9 / 16
第8話 再会
しおりを挟む再びあの男と相見えたのは、ほんの少しの時が過ぎてからだった。
なんとなく、もう一度来るかもしれないとは思ってた。
だって、いやにあっさり引いて行ったんだもの。
けれど、まさか、幻覚に対応できるようになって帰ってくるとは思わなかった。
「……あんた、正気?」
私は呆れて、目の前に立つ男を見た。
「……」
男は何も答えない。
黒い目隠しをして、ただ静かにその場所に立っている。
その体は、もう濡れていない。
「目で見て惑わされるのなら、目をつぶればいい。たとえ光が差さなくとも、お前は見える」
「……」
平坦な男の声に、鳥肌がたった。
どうも、いかれぽんちなやつだと思ったわよ。
背中に嫌な汗が流れた。
男の握った剣が、びゅ、と薙いだ。
◆
「クウ様! ク……」
私に駆け寄ってきた童女の胸に、刃が突き立てられた。
精霊は顔を歪めたのち、光となって消えてゆく。
この童女たちに死はない。
死ぬとすれば、この森が完全に死んだときだ。
私に力さえあれば、もう一度幻で形作ることができる。
……まあ、もうできる力は残っていないのだが。
幻で作られていた私の社が消え去った。
代わりにそこにあるのは、しっかりと大地に根を張る大木。
私はそこで、魔術によって磔にされていた。
九本あったしっぽは三本にまで減り、姿は十代始めの少女になっている。
「……」
わからん。
何がどうなってこうなったのか、分からん……。
本格的に戦ったことはないけれど、まさかここまでボロボロにされるとは思わなかった。
男は目隠しをしたまま、私に刃を向けたのだ。
正直、私は幻覚が通じない相手だと、ほとんど何もできない。
幻覚が通じる限りは世界でさえ作れるが、見えなければそこには何もないのと同じなんだもの。
しかもこいつ、動きが早い、早い。
前の時はきっと、本気じゃなかったんだろうということは安易に想像がついた。
私は口を開こうとしたが、体のあまりの痛みに、声を失った。
精霊たちが必死に助けようとしてくれていたけれど、男……シリウスとか言ったか、は精霊たちを全部殺した。いや、精霊に死はない。けれどもう一度もとの姿を取り戻すのには、しばらく時間がかかるだろう。
顔を歪めて磔にされている私の前に立って、男は口を開いた。
「おい、ゴミクズ」
「……」
おいおいおい、ゴミ屑って私のことか。
この私のことをそう呼んでるのか!?
「おま、えっ……!」
怒って、残った桃色の石がついたしっぽで攻撃しようとすれば、見事に切り落とされてしまった。
「ひっ……」
激痛が走ったのち、しっぽはすうっと大気中へ消えていく。
さらに私の姿がもう一段階小さくなった。
残るは、水色と薄緑色の石がついたしっぽのみだ。
私はうまれて初めて、ひどい恐怖を感じた。
人間など、恐れるものは何もないと思っていた。
よわっちくて、こざかしくて、バカで、残酷な生き物。
それが今、私に一振りの剣を向けている。
私は腹が立って腹が立って、顔を歪めた。
「……気に食わんな」
「っっ!」
薄緑色のしっぽが切り落とされた。
とうとう私は幼子の姿になり、そのままべしゃりと地面に落とされた。
嘘だろ。
なんで私人間に負けるの?
っていうか、こいつ強すぎじゃないの。
なんなのよ、一体……。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
廻り捲りし戀華の暦
日蔭 スミレ
恋愛
妖気皆無、妖に至る輪廻の記憶も皆無。おまけにその性格と言ったら愚図としか言いようもなく「狐」の癖に「狐らしさ」もない。それ故の名は間を抜いてキネ。そんな妖狐の少女、キネは『誰かは分からないけれど会いたくて仕方ない人』がいた。
自分の過去を繫ぐもの金細工の藤の簪のみ。だが、それを紛失してしまった事により、彼女は『会いたかった人』との邂逅を果たす。
それは非ず者の自分と違う生き物……人の青年だった。
嗜虐癖ドS陰陽師×愚図な狐 切なめな和ファンタジーです。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
帝国騎士団を追放されたのでもふもふ犬と冒険とスローライフを満喫する。~反逆の猟犬~
神谷ミコト
ファンタジー
カノン=リシャールは帝国騎士として戦場で無双の活躍していた。
停戦を迎えて、『無能で協調性のない親の七光り』と侮蔑され、ついには騎士団長エドガーの一存で帝国騎士団をそしてパーティを追放(クビ)されてしまう。
仕方なく立ち寄った田舎でゆっくりと過ごそうとするカノンであったが、もふもふのフェンリルに出会い共に旅をすることになる。
カノンを追放した団長は、将軍の怒りをかい騎士団での立場を徐々に悪くする。挙句の果てに、数多くの任務失敗により勲章の取り消しや団長の地位を失くしたりと散々の目に遭う。
カノンは旅をする中で、仲間を作りハーレム展開を楽しみながら、世界を救っていく。
これは騎士団一の戦闘能力を持った男がスローライフを望みながらも問題に巻き込まれ無双で解決!新たなペット犬(?)と旅と冒険を楽しみながら帝国将軍へと成り上がっていく物語である。
※2500文字前後でサクッと読めます。
※ハーレム要素あり。
※少し大人向けの微ダークファンタジー
※ざまぁ要素あり。
※別媒体でも連載しております。
魔王の花嫁(生け贄)にされるはずが、隣国の王子にさらわれました
オレンジ方解石
恋愛
シュネーゼ公国一の美姫、アレクシアは公子の婚約者だったが、公子は初恋の聖女と婚約。アレクシア自身は魔王に目をつけられ、花嫁となることが決定する。
しかし魔王との約束の場所に『問題児』と評判の隣国の第四王子ジークフリートが乱入、魔王に戦いを申し込み…………。
『聖女』の覚醒
いぬい たすく
ファンタジー
その国は聖女の結界に守られ、魔物の脅威とも戦火とも無縁だった。
安寧と繁栄の中で人々はそれを当然のことと思うようになる。
王太子ベルナルドは婚約者である聖女クロエを疎んじ、衆人環視の中で婚約破棄を宣言しようともくろんでいた。
※序盤は主人公がほぼ不在。複数の人物の視点で物語が進行します。
うちのAIが転生させてくれたので異世界で静かに暮らそうと思ったが、外野がうるさいので自重を捨ててやった。
藍染 迅
ファンタジー
AIが突然覚醒した? AIアリスは東明(あずまあきら)60歳を異世界転生させ、成仏への近道を辿らせるという。
ナノマシンに助けられつつ、20代の体に転生したあきらは冒険者トーメーとして新たな人生を歩み始める。
不老不死、自動回復など、ハイスペックてんこ盛り? 3つの下僕(しもべ)まで現れて、火炎放射だ、電撃だ。レールガンに超音波砲まで飛び出した。
なのに目指すは飾職兼養蜂業者? お気楽冒険譚の始まりだ!
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる