オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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ルナの探索者日誌① ルナと雛鳥達のカルテット

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 昨夜、ルナはセシリアから自身の部屋に案内され、シャワーを済ませた後直ぐに寝てしまった。

 翌朝朝食の席についたルナにセシリアは微笑んだ。

「おはよう、昨日はよく眠れたようだね」

「お...おはよ...身体が......痛い」

 ルナは全身をリビングまで歩くのすら辛い筋肉痛に襲われた。

「ははは。これを飲むと良い。少しは痛みも引くだろう」

 セシリアから受け取ったのは鎮痛薬だ。
 ルナはグイっと一息に飲み干すと苦みが口いっぱいに広がる。
「うげぇ」と舌を出すが効果はてき面で、直ぐに筋肉痛の痛みが治まる。
 
「何本か持っていくといい。これは成分がララキノコで出来ているから飲み過ぎても身体には害はないが、連続で飲むと効果が薄れるから注意が必要だ」

「わぁ。有難う!」

 和気あいあいと食卓に着席したルナの顔は引き攣る。

「わあぁ...おっいしそう~」

「口に合うといいんだがね。これでも早起きして作ったんだ。久しぶりに料理をしたが中々に上手くできたと自負している」
 
 ルナはベーコンの形をした黒い物体と、食パンの形をした黒い物体、固く焦げた黄色い黄身と周りのカピカピになった焦げた何か。

「さぁ食べようか」

 その後一悶着あったがセシリアの為に割愛する。


 冷蔵の魔道具にあった惣菜を食べ、支度が整いコーヒーを飲みながら昨夜は寝てしまい出来なかった訓練の話をした。

「ってわけだったんだよ。今日も頑張るね!」

「努力はいつか必ず自身に返って来るからね。そういえばレームと同じく剣を使うと思っていたんだがコミュを見て意外だったよ」

 セシリアの言葉にルナはニヤりと口角を上げ耳元で囁いた。

「ほぉ。面白い事を考えるな。それでは君にこれを託そう。私の推測でしかないが試してみて欲しい」

 出勤の時間が来たセシリアはルナに合鍵を渡し「何かあればコミュを飛ばしてくれ」と伝え出掛けて行く。
 その後、トライデントと待ち合わせをしていたルナも早々に出発した。

「お待たせー!」

 片手を振って合図するルナが見たのは杖や刀によりかかる三人だ。

「なんでお前そんなに元気なだよ」
「朝ごはんたべれなかったでござる」
「ちょっルナ! 痛いから触らないでぇ!」

 朝のルナと全く同じ状態の三人にルナは魔法鞄からセシリアから貰った鎮痛剤を三本取り出し渡す。

「助かった。有難うな」

 苦味に顔を顰めながらも動けるようになった三人は、ルナに礼を言い徐々に元気を取り戻した。

「流石ギルマスね。鎮痛剤なんてそんなに安くないのに。でも本当に助かったわ。正直今日は訓練は休んで座学だけ受けれたら受けようと思ってたくらいよ」

 そうこうして三人はギルドに辿り着き、白の受付に並ぶが今日もミナではなく違う嬢が座っていた。
 裏庭に出るとすでに幾人かの探索者が来ていた。

「おいおい、よく今日も来れたな。俺だったら笑われにくるなんて耐えられねぇけどな」

 ギルとグルートが嘲笑う。

「なあ君達もさ俺らのパーティーに入らないか? あんなちんちくりんと組むよりはよっぽどいいぜ?」

 ギルは馴れ馴れしくミネアの肩に手を置くと、ミネアは不快な表情を隠さずに手を払う。

「汚い手で触んないでくれる」

「なんだとガキ」睨みつけてくるギルにリオーネが「あんた達止めなさいよ」と止めた。

「おーい。始めるぞ。予想はしていたが随分減ったな」

 アランドロが手を叩き注目を集めると教官陣が並んでいた。
 その日パタス班は三人しかおらず、ルナとミネア、リオーネは一時間ひたすら走り、人数の減っていないアランドロ班は模擬戦を開始する。

「お前ら頭を使えよ。一度戦った相手だ。当然終わってからの分析も対策を練る時間も十分にあったと思う。今日は少しでも進歩したお前らを見れる事を期待している」

 ヒュンヒュンと両手でナイフを回しギルは構えた。

「どう見てもなにも変わってねぇだろ。てめぇはがら空きなんだよ」

 ギルが一瞬で間合いに入るとリガルは迫るナイフに備える。が、リガルに刃が届かず視界が斜めに傾いた。
 足払いで態勢を崩されたリガルは傾いた身体で片手剣を払うがそこにギルはいなかった。
 
