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第3章 夏だ!海だ!バカンスだ!

ドライブ!

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 次の日。
 
 昨日海でたくさん泳いだせいか、ショコラは少し寝坊してしまった。
 いつもは朝の七時には起きているのだが、時計を見るともう八時だ。
 いつもより遅い時間で、ショコラは飛び上がってしまった。
 移動の疲れもあったのだろう。
 急いで支度を整えて一階へ降りると、シュロがのんびりとリビングでコーヒーを飲んでいた。
 
「おはようございます、寝坊してしまってすみません……!」

「おはようございますショコラさん。寝坊だなんて、そんなことはどうだっていいんですよ、旅行なんですから。それにみなさんも今さっき起きたばかりみたいですし」
 
 そう言われてあたりを見渡せば、リリィとヤマトしかいない。
 どうやらラグナルとルーチェ、ミルメルはまだ眠っているようだった。
 ショコラはホッと胸をなで下ろす。

「朝ごはんは外でのんびりといただきましょうか」

 リリィがふわぁとあくびをしながらそう言った。

「なあ、これ食べてみてくれよ。ここにあったレシピで作ってみたんだ」

 ヤマトがそう言って、キッチンで作っていたものをテーブルに持ってきた。
 甘い香りに、ショコラの目がぱっちりと覚める。

 皿の上には、ふわふわのスフレパンケーキがのっていた。
 そばに甘そうなクリームが添えてあり、メープルバターソースがかかっている。
 苺をたくさんのせたそれは、ショコラのお腹をぐう、と鳴らした。
 昨日もあれだけ食べたというのに、ずいぶんと食いしん坊なお腹である。

 今日も外はいい天気で、相変わらず青い海がキラキラと輝いている。
 ショコラたちは一足先に、デッキの上のテーブルで新鮮な果物ジュースと一緒に、パンケーキなどをのんびりといただいたのだった。

