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第4章 魔王様は脱力系?
ただいま
しおりを挟む雪に残ったラグナルの足跡を追うようにして、ショコラは庭へ向かった。
その間に、いろんなことがグルグルと頭の中で渦巻いて、ショコラを少し緊張させていた。
ラグナルにいっぱい迷惑をかけてしまったこと。
壊れかけた魔王の器や、体調のこと。
どうしてだろう?
さっきまで、あれほど会いたいと思っていたのに、いざラグナルに会えるとなると、なんだかドキドキしてきたのだ。
(どうしよう、やっぱり嫌われちゃったら……)
のろのろと足跡を追って、庭に出る。
庭は一面、真っ白な雪に覆われていた。
その中で、一点だけ、紙に落としたインクのように、ぼんやりと滲むような黒があった。
ラグナルの艶やかな髪が、風に揺れる。
その後ろ姿を見て、ショコラは足を止めた。
話したいこと、謝りたいことはいっぱいある。
でも。
ラグナルが振り返って、目を見開いた。
「……ショコラ?」
その声を聞いた瞬間、今まで抱えていたいろんな不安が一瞬にして消え去った。その代わり、胸にあふれんばかりの喜びが湧いてくる。
「ご主人様っ!」
気づいたら、ショコラは駆け出していた。
ただただ、喜びだけが、今のショコラを突き動かす動力源になっていた。
まっすぐ、ラグナルの胸に飛び込む。
ラグナルはショコラを抱きとめきれずに、そのままぽふりと雪に倒れてしまった。
ショコラはしっぽを千切れんばかりに振って、ラグナルにぎゅう、と抱きつく。ショコラの耳がくすぐったかったのか、ラグナルが笑った。
「くすぐったいよ」
その声で、はっとショコラが顔を上げる。
二人の視線が交わった。
ラグナルは優しく微笑んだ。
「おかえり、ショコラ」
ショコラの目に、じわ、と涙がにじんだ。
言いたいこと、謝らなければならないこと、いっぱいある。
けれどまず、言わなければいけないことは。
ショコラの顔に、夏の花が咲いたかのような、明るい笑みが浮かんだ。
「……ただいま、です。ご主人様」
ショコラはようやく、自分の居場所を見つけた。
どんなに暗い闇の中であっても、もうきっと迷わないだろう。
明るくて、優しくて、あったかい。
ショコラの居場所は、幸福の匂いで満ち溢れていた。
もうすぐ雪解けの季節だ。
これからはきっと、少しくらい辛いことがあっても、笑っていられる気がする。
ショコラはもう、一人ではないと知っているのだから。
雪解けを促すかのように、あたたかな陽の光が、いつまでも二人を優しく照らしていたのだった。
第4章 おしまい。
明日、エピローグで第1部終了となります。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
応援ありがとうございます!
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