれから毎日のようにイリスは僕たちと当然のように混ざって席を共にしている。あのお重弁当も最初の一週間で普通になった。大きさだけ。中身は相変わらず豪華。

 そのせいなのか、イリスとの自主練に僕だけ呼ばれる。激しいものではないんだけど、理由がわからないし、たまにというから余計に意味が分からない。

 でもいいこともある。それはセレシアとイリスが特に打ち解けたようで、イリスをアイリスと呼んでいる。イリス本人の意向とのことで、ギードが一回だけ呼んでいたが怒られていた。

「ほーん、それにしても通り魔ねぇ。なんか結構前にもそんなことなかったか?ほら、商人の荷馬車を襲ったとかなんとかで、えー、あれだ…わかるだろクラウス?」

「いや全然」

 荷馬車を持った集団は襲ったことあるけど、商人の荷馬車なら僕じゃない。大体それも今は昔の話だ。

 うーんうーんと唸るギードを横目にイリスに質問する。

「その通り魔だけど、王都の騎士で対処できてないの?」

「それが情けないことに彼らでは相手の情報をろくに掴めてなかったらしくて…最近になってティファ姉さまのアーク騎士団に招集がかかって、やっと相手が複数人だということが分かったの」

 騎士団でもある程度把握してることを確認する。

 先日ミツキから聞いた情報は今話題に出てる通り魔のこと。情報の速さと人的資源を考えるとミツキはやはり優秀だ、諜報員とかに向いてそう。

 だけど複数人の通り魔はもはやテロなんじゃないかとも思った。

 まぁ僕にとっては標的は多ければ多いほど面白いけど。

「複数人で通り魔って…なんだか奇抜だね」

「ちょっと怖いね……」

「イリス様に情報があるっつーことはファーストにも応援要請来てるってことなんか?」

 それは僕も思ったことだ。いくら実妹とは言え情報を易々渡すとは思えない。

「ギード君、あなたそんな見た目なのに鋭いわね。ええ、そうよ。といってもファースト、じゃなくて私にだけれど。それにアーク騎士団から直々にね」

「見た目は関係なくない?」

「学生のアイリス様に声を掛けるなんて危なくないんですか?」

「大丈夫よ、セレシア。やることはせいぜい見回り。なにより王族が民を守るのは当然だもの」

 イリスはどこか誇らしげな表情を見せているが、僕にはまだ引っかかることがある。

「それ。さっきから言ってる『アーク騎士団』ってなに?」

「あはは……」

「また、だぜ……」

「は?」

 しばし沈黙と痛い視線が刺さる。特にイリスからのは睨んでると言っていい。

「でたでた。クラウス君お得意の『それなに』。もう驚くのも馬鹿らしいぜ」

「クラウス君、あなたには放課後、私と一緒に特別体育館に来てください。いいですね?」

 イリスは笑顔のまま詰め寄ってくる。

 放課後は用事もないし忙しくもないけど、面倒だ。

「めんど──」

「いい、ですね?」

 これ、怒ってるみたいだ。こうなったら、もう頷くしか手が残されていない。僕はアイリス呼称案件で知っている。

「……はい」

 面倒だけど仕方ない。

 ……それにしても通り魔か。今夜見てみるのもいいかもしれない。まずはミツキからも話を聞いてみるか。

「よろしい。いちよう学校側からも報せが行くと思うけれど、みんなも気を付けてね」

「うーい」

「もちろんだよ」

「……」

「…クラウス君?」

「え?あ、なに?」

 やべ聞いてなかった。

「ま、こいつなら大丈夫っしょ」

 背中をギードからバシバシ叩かれる。

「え、なにが?」

「うん。私もなんかクラウス君なら大丈夫な気がする」

「うん、だからなにが?」

「少なくとも放課後までは一緒だから、私がしっかり管理してあげるわ」

「ははっ、君たちも…意地が悪いね!」

 対等に話すことができる友人たちと時間を共有する。

 こんな調子で4人でワイワイと盛り上がれるのはどこか、居心地が良かった。


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「特別体育館に行くんじゃないの?」

 特別体育館に向かうには校舎から一度出てから、中庭を抜ける必要がある。それなのに向かっていく先には校門。

「まさか、そんな時間はないわ。これから警らだから」

「警ら?さっき言ってたアーク騎士団からってやつか、大変だね。じゃこれぐえぇ」

 校門を抜けたから寮の方向へ向かおうとすると襟を引っ張られた。く、首が…

「あなたも一緒に行くのよ?話は通してあるから」

「は?」

 驚いて振り向くと、そこには王女様ではなく、意地の悪い笑みを浮かべた魔女がいた。

「なんで僕まで…」

 僕は諦めて、校門からイリスに付き従い歩いている。どこに行くのかは教えてくれない。

「暇だから、騎士について私が直々に、しょうがないから教えてあげるわ」

 しょうがないと思うなら教えてくれなくて良いよ、なんて言ったらまた怒るんだろうな。

「アーク騎士団は王都の騎士団から独立した騎士団なの。指揮系統が違うから独立。意味わかる?」

「…それくらいわかるよ」

「そう良かった。なら続けるけれど、従来の騎士団の頂点が『大騎士』と呼ばれてるの。他に『近衛騎士』があるわ。彼らは王族を直々に守護していて、指揮権は王族が直接命令することもあるけれど、平時なら近衛騎士に自らが判断してる。それくらい信頼が厚いのは……一言で言えば『血』ね」

