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第一章 社畜と女子高生と湾岸タワマンルームシェア
12.女子高生と家族について
しおりを挟む「……どうかしたの?」
やや嫌がっている三郎太をがっしりと掴み、もふもふしている理瀬。
「宮本さん、エレンと仲良くなるの早いですね。最初はあんなに嫌われてたのに」
「あの子は誰とでも仲良くなれる子だと思うぞ」
「どうせ私は誰とも仲良くなれない子ですよ」
「そんなことは言ってないが……」
俺とエレンが仲良くなったことに、理瀬が嫉妬している?
「何が気に入らないのか知らないけど、三郎太は離してやれ。嫌われるぞ」
俺が言うと、理瀬はもふる手を緩めた。三郎太はするりと理瀬の腕の中から抜け、「なんだこいつ」という目で理瀬を見つめたあと、どこかへ消えた。
「俺、なんかまずいこと言った?」
「宮本さんのアドバイス、すごく具体的でしたよね。彼女いるんですか?」
「今はいないけど……」
ふと篠田の顔が頭をよぎるが、まだ付き合ってないしセーフだ。
「まあ、一度くらいは彼女がいたこともあるさ。俺もいい大人だしな」
「……宮本さんは一人が似合ってるから、彼女なんて必要ないと思ってました」
私と同じで。
と、理瀬は続けて言いたかったのだと、俺は思えた。
スペックは大差あれど、俺と理瀬はどこか似ている。
なんとなく感じているこの気持ちは、理瀬も同じだったのかもしれない。
だが、大人と女子高生という差は絶対的だ。
能力で理瀬に抜かれているところはあっても、経験で負けているところはない。
「今は一人の方が楽だと思ってるけど、そりゃ彼女ほしいって思うこともあるさ。常磐さんはどうなの?」
「……全く興味がないとは言いません。ただ誰かと付き合うイメージができないんです。理想の男の人が身近にいないんですよね」
「まあ、高校生の男は女の子よりずっとガキだからな」
大人になっても男なんてガキのままだけどな。俺もそうだ。見た目はアラサー社畜おじさんでも、勤務中は不審者が突然乱入してきてそれを取り押さえる妄想ばかりしている。
「私、最近、婚活のことネットでいろいろ調べてるんです」
「婚活?高校生なのに?」
「宮本さんは、そろそろ結婚とか考えないんですか?」
「考えることはあるよ。周りはみんな結婚していってるし。考えるだけだがな」
「今の二十代の女性は、一昔前より結婚に積極的なんだそうです。ちょうど私の親世代が、女性が初めて社会進出した層なんですけど、その頃仕事ばかりやっていた女性たちが結局結婚できなかった現実を知って、自分はそうなりたくないと思うらしくて」
「常磐さんもそうなるんじゃないか、と思ってるの?」
「それとはちょっと違うんですけど……私、親が離婚してるのを見てきたので、結婚するとしたら失敗したくないっていう気持ちがあるんですよ」
親の離婚。
夫婦円満……とまではいかなくとも、離婚とは縁遠い家庭に生まれた俺には、なかなか想像できないところだ。
「私のお父さんは財務官僚で、金融系の仕事友達のつてで出会ったそうです。お互い仕事ができて、理想のカップルだと思って結婚して、最初はそれなりにいい結婚生活を送ってました。でも私が三歳のときに離婚が決まりました。どうしてだと思いますか?」
「……仕事と育児を両立できなかったから?」
「そのとおりです。二人とも仕事が忙しくて、年収は同じくらいだったのですけど、当時はまだ家事は女の仕事だという認識が強くて、お父さんは私の世話をほとんどしなかったそうです。そのうちに仕事だけできるお父さんと、仕事と育児を両立しなければならないお母さんの仲が悪くなって、その時にお母さんは思ったんだそうです。お父さんが育児を全くしないなら、お父さんと一緒に生活するメリットは何もないって」
論理的すぎる理瀬の母親の判断は、どこか理瀬と似ているような気がした。
「私は自分を育ててくれたお母さんが今でも大好きですし、お母さんの判断を恨むつもりはないですけど、それでもシングルマザーという環境が親にとって相当辛いことだというのはよくわかっているつもりです。だから、もし結婚するとしたら、一生続けられるパートナーがいいんですよ」
女子高生だというのに、理瀬は将来のことを俺なんかよりずっと深く、重く考えている。
それは理瀬が生まれ持った、天性の才能なのかと思っていたが。
理瀬の育ってきた環境も、大きく影響しているのかもしれない。
「でも……婚活って、調べてみたけどよくわからなくて……理想のパートナーに巡り会えればいいですけど、そもそも付き合う相手を見つける前提で男の人に会いにいく理由がよくわからなくて」
なんとなくだが、理瀬がふて寝していた理由が見えてきた。
恋愛と結婚は、計画通り実行されていく理瀬のライフプランの中で、唯一実現のめどが立たない目標なのだ。
「結婚しない、という選択肢もなくはないぞ」
「それはダメです。子供ができない社会はいずれ滅びます。社会の一員として、できる限りの努力はすべきです」
「そこは真面目なんだな……」
「投資とか経済学の勉強をしたらわかることです。生産力を生み出すのは人間だから、人口が増えない国は衰退します。私はその一因になりたくないんです」
「それで、ふつーに結婚できそうなエレンちゃんのことが羨ましいんだな」
理瀬はまたぷいと顔をそむけ、ふて寝の体勢になる。
「……結婚する一番の近道は、学生時代に相性のいい人を捕まえておくことだそうです。エレンが嫌いな訳ではないですけど、感覚的にそれができるのは羨ましいなあって」
「俺もそう思うよ。だいたい、若い時の恋愛なんか苦労ばっかりだし、結婚までゴールできるかわからないもんだぞ。若い時は大人みたいに割り切りが効かないからな」
「……さすが経験者ですね。宮本さんの若い頃の彼女とはうまくいかなかったんですか?」
「うまくいかなかったというか、まあ、そうなんだけど、流石にそんなストレートに言われるとおじさんでも傷つくぞ――」
俺の元彼女の話をして理瀬の機嫌が直るなら、まあそれでもいいか。
なんて考え始めた時、唐突に俺の携帯が鳴った。
机の上にあった携帯の画面を、反射的に二人が覗き込む。
『薬王寺 照子』
なんてタイミングなんだ。
まさか、元彼女の話をしているときに、当の本人からLINE通話が来るなんて。
何も言えなくなってしまった俺を、理瀬は怪訝そうに見続けていた。
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