蒼穹の魔剣士 ~異世界で生まれ変わったら、最強の魔剣士になった理由~

神無月

文字の大きさ
上 下
11 / 49
序曲

第10話 決意した話

しおりを挟む
  
 そろそろ彼女のために新しい武具や日用品を買いそろえようと思っていた時、家の廊下で母さんに呼び止められた。

「クラウス、ちょっといいかしら?」

「なに?母さん」

「あなた最近出かけることが増えたでしょ?外に出るのはいいけど、知らない人についていっちゃだめよ?最近子どもの失踪事件が王都ですら増えているんだから」

「ははっわかってるよ。姉さんには及ばないけど僕も魔剣士の息子だからね。いざとなったら──」

「そういう驕り、よくないわよ」

 母さんにしては珍しく、語気が強いことに驚いた。

「ご、ごめん…なさい」

 僕自身の実力は僕だけしか知らない。普通の母が普通の息子を心配するのは道理というもの。

 もっとも、実力が自他ともに認められているステラ姉さんにも同じことを母さんは言う気がするが。

 ──ふと、思う時がある。

 前世での僕の家族はどんなだったのだろうか、と。

「とにかく、出かける以上しっかりと気を付けるのよ?夕方にはちゃんと帰ってきなさいね」

「うん、ありがとう。母さん」

「ふふ、よろしい…クラウス、その左手どうしたの!?」

「左手?ああ…ちょっとね」

 左手、というより左手首の内側に大き目な引っかき傷ができている。見た目は中々痛々しいが、大した傷ではない。

 これをつけた場所は彼女のいる村なのだが、理由が家屋の補修工事していたから、だと素直には言えない。

 我が家は補修の必要がないくらいにはきれいだし、そもそもこの世界では修繕は専門職だ。

 魔法で治そうとも考えていたが、後回しにしすぎたようだ。

「ちょっと貸しなさい」

 左手を差し出そうとすると、強引に引っ張り出される。

「あはは、大丈夫だよそんな──」

「静かに」

 ぴしゃりと言い放たれ、僕は黙る。

 その言葉には怒りもあるけど、どこか焦りを感じた。

 だから素直になすがままに静かにする。

 そうすると、母さんの陽に焼けていない白い両手が僕の傷の表面を、痛かったねと語りかけるよう撫でてくる。どこかこそばゆさ感じつつも、母さんはゆっくりと優しく左手首を包み込み、祈るように目を瞑る。

 どうしたもんかと、握られた手首を見れば、母さんの細く長い指は爪もしっかりと手入れされている、それに母としての慈愛の行動と女としての身体的魅力を同時に感じさせた。

 …エディプスコンプレックスの先触れではないはず。

「はい、これでもう大丈夫」

「う、うん、ありがとう」

「今日も出かけるのでしょう?さっきも言ったけど気をつけるのよ?」

「…うん」

 母さんはそのままどこかに歩いて行き、僕は玄関に向かおうとする、が。

「……」

 意識がフワフワとしていてどうにも歩く気にならない。

 自然と視線は包まれていた左手首に向く。

「………」

 さきほどよりも傷の赤みが引いている気がした。


 88888888888888888888888888888

 領地の主な交通要所とは比べ物にならないほどの街道の大きさ、人の多さ、輸入品の数々。

 僕と彼女は再び王都に来ていた。彼女と来るのは二回目で、花火大会からそれほど時間もたっていない。

「やっぱり王都は人が多いね」

「うん」

「必要なものはこっちで見繕ってきたけど、他に必要なものある?」

「うん」

「なるほど、わかった」

「うん」

「とりあえず、列車のろうか」

「うん」

 平日と言えど数少ない交通機関、車内は座ることができないくらいに満員だ。

「大丈夫?」

「……うん」

 押し出されないよう胸に抱えた彼女を見下ろす。

 理由はわからないけど、王都に来てから彼女は俯いて目を合わせようともしないし、空返事ばかり。

 おまけに呼吸も乱れ気味。顔が赤いから風邪かとも思ったが、来るまでは何ともなかったのだ。とにかく調子が狂う。

 お昼時ということもあり、昼食を済ませようと繁華街で降りる。

 店内で食べるには子ども二人というには違和感がある。屋台の方が選びやすいし味も大衆の多数派に向いているだろう。

「なにが食べたい?」

「…あなたと同じでいい」

「そう…」

 周りを見渡せばよりどりみどり。座れる場所は…彼女に探してきてもらおう。

「じゃあ行ってくるよ。どこか座って待ってて」

 僕は色々な店が立ち並ぶ街道へ歩いて行く。

 その中でもひときわ人が集まっている店がある。

 看板を見ると『ズボンにまで食べさせたくなる美味しさ!』と書かれたキャッチコピーに横に店名が書いてある。

「………バーガー…パンツ?」

 長蛇の列だが並んでみようと、決意した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

処理中です...