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第四章 ベリル探しは、キケンがいっぱい⁉
2.喫茶フクロウ軒で情報を
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御祠堂をでて、いりくんだ路地をいくつか曲がると、壁一面がツタでおおわれた小さな一軒家があらわれた。
ブリキでできた赤いポストの上には、『喫茶フクロウ軒』と書かれたプレートを下げた、木彫りのフクロウがとまっている。
「ごめんくださーい」
泰平さんが、重たそうな木のドアを押した。
カランカランとドアチャイムが鳴るのと同時に、店の奥からおういらっしゃい! と威勢のいい声が飛んでくる。
お店の外観からは想像ができないくらい、店内はすっきりしていた。
ログハウスみたいに丸太が組まれた天井では、シーリングファンがゆっくり回転している。
カウンターの上に、フクロウの置物や、鉱物標本が飾られているのが目にとまった。
ふむふむ。なかなかいいシュミしていらっしゃる!
「いらっしゃい! 泰平さんに友ちゃん! おっ、きょうは珍しいお客さんが一緒だね」
トレイにお水をのせてあらわれた店員さんが、わたしを見て目を丸くした。
日焼けをした肌に、がっしりした肩。森のクマさんみたいな外見の男のひとだ。
「可愛い子じゃないか! 友ちゃんもスミに置けないねえ」
「マスター、その友ちゃんっていうのやめて」
ぼそっと抗議する友弥くんに、わたしは思わずふき出してしまう。
「と、友ちゃん……。クッ、ククク」
「うるさい! いいからはやく選べ!」
「痛っ! カド! カドを使うとは卑怯なり!」
メニューで小突かれた頭をさすりながら、わたしは友弥くんに反撃のチョップをくらわせた。
そんなわたしたちのやり取りを見て、マスターがハハハと笑い声をあげる。
声も大きいし、喫茶店のマスターより、ラグビーとかの選手が似合いそうだ。
「ここはなにを食べてもおいしいよ。ごちそうするから、好きなものを選びなさい」
「ありがとうございます!」
ここは泰平さんの言葉に甘えよう。
いまにも鳴りだしそうなおなかをおさえ、わたしはメニューに視線をはしらせた。
「おいしーい!」
スプーンをにぎりしめながら、思わず叫んでしまった。
「ハハハ、そうだろう! うちの激辛カレーはただ辛いだけじゃなくって、何種類も果物のペーストを混ぜ込んで、コクを出しているからね」
お水をグラスに注ぎながら、マスターがほこらしげに胸を張った。
「彩ぁー! うまいってよー!」
カウンターの向こうから、ほっそりとした女のひとが顔を出した。
マスターがクマなら、こちらはしなやかな鶴を連想させる。
「それはよかった! 友ちゃんのガールフレンドのお眼鏡に、かなったわね」
「だから、夫婦そろってその呼び方やめろって」
文句をいいながらも、友弥くんがナイフとフォークを止める気配はない。
三段重ねにした分厚いパンケーキが、とけるようになくなっていく。
それも、流行りのスフレっぽいのではなく、ずっしり中身のつまったタイプのやつ。
あまりにも気持ち良い食べっぷりに、思わず観察モードに入ってしまう。
「……なんだよ」
「いや、友弥くんが甘党なの、意外だなーと」
「そうか? おまえこそ、ファーストチョイスで激辛って」
「えー? 夏は辛いもの食べてなんぼでしょ!」
気の抜けた会話をしていると、彩さんの視線を感じた。
なんだろう?
「……泰平さん。この子は、あのことは知ってるの?」
彩さんが、クラブハウスサンドにかじりついている泰平さんにそっとたずねた。
泰平さんはコーヒーをひとくち飲むと、こくりとうなずく。
「知っておるよ。というより、もう何度も友弥と遺跡にもぐっていてな」
「ええっ!」
「そうなんですか⁉」
マスターと彩さんが、同時におどろきの声を上げた。
あれ、もしかして、このふたりって……?
