6 / 49
序曲
第5話 少女と寝た話
しおりを挟むそれから村の適当な家に移動し、「今帰るとあの賊の仲間たちがうろついているからまた狙われるかもしれない」「とりあえず力をつけよう」「眠いから帰る」
適当な言い訳をまくしたて彼女にはしばらく住んでもらうことになった。
そして今朝。身支度を整え、朝食を食べ日課である屋敷での勉強鍛錬を終えたあとに今後に必要であろう色々な物をくすね、バックに詰めると人目に付かないところへ移動し、飛翔すると夕日に染まった空が目に留まる。
「思ってたより遅くなったな」
この星でも太陽でいいんだろうかなんてことを片隅にあることを考えていた。
それは彼女を故郷のもとに帰す前に武力を身に着けといた方がいいだろう、と。人に教えるのは得意じゃないが、前世でも特訓をつけたことがある。
だが、この世界には図り切れない要素が存在する。
村に到着し、あたりを見渡せば昨夜の死体は綺麗さっぱり消えている。
「魔力おそるべし」
そう、魔力だ。この世界に当たり前のように存在し、人々はそれを基盤に生活している。
身体に魔力を流す魔剣士がいるということは魔力は感覚で扱うものと認識していいだろう。
『シン・マケン』も武術の型と魔力の効率的な使い方が変わっただけで本質はこの世界の魔剣士と何ら変わりない。
「うまくいくといいんだけど」
ぼやきながら歩を進めぼろ家に入ると、彼女は退屈そうに椅子に座っていた。
「やあおはよう」
「…おはよう」
「昨日は眠れた?」
「うん」
「そうか、ならお腹すいてるだろうから食事を作ろう。あと将来的に君だけでも作れるように教えるよ」
「わかった」
素直にうなずく。
「よし、じゃあとりあえず…」
バックをテーブルに置き、詰めた荷物を取り出していく。
「すごい、大きな袋…」
「だろう?僕が作ったんだ」
「あなたが…?」
「いちいち取りに行くのは面倒だからね…っと、あったあった。はい」
目当てのものを取り出し、彼女に手渡す。
「これは…服?」
「おさがりだけど、まだ着れるだろうしもらってきたんだ。あげるよ」
「…ありがとう」
今着ているのは服とすら呼べないただの布だ。それじゃあ今後に色々と支障が出るだろう。
彼女はもらった服を大事に抱え、よく見ると顔を少し赤くしていた。
「顔赤いよ?大丈夫?」
「!」
彼女は勢いよく体の向きをそらし、一言。
「ゆ、夕日のせい…」
やはり風邪でもひいたのかもしれない。滋養をつけてもらわなくては困る。
「今日は僕が作るから、着替えて待ってて。あと…」
着替えに行こうとする彼女を引き留める。
「明日からは剣の訓練だ。帰りたいだろうけど、頑張ってね」
「?」
何を言ってるのかわからない様子で首を傾げている。
だがこれは双方に利があることだ。
半年後には『シン・マケン』流の立派な魔剣士になってることだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少女を拾い、なんだかんだ長い間お世話をしてしまった。
でも何もしなかったわけではない。
その間に今後のためになるよう3つを指南した。おまけ程度の料理と勉強、注力したのは剣の特訓だ。
都合上、武を誇示しないという姿勢は彼女には取らなかった。
もう知られてしまったし、教えるうえでは不都合だからね。
結果で言えば成功だった。
とはいえせっかくだからどんなことをやったかを振り返るのべきかもしれない。
まず最初に教えたことは料理だった。
なぜなら料理は体系的に知識を得ることができ、さらに器用さも鍛え上げることができる最良の手段だから。料理、やはり料理がすべてを解決する。なんてことはないけど。
それに対する彼女ははじめこそ覚束なかったが、現在では教えることがないくらいに上達してしまい見事美味い料理を作れるようになっていた。
最初に教えたオムライスは特に絶品で、たまに食事をふるまってくれるようになった。
料理は僕より上手くなっていたなんて…あれ、おかしいな。
それから勉強の成果だが、まず僕のしている勉強とは王国の歴史だとか前世で言う小学生レベルの算数や国語といった退屈なものばかりで、そんなことは彼女も知っているようだった。
だから勉強では前世での経験を交えたりして教えてみたのだが、功を奏したのか意外にもずいぶんと関心を示し、感心していた。
基礎的な教養、好奇心は旺盛。
いい感性を持っている。今後が楽しみだ。
「そういえば今度王都で花火が上がるらしいよ」
「そうなのね…」
だが、予想外の流れが出来上がった。
おそらく今回も来るだろう。
「じゃあちょっと休憩してから訓練はじめようか」
「ん、わかったわ」
剣術の特訓を始める前にいつものようにぼろ家で軽い勉強のような会話が終わり、僕が伸びをしてると彼女の癖なのか袖を引っ張りアピールしてくる。
それに僕は振り返ると、彼女は蒼みがかった瞳で見つめてくる。
「ん?」
「その…『テッポウ』というものを知ってる?詳しくは知らないんだけど、火薬というものを使う…」
「あー、銃かな?鉄砲でしょ知ってるよ…それがどうかしたの?」
「センタン技術研究都市があるのは知ってるでしょう?あそこでそういうものがあったってこと、昔の話だけど思い出して…」
心の中だけで「センタン技術研究都市?聞いたことない、というかなんてハイテクそうな名前なんだ…!」と叫ぶだけに留める。