「こいつと同じ白級なんて悲しくなるぜ」

 ギルは横に倒れたリガルの首に手をかけナイフを振り下ろすところで「そこまで」と声が掛かった。

  
 走り終えたパタス班の三人は昨日と同じく立つ事もままならない。

「なぁパタスさん。ウチの班今日だぁれも来てへんねん。ウチその子が気に入っとるんにゃけど貸してくれへん?」

「これは困りましたね。当然本人次第ですが...ヤナさん弓をお使いでしたか?」

「武器なら一通り使えるで? 伊達に黒級上位やあらへんからにゃ。なぁにゃあ、あんたウチの子にならへんか?」

 地面に座り肩で息を吐くルナに手を差し延べるヤナ。
 ルナは困惑したようにパタスを見る。

「この方は私と違い現役の探索者ですからその分生きたアドバイスが期待できるかもしれませんね。ルナさんの好きにして頂けたらと」

 ルナにとっては前日助けてもらった恩もあるが「ごめんなさい! パタス先生がいいですぅ」と若干涙目になる。
 
「まぁまぁそんな事いわんと」

 ヤナはルナの胴体に尻尾を巻きつけてそのまま引きづって「あーれ~」と叫ぶルナを連れて行った。


「さぁて子猫ちゃん、全てを曝け出してもらおうかにゃ」

 びくびくするルナにヤナは悪そうな笑顔を浮かべる。

 数分後

 渡された用紙に記載し全身の筋肉を触られたルナは「もう......お嫁にいけない」と地面に突っ伏した。

しくしくと泣くルナに「何を大袈裟にゃ」と呟き、汚い字で書かれた紙面を眺めるヤナ。

~~~
ルナ
パーティーメンバー レーム
パーティー名 なし
スキル フェイカー
歴 最近なったばかり
探索した迷宮 鼠さんの森
学びたい項目 弓
~~~

「ルナってあんた探索者になったばかりなんやな。ふむ。パタスさんちょっとこの子借りてくにゃ」

「えっちょっ!?」と驚くルナの事を気にもせず尻尾で建物の中に引っ張って行くのをミネア達は呆気に取られて見送った。

 二人が来たのはギルドの個室だ。

「ふっふっふ~。このウチに隠し事はでけへんで? あんたまだなんか隠しとるやろ? 正直スキルも意味分からへんし。全てを教えてもらおうかにゃ?」

 「ぴぃ」と鳴くルナは全てを洗いざらい白状したのだった。

「はぁぁぁ。なんで使った事もない弓なんかな? 思うとったけどそれなら納得にゃ。無理に聞いたウチも悪いけどあんたこれレームはんとギルマスの言うとおり誰にも言われへんで? しかし益々おもろいなぁ。あんたウチの弟子にならへんか? 確実に強くしたるさかい。にゃ?」

「あのぉ、弟子ってどういう事するんですか?」

 少し怯えた様子のルナ。

「ちゃんとしたギルドの制度や。教習とは別に黒級探索者が未熟な白級探索者に指導係として個別に面倒を見るにゃ。パーティー単位で面倒を見る探索者もいるけどウチはいっぱいは無理にゃ」

 説明を聞いてルナは考える。

「あのぉ。なんで私なんですか?」

「ん~強いて言えば元弟子に似ていたからや。どこか危なっかしいところもそっくりだにゃ」

 ルナは悲し気な表情のヤナが嘘をついているようには見えなかった為師事してもいいかなと思えた。

「最後に一個だけ聞かせて、強くなってレームの隣に立てますか?」

 最後の質問はルナにとっての最重要項目だ。

「そこは任しときんさい!」

 こうしてルナは今後探索者として長い付き合いになる師匠との出会いを果たしたのである。



「それではお返しします」

 白級の受付嬢からギルドカードが返却さると、表面にレーラーの表記の横にヤナと記載された。

「これはウチのIDや。今日は一旦教習戻って残りの時間をボーガンの練習。明日明後日は教習が休みやから明日朝一で迷宮いこか?」

「はい! 宜しくお願いします! ヤナ師匠!」

 

「あぁ今日も疲れたぁ。もう身体動かないわ。鎮痛剤っていくらするのかしら?」

 ロビーで腰を降ろす一行。

「ね、ねぇミネア。あの二人はどうしたの?」

 ルナはテーブルに突っ伏した少年二人を指さす。

「放っておきなさい。情けないったらありゃしない。今日もあの嫌なやつらに負けっぱなしでずーっと腕立て伏せしてたんだから」

 プリプリ怒るミネアに苦笑するルナ。

「ところでルナは大丈夫だったの? あの獣人ビスティアに何かされなかった?」

 ルナは経緯を説明するとミネアは驚いたようだ

「やったじゃないの。師弟制度は聞いた事があるけどこの街って黒級探索者が少ないから、なってくれる探索者ってもう弟子がいたりそもそも受け付けてなかったりするのよねえ。羨ましいかも。あっそうそう。ルナって今日は迷宮行くんだっけ? どうせなら私達とクエスト受けない?」

「行く行く!」と二つ返事で了承し、少女二人は掲示板と呼ばれるクエスト板の前に来る。
 大半は朝一番で実りの良いクエストは取られてしまう為、昼前とはいえ数枚しか張り出されていなかった。

「私達でもできそうなのはっと。やっぱ微妙なのしかないわね」

「これは!?」

 ルナが手に持って来たのは、

【支援依頼:孤児院の屋根のペンキ塗り:教会テレジ司祭】
【支援依頼:教会の清掃:教会修道婦ハナ】

「どっちも教会で三百ダリーかぁ。でも我儘言える立場じゃないし。あんた達もいいわよね?」

 沈んでいた少年二人の無言の頷きにより、ルナとトライデントの初めての支援依頼が決まった。
 
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