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牙鼠の森
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いつも通りのあまり整備されていない道を辿ると、ぽっかりと開いた迷宮の入口の前で沢山のテントと周りでは大勢の人々が慌ただしく動いている。
「ギルマス! あのっ、こちらが?」 数人の男女が駆け寄って来るとレームの周りに集まってきた。
「レームさんですね。この度はおめでとう御座います!」
「レームさん本当に凄いです! 有難う御座いました!」
レームはいまいち礼を言われる理由が分からず困惑したが曖昧な返事のままセシリアに促され、びっしりと名前の書かれた名簿に記帳し迷宮の扉を潜った。
さぁぁぁぁぁ
迷宮内部は霧雨と薄っすらと霧が出ている。
額に張り付く髪の毛を掻き分けると迷宮内でも沢山の人達が作業をしていた。
「レーム、知っているか? この迷宮で嘗て雨が降った事があるという記録はない。この迷宮は所謂休眠期間に入っているんだ」
レームは一歩踏み出し地面を見ると驚きを露わにする。
「マジかっ......これはたしかに祝福だな」
目の前一面に広がっている花畑の全てがピリカ草を初めとした薬草や珍しい花々だった。
よく見ると中には滅多に見る事の出来ない貴重な薬草すら普通に生えている。
「林の中も凄いぞ。貴重なキノコのオンパレードだ。採集しても翌日にはこの通りに戻っている。迷宮内で作業しているのは全てあちこちから来た錬金ギルドの人間だよ」
セシリアが苦笑しながら嬉々として作業をしている者達を眺める。
「えぇ! じゃあ錬金ギルドが利権を独占するって事じゃない!?」
横で聞いていたミネアが少し声を荒立てる。
「ははは、そんな事にはならないさ。物が物だからね。我々にはただの草にしか見えない物でも実際は図鑑にしか記載のないような貴重な物もあるらしい。却って探索者が手伝うと邪魔になるようだから探索者ギルドと錬金ギルド、後は教会とで連携を取って収穫にあたってるんだ。後はまとめてガレアの領主様と各ギルドマスター、担当司教で利益の振り分けってとこかな」
レームも「へぇぇ。色々あるんだな」 と感心する。
「一応聞くけど不正とかはどうなんだ?」
この質問には最後方にいたライゼルが答えた。
「まぁ当然の疑問だわな、あそこを見てみろよ」
ライゼルの指差す方向を全員で向くと、そこには屈強そうな全身鎧に身を包んだ兵士が各所に立っていた。
「早々に領主が派遣して来た軍の連中だ。挙句の果てにわざわざ教会から天秤持ちも来ているしな、これだけの中不正をする者もいねぇよ」
ライゼルの説明にルナは小声で隣を歩いていたエレナに聞いた、
「天秤持ちって?」
「あんたそんな事も知らないの? 教会で司法を司るお役所の人間ってこと。魂の天秤は魂の水晶よりも罪の采配に特化した魔道具でどんな些細な嘘も見通すらしいわ」
レームは毎日通っていた迷宮内の様代わりに呆気にとられながらも景色を楽しんだ。
後ろでは「ちょっと! あれってメダリアの花じゃない! とっちゃ駄目!? 駄目なの!?」とロロの悲痛な叫びが聞こえる。
「それで? どっちだ?」
セシリアが歩みを止めてレームに問う。
「ん?」
「はぁぁ。初めに私達がこの迷宮に来た目的を忘れたのか? 例の場所に行くんだろ?」
「あぁ!」
こそこそと小声で話す二人に鼻の効くライゼルが勘づく。
「おいおい仲間外れはよくねぇなぁ。なんの話だ?」
どうしたものかいい淀む二人を他所に、
「レームがこの迷宮の謎を解き明かしたんだよ!」
とまるで自分の事のようにルナが胸を張った。
「ほぉ。迷宮の謎、ねぇ?」
セシリアとレームは頭に手を置いて溜息をついた後、セシリアやスキルの事は伏せて事情を説明した。
「すげぇじゃねぇか! まさかこの迷宮に百年近く誰も見つけられなかった未踏破区域があるとはなぁ。これぞ探索者の醍醐味ってやつだな! 早く行こうぜ! なぁなぁ」
ライゼルの言葉にエレナもロロも興味津々の様子だ。
銀級探索者パーティーさえも未知の領域という言葉の響きには逆らえないのだった。
「この辺の筈なんだけど」
今はそこら中に咲き誇っているが、レームの良く来るピリカ草の群生地に辿り着いた。
ライゼルが「何処だよ?」と辺りを見渡すと、レームは見覚えのある目印ともなる大岩を見つけた。
なんと岩の下にある穴が薄っすらと光を発している。
「ここだ」
不思議な事に指し示す場所を皆が覗くが見えていないように疑問符が浮かんでいる。
「ここだよ! ほら階段があるでしょ?」
ルナが穴に飛び込み階段を一歩ずつ下って行くと皆が「ルナが消えた!」と騒ぎになった。
(もしかして皆には見えていない?)
