転生もふもふ九尾、使い魔になる

美雨音ハル

文字の大きさ
上 下
7 / 16

第6話 人間嫌い

しおりを挟む

「まったく、骨のない人間だったわね」

 いつもとなんら変わりない寝床で、私はため息を吐いていた。
 多少社に被害は出たものの、無事あの男を追い返すことができた。
 なんというか、喧々諤々とした男の割に、弱っちかった。
 というよりも、何も攻撃してこなかったのだ。

 私の狐火に翻弄されて、何もできなかったのだろう。
 ただ、あのじっと見つめる視線が気味が悪いなと思っただけで、それ以外はとくに何もなかった。

「そうは言ってもクウ様、油断は禁物ですよ」

 私のしっぽをブラッシングしていた精霊が、困ったような顔でつぶやいた。
 先ほどの戦闘で、若干社が壊れてしまったため、精霊たちが慌ただしく動き回っては、壊れてしまった部分を修繕している。
 私はそれを眺めながら、煙を燻らせていた。

 幼い子供たちが鮮やかな赤い着物にタスキをかけて、ちょこまかと動き回る姿は、非常に愛らしかった。

「まだ、人間の気配は消えていません。なんだか、森の外が騒がしいような気がします。最近はやはり、おかしいですよ」

「分かっているわ。でももう一度来たって、同じよ。たとえ何人来たって私が追い返してあげる」

 人間は弱っちい生き物だ。
 百年の間に何度かここへ来た人間もいたが、私に勝てるものなどいなかった。
 ましてや、しっぽが九本になった私に叶う人間など、もうこの世界のどこを探したっていないだろう。

「それにしても、開拓地だなんて……」

 精霊が不安そうに呟いた。
 私は気分が悪くなって、悪態をついた。

「人間は愚かだわ。この森をなくそうなんてこと、させない」

 私は知っている。
 人間たちは、自らの領土を広げるために、木を切り倒し、森を焼き払い、そこへ新たな街を作るということを。
 それがどれほど愚かなことか、人間は分かっちゃいない。
 森がなくなれば、精霊たちは消え去り、動物は死に絶え、そして瘴気はこの地に蔓延することになるだろう。

「それに魔獣を管理するですって? ほんと、傲慢もいいところだわ」

 まぶたを伏せる。
 私たちは管理されるものじゃない。
 人間の手に負えない生き物だということを、あの男は知らないのだろうか。

「とにかく、しばらくは用心ですね」

「まったく。人間の話をしていたら、気分が悪くなっちゃったわよ」

 気分が重くなって、私はため息を吐いた。
 大儀そうに立ち上がって、ゆったりと歩き出す。

「どちらへ?」

「……少し、外へ出てくるわ」

 そう言って、ふすまに手をかけた。
 森には相変わらず雨が降っている。
 私は大好きな森へと歩き出した。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

処理中です...