そしてあとに続くいつものセリフ。
「どういうものか、教えてくれない…?」
彼女は申し訳なさそうな口調ではいうものの、試すような期待の眼差しを隠しきれていない。
「はは…わかったよ、うーん、まず『鉄砲』というのはさっき言ってた呼び方ってのは『銃』とも呼ばれてて──」
彼女はこういうことをたまに言い出すことがある。
きっかけはたまたまだった。彼女の知らないことを補足程度に説明しただけだったのだが、それが好奇心に火をつけたようでこうしてたまにねだってくる。
名前を知ってはいるものの、どういうものかを知らないときにより詳しく知ろうとするのだ。
こういう物事に対して知ろうと姿勢は単純に知識が増えるだけでなく、結果として多角的に視点を見る力を養うことができると考えている僕からするとこれは僥倖だった。
この力は人との相対、つまり駆け引きや勝負においては十分以上なアドバンテージになる。
なら断る理由はない。でも僕がやったことのないことや知らないことは、ふんわりと曖昧模糊に矛盾がない程度に教えたり、自分で考えるといい、なんて誤魔化したりしている。いまのところバレてなさそうだ。
でもただ質問してくるだけじゃない。彼女は驚くことに1つのものから関連性を見出し質問をしてくるのだ。
なにを言ってるのかわからないと思う。僕もわからなかったから。
例えば今回のは花火。
何を考えているのか察することのできない表情を常にしている彼女が珍しく、花火の話題を出したときにはどこか悲しそうだったからすぐにうやむやにしたし、そのあとの会話でも火薬の単語すら出していない。
おそらくだが彼女の中で、花火という単語から、花火が色とりどりな理由として炎色反応、それを構成する化合物つまり火薬。火薬から昔に聞いたという銃を想起したと僕は見ている。
少なくとも王国において花火があることから火薬は多くはなくとも認知はされているだろう。だが炎色反応については知っている人間がいるのか疑問に思うレベルだが、彼女は知っていたとしても、もう驚きはしない。
僕はこのことを過去に尋ねたことがある
「それはどこで聞いたの?」
「『外の人』たちが言ってたのを聞いたんだけど…」
彼女はどことなく愁いを帯びながら答える。
あまり詳しくは聞いたことはないが、どうやらあの賊にとらえられる前は施設にいたようで、そこでは施設の大人を『外の人』、彼女と同じような子供を『内の人』と呼んでいたらしく、そこで学んだということらしかった。
人身取引する前に高度な教養を施し、子供の付加価値をあげるなんて倫理観が破滅的で斬新な施設だと感心してしまった。
今度その施設が他にどんなことを行っているか、見てみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら彼女からの質問を時折交えた説明が終わる。
「ありがとう。最新の研究だと聞いたから今回は知らないんじゃないかって思ったけど、あなたは、なんでも知ってるのね…」
「ははっ、そんなことないよ…」
「火薬の圧力で物を打ち出す機構…いつかは魔力でも応用が…?」
魔力で打ち出すか…どうせこの世界のことだ、火薬だけじゃなくてなんやかんやした魔力をどうにかこうにかした魔導銃なんてものが出てくるに決まってる。なにそれかっこいい。
時代…先取りしちゃうか!
「じゃあその魔力で打ち出す銃の設計図を書いてみるよ」
「…本気?」
「材料さえそろえば簡単さ。今は魔力が使えなくても覚えておくといいよ」
机の上に紙に適当な設計図とそれっぽい理論を軽くスケッチし、しれっとてっぺんには《魔導銃》とデカく書いておく。
「こんなものかな」
まさか設計図を描くことになるとは思わなかったけど、穴が開くほど設計図を見つめているところを見るにどうやら彼女はとても喜んでるみたいだ。
「すごい…」
彼女は一通り目を通すとキラキラした純真な眼差し向けいつものようにおだててくれる。
「もしかしたら火薬式もあなたが…?」
たまにこんな感じで呟いてありもしない可能性を思案している。
「いつかその場所に…」
聞き逃してしまいそうな小さいつぶやき。
「もっと、がんばらないと…」
そして気合を入れ、崇めるようなうっとりと感動した眼差しで見つめてきた。
正直この視線は背中が痒くなるから苦手だ。
僕が知っていたのはこの世界の最先端技術ではなく、前世での記憶にある見聞きした知識やそれに関わる現象、覚えていた経験に過ぎない。
技術を先取りした研究者でも開発者でもなければ当然神様でもなんでもない。ようするに後出しじゃんけんのようなものだ。
だから彼女の連想力といった発想力のほうが後天では得難い才覚なのは明らかだ。
しかし虚構だとしても憧憬や信頼は自信やモチベーションを引き上げることがあるのも事実。
それに現在の自分に影響がなかったとしても時間をかけて将来的に芽吹いていくこともある。
それは場合によって強い動機や目標にもつながり、先のように気合を入れるのはその表象とも言える。
であるなら彼女のために、あるいは自分のためにこの演技を続けなければならないのかもしれない。
…そんな重く考えなくていいか。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる