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『二章:ダンジョン・ウォーク』 冒険へのプレリュード
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「かんぱーーーーーい!」
「「「ぱーーーーーーーーい!」」」
【迷宮の止まり木亭】に木製ジョッキのぶつかり合う音と歓声が店中に響く。
ギルドの喉自慢が歌い手を担い演奏が開け放たれた店の外まで奏でられた。
レーム達が迷宮の外に出た時、辺りは夕焼けに包まれており快晴が広がる迷宮内とのギャップに驚きながらも皆は紅く染まるレアールへと戻って行った。
皆其々風呂や簡単な手当を終え酒場に集まったのは街は闇に包まれる頃だったが、噂が広がったのか住民の気質のせいか街の所々から歌や乾杯の音頭がきこえてくるのがまた面白い街だなとレームは思う。
(少し前の俺だったら考えられなかっただろうね)
あちらこちらから聞こえてくる笑い声とたまに混じる喧噪。
レームのテーブルにはセシリアとローゼリアの二人の美女が並ぶ。
ドン!
テーブルにジョッキを叩きつけたのは頬を桃色に染めたローゼリアだった。
「レーーームさん! 私は悲しいですよ! ええっ!? なんでなーんにも教えてくれなかったんですか!」
「まぁまぁ落ちつけ」と背中を撫でるセシリアと乾いた笑みを浮かべるレームも頭を掻くばかりだ。
宴会が始まった頃は知的な美人の様相たるローゼリアも談笑を楽しみ大人の飲み方をしていたのだが、迷宮主攻略の話がちらほらと聞こえ始めた頃から徐々にラプア酒の瓶が空く速度が速くなっていった。
「私はレームさんとルナさんの専属ですよね!? パーティー担当の意味分かってませんよね!?」
その一言からローゼリアの感情が爆発した。
溜息をつき慰めるセシリアとひたすら平謝るレーム。
「はぁ。これはお前が悪いとも言えるがしっかりと説明をしていなかった私も悪かったな。ローゼリアすまなかった」
「えーっとすみませんローゼリアさん。俺も担当とか初めてだったのでよく分かってなくてですね」
段々と冷静さを取り戻すが顔を紅くしたままのローゼリアが説明を始める。
「ひっく。す、すみません取り乱しました。先ず大前提ですがギルドの専属担当というのはそのパーティーの一員としてサポートを担当するのが主な職務となります。当然通常のギルドの職務もしますが担当パーティーの事を優先されるのが大半ですね。パーティー名とか! 今後の方針とかっ! 色々と打ち合わせをしたかったのにレームさんもルナさんもコミュくれないし!」
ヒートアップしていてグラスをぐいっと開けるローゼリアの目は座っておりそのまま前にのめり込んで眠ってしまった。よく見ると最後に彼女が一気飲みしたのは間違って取ってしまったセシリアの飲んでいるきつい火酒。
「レーム、すまないがローゼを家まで送って行く。また明日な」
ローゼリアの肩を取って店を出て行くセシリア、ちなみに会計は全員分ギルドの払いだ。
一人テーブルに残され(ローゼリアさんには悪い事をしたな)と反省しながらセシリアと同じ火酒の入ったグラスを傾ける。
ちなみにレームもセシリア同様に酒には強く、多少飲み過ぎたくらいでは変わらない。
このまま静かに攻略の喜びに浸っていてもよかったのだが、主役の一人であるレームのテーブルには次々と来客が来た。
「レームはん飲んでっか!」
「レーム殿お邪魔しちゃってすいませんね!」
リガルドと肩を組んで現れたのは【クラウディア】のリーダーであるギーズリーだ。
「レームはんも飲んで飲んで! おーい姉ちゃんこっちに串焼きもってきてや!」
真っ赤な顔で口元がゆるみっぱなしのリガルドが牙を見せて「がははは」と笑う。
テーブルにはビーブルの串焼きや牙鼠の唐揚げ、迷宮産薬草サラダなどが次々と運ばれてはリガルドによって消えて行く。
「ワイはレームはんは昔からやる漢だと思っとったんですわ! これからもよろしゅうな!」
リガルドの言っている事が迷宮内から変わっているがご愛敬だろう。
「レアールのギルドの超新星レームはんに!」
「いよっ!」
その後テーブルの上を綺麗に空にしていった男二人はテラス席で始まった腕相撲大会に参加する為に入口から出て行った。
