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本家3
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秋月さんの力を借りて全ての手続きを終え、その間に養子縁組の手続きも済んで、本家へと入った。
「新、改めて紹介しよう。妻と娘の茜だ」
「新です。よろしくお願いします」
頭を下げると一郎さんが頷いた。
奥様は料理が上手で優しくて、はじめて訪ねた時からよくしてくれていた。
茜さんは俺より年上の人で、神子として働きながら裏方をしてくれているのだという。
「うちには他にも神官が何人かいて同じ母屋で暮らしている。よろしく頼むよ」
「俺の方こそわからないことだらけですがよろしくお願いします」
「秋月さんもお忙しいのにありがとうございます」
「いえ、仕事ですから」
隣に座る秋月さんの方がすっかり馴染んでいるようだった。
秋月さんも近所の法律事務所に席を置きつつ、この神社の法務担当としての仕事がメインになるのだという。
秋月さんが一緒に住むことになって、少しだが心強かった。
「新には明日から予備校に通ってもらう」
「はい」
机に置かれたテキストを受け取って頷くと、一郎さんが立ち上がった。
「そろそろお祓いの人が来る時間だ。新、ついておいで」
一郎さんの後を慌ててついていくと、神殿に入った。
神殿にはすでに若い男女が座って待っていた。
「おまたせいたしました」
女の人の肩には赤ちゃんのような、でも似ても似つかないようなものが3ついた。
「新、視えるかい?」
「はい……赤ちゃんみたいな、そんなのが3つ女の人の肩に……」
「なにか心当たりはありますか?」
一郎さんが問いかけると女の人が首を横に振った。
「一郎さん、その人関係ないよ。だって、その子たち男の人を睨んでるもん」
女の人の肩にはいるけど赤ちゃんらしいものは男の人の方をジッと見ていて、女の人から何かを伝えて欲しいと言っているように思えた。
「なるほど、新、ありがとう。さて、お話しを聞きましょうか」
男女に向き合った一郎さんがふたりに声をかけた。
「実は私たち不妊ではないのに赤ちゃんが出来なくて……それで主人のお母さんが占いをしてもらったら、夫婦でお祓いに行くようにって……」
女の人がポツリポツリと話す。
「なるほど、それでご主人は心当たりはありますかな?」
「なんで俺?」
ご主人が素っ頓狂な声をあげると赤ちゃんたちの周囲から黒い靄が出始めた。
「女の人の肩にいる赤ちゃんがおじさんのこと怒ってるよ」
そう教えると男の人が狼狽えた。
「お、俺は……」
声を荒げてそして直ぐに男の人が肩を落とした。
「高校の時と大学の時、付き合ってた奴の堕ろさせたんだよ、三人……」
「供養は?」
一郎さんの問いに男の人は首を横に振った。
「いいですか、今日の除霊では奥様に憑いた水子の霊を引き離すことをします。その後ご主人様が供養しなければ意味がありません」
「はい……」
俯いた男の人が膝の上で拳を握った。
「それでははじめます」
立ち上がった一郎さんが麻を振る。
「オン・アボギャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン」
一郎さんの声が響き赤ちゃんが女の人から離れていく。
『あったかかったよ……』
喋れないはずの赤ちゃんからそう声が聞こえた気がして目を瞠った。
三十分ほどおじさんは真言を唱えるとゆっくりと麻を振るのをやめた。
「あの……」
言わなきゃ、そう思って女の人に声をかけた。
「赤ちゃんたち、おばさんのことあったかかったって言ってました。多分生まれ変わったらおばさんの子になりたいんだと思います。だから、ちゃんと供養して早く天国に送ってあげてください」
そう言うと女の人はキョトンとした後で俺を見て頷いた。
「ありがとう。あの、水子供養ってどうすればいいんでしょう?」
「お水とお菓子を供えて毎日二人で祈ってあげてください」
一郎さんが穏やかな声でそう言うと女の人が頷いた。
「今回の場合、ご主人が必ず率先して供養してあげてください」
「分かりました。あの、母にはなんと言えば……」
「憑き物は落ちたので供養をすれば近いうちに、とお伝えしてあげてください」
こんな風に言い訳も考えなきゃいけないのかと思うと大変な仕事なんだと思った。
頭を下げて帰っていく二人を見送って、息を吐いた。
「やはり新の力はすごいね」
一郎さんがそう言って肩を叩いた。
「いえ、俺は何も」
「声が聞こえるなんて私にはない力だよ」
「そんな……」
褒められることは慣れてなくて戸惑いながらへらりと笑うと頭を撫でられた。
「今日はありがとう。また是非手伝ってくれ」
ありがとうなどと言われたのはバイト以来で、親にも言われたことのない言葉に目の裏が熱くなる。
「新?」
「前の家で、褒められたこと、なかったから……」
泣きそうになるのをこらえて笑うとポンポンと頭を撫でられた。
「ここは出来た時は褒めるし、間違えたら怒るよ。だから遠慮せずに甘えなさい」
「はい……」
ここに来て良かった。そう思いながら母屋に戻ると、部屋に案内された。
「ここも霊道だ。時折彷徨う霊がやってくる。どうするかは新に任せるよ」
「はい」
話をすることしか出来ないけど、それが誰かの役に立つのなら、大事にしたいと思えた。
「あの赤ちゃんたち、あの女の人の子どもになれたらいいな……」
