できる男は恋人を溺愛したい

天汐香弓

文字の大きさ
上 下
4 / 4

招待

しおりを挟む
運行に遅れがないことを確認し麻生がゲートへ向かう。
しばらく待っていると飛行機から降りてきた人たちがゲートから出てきた。
「浅葱!」
ゲートから出てきた優の姿に駈け寄ると、優が笑顔を見せた。
「お帰り、浅葱」
「ありがとう、いつもごめん」
いつも迎えに来てくれる麻生の優しさが嬉しくもあり、重荷になっていないか不安になる。
「気にするな。一緒に帰りたいだけなんだし」
ポンと背中を叩かれ電車乗り場へと向かう。
「それに明日は俺の家の我が儘に付き合ってもらうからな」
明日は麻生の父の誕生会に招かれていることもあり、緊張する場に優を連れ出すことを申し訳なく思っていた。
「荷物があるんだな。それじゃ、家でデリバリー頼むか」
「うん、そうしてくれると嬉しい」
今回泊りがけでの仕事だったこともあり、荷物のある優を気遣って電車に乗り込むと優が出張の様子を話しはじめた。
「結構山奥でさ。昼とか食堂で食べさせてもらったけど、お米が美味しくて」
「水がいいと米が美味く感じるって言うもんな」
ニコニコと話をする優が可愛くてつい目尻が下がってしまう。
夜には工場に地元料理の店に連れていってもらい、色々食べたのだと言う。
その日は早めに休むと、麻生は翌朝朝食に誘うついでにテーラーに向かった。
「出来てる?」
店のオーナーに尋ねると店主が箱をふたつ手に出てきた。
「こちらが浅葱様のものでございます」
アパートに帰れない間のスーツを見繕った時のサイズがあったこともあり、今日のために急遽モーニングを用意したのだった。
「こんな、いいの……?」
箱の中を見た優が戸惑ったように麻生を見上げる。
「ああ、これを着たお前をエスコートしたい」
真面目な顔でそう言うと優が照れたように俯いた。
「俺も着替えてくるからさ」
「うん」
それぞれ試着室に入り着替えると、モジモジしながら優が出てきた。
「似合ってるな」
「麻生の方がカッコいいよ。でも、ありがとう」
「これぐらい、どうってことないって。それよりほら」
腕を差し出すと優がおそるおそるしがみ付く。
「お洋服の方はマンションのコンシェルジュにお渡ししておきますので」
オーナーの言葉に頷いて店を出るとタクシーに乗り込む。
「そう言えばその紙袋なんなんだ?」
「うん。お義父様のプレゼントにって思って」
紙袋を掲げてみせた優がはにかむ。
「そんなわざわざ」
「気持ちだけだから」
優しい心遣いにますます愛しく思えてしまう。
高級住宅地の一角でタクシーが停まり、大きな門の前に立った。
「おっきい……」
「いつも通りでいいからな」
腕を差し出し門をくぐると天気がいいからか、庭でパーティーの準備が始まっていた。
「圭、来たか」
「久しぶり、親父」
麻生に気付いた麻生の父の九条常人が立ち上がる。
「そちらが浅葱君だね。圭からいつも話は聞いているよ」
「はじめまして。今日はお招きいただきありがとうございます。これ、お義父様が日本酒がお好きだと経済紙でお話ししていたので……」
優が紙袋を差し出すと、九条が目を細め受け取った。
「開けてもいいかい?」
「はい」
包みを開けた九条が「ほう」と声をあげた。
「これは熊本の」
「はい。ちょうど昨日まで阿蘇に出張に行っていまして。そこで飲んだこの日本酒が美味しかったので。スパークリング系ですが、大丈夫ですか?」
「スパークリング系も好きだよ。花火は飲みたいと思っていた銘柄なんだ。嬉しいよ」
目を細める九条に優がホッと胸をなでおろす。
「いい方を見つけたようですね、圭さん」
「お母様、お久しぶりです。はい。とても気の利くいい人です」
九条の横にいる女性に麻生が頭を下げ、優も急いで頭を下げた。
「はじめまして、浅葱です」
「そんなに緊張しないで。今日は身内だけのガーデンパーティーだから。圭さん、都さんにもご挨拶していらっしゃい」
「ありがとうございます。浅葱、あっちに母さんがいるから紹介するよ」
料理を並べている女性の方に向かうと、麻生が優をグイと前に押し出した。
「母さん、浅葱連れてきたよ」
「まあ、本当に綺麗な人。浅葱さん、ごめんなさいね、いつも圭が迷惑かけて」
「いえ、いつも俺の方がお世話になっています」
こちらが麻生の母親なのだろう。麻生に目元の似ている女性に優がにっこりとほほ笑む。
「圭、俺たちにも紹介しろよ」
「聡兄さん、茂兄さん」
両横に麻生より年長の男性がやってきて優を覗き込んだ。
「あ、浅葱です……いつもお世話になっています」
「あー、ほんと美人だな。山海の件、安心しろよ。俺らも手伝うから」
「え?え?」
「あそこの息子、年上だからって上からモノ言うから嫌いだったんだよ。だから、安心して」
どうやら山海が契約が次々に切られてと泣きついてきたのは、九条グループを敵に回したからだろうと理解が出来た。
麻生の異母兄弟たちとその夫人にも挨拶をし、和やかにパーティーが始まった。
「みんないい人だね」
「まあな」
「麻生がいい人なのは、この家のおかげなんだね」
納得してしまった事実に優があらためて麻生と出会えてよかったなと思っていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...