突然始まったトライデントやルナも立たされている一発芸大会に笑っていると一人の女性が「ここいいですか?」と聞いて来た。
そこにはソフトドリンクのカップを持った受付のミナがおり「どうぞ」と促す。
「この度は有難う御座いました」
着席するなり頭を下げ感謝を述べるミナに対して慌てて姿勢を正す。
「翼の皆は私が受付の仕事をするようになって初めて対応した探索者なんです。年も近くて特にユウナとマギーは休日に一緒に遊んだり良く食事をしに行ったりする友達でした。それで迷宮の中でユウナが皆さんと一緒にいたと聞いて、良ければ彼女の話をして頂けませんか?」
ミナの言葉にレームは店内を見渡し離れた場所にいたルナを呼ぶ。
呼ばれて駆けつけてくれたルナとついて来たトライデントの三人の頬はほんのり紅く、よく見るとラズリーはミネアの胸に抱かれて眠っていた。
周りから適当に椅子を持ちより囲うように座る一同にレームがミナの願いを伝えると、ルナが満面の笑顔で了承し話し始める。
「うっ、えぐっ」 話の途中で涙を拭く事も忘れルナの話に耳を傾けるミナと、その後ろにはいつしかヤナとリリアナも座り聞いていた。
「私は助けられてからと一緒に戦った時くらいしか話せないんですけど最後にユウナからこれを受け取りました」
ルナは自身の魔法鞄からユウナの日誌を取り出すと、故人の物だがミナや実姉のヤナには問題ないと判断して手渡した。
ルナも見たが中にはミナとの出会いや翼の活動、レーラーとしてのヤナへの不満や姉としてのヤナへの思いが綴られており、ページを捲るにつれてヤナの目にも涙が溢れる。
「ルナさん。話してくれて有難う」
ルナに日誌を返すと、両手を握り真っすぐに瞳を見る涙目のミナの顔は未だ悲しみは残るものの吹っ切れたような微笑みにルナには見えた。
「しんみりするんじゃないにゃ! 探索者の掟その三! 仲間の見送りに涙は厳禁! 皆で笑って見送るんにゃ!」
ごしごしと袖で涙を拭いたヤナが皆に並々と飲料が注がれたグラスを持たせと天高く掲げる。
「仲間の旅立を祈って、女神ルーナフェリアの加護を!」
酒場中の全員が同じく復唱しグラスを掲げ翼の冥界への旅路に祈りを捧げた。
その日の宴会は夜が更けるまで続き、思い出話が尽きる事はなかった。
---------
翌朝
昨夜夜遅くまで酒を浴びる程飲んで騒ぎ倒した面々だったが、セシリアを始めとしたギルドの職員とレームとルナ、【黒鋼】の一行は早朝早く街外れの墓地の前で喪服を身に着けて集まっていた。
セシリアに肩を抱かれて涙を流す年配の女性は受付で見た女性だとルナは思った。
後ほどレームに聞くと翼のリーダーだったライルの唯一の肉親の祖母との事だ。
教会から来た神父テレジと同じく聖職衣に身を包む若いエルフの青年が墓地の前に立つと、テレジが祈りの祝詞を述べる。
墓地の下には回収できた僅かな遺体を火葬した骨と、ラズリーの迷宮内にあった私物を埋めてある。
「女神の導きのままに天の国への旅路に幸あらん事を。ライル、ユウナ、マギーの魂に安らかなる眠りを与え給う」
儀式が一通り終了し老齢の女性が【黒鋼】一人一人とハグを交わし、セシリアに肩を抱かれ退場した。
「お婆ちゃん可哀想」
ルナの呟きが聞えたレームは
「残される誰か、泣いてくれる誰かがいるっていう事はそれだけその誰かを大事にしなければいけないという事だね」
レームは去り行く後ろ姿の老婆とセシリアの背中に身を引き締まる思いがしたのであった。
「「「ぱーーーーーーーーい!」」」
【迷宮の止まり木亭】に木製ジョッキのぶつかり合う音と歓声が店中に響く。
ギルドの喉自慢が歌い手を担い演奏が開け放たれた店の外まで奏でられた。
レーム達が迷宮の外に出た時、辺りは夕焼けに包まれており快晴が広がる迷宮内とのギャップに驚きながらも皆は紅く染まるレアールへと戻って行った。
皆其々風呂や簡単な手当を終え酒場に集まったのは街は闇に包まれる頃だったが、噂が広がったのか住民の気質のせいか街の所々から歌や乾杯の音頭がきこえてくるのがまた面白い街だなとレームは思う。
(少し前の俺だったら考えられなかっただろうね)
あちらこちらから聞こえてくる笑い声とたまに混じる喧噪。
レームのテーブルにはセシリアとローゼリアの二人の美女が並ぶ。
ドン!
