オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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招かれざる者達

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「あぁ糞だりぃな」

 四人の男達が根城にしている洞穴の中で半裸の四肢を冷たい地面に投げ出す。
 地図を広げた男が図面に指をなぞらせた。

「【鼠】は初回攻略のせいで探索者が多いからやりずれぇ。【兎】は良かったよなぁ。特にあの獣人ビスティア、最高だったぜ! なんで殺っちまったんだよ勿体ねぇ」

 酔った勢いで酒瓶を投げると洞穴の壁にぶつかり散乱する。

「ちっ、でもよぉ? 実際どーなん。ジリ貧じゃね? 実際やばくね?」

「んだようるせぇな。なにがだよ?」

「もう酒も尽きるし女もあれ以来抱いてねぇっしょ。ちっ、まじもう兎の肉も飽きたっしょ! ボぉス! もう限界っしょ!?」

 最奥で横になっていた大男が面倒くさそうに話す。

「グラット。ぎゃあぎゃあ喚くな、先ずは青兎だ。あれを手土産に死霊に入るんだからよ」

「ちっ、ブブの見間違えじゃないんすか! まじいないっしょ」

「なんだとグラットてめぇ。俺の見間違えだと? ふざけた事言ってんじゃねぇぞこらぁ」

 顔を突き合わせる二人にせまい洞穴内はヒートアップする。

「うるせぇって言ってんだろ! ボケカス。 外でやりやがれ!」

 結局ボスであるジーニアスの怒声で二人は収まった。
 彼ら四人の首には鎖のようなタトゥーがまるで首輪のように描かれている。
 それは『生死問わず』のギルドからの指名手配をかけられた者達につけられる首輪だ。
 小国ラムドの同盟国でもある隣接するタクト王国から流れてきた四人は、元は迷宮攻略を生業にしてきた黒級探索者パーティーであった。

「ちっ、おいブブ! もう一回探しに行くっしょ! 途中で新人とーしろのモグラを見かけたら犯っちまおうぜ?」

「へへへ、いいな。よしっ行くか!」

 因みにモグラとは迷宮に潜ってばかりいる探索者のスラングである。
 そんな彼らが何故遠い隣国からこの地にいるかと言えば、殺人、村焼き、強姦、強盗なんでもありの犯罪者集団だからであり、彼らはタクトの軍に追われてここまで逃げて来たのだ。
 地図を見ていたダイラバが考えながら過去を振り返る。
 探索者時代から戦略や方向性を決めるのはいつもダウトの創設時からいる彼の役目だった。
 短期で熱くなりすいボスとメンバー達は特に女と金にはだらしがない。
 探索者時代に迷宮主の討伐順で揉めて相手をジーニアスがやっちまって指名手配がかかった。それからの一月以上の逃亡生活で、通りかかった村を襲い食料を奪い村人を殺しながら東のラムドに密入国をした。
 ラムドは法整備が甘くダイラバにとってはちょろい国だ。
 王都のルファールを避けて南のドガス領からさらに半月をかけてガレア領に入る。

「ダイラバ、どうかしたか?」

「いやぁ、少しここに留まり過ぎではないかと、ボス、流石にラムドにいる事はバレてると思いますしこないだのパーティー殺しで近場の街の探索者がうろついてたじゃないっすか? そろそろ強いやつらが来たら厄介っすよ」

「兎の所為に偽装したんだ。それにまさか俺らが迷宮に潜んでいるとは思わないだろう?まあでも手土産はこの金でも取り敢えずは間に合うとしてもお前が言うなら明日にでも移動するか」

 ボスであるジーニアスがダイラバの意見は素直に聞いてくれるのが彼にとっての救いだろう。彼の言う金とはおおよそひと月半の間に襲った村々の財産である。

「まあそんなに心配すんな。今までも何とかなって来たんだ。これからも大丈夫さ。がははは」

--------

 【白兎キラーラビットの巣穴】は停車場が設けられており、レアールから領主の住むリスティアナまでの道のりの途中に存在する。
 レームは馬車から降りて何処までも続く青い空を眺めた。

(長閑だねぇ)

 二時間の馬車の行程は腰にくる。
「いたたたた」 と腰を摩りながら少しだけストレッチをした。
 立ち入り制限がされている迷宮のぽっかり空いた次元の空洞の前には、そのまま立ち入り禁止のテープといつものテーブルが置いてある。
 レームはこの一週程【黒鋼】の名前しかない名簿に記帳し、迷宮内に歩みを進めた。

 突如眼前に現れる広大な草原と降り注ぐ日の光。
 爽やかな風が吹き抜け新緑の香りが鼻をくすぐり、眩しさにレームは目を細めた。

「十年ぶりかぁ。この景色も全く変わらないね」

だだっぴろい草原の向こう側には遠目に丘が見える。
階級分けされている迷宮にも明確な表記はないが、探索者の主観である程度の区分があり、その中で【牙鼠の森】は初級、【白兎キラーラビットの巣穴】は中級と上級の間くらいというなんとも曖昧な評価を受けている。