困惑するセシリアの手を取り穴の中の階段に触れさせる。
「おぉ、驚いたな...初めは分からなかったが触れた途端に階段が現れたというか、なんとも奇妙な感覚だな。お前よくこんなところを見つけたな」
「たまたま追っていた牙鼠がここで消えたんだよ」
「これは発見されないわけだ。おそらくなんらかの結界のようなものが張ってあるな」
俺も俺もと騒ぐライゼルやロロにも認識させ驚く一行は地下への階段を進んだ。
二度目ではあるが神秘的な空間にレームは息を飲む。
以前はなかった光苔が七色に光り幻想的な雰囲気を演出している。
その場の全ての者達が息を飲みその光景に見惚れる。
その時レームに不思議な現象が起こった。
《迷宮に巣食う悪しき魂を浄化せしめた勇者よ。我が祝福を与えよう》
どこからか発生した白い霧が徐々に女性の形を象る。
地面にまで届く長い髪を靡かせその煙はレームに口づけをして霧散した。
「...ム」 「レーム」
名を呼ぶ声にはっとしたレームは目の前で心配そうな表情を浮かべる皆に気付いた。
「あれだろ? 女神様に会ったな?」
ライゼルの言葉に一斉にレームに視線が集まった。
「あぁ。女神様かは分からないけど、煙の女性に会った。身体に力が漲って来るのを感じる」
考え込むセシリアが思い出したように話した。
「文献で見た事があるな。迷宮を攻略した者は女神の祝福を授かり全ての能力が向上するだったか。物語の中の迷信程度に思っていたが」
セシリアの言葉にルナは「私は見てない!」と文句を言い、エレナとロロが「なんで黙っていたんだ!」とライゼルを責めた。
「まぁまぁそう怒んなよ。ただの夢か何かかと思ってたんだから仕方がねぇだろ。それでレーム。何を貰った? ギルマスの文言には続きがあるんだぜ? 迷宮の攻略者は能力の向上ともう一つ、神々の遺産をひとつだけ受け取る事が出来るってな」
ライゼルがニッと笑い自身のピアスを触る。
「俺はこれだ。『蘇生のピアス』っていうらしい。一度だけどんな死でも免れる事が出来るっていうまさに神のアイテムだな」
特に心辺りのないレームはポケットや荷物を探るが何も見つからない。
その時、ルナが入っていた棺が光を放ち、輝きを増す。
光の収束の跡そこには古びた木製の箱が現れたのだった。
レームは誘われる様に箱の前に立ち蓋に手をかける。
ぎぃっと音をたてゆっくりと開いた箱の中にはこれまた古びた剣が入っていた。
レームは自身の鑑定スキルの能力が一段階向上したのがなんとなく感覚で解った。
~~~
迷宮の神ヘパイストスにより作られし一振り【月詠】の成れの果て
かつての輝きは失われ今ではただの丈夫な剣と成り下がった一振り。
所有者 レーム
~~~
物語に登場する三つの伝説の剣の一振りとの出会いを果たしたのだった。
「ギルマス! あのっ、こちらが?」 数人の男女が駆け寄って来るとレームの周りに集まってきた。
「レームさんですね。この度はおめでとう御座います!」
「レームさん本当に凄いです! 有難う御座いました!」
レームはいまいち礼を言われる理由が分からず困惑したが曖昧な返事のままセシリアに促され、びっしりと名前の書かれた名簿に記帳し迷宮の扉を潜った。
さぁぁぁぁぁ
迷宮内部は霧雨と薄っすらと霧が出ている。
額に張り付く髪の毛を掻き分けると迷宮内でも沢山の人達が作業をしていた。
「レーム、知っているか? この迷宮で嘗て雨が降った事があるという記録はない。この迷宮は所謂休眠期間に入っているんだ」
レームは一歩踏み出し地面を見ると驚きを露わにする。