テーブルにジョッキを叩きつけたのは頬を桃色に染めたローゼリアだった。
「レーーームさん! 私は悲しいですよ! ええっ!? なんでなーんにも教えてくれなかったんですか!」
「まぁまぁ落ちつけ」と背中を撫でるセシリアと乾いた笑みを浮かべるレームも頭を掻くばかりだ。
宴会が始まった頃は知的な美人の様相たるローゼリアも談笑を楽しみ大人の飲み方をしていたのだが、迷宮主攻略の話がちらほらと聞こえ始めた頃から徐々にラプア酒の瓶が空く速度が速くなっていった。
「私はレームさんとルナさんの専属ですよね!? パーティー担当の意味分かってませんよね!?」
その一言からローゼリアの感情が爆発した。
溜息をつき慰めるセシリアとひたすら平謝るレーム。
「はぁ。これはお前が悪いとも言えるがしっかりと説明をしていなかった私も悪かったな。ローゼリアすまなかった」
「えーっとすみませんローゼリアさん。俺も担当とか初めてだったのでよく分かってなくてですね」
段々と冷静さを取り戻すが顔を紅くしたままのローゼリアが説明を始める。
「ひっく。す、すみません取り乱しました。先ず大前提ですがギルドの専属担当というのはそのパーティーの一員としてサポートを担当するのが主な職務となります。当然通常のギルドの職務もしますが担当パーティーの事を優先されるのが大半ですね。パーティー名とか! 今後の方針とかっ! 色々と打ち合わせをしたかったのにレームさんもルナさんもコミュくれないし!」
ヒートアップしていてグラスをぐいっと開けるローゼリアの目は座っておりそのまま前にのめり込んで眠ってしまった。よく見ると最後に彼女が一気飲みしたのは間違って取ってしまったセシリアの飲んでいるきつい火酒。
「レーム、すまないがローゼを家まで送って行く。また明日な」
ローゼリアの肩を取って店を出て行くセシリア、ちなみに会計は全員分ギルドの払いだ。
一人テーブルに残され(ローゼリアさんには悪い事をしたな)と反省しながらセシリアと同じ火酒の入ったグラスを傾ける。
ちなみにレームもセシリア同様に酒には強く、多少飲み過ぎたくらいでは変わらない。
このまま静かに攻略の喜びに浸っていてもよかったのだが、主役の一人であるレームのテーブルには次々と来客が来た。
「レームはん飲んでっか!」
「レーム殿お邪魔しちゃってすいませんね!」
リガルドと肩を組んで現れたのは【クラウディア】のリーダーであるギーズリーだ。
「レームはんも飲んで飲んで! おーい姉ちゃんこっちに串焼きもってきてや!」
真っ赤な顔で口元がゆるみっぱなしのリガルドが牙を見せて「がははは」と笑う。
テーブルにはビーブルの串焼きや牙鼠の唐揚げ、迷宮産薬草サラダなどが次々と運ばれてはリガルドによって消えて行く。
「ワイはレームはんは昔からやる漢だと思っとったんですわ! これからもよろしゅうな!」
リガルドの言っている事が迷宮内から変わっているがご愛敬だろう。
「レアールのギルドの超新星レームはんに!」
「いよっ!」
その後テーブルの上を綺麗に空にしていった男二人はテラス席で始まった腕相撲大会に参加する為に入口から出て行った。
突然始まったトライデントやルナも立たされている一発芸大会に笑っていると一人の女性が「ここいいですか?」と聞いて来た。
そこにはソフトドリンクのカップを持った受付のミナがおり「どうぞ」と促す。
