オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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『二章:ダンジョン・ウォーク』 冒険へのプレリュード

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 ~翌日レアールのギルドマスター室~

「皆少しは疲れがとれたかな? 朝早くに集まってもらってすまなく思う」

 レームは昨日の夜にセシリアからコミュで、明日急遽で悪いが打ち合わせがしたいと連絡を受けており、呼び出されたアルテミアのメンバーの他に、リスティアナのパーティー【クラウディア】の面々とタクトの職員のロンドが参加していた。
 互いに挨拶を交わした後職員がコーヒーを運んで来ては心地良い香りが部屋に広がった。

「早速で悪いがアルテミアには明日の朝リスティアナに向かってもらいたい。それについては」

 セシリアが途中で会話を切りギーズリーを見る。

「ここからは俺から説明させてもらいます。アルテミアの皆さん方をガレア領主のリスティ伯爵様が首を長くして待っているもんで、ギルドからいつ来るのかってコミュが五月蝿いんですよ。まさかレーム殿が『鼠』の攻略で来て頂ける筈の日に『兎』まで攻略するとは誰も思いませんからねぇ」

 疲れた顔をしたギーズリーの言葉にクラウディアの他のメンバー三人も頷き、ジト目で見られたレームは頭を掻いた。

「そこで今回の攻略報酬に関しては領主様が直々に表彰した後にお渡ししたいとの事で昨日ギルドから連絡が来たんですよ。出来れば女神の祝福アストライア・ギフトが終わってからにしたかったんですが、俺達の任務はロンドさんの護衛と手配犯の護送も請け負ってますんで早めの出発となって申し訳ないっす」

 レームは申し訳なさそうに頭を下げるギーズリーとロンドに「いえいえ大丈夫ですよ」と慌てて返した。

「皆さんと明日の朝リスティアナへ竜車で出発してお昼過ぎくらいに到着ですかね。その後ギルドでお別れとなりますがそこからリスティアナのギルマスが領主邸まで案内する手筈になってますんで」

 当日の予定を話し合った後ロンドが引き継ぐと、ロンドは深々とレーム達に向かい頭を下げたのだった。

「皆様この度は本当に有難う御座いました。これで天にいるタクトの同胞達も報われる事と思います。我が国はラムド王国とは違い東のジャポーネとの国交は拓かれておりませんから逃げ込まれるわけにはいきませんでしたので、皆様と【黒鋼】の方々のお陰でなんとか同胞の無念を晴らす事が出来ました。感謝の念に堪えません」

 話しながら何度も頭を下げるロンドに恐縮してしまう一行、どうやらロンドと護衛のクラウディア一行はリスティアナからそのまま真っすぐラムド王都のルファールを経由してタクトへ戻るとの事だった。
 休憩を挟み談笑を交えながら今後の予定を話した後、一旦クラウディアとロンドが退席した。

「さて、少し待っていてくれ」

 セシリアがコミュを操作すると扉が開きトライデントの三人とヤナが入って来た。
 どこか緊張した面持ちで壁際に並ぶトライデントとヤナにセシリアの口角が上がる。

「さて、君達三人とルナは何か私にいう事はないかい?」

 凍えるような微笑を浮かべたセシリアにルナは慌てて立ち上がりミネアの隣に直立不動で並び、その隣でヤナが気まずそうに乾いた笑い声を上げる。
 だらだらと汗を流す若者達と鋭い眼光を光らせるセシリアに、四人は示し合わせた如く綺麗に揃って腰を曲げて礼をした。

「「「「すみませんでした!!!!」」」」

 ルナの頬を緊張の汗がたらりと落ち、チラッと見上げて見えたセシリアの眉はピクリとも動いておらず(ひっ)と心臓がぎゅっとなる。

「ギルドが決めた外出禁止令を無視した挙句、指名手配犯の一人と戦闘し重症者を出しこちら側の負担を勝手に増やす。黒鋼やラズリーに助けられてなんとか作戦も遂行でき幸い死者もでなかったわけだが、重い罰則を下さざる得ない訳だ」