「さっそくお出ましか」

 レームはようやく訪れた月詠の出番に少しだけ高揚していた。

「ぴきゅ、ぴきゅ」

 見た目とは裏腹に可愛らしい鳴き声の体調一メートル程の兎がファイティングポーズをとってレームの顔をじっと見ている。

「相変わらず顔が怖いねぇ」

 月詠を鞘から抜いて斜に構えると。ふうぅぅと肺の中の空気を空にした。
 一瞬の後に跳び上がった白兎は空中で身体を捻り、回し蹴りを繰り出した。
 白兎の脚は太く硬い。ヒュンという鋭い風切り音を鳴らしながら直前で避けたレームの髪の先が舞った。
 大抵の始めて来た白の探索者はこの一撃を顎に受けて意識を手放す。
 厄介なのは空中で態勢を変えて繰り出される二段階目の蹴りだ。
 レームは冷静に追撃の一撃を月詠で受けた後一瞬力を弱めて雄兎の態勢が崩れた。

「せい!」

 地面に着地した寸前の雄兎は振り下ろされた月詠に寄って首を切断され絶命した。

「ぴぃ! ぴぃ!」

 雄兎が死ぬと同時に草原の何処かで雌の鳴き声が響き、ガサガサと何処かへ逃げて行く。
 雄が治癒の間もなく絶命した場合は雌兎は一目散に逃げる習性があるのだ。
 
「月詠、すごい切れ味だ。ん?」

 汗を拭い月詠についた血を拭き取ると腰のポーチの小窓が点滅する。
 祝福の祭で購入したルナとおそろいのポーチにはコミュ専横の小窓がついており、メッセージがくると振動し点滅する。

〖レーム! ヤナさんが弟子にならないかって!? あっそれとパーティー名はなんていうのかって?〗ルナtoレーム

〖レーマー制度だね。新人を助ける制度だしヤナは黒級も長い冒険者だ。勉強にもなるんじゃないかな〗レームtoルナ

 辺りを警戒しながらルナからのメッセージに返信する。
 思えばドロリスを倒してから丁度今日で七日目である。
 女神の祝福の間はルナと回りながらもレームの身体の回復時期に当て、その後直ぐにパーティー活動を始めたかったが報酬を貰ってからの領主からの誘いと調査の手伝いもあり、結局パーティー活動は領主邸から戻ってからという事でルナと話し合っていた。
 パーティー名に関してはローゼリアからもパーティー口座を作る為に必要だと言われているが決めかねていた為頭を振り絞る。

(こういう名前を決めるのって苦手なんだよね)

〖今迷宮の中だからこんどパーティー名は一緒に決めよう〗レームtoルナ

 コミュをポーチにしまい遠くに見える丘をログワーズで購入した双眼鏡で眺める。
 丘には無数の大きな洞穴がびっしりあり、数匹の白兎達が行き交うのが見えた。
 迷宮【白兎キラーラビットの巣穴】の名前の由来にもなっている無数にある洞穴の中も調査の対象であるが、流石にソロでは厳しい為今回は周辺の調査のみに徹するつもりだ。

 丘に向かう際中も少しあちこちを遠回りしながら痕跡を追う。
 何度か兎達との戦闘をはさんだが今のところは問題なく対処できた。
 この迷宮内では牙鼠と違い白兎は普通に群れで出現する為、流石にエリクサーで若返ったレームでも団体に襲われると命が危うい。

 身を隠すような物もない迷宮内で丘の麓まで辿り着いた。
 二体の兎が両の拳をぶつけ合いながら近づいて来る。

「ぴきゅ!」

 二体の雄が同時にクロスして殴り掛かるのを、月詠で受けた後薙ぎ払う。
 レームは間合いを詰める兎の一体の頭部にドロリスダガーを投げつけると眉間に刺さった雄は動きを止めた。
 もう一体に切りかかるとナイフの刺さった雄の身体が金色に輝く。

「厄介だなっ! 雌は巣穴の中か!」

 白兎のメスは癒しの魔法を使うと場所が特定できる。
 だが、傷の癒えた雄は身体を痙攣させて動きが鈍い。

「ドロリスの麻痺か! こりゃすごいね」

 レームは雄の一体に止めを刺すと、麻痺している雄の首を跳ねる。
 今回は洞穴に残された雌兎も討伐を終え、全ての死体は素材となるため魔法鞄に収納した。

「ん? これは?」

 たまたま入った巣穴で見つけたのはこの場にはある筈のない物。

「きな臭いねぇ」

 レームはその物があった周辺の調査をより丁寧に探る事とにした。
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