「この度は有難う御座いました」
着席するなり頭を下げ感謝を述べるミナに対して慌てて姿勢を正す。
「翼の皆は私が受付の仕事をするようになって初めて対応した探索者なんです。年も近くて特にユウナとマギーは休日に一緒に遊んだり良く食事をしに行ったりする友達でした。それで迷宮の中でユウナが皆さんと一緒にいたと聞いて、良ければ彼女の話をして頂けませんか?」
ミナの言葉にレームは店内を見渡し離れた場所にいたルナを呼ぶ。
呼ばれて駆けつけてくれたルナとついて来たトライデントの三人の頬はほんのり紅く、よく見るとラズリーはミネアの胸に抱かれて眠っていた。
周りから適当に椅子を持ちより囲うように座る一同にレームがミナの願いを伝えると、ルナが満面の笑顔で了承し話し始める。
「うっ、えぐっ」 話の途中で涙を拭く事も忘れルナの話に耳を傾けるミナと、その後ろにはいつしかヤナとリリアナも座り聞いていた。
「私は助けられてからと一緒に戦った時くらいしか話せないんですけど最後にユウナからこれを受け取りました」
ルナは自身の魔法鞄からユウナの日誌を取り出すと、故人の物だがミナや実姉のヤナには問題ないと判断して手渡した。
ルナも見たが中にはミナとの出会いや翼の活動、レーラーとしてのヤナへの不満や姉としてのヤナへの思いが綴られており、ページを捲るにつれてヤナの目にも涙が溢れる。
「ルナさん。話してくれて有難う」
ルナに日誌を返すと、両手を握り真っすぐに瞳を見る涙目のミナの顔は未だ悲しみは残るものの吹っ切れたような微笑みにルナには見えた。
「しんみりするんじゃないにゃ! 探索者の掟その三! 仲間の見送りに涙は厳禁! 皆で笑って見送るんにゃ!」
ごしごしと袖で涙を拭いたヤナが皆に並々と飲料が注がれたグラスを持たせと天高く掲げる。
「仲間の旅立を祈って、女神ルーナフェリアの加護を!」
酒場中の全員が同じく復唱しグラスを掲げ翼の冥界への旅路に祈りを捧げた。
その日の宴会は夜が更けるまで続き、思い出話が尽きる事はなかった。
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翌朝
昨夜夜遅くまで酒を浴びる程飲んで騒ぎ倒した面々だったが、セシリアを始めとしたギルドの職員とレームとルナ、【黒鋼】の一行は早朝早く街外れの墓地の前で喪服を身に着けて集まっていた。
セシリアに肩を抱かれて涙を流す年配の女性は受付で見た女性だとルナは思った。
後ほどレームに聞くと翼のリーダーだったライルの唯一の肉親の祖母との事だ。
教会から来た神父テレジと同じく聖職衣に身を包む若いエルフの青年が墓地の前に立つと、テレジが祈りの祝詞を述べる。
墓地の下には回収できた僅かな遺体を火葬した骨と、ラズリーの迷宮内にあった私物を埋めてある。
「女神の導きのままに天の国への旅路に幸あらん事を。ライル、ユウナ、マギーの魂に安らかなる眠りを与え給う」
儀式が一通り終了し老齢の女性が【黒鋼】一人一人とハグを交わし、セシリアに肩を抱かれ退場した。
「お婆ちゃん可哀想」
ルナの呟きが聞えたレームは
「残される誰か、泣いてくれる誰かがいるっていう事はそれだけその誰かを大事にしなければいけないという事だね」
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