 ルナはどこか頭の中で謝罪すればセシリアは許してくれるんではないかと思っていたが、徐々に不安と後悔で胸が満たされていく。
 そんな緊迫した空気の中ラズリーがパタパタとルナの方へ飛んでいき後頭部にボフッと乗り「うげっ」と口から変な声が漏れた。
 その声にローゼリアがクスリと笑い場の空気が緩和され、セシリアも溜息をつきながら首を横に振った。

「まあいいだろう。しかしギルドの命令違反を謝罪のみで許すわけにもいくまい。本来であれば探索者資格の取り消し案件だからな。が、ここにいるレームやヤナ、【黒鋼】のリガルドやリリアナからの歎願もあって一つだけ恩赦の条件を提示しよう。貴様らはギルドからの報酬を蹴ってまで頭を下げた先輩方に感謝するんだな」

 セシリアの一言にばっと顔を上げた若者達は涙目でレームとヤナを交互に見た。

「リガルドとリリアナにもちゃんと礼を言うんだよ?」

 レームが微笑みながら四人に諭し四人は何度も頷く。
 今回の貢献度でレームは兎も角【黒鋼】は銀級昇格試験を受ける資格を得た筈だったが、全員が貢献度を破棄して新人たちの助命を願いでた形となる。

「そ、それで条件というのは何をすればいいでござるか?」

 恐る恐るセシリアにトシゾウが尋ねると、セシリアは然も楽しそうに微笑んだ。
 レームはセシリアその笑みが大体無茶をする時に浮かべる笑みだというのを重々知っている為身震いする。

「まあそんなに難しい事は言わないさ。三か月後に王都のギルド本部で開催される白級の新人ルーキーズ杯で三位に入賞してもらおうか? 我がレアールギルドの力を見せつけて来てもらおうではないか」

 ミネア以外の三人は首を傾けるがミネアだけは口をあんぐりと開けてセシリアの顔をまじまじと凝視し、レームとヤナは「あちゃぁ」と片手で額を抑えた。

「セシリア、それってもしかして」

「察しがいいなレーム。ヤナはルナのレーマーとして、レームはトライデントのレーマーとしてしっかりとサポートするように。分かっているな?」

 セシリアから発せられる圧にレームは黙って茶を飲み、ヤナは死ぬほど嫌そうな表情を浮かべた。
 ルナは目を瞑り茶を飲むレームを見た後小声でローゼリアに「ローゼちゃん。新人ルーキーズ杯ってなぁに?」と囁いた。

「あぁ、そうですね。どこから言えばいいのか。白級探索者にとっては年に一度王都ルファールで開催される一大イベントですよ。元々はラムド王国内の白級探索者による腕試しの場としてギルドが開催していた催しでしたが、今では他国からの白級探索者も参加して大勢の観光客が集まる事から王都でも一押しの大イベントとなっていますね」

 ルナの顔が徐々に期待に満ちてゆき、溢れんばかりに目を輝かせる。

「楽しそうデシね~」

 ルナの頭からぴょこんと顔を出したラズリーもルナから伝染したのかワクワクした様子だ。

「あんたちょっと! 何をワクワクしてんのよ! 黒級目前のすっごいベテラン勢も沢山出場するやばいイベントなんだからね!? 何が新人ルーキーズだってのよ!」

 ミネアが「この子は全く!」と文句を言うがそれを諫めるようにセシリアが口を挟んだ。

「だがまあこの条件を飲めないのであればギルドカードを返却願おうか」

 カップを傾け喉を潤すセシリアの目は一切笑っていなかった。
 そんな空気を壊すようにリガルが笑う。

「へっ。首の皮一枚繋がったんだ、喜ぼうぜお前ら。ギルマス! 三位なんて言わねぇ! 必ず俺等が優勝してみせます!」

 そんなリガルの言葉に死んだ魚のような目を向けるミネアとトシゾウ、反対に「やるぞー!」と拳を上に突き上げるルナ。

かくして新人探索者達の挑戦が始まるのであった。
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