オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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『二章:ダンジョン・ウォーク』 冒険へのプレリュード

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 ギルド内にある個室で区分けされた応接間の一室。
 ローゼリアがお茶を人数分用意した後ソファーに座る。

「あの、どうもすみませんでした」

「ローゼちゃん本当にごめんなさい」

 恐縮して身体を小さくする二人を対面にしてローゼリアも恥ずかしそうに「こほん」と咳払いした。

「その...私も昨夜はとんだ醜態を晒してしまい申し訳ありませんでした」

 し~んとした室内でテーブルの真ん中で可愛らしくお菓子を食べるラズリーだけが良く分からずに首を傾げた。

「こ、この話はこの辺にして打ち合わせを始めましょう」

 眼鏡の位置を直したローゼリアが座り直して姿勢を正した。
 パタパタと羽を羽ばたかせたラズリーはそんなローゼリアの膝に収まり欠伸をして腕を伸ばすと、そんな全てが可愛らしい仕草にローゼリアの頬が緩んだ。

「先ずは初めにレームさんとルナさんに決めて貰いたいのは何と言ってもパーティー名ですね。本当は一番初めに決めるんですけどこの際仕方ありません」

 ローゼリアが困ったように眉を下げ、レームは重ねて申し訳なく思いながら話し出した。

「そうですよね。一応考えていた名前はあるんですがルナは何かいい案あるかい?」

 前々から考えていた名前を言う前に、ルナが夜通し考えてきたから期待しておいてと事前に言っていたので話を振ってみる。

「ふっふっふー! よくぞ聞いてくれた!」

 ルナが溢れんばかりの自信と共にテーブルに紙広げ、そこに書かれた幾つもの名前の中で丸印で囲んだ物をレームの前に差し出した。

「どれどれ…迷宮バスターズ、レームと愉快な仲間達…あぁ…いい名前だね」

 喝采を浴びると信じていた為レームの落ち着いたリアクションに「あれぇ?」と内心思いながらローゼリアを見た。

「うーんどれも自信があったんだけどローゼちゃんはどう思う?」

「そうねぇ少し前衛的過ぎないかしら? 時代を置き去りにしているような?」

 ローゼリアの真剣な顔をした論評にルナは「あっちゃー」と片手で額を抑えた。

「やっぱりかぁ、私も良すぎるから発表を少し迷ったんだよね! ローゼちゃんは見る目がありますなぁ」

 ふふふっと笑い合う女性陣にレームは頭を掻いているとレームに視線が集中した。

「それでレームは? レームも何か考えてたんでしょ?」

 ルナの言葉になんだか気恥ずかしく思いながらも案を口にした。

「そんなに見られると恥ずかしいね。ルナの名前は迷宮の女神ルーナフェリアの名前が由来でしょ、それに倣ってアルテミアなんてどうかな?」

 少し伏目がちのレームは女性陣の反応が少し怖かったが。

「ほわぁ! いい名前だね!」

「なるほど、ルーナフェリア様の妹神アルテミス様を由来にされたのですね。私もとても良いと思います」

 受け入れられた事に内心嬉しく思ったレームの口元が緩む。

「あー! レーム嬉しそう!」

照れるレームにクスッっと笑いローゼリアが続ける。

「それではパーティー名は【アルテミア】で登録しておきますね」

「すみませんがお願いします。それじゃ俺達三人とラズリーを加えたメンバーが今日からアルテミアだ。みんな宜しく頼む」

 テーブルに手を付き頭を下げたレームに「にししし」と笑うルナと照れたように笑うローゼリア、ラズリーも理解したようで嬉しそうに羽を羽ばたかせた。

「それでは今後の方針の前に皆さんの基本情報をお知らせ願えますか? なるべく細かく把握してサポート面に生かしたいので」

 ローゼリアの言葉を聞いたレームとルナは視線を合わせて互いに頷く、ローゼリアは何か不味い事でも言ってしまったのか不安が過ったが、レームが真剣な表情をで座り直した。