 ◆

「今日はどっかに行くか?」

 地図を広げて、ヤマトがそう尋ねた。
 朝九時。
 寝坊組がやっと起きてきて、昼食を食べている横で、ヤマトが地図や観光案内のパンフレットをペラペラとめくっていた。

「ちょっと車で出たら観光地結構あるみたいだし」

「いいですねぇ。ここは少し人里から離れてますけど、車で出ればショッピングモールもありそうですしね」

 リリィがヤマトの手元を覗き込みながらそう言った。
 そばで話を聞いていたショコラが首をかしげる。

「ドライブってなんですか?」

「ああ、車に乗って景色を楽しむんですよ。今日は他の観光地に寄ったり、お買い物をしたりしようと思います」

 ショコラは目を輝かせた。

「楽しそうですね!」

「ええ、楽しいですよ。こんなに景色がいい場所なんだもの」

「んじゃあ、今日はドライブでもするか」

 ヤマトがそう言うと、眠そうにしていたミルとメルがドライブ、という単語を聞いて目を輝かせた。

「ドライブ!」

「メル窓側の席だもんね!」

「ミルも!」

「はいはい」

 こうして一行の本日の予定が決まった。

 ◆

 別荘のすぐそばに駐車場があり、ワンボックスカーが止めてあった。
 ショコラはこのような車に乗るのは初めてなので、興奮してしまった。

 運転席にヤマト、その隣にシュロ。
 二列目にミルメル、リリィ。
 三列目にショコラ、ラグナル、ルーチェの順番で座った。
 
 それぞれ勝手にしゃべるので、車内は賑やかだった。
 ヤマトがエンジンをかけ、車を出発させると、ショコラは嬉しくなってしっぽをぶんぶんと振った。

「ヤマトさん、すごいです! 車を運転できるんですね!」

「ん? あぁ、ってか全員一応免許もってんじゃね?」

「そうなんですか?」

 ショコラがそう聞くと、リリィとシュロとラグナルも持っているという話をしていた。

「でも私、ペーパーなんで、こんな大きな車は運転できませんよ」

「わたくしめも年寄りですので……」

「免許証持ってきてない……」
 
 ふるふるとラグナルは首を振った。

「お前ら運転したくないからだろ」

 ヤマトが呆れたように言った。

「ルーチェさんは車、運転できますか?」

 ショコラがそう聞く。

「はぁ? 車の運転なんてできるわけないでしょ? 運転なんてものはね、下々の者がすればいいのよ!」

 ルーチェが偉そうにいう。
 しかしリリィはなにやら事情を知っているようで、ニヤニヤして言った。

「私、昔聞いたことありますよ」

「な、なにをよ」

「試験落ちちゃって、怒って教習所に通うの、やめちゃったんですよ」

「ち、ちがーう! あたしにはチビがいるから、車なんて必要ないと思ったの!」

 慌ててルーチェが否定する。
 ふとショコラは首をかしげた。

「そういえばルーチェさん、チビはどうしたんですか?」

 チビとはルーチェの愛竜のことである。

「チビは実家に預けてるわよ。しっかりお世話されているし、お土産もいっぱい買って帰るから大丈夫よ」

 そう言って、ルーチェはもう話したくないというように、窓を全開にした。
 ショコラもそんなことができるのかと、ルーチェを真似して、窓を全開にする。

「うわぁ……!」

 車は海沿いの道を走る。
 窓を開けると、風が吹いてきて、気持ち良かった。
 ショコラは窓から海を見る。
 どこまでいっても海は青くて、綺麗だった。

「気持ちいい……」

 青い海。
 白い雲。
 最高のドライブ日和である。
 窓から流れていく景色を見るのは、楽しかった。

 潮風を感じながら、耳をひょこひょこと動かす。
 するとヤマトが、車に搭載されていたラジオをつけた。
 よくテレビで聞く、明るい音楽が流れてくる。
 
 誰が歌い始めたのかは分からない。
 けれどいつの間にか、みんなでドライブしながら、大合唱していたのだった。

 ◆

 午前中、ショコラたちは車にのって、様々な観光地へ赴いた。
 高地へ登り、海や街を一望したり、てっぺんの部分が凹んだ不思議な山を見たり。
 どこへ行っても海が見えて、綺麗じゃない景色なんて一つもなかった。
 ショコラたちの別荘はローカルな場所に位置しており、静かだったのだが、車で少し出ると観光地も観光客も多い、賑やかな土地であることが分かった。

「さて、そろそろお昼ですし、どこかで休憩でもしましょうか」

 リリィがそう言うと、観光マップを広げていたシュロが

「近くにアロワ通りというところがありますよ。ホテルやレストランや、他にもお店なんかが立ち並ぶ観光地のようですな」

 と言って、アロワ通りのことを説明してくれた。
 シュロによるとアロワ通りは一流ホテルや高級ブランドショップ、レストランが数多くあるので一年中観光客と地元の人々で賑わっているらしい。

「あら、じゃあそこでお昼にしましょうか。お買い物もしたいですし」

 リリィが嬉しそうに頬に手を当てる。
 ミルメルもきゃっきゃとはしゃいだ。

 前の二列で盛り上がっている中、三列目にいるショコラは何か違和感を感じていた。
 ルーチェは疲れているのか、途中で爆睡してしまったので静かなのは当たり前なのだが、ラグナルも先ほどからあまり話さないのである。

「ご主人様?」

 心配になったショコラがラグナルを覗き込む。
 ラグナルはどこか顔が青い気がした。

「大丈夫ですか?」

「……」

 ラグナルはアンニュイな顔でショコラを見た。
 そしてふるふるふる、と首を横に振る。
 ショコラは不安になって、ラグナルの背を撫でた。

「気分が悪いですか?」

 こくこく。
 
 ショコラは昨日海で遊んで風邪でも引いてしまったかと、ラグナルの額に手を当てた。しかし熱は自分と変わらないような気もする。
 そうしている間にも、ラグナルはどんどんグロッキーになっていく。

