オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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招かれざる者達

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 レームは部屋で一人、ログワーズ商会で購入した物を並べていた。
 新しい探索用のアイテムや道具を眺めるのは気持ちが良い。
 当然手に入れた月詠はもう何度も鞘から抜いて眺めたり拭いたりしていた。
 側に置いていたコミュが点滅し振動する。

〖今日は何を買ったの? 今度見せてね!〗ルナtoレーム

〖色々買ったよ。ルナの分もあるから明日渡す〗レームtoルナ

〖今日の教習やばかったよ~もう全身筋肉痛だよ〗ルナtoレーム

〖お疲れ様。明日も頑張れ〗レームtoルナ

 ルナからのメッセージを終え、鞄を手に取った。
 レームは高価だが念願の魔法鞄マジックバックを購入していたのだ。

~~~
魔法鞄 
 容量:小
 リンドブルム帝国錬金術師協会制作
 時間停止、リスト表記機能
 使用権限機能 レーム・ルナ
~~~

 幾つかパンプキンに見せてもらった魔法鞄の中で、使用権限機能があり、最大手の帝国産を選んだ。
 同じ値段で機能が付いていたり付いていなかったりと当たり外れはあるようで鑑定さまさまである。

 ちなみに容量小で二階建ての家丸ごと一棟程の荷物が入るが、お値段は八十万ダリーと非常に高価である。
 レーム一人なら絶対に買わない超の付く高級品であるが、そこはセシリアのメモの絶対買いなさいリストに入っていた為に購入した。

 鼻歌混じりに部屋中の家具やら探索道具やらを入れては出してを繰り返す時点で浮かれているのは間違えないだろう。
 始めて使用し、色々と実験してみて驚いたのはその性能だ。
 先ず個体と液体を別々に入れても混ざる事がない。
 そして取り出そうとしてみると、なんとリストが目の前に浮かび上がり、欲しい物を念じて手を入れるとその品を取り出せる。

(た、楽しい)

 感動しているレームの目の前には取り敢えず整理しながら入れたリストが表記されている。

・ 探索者セット ×2
・ 採集キッド ×2
・ クッキングスペシャル 
・ 上級傷薬 ×3
・ 中級傷薬 ×10
・ 下級傷薬 ×40
・ 高級救急セット ×2

 レームが今日一日でログワーズに支払った金額は、ルナのショートボーガンやハンガーにかけられた領主邸に来ていく為の服、コミュ二台と合わせてなんと百六十万ダリーを超す。
 一応考えはあって購入したものの、パンプキン氏に乗せられたのは否めない。
 そもそもクエストのピリカ草一株百ダリーをせっせと集めて日々食いしのいでいたのだ、突然の大金に少しではないが財布が緩むのは仕方がないとも言えなくもないと自身では思っている。

気が付くとすでに深夜も更けており早々に寝る事にした。

翌朝

 普段早起きのレームは早朝の走り込みと軽いトレーニングを終えシャワーを浴びる。
 今までは右足の傷のせいでもう何年も走り込みなんてしていなかったが、エリクサーを飲んでからはまた再開している。

〖おっはよー! 今日も地獄の走り込みに行ってくるぜぃ!〗ルナtoレーム

〖おはよう。ちゃんとリストの品は買ったんだろうな? 調査の件は頼む〗セシリアtoレーム

〖あっ! そうそう! 今日の夜は三人でお食事会だからね!〗ルナtoレーム

 まだ慣れないコミュに時間をかけ返信をすると、朝食に『森の隠れ家』で分けてもらったビーブルのパストラミを薄くスライスした物をパンに乗せて食べると出掛ける準備を整えた。

「取り敢えず鍛冶屋に行くか」

 レームはギルドやログワーズ商会とは少し離れた路地裏に来た。
 建物の陰のせいか路地は薄暗く肌寒い、歩いて行くと酔っ払いが数人地面で寝ていた。
 木造で古びた扉の前に立つと、中から子気味の良いトンカチのリズムが響く。