「マスターたち、同業者だぞ。もと、だけど」
「えっ!」
さらりとした友弥くんの説明に、わたしは目を丸くする。
「いやあ、こっちこそびっくりしたよ。晶ちゃんは、友ちゃんのバディなのかい?」
「……バディ?」
「違う」
マスターのいう『バディ』がなんなのかはよくわからないけど、友也くんに即否定されたのが、なんだかちょっとイラッとくる。
「わたし、まだ仮合格の身なんです」
わたしは簡単に、トレジャーハンター仮合格のいきさつをふたりに説明した。
最初は真剣に話しを聞いていたふたりは、後半になるにつれて笑いをこらえきれない様子になり、最後は声をそろえて笑い出した。
「いやあ、滑石でできた吊り天井トラップかあ! ははは、そりゃ災難だったね!」
「涙が出るほど笑いながら言うセリフじゃないだろ!」
マスター夫婦の様子に、友弥くんはあきれ顔だ。
ほかにお客さんがいないからなのか、ふたりとも遠慮がない。
「ごめんごめん。しっかし友ちゃんもキビしいね。そこまで活躍したのに、仮合格なんだ?」
「本当よね。現役時代のアンタより、晶ちゃんの方がよほどスジがよさそうなのに」
彩さん、上品な雰囲気に反して、辛口。
「えーと、おふたりはもう、トレジャーハンターはしていないんですか」
わたしの質問に、マスターは口元をにやりとゆがめた。
「ああ。何年か前に足を洗ってね。いまは喫茶店をやりながら、情報屋をしてるんだ」
「じょ、情報屋?」
なにその、急にスパイ映画みたいな単語は!
「こう見えて、このふたりのところには世界中のお宝情報が集まるんだよ」
泰平さんがイタズラっぽくそう言うと、マスターはそれ以上は企業秘密だから、と口元に人差し指をあてた。
「そうそう。その優秀な情報屋からとっておきのサービスがあるんだけど、友ちゃん」
「……なに?」
友弥くんが面倒くさそうにお皿から顔をあげた。
「友ちゃんたちがいまもぐっている遺跡、どうやら地下水とガスが溜まっているところがありそうなんだ。探索するなら、気を付けなよ」
「……わかった。あと、全っ然呼び方直す気ねえな⁉」
友弥くんはそう言うと、最後のひとくち分のパンケーキをいきおいまかせに口に放りこんだ。
ブリキでできた赤いポストの上には、『喫茶フクロウ軒』と書かれたプレートを下げた、木彫りのフクロウがとまっている。
「ごめんくださーい」
泰平さんが、重たそうな木のドアを押した。
カランカランとドアチャイムが鳴るのと同時に、店の奥からおういらっしゃい! と威勢のいい声が飛んでくる。
お店の外観からは想像ができないくらい、店内はすっきりしていた。
ログハウスみたいに丸太が組まれた天井では、シーリングファンがゆっくり回転している。
カウンターの上に、フクロウの置物や、鉱物標本が飾られているのが目にとまった。
ふむふむ。なかなかいいシュミしていらっしゃる!
「いらっしゃい! 泰平さんに友ちゃん! おっ、きょうは珍しいお客さんが一緒だね」
トレイにお水をのせてあらわれた店員さんが、わたしを見て目を丸くした。
日焼けをした肌に、がっしりした肩。森のクマさんみたいな外見の男のひとだ。
「可愛い子じゃないか! 友ちゃんもスミに置けないねえ」
「マスター、その友ちゃんっていうのやめて」
ぼそっと抗議する友弥くんに、わたしは思わずふき出してしまう。
「と、友ちゃん……。クッ、ククク」
「うるさい! いいからはやく選べ!」
「痛っ! カド! カドを使うとは卑怯なり!」
メニューで小突かれた頭をさすりながら、わたしは友弥くんに反撃のチョップをくらわせた。
そんなわたしたちのやり取りを見て、マスターがハハハと笑い声をあげる。
声も大きいし、喫茶店のマスターより、ラグビーとかの選手が似合いそうだ。
「ここはなにを食べてもおいしいよ。ごちそうするから、好きなものを選びなさい」
「ありがとうございます!」
ここは泰平さんの言葉に甘えよう。
いまにも鳴りだしそうなおなかをおさえ、わたしはメニューに視線をはしらせた。