「ローゼリアさん。その前にお話ししておきたい事があります。それはルナの出自や俺自信に関わる事なのですが出来ればこれから話す話は他言しないで頂けると有難いです」

 その内容にローゼリアもラズリーをルナに預け姿勢を正した。

「私も皆さんと同じパーティーメンバーです。秘密を漏らすなどという事はあり得ません」

 レームはローゼリアに頷いた後、【牙鼠の森】の地下一階からの出来事を包み隠さず全てをローゼリアに話したのだった。

---------  

 話が終わり茶を喉に通し一息つく、途中からレームにもたれ掛かる形でルナはラズリーと一緒にすやすやと眠り、話を聞いたローゼリアは心底驚いたようだった。

「マスターからルナさんはレームさんの親族の方だと説明を受けておりましたが、そのような事が、これは絶対に秘密にしなければいけませんね」

「そうしてくれると助かります」

 「うーん」と言いながらルナとラズリーが目を覚ました。

「あっ寝ちゃってた! ごめんなさぃ」

 あたふたとするルナに「大丈夫だよ、今説明が終わったから」と笑いかけ、ローゼリアが「それじゃあ休憩にしましょう」とお茶を入れ直してくれる。

 暫し雑談の後打ち合わせに戻った三人。

「簡単な自己紹介みたいな感じでいいかな? レームです。故郷はライゼルと同じでこの国の端にあるタバサ村の生まれです。自身のスキルはま、まだ未発見です。後は詳しくないんですが東方の剣術を昔師匠から学んで以降ずっと使用してます」

 ローゼリアが紙面に書き込んでいきルナが「ほぅほぅ」と大袈裟に頷く。
 そこにラズリーがきょとんとしたようにレームに話しかけた。

「レームしゃん、レームしゃんはスキルを持っているデシ」

 突然のラズリーの発言に場は静まり、特にレームは時が止まったように固まったが【鑑定】の事かと気付き言い直す。

「あぁ、そうだねお陰様で【鑑定】を授かったからもう俺のスキルは【鑑定】と言えるんだったね」

「違うデシ、それじゃないデシ、ちゃんとレームしゃん特有のスキルがあるデシ!」

「……い、今なんて?」

「僕もセーレの記憶の範囲デシか分からないけど、本来ユウナや僕の巣穴は迷宮側の存在にしか見えない筈なのデシ。ルナを介さないと存在を認識できない筈の僕の事をレームしゃんは初めから認識していたデシ」

 レームが長年求めて来た答えが今目の前にあり、唾を飲み込みラズリーの瞳を見つめた。
 ただその愛らしい表情が曇る。

「デシが、僕もそのスキルの名前を知らないのデシ」

 落胆するラズリーの表情にレームは慌ててラズリーを腕に抱き頭を撫でる。

「ははは、気にしなくてもいいさ。有り難うラズリー、こんな俺にもちゃんとスキルが備わっていたのが解っただけでも十分感謝してる。そうか、俺にもちゃんとスキルがあったんだなぁ」

 レームは嬉しそうに眼を細めてラズリーに感謝を述べた。
 他に人がいなかったら感動で泣いていたかもしれないが、二人の視線がある為ぐっとこらえた。

「良かったねレーム! レームのスキルは迷宮の謎を暴く超レアのスキルかもだね!」

 ルナの言葉に「そうだといいね」と返した後、続けてルナのスキルの説明に移る。

「それでなんだけどレーム、私の事を鑑定してみて」

「いいのか?」と一応確認して了承を得たためレームはルナの顔を見ながら意識を集中する。

~~~
ルナ
種族:???
?????
スキル:想像者フェイカー

一 スキル【衝撃インパクト】 :触れた物に追加で衝撃を与える。衝撃の大小は変えられる。

二 スキル【風の加護(小)】 :風の精霊の加護(小)

三 (固定)スキル【格闘王】 :譲渡されたスキル。拳闘のマスタースキル。
※ 固定スキルは変更、削除不可
~~~

 相変わらず不明の項目は存在するものの前に一度見た頃から情報が更新されていた。
 レームは見えた情報をローゼリアから受け取ったメモ紙に書き出すと皆で覗き込む。

「おおっ!? なんか知らないスキルがある! あっ…これ多分だけどユウナのスキルかも」

 ルナの脳裏には消えゆく友の「とっておきのプレゼント」という言葉と笑顔が浮かんだのだった。
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