蒼穹の魔剣士 ~異世界で生まれ変わったら、最強の魔剣士になった理由~

神無月

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序曲

第10話 決意した話

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 そろそろ彼女のために新しい武具や日用品を買いそろえようと思っていた時、家の廊下で母さんに呼び止められた。

「クラウス、ちょっといいかしら?」

「なに?母さん」

「あなた最近出かけることが増えたでしょ?外に出るのはいいけど、知らない人についていっちゃだめよ?最近子どもの失踪事件が王都ですら増えているんだから」

「ははっわかってるよ。姉さんには及ばないけど僕も魔剣士の息子だからね。いざとなったら──」

「そういう驕り、よくないわよ」

 母さんにしては珍しく、語気が強いことに驚いた。

「ご、ごめん…なさい」

 僕自身の実力は僕だけしか知らない。普通の母が普通の息子を心配するのは道理というもの。

 もっとも、実力が自他ともに認められているステラ姉さんにも同じことを母さんは言う気がするが。

 ──ふと、思う時がある。

 前世での僕の家族はどんなだったのだろうか、と。

「とにかく、出かける以上しっかりと気を付けるのよ?夕方にはちゃんと帰ってきなさいね」

「うん、ありがとう。母さん」

「ふふ、よろしい…クラウス、その左手どうしたの!?」

「左手?ああ…ちょっとね」

 左手、というより左手首の内側に大き目な引っかき傷ができている。見た目は中々痛々しいが、大した傷ではない。

 これをつけた場所は彼女のいる村なのだが、理由が家屋の補修工事していたから、だと素直には言えない。

 我が家は補修の必要がないくらいにはきれいだし、そもそもこの世界では修繕は専門職だ。

 魔法で治そうとも考えていたが、後回しにしすぎたようだ。

「ちょっと貸しなさい」

 左手を差し出そうとすると、強引に引っ張り出される。

「あはは、大丈夫だよそんな──」

「静かに」

 ぴしゃりと言い放たれ、僕は黙る。

 その言葉には怒りもあるけど、どこか焦りを感じた。

 だから素直になすがままに静かにする。

 そうすると、母さんの陽に焼けていない白い両手が僕の傷の表面を、痛かったねと語りかけるよう撫でてくる。どこかこそばゆさ感じつつも、母さんはゆっくりと優しく左手首を包み込み、祈るように目を瞑る。

 どうしたもんかと、握られた手首を見れば、母さんの細く長い指は爪もしっかりと手入れされている、それに母としての慈愛の行動と女としての身体的魅力を同時に感じさせた。

 …エディプスコンプレックスの先触れではないはず。

「はい、これでもう大丈夫」

「う、うん、ありがとう」

「今日も出かけるのでしょう?さっきも言ったけど気をつけるのよ?」

「…うん」

 母さんはそのままどこかに歩いて行き、僕は玄関に向かおうとする、が。

「……」

 意識がフワフワとしていてどうにも歩く気にならない。

 自然と視線は包まれていた左手首に向く。

「………」

 さきほどよりも傷の赤みが引いている気がした。


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 領地の主な交通要所とは比べ物にならないほどの街道の大きさ、人の多さ、輸入品の数々。

 僕と彼女は再び王都に来ていた。彼女と来るのは二回目で、花火大会からそれほど時間もたっていない。

「やっぱり王都は人が多いね」

「うん」

「必要なものはこっちで見繕ってきたけど、他に必要なものある?」

「うん」

「なるほど、わかった」

「うん」

「とりあえず、列車のろうか」

「うん」

 平日と言えど数少ない交通機関、車内は座ることができないくらいに満員だ。

「大丈夫?」

「……うん」

 押し出されないよう胸に抱えた彼女を見下ろす。

 理由はわからないけど、王都に来てから彼女は俯いて目を合わせようともしないし、空返事ばかり。

 おまけに呼吸も乱れ気味。顔が赤いから風邪かとも思ったが、来るまでは何ともなかったのだ。とにかく調子が狂う。

 お昼時ということもあり、昼食を済ませようと繁華街で降りる。

 店内で食べるには子ども二人というには違和感がある。屋台の方が選びやすいし味も大衆の多数派に向いているだろう。

「なにが食べたい?」

「…あなたと同じでいい」

「そう…」

 周りを見渡せばよりどりみどり。座れる場所は…彼女に探してきてもらおう。

「じゃあ行ってくるよ。どこか座って待ってて」

 僕は色々な店が立ち並ぶ街道へ歩いて行く。

 その中でもひときわ人が集まっている店がある。

 看板を見ると『ズボンにまで食べさせたくなる美味しさ!』と書かれたキャッチコピーに横に店名が書いてある。

「………バーガー…パンツ?」

 長蛇の列だが並んでみようと、決意した。

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