できる男は恋人を溺愛したい

天汐香弓

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招待

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運行に遅れがないことを確認し麻生がゲートへ向かう。
しばらく待っていると飛行機から降りてきた人たちがゲートから出てきた。
「浅葱!」
ゲートから出てきた優の姿に駈け寄ると、優が笑顔を見せた。
「お帰り、浅葱」
「ありがとう、いつもごめん」
いつも迎えに来てくれる麻生の優しさが嬉しくもあり、重荷になっていないか不安になる。
「気にするな。一緒に帰りたいだけなんだし」
ポンと背中を叩かれ電車乗り場へと向かう。
「それに明日は俺の家の我が儘に付き合ってもらうからな」
明日は麻生の父の誕生会に招かれていることもあり、緊張する場に優を連れ出すことを申し訳なく思っていた。
「荷物があるんだな。それじゃ、家でデリバリー頼むか」
「うん、そうしてくれると嬉しい」
今回泊りがけでの仕事だったこともあり、荷物のある優を気遣って電車に乗り込むと優が出張の様子を話しはじめた。
「結構山奥でさ。昼とか食堂で食べさせてもらったけど、お米が美味しくて」
「水がいいと米が美味く感じるって言うもんな」
ニコニコと話をする優が可愛くてつい目尻が下がってしまう。
夜には工場に地元料理の店に連れていってもらい、色々食べたのだと言う。
その日は早めに休むと、麻生は翌朝朝食に誘うついでにテーラーに向かった。
「出来てる?」
店のオーナーに尋ねると店主が箱をふたつ手に出てきた。
「こちらが浅葱様のものでございます」
アパートに帰れない間のスーツを見繕った時のサイズがあったこともあり、今日のために急遽モーニングを用意したのだった。
「こんな、いいの……?」
箱の中を見た優が戸惑ったように麻生を見上げる。
「ああ、これを着たお前をエスコートしたい」
真面目な顔でそう言うと優が照れたように俯いた。
「俺も着替えてくるからさ」
「うん」
それぞれ試着室に入り着替えると、モジモジしながら優が出てきた。
「似合ってるな」
「麻生の方がカッコいいよ。でも、ありがとう」
「これぐらい、どうってことないって。それよりほら」
腕を差し出すと優がおそるおそるしがみ付く。
「お洋服の方はマンションのコンシェルジュにお渡ししておきますので」
オーナーの言葉に頷いて店を出るとタクシーに乗り込む。
「そう言えばその紙袋なんなんだ?」
「うん。お義父様のプレゼントにって思って」
紙袋を掲げてみせた優がはにかむ。
「そんなわざわざ」
「気持ちだけだから」
優しい心遣いにますます愛しく思えてしまう。
高級住宅地の一角でタクシーが停まり、大きな門の前に立った。
「おっきい……」
「いつも通りでいいからな」
腕を差し出し門をくぐると天気がいいからか、庭でパーティーの準備が始まっていた。
「圭、来たか」
「久しぶり、親父」
麻生に気付いた麻生の父の九条常人が立ち上がる。
「そちらが浅葱君だね。圭からいつも話は聞いているよ」
「はじめまして。今日はお招きいただきありがとうございます。これ、お義父様が日本酒がお好きだと経済紙でお話ししていたので……」
優が紙袋を差し出すと、九条が目を細め受け取った。
「開けてもいいかい?」
「はい」
包みを開けた九条が「ほう」と声をあげた。
「これは熊本の」
「はい。ちょうど昨日まで阿蘇に出張に行っていまして。そこで飲んだこの日本酒が美味しかったので。スパークリング系ですが、大丈夫ですか?」
「スパークリング系も好きだよ。花火は飲みたいと思っていた銘柄なんだ。嬉しいよ」
目を細める九条に優がホッと胸をなでおろす。
「いい方を見つけたようですね、圭さん」
「お母様、お久しぶりです。はい。とても気の利くいい人です」
九条の横にいる女性に麻生が頭を下げ、優も急いで頭を下げた。
「はじめまして、浅葱です」
「そんなに緊張しないで。今日は身内だけのガーデンパーティーだから。圭さん、都さんにもご挨拶していらっしゃい」
「ありがとうございます。浅葱、あっちに母さんがいるから紹介するよ」
料理を並べている女性の方に向かうと、麻生が優をグイと前に押し出した。
「母さん、浅葱連れてきたよ」
「まあ、本当に綺麗な人。浅葱さん、ごめんなさいね、いつも圭が迷惑かけて」
「いえ、いつも俺の方がお世話になっています」
こちらが麻生の母親なのだろう。麻生に目元の似ている女性に優がにっこりとほほ笑む。
「圭、俺たちにも紹介しろよ」
「聡兄さん、茂兄さん」
両横に麻生より年長の男性がやってきて優を覗き込んだ。
「あ、浅葱です……いつもお世話になっています」
「あー、ほんと美人だな。山海の件、安心しろよ。俺らも手伝うから」
「え?え?」
「あそこの息子、年上だからって上からモノ言うから嫌いだったんだよ。だから、安心して」
どうやら山海が契約が次々に切られてと泣きついてきたのは、九条グループを敵に回したからだろうと理解が出来た。
麻生の異母兄弟たちとその夫人にも挨拶をし、和やかにパーティーが始まった。
「みんないい人だね」
「まあな」
「麻生がいい人なのは、この家のおかげなんだね」
納得してしまった事実に優があらためて麻生と出会えてよかったなと思っていた。
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