「マジかっ......これはたしかに祝福だな」
目の前一面に広がっている花畑の全てがピリカ草を初めとした薬草や珍しい花々だった。
よく見ると中には滅多に見る事の出来ない貴重な薬草すら普通に生えている。
「林の中も凄いぞ。貴重なキノコのオンパレードだ。採集しても翌日にはこの通りに戻っている。迷宮内で作業しているのは全てあちこちから来た錬金ギルドの人間だよ」
セシリアが苦笑しながら嬉々として作業をしている者達を眺める。
「えぇ! じゃあ錬金ギルドが利権を独占するって事じゃない!?」
横で聞いていたミネアが少し声を荒立てる。
「ははは、そんな事にはならないさ。物が物だからね。我々にはただの草にしか見えない物でも実際は図鑑にしか記載のないような貴重な物もあるらしい。却って探索者が手伝うと邪魔になるようだから探索者ギルドと錬金ギルド、後は教会とで連携を取って収穫にあたってるんだ。後はまとめてガレアの領主様と各ギルドマスター、担当司教で利益の振り分けってとこかな」
レームも「へぇぇ。色々あるんだな」 と感心する。
「一応聞くけど不正とかはどうなんだ?」
この質問には最後方にいたライゼルが答えた。
「まぁ当然の疑問だわな、あそこを見てみろよ」
ライゼルの指差す方向を全員で向くと、そこには屈強そうな全身鎧に身を包んだ兵士が各所に立っていた。
「早々に領主が派遣して来た軍の連中だ。挙句の果てにわざわざ教会から天秤持ちも来ているしな、これだけの中不正をする者もいねぇよ」
ライゼルの説明にルナは小声で隣を歩いていたエレナに聞いた、
「天秤持ちって?」
「あんたそんな事も知らないの? 教会で司法を司るお役所の人間ってこと。魂の天秤は魂の水晶よりも罪の采配に特化した魔道具でどんな些細な嘘も見通すらしいわ」
レームは毎日通っていた迷宮内の様代わりに呆気にとられながらも景色を楽しんだ。
後ろでは「ちょっと! あれってメダリアの花じゃない! とっちゃ駄目!? 駄目なの!?」とロロの悲痛な叫びが聞こえる。
「それで? どっちだ?」
セシリアが歩みを止めてレームに問う。
「ん?」
「はぁぁ。初めに私達がこの迷宮に来た目的を忘れたのか? 例の場所に行くんだろ?」
「あぁ!」
こそこそと小声で話す二人に鼻の効くライゼルが勘づく。
「おいおい仲間外れはよくねぇなぁ。なんの話だ?」
どうしたものかいい淀む二人を他所に、
「レームがこの迷宮の謎を解き明かしたんだよ!」
とまるで自分の事のようにルナが胸を張った。
「ほぉ。迷宮の謎、ねぇ?」
セシリアとレームは頭に手を置いて溜息をついた後、セシリアやスキルの事は伏せて事情を説明した。
「すげぇじゃねぇか! まさかこの迷宮に百年近く誰も見つけられなかった未踏破区域があるとはなぁ。これぞ探索者の醍醐味ってやつだな! 早く行こうぜ! なぁなぁ」
ライゼルの言葉にエレナもロロも興味津々の様子だ。
銀級探索者パーティーさえも未知の領域という言葉の響きには逆らえないのだった。
「この辺の筈なんだけど」
今はそこら中に咲き誇っているが、レームの良く来るピリカ草の群生地に辿り着いた。
ライゼルが「何処だよ?」と辺りを見渡すと、レームは見覚えのある目印ともなる大岩を見つけた。
なんと岩の下にある穴が薄っすらと光を発している。
「ここだ」
不思議な事に指し示す場所を皆が覗くが見えていないように疑問符が浮かんでいる。
「ここだよ! ほら階段があるでしょ?」
ルナが穴に飛び込み階段を一歩ずつ下って行くと皆が「ルナが消えた!」と騒ぎになった。
(もしかして皆には見えていない?)
