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第10話 見世物
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これが幻獣というものか。
ずいぶんと小さい。
子狐ではないか。
美しい女の姿をしていると聞いたが……。
ヒソヒソとしたささやき声が聞こえてきて、目が覚めた。
「……ぅ」
重い瞼を開けると、ぼんやりと薄暗い景色が見えた。
人間の気配をそこかしこに感じる。
体がずいぶんと重かった。
腹に痛みも感じるし、こんなに不快なのは久しぶりだ。
「……?」
ようやくはっきりしてきた視界であたりを見渡せば、どうやらそこは、馬小屋のような、物置小屋のような場所らしかった。
目の前に開かれた扉がある。
そこから人間たちがこちらを覗いて、ひそひそと会話をしていた。
おまけに私、なんか鎖で繋がれているのだが。
足と手と、おまけに首までがっつりと。
なんでこんな場所にいるのかと、一瞬頭が混乱する。
けれど、煙たい香りで気づいた。
森の方からは、煙が上がっているのが見える。
……そうか、私はあの森から、引きずり出されてしまったのか。
耐え難い怒りと苦しみが、胸の奥から湧き上がってくる。
吠えたてようとすればしかし、拘束された体には力が入らず、深い呼吸をするので精一杯だった。
こつん。
「?」
何かが頭に飛んできた。
こつん、こつん、ごつん。
「きゃんッ」
突然頭蓋にひどい痛みがはしり、私は大きな声で吠えてしまった。
体が小さいと、動物的本能が強く出てしまうのだ。
「ははっ、割と普通の動物だったんだな」
入り口の方で、人間たちが笑う声がした。
次々に何かが飛んでくる。
それは、石だった。
大きいのや小さいのが、遠慮なくこちらに飛んでくる。
あいつらが投げているのだ。
「俺らの森を長い事独り占めしてやがって」
「お前がいなけりゃ、どれほど苦労しなくてすんだか」
「こんなけだものが森の守護者だなんて」
けだもの。
そうか。
今の私は幻獣でもなんでもなく、そんな感じに見えるわけか。
「……」
私は見世物にされていた。
つるし上げというやつだ。
こんな屈辱は生まれてから初めてだった。
普段の私なら怒り狂っているだろう。
しかしもう、そんな気力もわかない。
故郷の森の悲鳴が頭の中に浮かんでは消えてゆく。
人間たちは、ひそひそと会話をしながら、縛り付けられた私を近くで見たり、触ろうとしているものもいた。
にやにやとした笑みを浮かべているものもいれば、憎しみのような表情を浮かべている。
その度に牙をむき出してうなれば、みんな、ひっと息を飲んで引いていった。
実際、今の私には指を噛みちぎる力も残っていない。
けど、せいいっぱいこうやって威嚇してやれば、彼らは私を畏怖しているらしく、おとなしく去っていった。
そのおかげで小屋は静かになる。
私はもう、疲れてしまった。
お腹の出血とかどうなってんのって感じだし。
もう、このまま死んじゃうのかな。
みんなはどうなっちゃうんだろう。
私は静かに、目を閉じた。
ずいぶんと小さい。
子狐ではないか。
美しい女の姿をしていると聞いたが……。
ヒソヒソとしたささやき声が聞こえてきて、目が覚めた。
「……ぅ」
重い瞼を開けると、ぼんやりと薄暗い景色が見えた。
人間の気配をそこかしこに感じる。
体がずいぶんと重かった。
腹に痛みも感じるし、こんなに不快なのは久しぶりだ。
「……?」
ようやくはっきりしてきた視界であたりを見渡せば、どうやらそこは、馬小屋のような、物置小屋のような場所らしかった。
目の前に開かれた扉がある。
そこから人間たちがこちらを覗いて、ひそひそと会話をしていた。
おまけに私、なんか鎖で繋がれているのだが。
足と手と、おまけに首までがっつりと。
なんでこんな場所にいるのかと、一瞬頭が混乱する。
けれど、煙たい香りで気づいた。
森の方からは、煙が上がっているのが見える。
……そうか、私はあの森から、引きずり出されてしまったのか。
耐え難い怒りと苦しみが、胸の奥から湧き上がってくる。
吠えたてようとすればしかし、拘束された体には力が入らず、深い呼吸をするので精一杯だった。
こつん。
「?」
何かが頭に飛んできた。
こつん、こつん、ごつん。
「きゃんッ」
突然頭蓋にひどい痛みがはしり、私は大きな声で吠えてしまった。
体が小さいと、動物的本能が強く出てしまうのだ。
「ははっ、割と普通の動物だったんだな」
入り口の方で、人間たちが笑う声がした。
次々に何かが飛んでくる。
それは、石だった。
大きいのや小さいのが、遠慮なくこちらに飛んでくる。
あいつらが投げているのだ。
「俺らの森を長い事独り占めしてやがって」
「お前がいなけりゃ、どれほど苦労しなくてすんだか」
「こんなけだものが森の守護者だなんて」
けだもの。
そうか。
今の私は幻獣でもなんでもなく、そんな感じに見えるわけか。
「……」
私は見世物にされていた。
つるし上げというやつだ。
こんな屈辱は生まれてから初めてだった。
普段の私なら怒り狂っているだろう。
しかしもう、そんな気力もわかない。
故郷の森の悲鳴が頭の中に浮かんでは消えてゆく。
人間たちは、ひそひそと会話をしながら、縛り付けられた私を近くで見たり、触ろうとしているものもいた。
にやにやとした笑みを浮かべているものもいれば、憎しみのような表情を浮かべている。
その度に牙をむき出してうなれば、みんな、ひっと息を飲んで引いていった。
実際、今の私には指を噛みちぎる力も残っていない。
けど、せいいっぱいこうやって威嚇してやれば、彼らは私を畏怖しているらしく、おとなしく去っていった。
そのおかげで小屋は静かになる。
私はもう、疲れてしまった。
お腹の出血とかどうなってんのって感じだし。
もう、このまま死んじゃうのかな。
みんなはどうなっちゃうんだろう。
私は静かに、目を閉じた。
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