オッさん探索者の迷宮制覇

蒼彩

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『一章:ビースト・フロンティア』 探索者

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 狭い会議室にルナを含めた四人の探索者の卵が集められた。
 前方の黒板の前には痩せた体型の眼鏡の男が一人指示棒を持って立っている。

「初めまして皆さん。私は元黒級探索者のパタス・ルーセットと申します。ここでは皆さんに探索者として活動を始める前に最低限の知識を得て頂きたいと思い任意での講習を催しております。三十分程の講義ですがどうぞ宜しくお願い致します」

 ルナは「お願いします!」と元気よく声を上げ、他の三人は頷くだけにとどめた。

「元気がよくて結構ですね。先ずはそもそも探索者とは? というところからですが...それでは元気の良かった貴方。探索者とはなんでしょうか?」

 パタスはルナに尋ねる。

「迷宮に潜る人達?」

「その通りです。それではなぜ迷宮に潜るのですか?」

「うーん、楽しいから? 景色が綺麗だし」

 ルナが少し考えて答えると隣にいた他の探索者から馬鹿にしたような笑いが上がる。
 ルナと同じくらいの年頃の三人はそうやら同じパーティーメンバーらしく固まって座っていた。
 少しだけムッとしてルナは隣を見るとパタスはその三人を差し棒で指名した。
 
「それでは貴方がたにもお聞きしましょう」

 三人の内のリーダーらしき少年が勢いよく立ち上がり答える。

「俺は三大迷宮を制覇して大陸一の英雄になる! 探索者ってのは誰もが憧れる職業だからな!」

 少年の答えに隣りでダルそうにしていた少女が異論をはさむ。

「ちょっとリガル。あんた何言ってんのよ、名誉なんて二の次でしょ? あのねぇ迷宮に潜る理由なんて一つしかないじゃない。数えきれない金銀財宝に水を無限に酒に変える事の出来る魔道具。こーんなおっきなレアダイヤにピンクサファイヤを私は一日中眺めて暮らすの!」

 少女は頬に両手を当てて目をうっとりさせる。
 マゲを結った和服の少年が溜息交じりに首を左右に振った。

「君達は何もわかってないでござるな。いいですかな? 迷宮にはまだ見ぬ強敵達が蠢いてるのでござるよ? ドラゴンやケルベロス。奴らは物語だけの存在じゃないのは周知の事実。男なら腕試しにいかないで何をするでござるか!」

 三人は顔を見合わせ睨み合う。
 するとパンパンと前で手をたたきパタスは「はいはい。喧嘩は止めてくださいね」と制す。

「結論から言ってしまえば答えは探索者の数だけあると言ったところでしょうか。今皆さんの語った志望動機の全てがまさしく探索者の存在理由なのです。とある国のある迷宮の中では極寒の迷宮の空に虹色に輝くカーテンが現れると聞きます。またとある迷宮では全てがクリスタルでできた街があるだとか。その街の城主は竜の王族が住まい今でも猛威を振るっているそうですよ? しかしながら残念な事に多くの探索者達が目的を達する前に力及ばず亡くなってしまうのがほとんどなのです」

 パタスは悲し気に息を吐き出すが気を取り直して講義に戻る。

「皆さんの夢や想いは分かりましたが当然探索者としての段階を踏まなければいけません。金級への道も一歩からという言葉があるように、先ずはひとつひとつ確実に進まなければ英雄なんてとてもなれません。皆さんは先ず白の探索者と呼ばれるクラスから始まります。そんな貴方がたが真っ先にしなければいけないのはギルドで発行している依頼をより多く受ける事です。依頼と言っても様々ですが大半の依頼はレアールの街の方々からの依頼です。次はこの依頼について説明しますがここまではいいですか?」

 ルナは目を輝かせてパタスの話に聞き入っている。
 他の三人の内リーダー格の少年はうつらうつら舟を漕いでいるが。

「依頼は一階の受付で受ける事が出来ます。白級の依頼は主に採集依頼、駆除依頼、支援依頼の三通りが主な仕事です。さて、先ずは採集依頼はその名の通り迷宮で依頼の素材の採取を行います。基本的には近くにある『牙鼠の森』で薬草などの素材集めですね。駆除依頼は迷宮の魔物の駆除で支援依頼は街の依頼人の所へ赴き依頼をこなします。できる限り沢山の依頼を受け経験を積んで下さいね」

 パタスは黒板に書いた文字を指示棒で指しながら丁寧に教えていく。
 この時点で話をしっかり聞いているのはルナと隣の三人組の中の少女だけだ。
 パタスは寝ている少年二人を眺め溜息をつくと少女は恥ずかしそうに謝罪の意を込めて一礼した。

「それでは続けますね。次は階級の説明です。知っての通り白級探索者としての経験を積むと言っても一定の業績を積む事で黒級へ上がる事が出来ます。黒級への昇格には白級依頼を十つ完遂に加え、後で説明しますがいずれかの迷宮を三つ攻略する必要があります。これはあくまで黒級の試験を受ける資格を得る条件ですのでお間違いない様に。試験に合格して初めて晴れて黒級に上がれるというわけです」

 ルナともう一人の少女が熱心に聞いているのを確認しパタスは満足そうに頷く。

「最後に迷宮についての説明をしますね。レアールの街と言えば代表的なのはやはり近場の『牙鼠の森』、『白兎キラーラビットの巣穴』、レアールの街があるガレア領内には他にも『マラニアの群生地』だったり『茨の園』が有名ですね。
 ちなみに迷宮にも階級分けがあります。白級の探索者は白級の迷宮にしか入れませんので注意が必要です。最後に攻略についてですが、迷宮のひとつひとつに迷宮主が存在します。その迷宮の全ての探索が終えた時に出現する魔物の事を主と我々は呼んでますが、主を倒すとその顔が描かれたコインが出現し、そのコインが迷宮攻略の証となります」

 パタスは話し終えパンパンと手を叩くと寝ていた少年二人が目を覚ました。

「これで講習は終わりです。聞きたい事があれば私はギルドにいる為いつでも聞きに来て下さい。それでは探索者カードをお渡しします」

 一人一人の名が呼ばれカードと薄い冊子が手渡しされる。

「任意の私の講習を受けた貴方がたに一つだけ先輩からのアドバイスを、命を大事に。逃げる事は恥ではないという事を頭の片隅にでも置いて下さい。それでは皆さんに女神ルーナフェリアの加護がありますように」

 パヤスが教室から出て行くと皆が手元のカードと冊子を覗き込む。
 冊子には【クリフト魔物図鑑】【エレノア錬金図鑑】参照と書かれている。
 ルナが試しに捲ってみると、中にはキノコや草、魔獣の絵と説明書きが数ページにわたり記載されておりルナが目を輝かせぎゅっと胸に抱く。
一旦その場で解散となり一階へと戻ると三人の中の少女がルナに話し掛ける。

「ねぇあんた。私はミネア。この二人と【トライデント】ってパーティー組んでるんだけど、実技教習は受けるの?」

「初めまして。私はルナ。実技教習って?」

 ルナは差し出された手を握り返した。

「あら、知らない? ルナも合格発表の時の説明を最後まで聞かなかった口ね。誰も面倒くさがって受けないみたいだけど座学講習の後に実施教習があんのよ。一緒に行かないかしら? まぁあなたが良かったらだけど」

 ルナはお同年代のミネアに誘われたのが嬉しく元気よく「行きたい!」と答えた。
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