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序曲
第13話 かつて長い時を過ごした話
しおりを挟むボロボロな家屋が立ち並び、その中で一つだけ状態の良い家屋がある村。
遠目で見ればパンダ柄にも見えるが実際には木材の寄せ集めで作られたつぎはぎの家。
「……」
彼女と出会い、かつて短くない時間を過ごしていた廃村に来ていた。
「ここに来るのは…何年ぶりだっけ?」
ここには誰もいない。家の中にも周囲の森にも。魔力ソナーを使ってもどこにもいない。
「そういうものか…」
特段の用事もないことには、ここに戻ってくることもないだろう。
「僕も、これで最後だ」
思い出の中にあった村よりさびれている。
時間の経過というものはどこまでも切ないものだ。
「でも…あんなのはなかった…よな?」
目を引く代物。昔からありましたと錯覚するほどの堂々たる違和感。
「黒い…オブジェ」
ちょうど村の中心あたりに黒い直線的なオブジェがある。
建物というには小さく、どこかでみたことがあるような──
「あー、王都にあったやつ!」
王都のものよりスケールは小さいが、関係性で言えば甥っ子姪っ子くらいには面影も大きさもある。結局これはなんだったのかわからずじまいだけど。
「それにしても王都か」
僕は15歳という年齢も近づいたこともあって、近々王都の魔術剣士学校に入学することになっている。
そのため自領のなんちゃって治安維持の盗賊狩り納めのついでに立ち寄ったんだけど、この周辺は盗賊ネットワークでもあるのかめっきり数が減っている気がする。
「ここにはいなくても、王都にもならず者ぐらいいるよね」
僕は今度の入学をとても楽しみにしている。
きっと友達がザックザクできるに違いない。
そしたら僕だけの『組織』の足掛かりを作れたりしちゃって──
いや、でも気を付けないこともある。
それは当然実力だ。
僕の「シン・マケン」はこの世界にはない体系だから、魔術剣士学校なんかで使ってしまったら指導か落第になってしまうだろうし、逆にうまくやりすぎると姉さんみたいに騎士選抜特待生になってしまう。
実力の露見よりも侮られていた方がやりやすいこともある。能ある鷹は爪を隠すものだ。
今までと同じように学校でもうまくやればなんとかなるかな?
「はぁ…姉さん、か」
少し前にひと悶着あってから過保護になってきた姉さん。
一年も家を空けてたらそうなるものだろうか。
今になって思う、もっと早く帰ってくればよかった、と。
…まあそんなことよりもだ。
「学園生活、たのしみだ」
僕は廃村をしっかり見納めてから、月が浮かぶ春宵のもと、相も変わらず飛翔して帰路に就いた。
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