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「おぉ、驚いたな...初めは分からなかったが触れた途端に階段が現れたというか、なんとも奇妙な感覚だな。お前よくこんなところを見つけたな」
「たまたま追っていた牙鼠がここで消えたんだよ」
「これは発見されないわけだ。おそらくなんらかの結界のようなものが張ってあるな」
俺も俺もと騒ぐライゼルやロロにも認識させ驚く一行は地下への階段を進んだ。
二度目ではあるが神秘的な空間にレームは息を飲む。
以前はなかった光苔が七色に光り幻想的な雰囲気を演出している。
その場の全ての者達が息を飲みその光景に見惚れる。
その時レームに不思議な現象が起こった。
《迷宮に巣食う悪しき魂を浄化せしめた勇者よ。我が祝福を与えよう》
どこからか発生した白い霧が徐々に女性の形を象る。
地面にまで届く長い髪を靡かせその煙はレームに口づけをして霧散した。
「...ム」 「レーム」
名を呼ぶ声にはっとしたレームは目の前で心配そうな表情を浮かべる皆に気付いた。
「あれだろ? 女神様に会ったな?」
ライゼルの言葉に一斉にレームに視線が集まった。
「あぁ。女神様かは分からないけど、煙の女性に会った。身体に力が漲って来るのを感じる」
考え込むセシリアが思い出したように話した。
「文献で見た事があるな。迷宮を攻略した者は女神の祝福を授かり全ての能力が向上するだったか。物語の中の迷信程度に思っていたが」
セシリアの言葉にルナは「私は見てない!」と文句を言い、エレナとロロが「なんで黙っていたんだ!」とライゼルを責めた。
「まぁまぁそう怒んなよ。ただの夢か何かかと思ってたんだから仕方がねぇだろ。それでレーム。何を貰った? ギルマスの文言には続きがあるんだぜ? 迷宮の攻略者は能力の向上ともう一つ、神々の遺産をひとつだけ受け取る事が出来るってな」
ライゼルがニッと笑い自身のピアスを触る。
「俺はこれだ。『蘇生のピアス』っていうらしい。一度だけどんな死でも免れる事が出来るっていうまさに神のアイテムだな」
特に心辺りのないレームはポケットや荷物を探るが何も見つからない。
その時、ルナが入っていた棺が光を放ち、輝きを増す。
光の収束の跡そこには古びた木製の箱が現れたのだった。
レームは誘われる様に箱の前に立ち蓋に手をかける。
ぎぃっと音をたてゆっくりと開いた箱の中にはこれまた古びた剣が入っていた。
レームは自身の鑑定スキルの能力が一段階向上したのがなんとなく感覚で解った。
~~~
迷宮の神ヘパイストスにより作られし一振り【月詠】の成れの果て
かつての輝きは失われ今ではただの丈夫な剣と成り下がった一振り。
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