4 / 49
序曲
第3話 メビウス、交戦開始
しおりを挟む「ではメビウス!行くぞッ!」
鼓舞するように宣言するアントレ。対して依然剣を持たないメビウスとの戦いが始まった。
「ッッ!」
アントレは右側に剣を引きづるような構え方で、重心を落とし、前傾姿勢から超高速で繰り出す一撃。
そうして近距離まで接近し、切り上げる。それは音速を超えた斬撃。
「っと」
しかし、メビウスに難なく躱される。
「がぁぁあ!」
すかさず追撃するアントレ。それを躱すメビウス。
剣は唸り、風が裂かれ、斬撃はメビウスの後ろにある家屋まで届き、廃屋はもはや廃材と化していた。
廃村からは限界を超えたアントレの雄たけびと、家屋が崩れる音がこだましていた。
それを何度も繰り返す両者の戦いは、防戦一方なメビウスという一見アントレに有利な状況を作り出していた。
当然だ。メビウスは剣を持っていない。攻撃を受け止める手段も、そこから反撃する手段もない。回避に専念するのは必至。
「ぐがぁぁぁ!!!」
「……」
クソクソクソ……っ!!こんなことが、こんなものが存在していいのかッ!?
アーティファクトを使っていないのなら勝機はあると思った。
不意打ちや暗殺は技量の高い相手であろうと、覆せる戦術。
だから、強襲でしか優位性を発揮できないのなら、こちらの方が上手。
だが、対峙してわかる。
この圧倒的な実力の差。
剣を振るうたび、メビウスは俺の剣筋を読み、次の出す手、身体の流し方、筋肉の収縮、あらゆる情報を蓄積している。
手詰まりになるのはこちらだ。
戦況を打破しようとアントレが考えている中、不意にメビウスが距離を取った。
「なるほど。今回は『当たり』だったようだ」
「……お前、何を言って──」
──『当たり』?当たりとはどういうことだ?考えられるのは符丁や暗号の類。つまり何かを探しているということか?……俺が『当たり』だと言った。だとしたら、今までの俺を攻撃しなかったすべての行動は、奴の疑念を確信に変えるためだったのか?つまり、奴は俺を〈クロージャー〉の一員だとは確信していなかった、リーダーである俺をあぶりだすためあいつらは───
「───お前、さては『アドミニストレーター』か?」
メビウスは警戒したのか、アントレを視界の中心に収めたような気がした。
「……?」
ただこちらを見つめるメビウスにアントレは不安が募る。
何も反応を示すこともなくただ睨むようにこちらを見るメビウスに、ますます拠り所のない不安を募らせる。
「では、『アストラル』か?俺たち〈クロージャー〉を始末しに来たんだろう!?」
「?????」
メビウスはふと、視線を横にずらし、すぐに戻す。
なぜ何も言わない?これほどの力を持ちながら情報が与えられていないなどあり得るのか?いや、真核にいるものだからこそ情報を安易に与えないのか?徹底的な情報統制が敷かれた組織の情報は、それだけで重要だ。なら少しでも引き出して、逃げる……帰還すべき───
「───なにをしている……?」
アントレは思考を巡らせている中、メビウスが空中に浮遊し、右手を空に掲げているのを見た。
「…………」
そういうメビウスの手にはどこからか飛来したかもわからない剣が、ピタリとその手に剣の柄が収まる。
それだけでもアントレには信じがたい光景であった。通常魔力は自身の身体から離れると散逸する。故に周囲には使用者以外にも視認できる魔力痕として使用した痕跡が残る。それを物に付与するなど常人には不可能。そんなことを可能にするなど〈ソルジャー〉ですら聞いたことない。いや、できないだろう。
「はっ、はははっっ……ハハハハハ!!!」
だがそれ以上の非常識が、アントレを襲った。
「…………ありえないだろ、こんな…………」
それはただの剣ではない。
この世のものとは思えない光、輝く剣。
それは世界を照らし、蒼穹と深淵に縁取られていた。
立ちはだかる壁、超えられない領域を目にした絶望。
人は、何を思うか。
───ただ恐ろしい
人間としてのそれではなく、生物として恐怖。
叫ぶのは、許容量を超えた魔力による痛みを誤魔化すためではない。
笑うのは、気が狂ったからではない。
不可避とわかっている意識を否定する、恐怖から逃避する無意識でしかない。
この恐怖を誤魔化すために叫んでいる。痛みすらも今は心地良い。
底の見えない技量?圧倒的な実力?
そんなものはない。
あるのは───
「──────…………」
メビウスが剣をゆっくりと下ろし、宣言した時、俺の世界が終わる。
霧散していく意識の中で、彼のものが、ただ一言。
「技の名前、決めとけばよかったかもな」
1人の男が、その人生に終幕を下したのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる