優しい鎮魂

天汐香弓

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神隠しの山3

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山に入るとやはり黒い霊が車に貼り付き嫌な感じも強くなってきた。
小さな声で詠唱しながら目を凝らしているとひときわ大きな黒い影が視えた。
「停めてください」
車が停まり軽トラから降りると、あれだけたくさんいた黒い影はひときわ大きな影に近づけるよう道を開けていた。
「田沼さん、危ないからここで……」
「いや、私も行こう。うちの集落に関わることだから」
真剣な田沼さんの様子に俺は首を縦に振るしかなかった。
大きな影に近づくと、影が背を向け歩き出す。


『生きたかったー、なしてー』
子どもたちの声ではなく、低い唸るような声に聞こえた。
やがて小さな壊れた石碑の前につくといくつもの黒い手が現れ
『なしてー、おみゃー生きてーー、ワシもーー』といくつものしゃがれた声が聞こえて来た。
「そうか、みんな本当は生きたかったんだね」
俺が印を結び石碑の前に膝をつく。
『こっちこいー、こっちさー』
「どうして俺に来て欲しいの?」
『ひもじい……ひもじい……オマエ、食う……』
「ずっとお腹、空いてたんだね……」
『ひもじい……でも、道祖神様に縛られて、動けなかった』
石碑に縛り付けられて泣いている子どもたちが何人も現れる。子どもたちはみんな泣いていた。
「俺が集落の人に話して、ご飯を持ってくるよう話してあげるから。だからもう、他の人を呼ぶのはやめてくれるかな?」
『まんま食える?』
「うん、後で持ってくるよ」
そう言うと石碑から伸びていた黒い手が消えて、大きな黒い影が俺を見ていた。
「寂しかったね」
『ウ、ウウ……』
黒い影が呻くと地面から人の骨らしいものが現れた。
「こ、これは……」
後ろで驚いている田沼さんを俺はゆっくり振り返った。
「毎日ここにおにぎりとお水を供えてください。できるだけ多く。この岩に縛られた子どもたちが悪い霊になったままです。繰り返しみんなで供養してください」
「は……はい……、け、警察……!」
田沼さんが電話をし、しばらくして警察がやってきた。
田沼さんがほとんど話してくれて、骨は回収されて行った。それが終わる頃、女の人たちがおにぎりを持って来てくれたから石碑の前に供えてみんなで手を合わせた。
明日警察で話をと言われたので、集落の寺に秋月さんと烈と泊まらせて貰うことになった。
住職さんに見たものと供養をお願いすると、快く引き受けてくれた。
「そうですか、あの石に縛られた子たちが……」
「悪い霊ですが、ただお腹が空いているだけなんです。それで、多分子どもを食べていたんだと思います」
「姥捨伝説というものもありますが、ふたりめ、三人目の子どもを間引く風習もまたあったのでしょうね……」
住職がそう言うとあぐらをかいていた秋月さんが大きく伸びをした。
「どんな時も犠牲になるのは弱い立場の人間だ。年寄り、子ども、女……」
「そうですね。もう誰も犠牲にならない世の中になればいいですね」
住職がそう言ってふっと目を細めた。
俺も俺の出来ることをしたいな、とそんなことを思っていた。
警察で話をして、車に戻る。供養のことを見送りに来てくれた人に再度お願いして、俺達は出発した。

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