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第2章 王弟ロロ&秘書コレット襲来

大人たちの事情

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「まったくもう、ヒヤヒヤするようなこと、言わないでくださいよ!」

 ショコラを見送ったリリィは、コレットに詰め寄った。
 コレットはどこ吹く風である。

「ショコラ様が唯一、陛下の子を身篭られる可能性のある女性だということは本当ではないですか」

「だぁー! ダメですダメ! ショコラさんにはまだ早いです、そんな話は! キスで子どもができると思ってるんですから!」

「……純粋でいらっしゃるのですね」
 
 コレットは目をつむった。
 少し心配そうな顔だった。

「大体、あの二人はまだそういう関係じゃないんですよ」

 リリィは頭痛をこらえるような表情で言う。

「聞いております。今は主従関係だとか」

「じゃあなんであんなこと言うんですか!」

「私は本当のことを申しただけですが。ここにきた目的を隠しても仕方ないでしょう」

 落ち着いて話を聞いていたシュロが、丁寧に聞いた。

「目的といいますと?」

「ですから」

 ふう、とため息を吐いた後、コレットは言った。

「私はロロ様の秘書として……前王宮侍女長として、ラグナル様の妻となられるお方を保護した方がよいか、確認しにきたのです」

 ──今さらではあるが。
 ここの館にいるものたちは皆、ラグナルとその妻となるもののために集められていた。
 ラグナルが魔王を休業すると決めたとき、宮中関係者のごく一部の者にだけ、花嫁となる女性を見つけたと報告し、その娘としばらく暮らすと伝えていたのである。
 もちろんそれはショコラのことだ。
 ラグナルはショコラに恋文を送ったつもりだったのだが、ショコラはその当時文字が読めなかった。孤児院の院長に意地悪をされて「魔王の召使になれ」と言われているのだと、勘違いしてしまったのである。
 ショコラはまんまとそれを信じてしまい、今日まで至るというわけだ。

「保護……」

 眉をひそめるリリィに、それまで黙っていたロロが言った。

「俺たち、ちょーっと不安なんだよね。魔王の未来の花嫁が、しっかり守られて暮らしているのか」

 リリィはムッとした顔になった。

「殿下。殿下は本音を言ってくださいませ。結局殿下の目的って」

「違うよ、違う。俺はあくまで、ショコラのことを見に来たついでに、兄さんに会いに来たんだもんね」

 リリィはため息を吐いた。

「まったく、どこまでが本当なのやら……」

 コレットがテーブルに視線を下げていった。

「先日、雨の日にショコラ様とバス停でお会いいたしました。そのとき、ショコラ様は一人でおさんぽをされていました。外を一人で出歩かせるなど、言語道断かと。何かあったらどうするのですか」

 リリィはげ、という顔をした。

「来てたんですか」

「ええ」

「……この辺りは最近ラグナル様が魔物の討伐をしたばかりなんですよ。それにショコラさんには、あの指輪がありますし」

 歓迎会のとき、ショコラはラグナルに不思議な指輪を貰っていた。
 それは自分では外すことのできない指輪で、ショコラの危険が迫ったとき、ラグナルに知らせる仕組みになっている。

「それでも念には念を入れるべきです」

 コレットはため息をついた。

「ショコラ様は、後宮の奥深くで大切に大切に、お育てすべきです」

「いいえ、こちらで十分ですわ。私たちの愛情をいーっぱい浴びてすくすく育っていますから!」

 二人の間にぱちぱちと見えない火花が散った。

「まあまあ、そうピリピリなさらずに。ショコラさんを大切にしたいという思いは同じなのですから」

 シュロが穏やかに割って入った。

「二日間滞在なさるなら、その間にショコラ様のことを観察されてはいかがでしょうか? それでお二人のお眼鏡に叶わなければ、これからどうするかもう少し考えればよいかと」

「シュロ! ですが……」

 リリィが驚いたような顔をした。
 
「ショコラさんにとって、もっといい環境があるのなら、彼女はそこに身を置くべきなのです」

「……」

「ええ、その通りです」

 こくり、とコレットも頷く。

「そうでしょう、殿下」
 
 コレットはロロの方を見た。

「……え? 何だって?」
 
 ところがロロは、別のことを考えていたようで、なぜかニマニマとしていた。
 話を振られて、きょとんとしたような顔になる。

「やっぱり……!」

 リリィは何かを確信したのか、呆れたような顔をした。

「まったくもう、さっさと帰ってくださいよ!」

「ショコラ様がしっかりとお世話されているのを確認できれば、帰ります」

 こうしてロロとコレットが滞在することになったのだった。
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