「……く」

「え?」

「は、吐く……」

「えええ!?」

 今にもリバースしてしまいそうなラグナルに、ショコラは慌ててなぜか備え付けてあったビニール袋を渡した。

「す、すみせん、ご主人様が……!」

 前にいたリリィに声をかける。
 リリィは振り返ると、ぎょっとしたような顔になった。

「ラグナル様、酔っちゃったんですか?」

「……」

「酔い止め、もしかして飲み忘れたんですか!」

 ラグナルは涙目でうう、と呻いた。

「ヤマト、車止めてください! ラグナル様が吐きそうです!」

「は? もう少し待てよ。この道路駐停車禁止だからよ」

「ううう……」

「が、頑張ってくださいご主人様ーー!!!」

 一瞬にして車内はパニックになったのだった。

 ◆

「もう、なんで酔い止めを飲んで来なかったんですか」

「……」

 リリィが呆れたようにつぶやく。
 ぐで~っと弱り切ったラグナルに、ヤマトがキンキンに冷えたフルーツジュースを渡す。

「ほら、酸っぱいもんでも飲んでろ」

 ラグナルはそれを受け取ると、力なく、ちゅーとストローを吸ったのだった。
 
 あれから、一行はなんとかアロワ通りにたどり着いた。
 ラグナルが限界そうだったので、近くにあったカフェに入り、トイレを貸してもらった。
 そして現在、そのままカフェで休憩中というわけなのである。
 カフェの店員は親切で、わざわざラグナルのために、ソファに毛布を用意してくれた。
 ラグナルはそこに寝転がって、体を休めているのだった。

「久しぶりすぎて、油断してた……なおったかと思ってた」

 ぐすん、とラグナルは鼻を鳴らす。

「体質ですから治るとかないと思いますよ」

 どうやらラグナルは車酔いしやすい体質のようだった。
 ショコラは車酔いを知らなかったが、人間界でもたまに馬車で酔う人がいるらしいので、なんとなくそれと同じものなのだと理解した。
 それにしてもラグナルは辛そうである。
 
「いつも移動魔法で移動するから……乗り物は苦手……」

「そ、そうだったんですね」

 酔い止め、という薬を飲まないといけなかったらしい。
 リリィが腰に手を当てて言った。

「酔い止めって、一昔前は眠くなるだけであまり効かない場合も多かったんですけど、今はもう、すっかりきくようになったんです。だから酔いやすい人は必須なんですよ」

 隣でジュースを飲んでいたルーチェが、心配そうにラグナルに聞いた。

「ラグ、あたしが膝枕してあげようか?」

「……今動いたら吐いちゃう……」

「そ、そう」

 ラグナルはすっかり弱り切っているのだった。

 ◆

 ラグナルが横になっている間、ショコラたちもせっかくなのでカフェで休憩することにした。
 どうやらこのカフェは様々な種類のランチプレートを売りにしているらしく、厨房からはいい香りが漂ってきている。
 すぐそばにビーチがあるので、海を眺めながら食べたり、浜でミニピクニックをしながら食べるのが人気らしい。

 ショコラたちも早速ランチプレートを注文した。
 ショコラが注文したプレートは、ガーリックシュリンプにマッシュポテト、サラダの入ったものだった。ガーリックとエビのいい香りがして、ぐう、とお腹が鳴る。
 他にもステーキチキンコンボに、バーベキューショートリブなど、美味しそうなものがたくさんあった。

 あまりラグナルのそばで食べると気分が悪くなってしまうかもしれないので、リリィはショコラとミルメル、ルーチェを連れて、ビーチでミニピクニックをした。
 ラグナルの面倒はシュロとヤマトが見ている。
 ヤマトは運転で疲れたのか、クーラーの効いた部屋でのんびりとメニューを眺めていた。
 シュロも同じように案内で疲れたのか、昼からお酒を煽っている。
(シュロの場合はただ飲みたいだけかもしれない……)

 ショコラは初めて見る賑わったビーチに、しっぽを振った。
 ビーチは、観光客がたくさんいて、とても賑わっていた。
 親子に、カップル、友人同士。
 みんな笑顔で、幸せそうだった。
 長細い板の上で波に乗っているのは、サーフィンというものらしい。

 ショコラはそれらの光景を見ているだけで、心浮き立つような気がした。
 ベンチに座って、そんな賑やかなビーチを眺めながら、ランチプレートを食べる。
 海を見ながら食べるごはんは、とても美味しかった。

 けれど、ラグナルと一緒に食べたかったなぁ、と思うショコラなのだった。
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