その後、屋敷を案内してもらい夕食をみんなと食べると部屋に戻った。
「新、改めて紹介しよう。妻と娘の茜だ」
「新です。よろしくお願いします」
頭を下げると一郎さんが頷いた。
奥様は料理が上手で優しくて、はじめて訪ねた時からよくしてくれていた。
茜さんは俺より年上の人で、神子として働きながら裏方をしてくれているのだという。
「うちには他にも神官が何人かいて同じ母屋で暮らしている。よろしく頼むよ」
「俺の方こそわからないことだらけですがよろしくお願いします」
「秋月さんもお忙しいのにありがとうございます」
「いえ、仕事ですから」
隣に座る秋月さんの方がすっかり馴染んでいるようだった。
秋月さんも近所の法律事務所に席を置きつつ、この神社の法務担当としての仕事がメインになるのだという。
秋月さんが一緒に住むことになって、少しだが心強かった。
「新には明日から予備校に通ってもらう」
「はい」
机に置かれたテキストを受け取って頷くと、一郎さんが立ち上がった。
「そろそろお祓いの人が来る時間だ。新、ついておいで」
一郎さんの後を慌ててついていくと、神殿に入った。
神殿にはすでに若い男女が座って待っていた。
「おまたせいたしました」
女の人の肩には赤ちゃんのような、でも似ても似つかないようなものが3ついた。
「新、視えるかい?」
「はい……赤ちゃんみたいな、そんなのが3つ女の人の肩に……」
「なにか心当たりはありますか?」
一郎さんが問いかけると女の人が首を横に振った。
「一郎さん、その人関係ないよ。だって、その子たち男の人を睨んでるもん」
女の人の肩にはいるけど赤ちゃんらしいものは男の人の方をジッと見ていて、女の人から何かを伝えて欲しいと言っているように思えた。
「なるほど、新、ありがとう。さて、お話しを聞きましょうか」
男女に向き合った一郎さんがふたりに声をかけた。
「実は私たち不妊ではないのに赤ちゃんが出来なくて……それで主人のお母さんが占いをしてもらったら、夫婦でお祓いに行くようにって……」
女の人がポツリポツリと話す。
「なるほど、それでご主人は心当たりはありますかな?」
「なんで俺?」
ご主人が素っ頓狂な声をあげると赤ちゃんたちの周囲から黒い靄が出始めた。
「女の人の肩にいる赤ちゃんがおじさんのこと怒ってるよ」
そう教えると男の人が狼狽えた。
「お、俺は……」
声を荒げてそして直ぐに男の人が肩を落とした。
「高校の時と大学の時、付き合ってた奴の堕ろさせたんだよ、三人……」
「供養は?」
一郎さんの問いに男の人は首を横に振った。
「いいですか、今日の除霊では奥様に憑いた水子の霊を引き離すことをします。その後ご主人様が供養しなければ意味がありません」
「はい……」
俯いた男の人が膝の上で拳を握った。
「それでははじめます」
立ち上がった一郎さんが麻を振る。
「オン・アボギャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン」
一郎さんの声が響き赤ちゃんが女の人から離れていく。
『あったかかったよ……』
喋れないはずの赤ちゃんからそう声が聞こえた気がして目を瞠った。
三十分ほどおじさんは真言を唱えるとゆっくりと麻を振るのをやめた。
「あの……」
言わなきゃ、そう思って女の人に声をかけた。
「赤ちゃんたち、おばさんのことあったかかったって言ってました。多分生まれ変わったらおばさんの子になりたいんだと思います。だから、ちゃんと供養して早く天国に送ってあげてください」
そう言うと女の人はキョトンとした後で俺を見て頷いた。
「ありがとう。あの、水子供養ってどうすればいいんでしょう?」
「お水とお菓子を供えて毎日二人で祈ってあげてください」
一郎さんが穏やかな声でそう言うと女の人が頷いた。
「今回の場合、ご主人が必ず率先して供養してあげてください」
「分かりました。あの、母にはなんと言えば……」
「憑き物は落ちたので供養をすれば近いうちに、とお伝えしてあげてください」
こんな風に言い訳も考えなきゃいけないのかと思うと大変な仕事なんだと思った。
頭を下げて帰っていく二人を見送って、息を吐いた。
「やはり新の力はすごいね」
一郎さんがそう言って肩を叩いた。
「いえ、俺は何も」
「声が聞こえるなんて私にはない力だよ」
「そんな……」
褒められることは慣れてなくて戸惑いながらへらりと笑うと頭を撫でられた。
「今日はありがとう。また是非手伝ってくれ」
ありがとうなどと言われたのはバイト以来で、親にも言われたことのない言葉に目の裏が熱くなる。
「新?」
「前の家で、褒められたこと、なかったから……」
泣きそうになるのをこらえて笑うとポンポンと頭を撫でられた。
「ここは出来た時は褒めるし、間違えたら怒るよ。だから遠慮せずに甘えなさい」
「はい……」
ここに来て良かった。そう思いながら母屋に戻ると、部屋に案内された。
「ここも霊道だ。時折彷徨う霊がやってくる。どうするかは新に任せるよ」
「はい」
話をすることしか出来ないけど、それが誰かの役に立つのなら、大事にしたいと思えた。
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その後、屋敷を案内してもらい夕食をみんなと食べると部屋に戻った。
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