「どうも、おやっさんいるか?」

 トンカチの音が止むと背が低く髭の長い老人が奥から出て来た。

「なんじゃこのくそ忙しい時間に、この店は碌なもんがねぇぞ? 帰れ帰れ」

「相変わらずだね。久しぶり」

「あん!? おらはてめぇなんて小僧知らねぇ...ぞ?」

 老人はふさふさの眉毛に隠れた目を大きく見開いた。

「こりゃ驚いた。レームか? おめぇさん生きていたのかよ」
 
 レームは頭を掻きながら乾いた笑いを浮かべる。

「よく分かったね? ははは、なんとか生きてたよ」

「今更顔なんて出しやがって! こんのくそ坊主!」

 鍛冶屋のダズが思いきり肩をばぁんと叩いた。

「積もる話もあるが、今日はどうしたんじゃ?」

「ギルドからドロリスの素材で何か頼まれてないか? なんか記念品をくれるらしいんだけど」

「あぁ、もう出来てる...ぞ.......なんだとっ! 迷宮主を退治したのはお前なのか!?」

 はははっと再度乾いた笑みを浮かべ為すがままに肩を叩かれまくったのだった。

「これじゃ。一度握ってみろ」

 それはドロリスの大牙を加工した大き目のダガーだった。
銀の刃にうっすらと赤が滲むそのナイフは迷宮主の素材にふさわしい物々しさを放つ。

「ちょいとグリップが合ってないの。待っとれ」

 少しトンカチの音が響くと、微調整されたナイフを受け取った。

~~~
ドロリスダガー
 ドロリスの大牙から作られたダガー。
 刃に触れた対象は一時的に麻痺を起こす
~~~

 レームは惚れ惚れするような妖しく光る刃に息を吐いた。

「ありがとう。あっおやっさん後革の胸当てあるかい?」

「あぁこりゃひでぇな。それはもう駄目じゃぞ。ちと待っとれ」

 レームが今装備している革の胸当てはところどころ穴が開いており、最早防具としての機能は薄い。

「これ来てみろ。大蛇ジャイアントスネークの革で出来た軽鎧じゃ。討伐報酬はたんまり出たんじゃろ? 買ってけ」

「これはまた凄いな。ちなみに幾ら?」

「まけにまけて四十万でどうじゃ?」

「高っかいなぁ」

「馬鹿たれ! こんなもんお前さんじゃなきゃもっと取っとるわい!」

「分かった分かった。買うよ。後は盾と、女性用の鎧ある?」

「あん!? 女だとぅ」

「あーいやいや。最近探索者になったばかりの子がいるんだよ。装備を持ってないからね。このくらいの身長なんだけど」

「時間がある時でも連れて来い。体型やら職業やらで装備は変わるからのぅ。お前さんの眼じゃ当てにならんわい」

 その後片手盾を購入し丁寧に礼を言って店を出た。
 馬車の停留所で街と街を繋ぐ定期便に乗り込む。
 鍛冶屋に寄ったとはいえまだまだ午前は始まったばかりだ。
レームは目的地の【白兎キラーラビットの巣穴】まで二時間の道のりを目を閉じて考えにふけるのだった。

 この日レームはセシリアより内密に迷宮の真相調査を依頼されていた。
 【白兎キラーラビットの巣穴】は白級の中では難易度の高い迷宮である。
 近接格闘のカンガルーのような見た目の雄の白兎と、治癒能力を持つ本来の兎の姿の雌兎の二種類セットで襲ってくる。

 雄は中々に強い上に致命傷を与えると直ぐに雌が傷を治癒してくるという厄介な敵の為、先に雄の妨害を振り払い雌を倒した上で、前衛職が単体で雄を倒せるかが勝負の鍵となる。

 今回全滅した若きパーティーは雌兎のモコモコの毛の採集と、巣穴に生える兎茸の採取を受けて迷宮に潜ったところを襲われて全滅したらしい。
 遭難した若きパーティーはいずれも巣穴に引きづり込まれていた為捜索は難航したが、全員を見つけた【黒鋼】によれば全身に酷い切り傷があったとの事だ。
 通常種ではあり得ない傷だし、昔の文献から迷宮主は過去に討伐された履歴もある上に、復活も確認されていない。
 稀に生まれる進化種の灰色兎が風の魔法でウィンドカッターを使ってくる為今回の犯人は灰兎ではないかとされていた。

(なにかが噛み合わないんだよなぁ。全滅したパーティーは若手といえ全員が10代後半から二十代で構成される若手の中じゃ新鋭とされるパーティーだった。隣街の迷宮攻略の実績もあるパーティーが灰兎に遅れをとるだろうか? 後気になるのは彼らの荷物の大半が見つかっていない...迷宮の一部になったか?)

 セシリアは【黒鋼】にはない鑑定やレームの長年の勘に期待を寄せ別途で調査を依頼していた。

(なんか匂うな。こりゃ気を引き締めた方が良さそうだ)

 レームを乗せた馬車はゆっくりと目的地まで進んでいった。
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