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第8話 再会

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 再びあの男と相見えたのは、ほんの少しの時が過ぎてからだった。
 なんとなく、もう一度来るかもしれないとは思ってた。
 だって、いやにあっさり引いて行ったんだもの。
 けれど、まさか、幻覚に対応できるようになって帰ってくるとは思わなかった。

「……あんた、正気?」

 私は呆れて、目の前に立つ男を見た。

「……」

 男は何も答えない。
 
 黒い目隠しをして、ただ静かにその場所に立っている。

 その体は、もう濡れていない。

「目で見て惑わされるのなら、目をつぶればいい。たとえ光が差さなくとも、お前は見える」

「……」

 平坦な男の声に、鳥肌がたった。
 どうも、いかれぽんちなやつだと思ったわよ。
 背中に嫌な汗が流れた。
 男の握った剣が、びゅ、と薙いだ。

 ◆

「クウ様! ク……」

 私に駆け寄ってきた童女の胸に、刃が突き立てられた。
 精霊は顔を歪めたのち、光となって消えてゆく。
 この童女たちに死はない。
 死ぬとすれば、この森が完全に死んだときだ。
 私に力さえあれば、もう一度幻で形作ることができる。
 ……まあ、もうできる力は残っていないのだが。

 幻で作られていた私の社が消え去った。

 代わりにそこにあるのは、しっかりと大地に根を張る大木。
 私はそこで、魔術によって磔にされていた。
 九本あったしっぽは三本にまで減り、姿は十代始めの少女になっている。

「……」

 わからん。
 何がどうなってこうなったのか、分からん……。
 本格的に戦ったことはないけれど、まさかここまでボロボロにされるとは思わなかった。

 男は目隠しをしたまま、私に刃を向けたのだ。
 正直、私は幻覚が通じない相手だと、ほとんど何もできない。
 幻覚が通じる限りは世界でさえ作れるが、見えなければそこには何もないのと同じなんだもの。

 しかもこいつ、動きが早い、早い。
 前の時はきっと、本気じゃなかったんだろうということは安易に想像がついた。

 私は口を開こうとしたが、体のあまりの痛みに、声を失った。
 精霊たちが必死に助けようとしてくれていたけれど、男……シリウスとか言ったか、は精霊たちを全部殺した。いや、精霊に死はない。けれどもう一度もとの姿を取り戻すのには、しばらく時間がかかるだろう。
 顔を歪めて磔にされている私の前に立って、男は口を開いた。

「おい、ゴミクズ」

「……」

 おいおいおい、ゴミ屑って私のことか。
 この私のことをそう呼んでるのか!?

「おま、えっ……!」

 怒って、残った桃色の石がついたしっぽで攻撃しようとすれば、見事に切り落とされてしまった。

「ひっ……」

 激痛が走ったのち、しっぽはすうっと大気中へ消えていく。
 さらに私の姿がもう一段階小さくなった。
 残るは、水色と薄緑色の石がついたしっぽのみだ。
 私はうまれて初めて、ひどい恐怖を感じた。
 人間など、恐れるものは何もないと思っていた。
 よわっちくて、こざかしくて、バカで、残酷な生き物。
 それが今、私に一振りの剣を向けている。
 私は腹が立って腹が立って、顔を歪めた。

「……気に食わんな」

「っっ!」

 薄緑色のしっぽが切り落とされた。
 とうとう私は幼子の姿になり、そのままべしゃりと地面に落とされた。
 嘘だろ。
 なんで私人間に負けるの?
 っていうか、こいつ強すぎじゃないの。
 なんなのよ、一体……。
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