「おいしーい!」
スプーンをにぎりしめながら、思わず叫んでしまった。
「ハハハ、そうだろう! うちの激辛カレーはただ辛いだけじゃなくって、何種類も果物のペーストを混ぜ込んで、コクを出しているからね」
お水をグラスに注ぎながら、マスターがほこらしげに胸を張った。
「彩ぁー! うまいってよー!」
カウンターの向こうから、ほっそりとした女のひとが顔を出した。
マスターがクマなら、こちらはしなやかな鶴を連想させる。
「それはよかった! 友ちゃんのガールフレンドのお眼鏡に、かなったわね」
「だから、夫婦そろってその呼び方やめろって」
文句をいいながらも、友弥くんがナイフとフォークを止める気配はない。
三段重ねにした分厚いパンケーキが、とけるようになくなっていく。
それも、流行りのスフレっぽいのではなく、ずっしり中身のつまったタイプのやつ。
あまりにも気持ち良い食べっぷりに、思わず観察モードに入ってしまう。
「……なんだよ」
「いや、友弥くんが甘党なの、意外だなーと」
「そうか? おまえこそ、ファーストチョイスで激辛って」
「えー? 夏は辛いもの食べてなんぼでしょ!」
気の抜けた会話をしていると、彩さんの視線を感じた。
なんだろう?
「……泰平さん。この子は、あのことは知ってるの?」
彩さんが、クラブハウスサンドにかじりついている泰平さんにそっとたずねた。
泰平さんはコーヒーをひとくち飲むと、こくりとうなずく。
「知っておるよ。というより、もう何度も友弥と遺跡にもぐっていてな」
「ええっ!」
「そうなんですか⁉」
マスターと彩さんが、同時におどろきの声を上げた。
あれ、もしかして、このふたりって……?
「マスターたち、同業者だぞ。もと、だけど」
「えっ!」
さらりとした友弥くんの説明に、わたしは目を丸くする。
「いやあ、こっちこそびっくりしたよ。晶ちゃんは、友ちゃんのバディなのかい?」
「……バディ?」
「違う」
マスターのいう『バディ』がなんなのかはよくわからないけど、友也くんに即否定されたのが、なんだかちょっとイラッとくる。
「わたし、まだ仮合格の身なんです」
わたしは簡単に、トレジャーハンター仮合格のいきさつをふたりに説明した。
最初は真剣に話しを聞いていたふたりは、後半になるにつれて笑いをこらえきれない様子になり、最後は声をそろえて笑い出した。
「いやあ、滑石でできた吊り天井トラップかあ! ははは、そりゃ災難だったね!」
「涙が出るほど笑いながら言うセリフじゃないだろ!」
マスター夫婦の様子に、友弥くんはあきれ顔だ。
ほかにお客さんがいないからなのか、ふたりとも遠慮がない。
「ごめんごめん。しっかし友ちゃんもキビしいね。そこまで活躍したのに、仮合格なんだ?」
「本当よね。現役時代のアンタより、晶ちゃんの方がよほどスジがよさそうなのに」
彩さん、上品な雰囲気に反して、辛口。
「えーと、おふたりはもう、トレジャーハンターはしていないんですか」
わたしの質問に、マスターは口元をにやりとゆがめた。
「ああ。何年か前に足を洗ってね。いまは喫茶店をやりながら、情報屋をしてるんだ」
「じょ、情報屋?」
なにその、急にスパイ映画みたいな単語は!
「こう見えて、このふたりのところには世界中のお宝情報が集まるんだよ」
泰平さんがイタズラっぽくそう言うと、マスターはそれ以上は企業秘密だから、と口元に人差し指をあてた。
「そうそう。その優秀な情報屋からとっておきのサービスがあるんだけど、友ちゃん」
「……なに?」
友弥くんが面倒くさそうにお皿から顔をあげた。
「友ちゃんたちがいまもぐっている遺跡、どうやら地下水とガスが溜まっているところがありそうなんだ。探索するなら、気を付けなよ」
「……わかった。あと、全っ然呼び方直す気ねえな⁉」
友弥くんはそう言うと、最後のひとくち分のパンケーキをいきおいまかせに口に放りこんだ。
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