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第7話 ドライアド
しおりを挟む狐の姿で、森の中をかけていた。
幼い頃は頼りない足でよちよちと歩き、ドライアドに可愛い可愛いとほめられていたものだ。
それが今じゃ、まるで飛ぶようにして地面をかけている。
成長することは素晴らしいことだけれど、その過程で失ったものを考えた時、少し切ない気分になるときがある。
例えば無邪気さ。何も知らずに、遊びまわっていられた幼いころ。
例えば見える景色。あの頃は何もかもが美しく、素晴らしいものに見えた。
例えばこころ。私のこころは、幼い頃はもっと純粋だった。
「そろそろ限界かしらね……」
私は一本の大樹の前で立ち止まった。
それは見事な大木だった。
樹齢、およそ二千年はあるだろう。
これはドライアドの宿っていた木だ。
私が育ったうろも、ここにある。
この木はもう、枯れかけて力をあまり残していない。
ドライアドも姿をあらわすことはない。
それでもなお、私がそれを寂しく思わないのは、この森にあるほとんどの木々がドライアドの子供であるからだ。
森の精霊たちは、木々の精気から生まれる。
だから私は、今もドライアドと一緒に生きているのだ。
「ねえ、もう枯れてしまいそうね」
そう言って私は人間の姿になると、額を木々に押し付けた。
湿った緑の香りが、ふわりと鼻をくすぐる。
中からは水の流れる音が聞こえるような気がした。
これが彼女の心臓の音。
私は今も、ドライアドとともにある。
彼女は私に、様々なことを教えてくれた。
「……共に生きること。別に忘れちゃあ、いないわよ」
私は世界の意志によって、この世に産み落とされた。
なんの因果か前世の記憶を持ったままだけれど。
そのせいで人間嫌いにはなってしまったが、別に私は役目を放棄したわけじゃない。私は私で、役割を果たしているつもりだ。
もうすぐドライアドは枯れるだろう。
そのときに私がしなければいけないことは、ただ一つ。
ここに在り続けて、人間と自然との境界を守ること。ただそれだけだ。
「でもそれを人間が破ろうとするなら、私だって全力で守るわ」
人間なんて嫌いだ。
自分勝手で、愚かな生き物だもの。
私は息を吸うと、ゆっくりと吐いた。
この甘く、みずみずしい空気はこの森が作り出したものだ。
この森の役割は、ドライアドの役割は、そして私の役割は──。
四日目。
もう一度だけでいい。
会いたい。
会いたいよ、マキちゃん。
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