「つまり『近衛騎士』は限られた世襲制ってことか」

「あら、意外、そんな難しい言葉知ってるなんて」

「…………」

 やっぱり入学前に思ってた学生生活とかけ離れてるんだよなぁ。

 実力が露呈しないようとか思ってたのに、現実は失敗したのか成功したのかわからない下層のナイン…そのおかげでセレシアと知り合えたんだからまぁ、良いんだけど。

 なにより友達ザックザクとか思ってたのに、友達も2人…あの2人に不満があるわけじゃないし、イリスは友達じゃないから含めないとして、やはり『友達の信念』は無理があったみたい。

「…続けてください」

 わざと下手にでると、イリスは鼻を鳴らし続ける。

「つまり世にありふれた一般的な騎士が『大騎士』、王国騎士とも呼ばれていて、王都の騎士もこれに包括されるわ。指揮権は魔剣士協会と騎士連合ってところかしらね。ここらへんはあまり詳しくないけれど」

「ふーん…」

 煩雑な系統の下にある組織はいつでも公平性と透明性が不明瞭。それらは時間が経つほど腐敗していく。大方、大騎士は既得権益の塊ってとこで、近衛騎士も怪しそう……覚えておこう。

「で!」

 イリスはここが大事と言わんばかりにわざわざ僕の正面に立ち止まる。

「本題の『独立騎士』!アーク騎士団はすべての指揮監督権がティファ姉さまに集約されているの」

 僕はイリスを言葉を待っていた。しかし、待っていても続くことはない。

 そんなことはないだろうと僕は思っていても、現にその口が開くことはない。

 まさか、ありえないと思うが。

 まさか────

「…それだけ?」

「それだけもなにも、これで十分じゃない。団員は少ないけれど、圧倒的な武を持つ者が頂点の騎士団。それだけで影響は計り知れないもの」

「はぁぁぁ……」

 僕は文字通り、生まれて初めて大きなため息を吐いた。

「なによ?」

「いや別に……」

 独立騎士団なんて名前ほどかっこいいものではないとは思ってなかったが…ただのファシズムだった。

 おそらくだが団員が少ない要因には、設立から間もないとか大騎士からの横やりとか、予算が僅かとかいろんなことが考えられる。どれも円滑な組織運営には邪魔な要素。

 せめて、大騎士や近衛騎士への査察を行う第三者機関程度にすればいいものを……

「アーク騎士団は去年設立してからというのもあって、使えるお金も少ないし大騎士からの反発があるけれど、いずれこの国を変えるわ」

 全部かよ。

「実は私も、学校を卒業したら入るつもり。まだティファ姉さまには言ってないけれどね」

「へぇ……そうなんだ」

 組織の実態はともかく、夢があること。それ自体はいいことだ。

 そのために彼女は放課後、学生の自由を捨ててまで、鍛錬に励んでいるのだから。

 彼女は僕と初めて会った日から今日にいたるまで毎日欠かさず、自己の研鑽に励んでいることを僕は知っている。何かしらの理由で特別体育館が使えない日も、場所を見つけては努力している。たまに剣術指南とやらもいるのか、みっちり稽古をつけてもらっているみたいだ。帰り際、イリスとは別に2人分の魔力を感じるときがある。

「努力はいいことだ。苦労にならない限りは」

「はいはい」

 求めるものがあること、僕は素直に羨ましいと思った。

「そういえば今日の鶏の揚げ物、あれとても美味しかったわ。また近いうちに作ってちょうだい」

「唐揚げね、まぁ気が向いた時に作るよ。それと……」

 さも当然のように言うから付け加えるが───

「僕の弁当を無遠慮に食べるのは、君だけだよ。セレシアとギードですらそんなことしないのに」

「そう?あなたの料理はどれも美味しいのだから仕方ないじゃない」

 イリスの僕に対する態度は、ギードとセレシアのそれと比べるとあまりいいものじゃない。なぜか2人きりになるとやけに刺々しいというか、こき使うようになるというか。

 彼女本来の性格の表れだとは思う。でも、僕に見せる理由もわからないし、見せる必要もわからない。

 ただ料理のことだけは素直に認めてくれるので、先の態度と相まって本心だということはわかる。

「……それはどうも」

 だから、このことだけで言えば、悪い気はしない。

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