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第2章 ショコラと愉快な仲間達

休日

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 次の日。

「今日は、部屋で安静にしていましょうね」

 リリィはそう言って、ショコラの朝ごはんの食器を片付けた。

「で、でも、こんな怪我、もう大丈夫です」

 ショコラは足をぶらぶらしてみせた。
 昨日、坂道で足を滑らせてひねった足首は、エルフ印の湿布のおかげか、すっかりよくなっていた。痛みもほとんどない。
 それに昨日から何も仕事をしていなくて、ショコラは落ち着かなかった。

「だめです。何かあったらどうするんですか」

 リリィは食器をかたしながら、首を横に振った。

「今日は休日にしましょう?」

「休日……」

「何もしなくていいんです。寝ていても、お菓子を食べても、遊んでも。好きな場所に行っていいんです。あ、でも今日は部屋で大人しくしていてくださいね」

「でも……」

「いいんです。私だって、シュロだって、そういう日があるのですから」

 リリィは優しくそう言って、食器を乗せたワゴンを部屋の外へ運んで行った。

「……」

 ショコラは椅子に座ったまま、ほうけたように、テーブルをじっと見つめていた。
 
 ──休日。

 それは一体なんなのだろうか。
 これまでにも何度か「休日」をもらっていたのだが、ショコラはいまいち、
「何もしなくてもいい日」というものを理解できなかった。

 今日はたまたま、怪我のことがあるからじっとしていなければならないが、ショコラはそういう日がなんだかそわそわして、落ち着かない。
 だって、何かしなければ、ショコラがここにいる意味が、居場所がなくなってしまうのだ。

 孤児院ではいつもそうだった。
 何かしなければ、貢献しなければ、いつ追い出されるか、折檻されるかわからない。
 何か、誰かのために働き続けないと。
 居場所が、なくなってしまう。
 ショコラはそれが怖かった。
 今ここから追い出されるのが、何よりも辛いと思った。
 ショコラに帰る場所はないのだから。

 だから今までは、休日と言われても、ラグナルの世話をせずに、館の掃除などをしていたのである。

(何すればいいんだろう……)

 部屋の外に出て掃除をしているのを見つかったら、怒られてしまうだろうか。
 しばらくぼうっとしていたが、今日に限って、ミルやメルも部屋にやってこない。

「……」

 思い至ったショコラがしたことは、結局部屋の掃除なのだった。

 ◆

 自分の部屋の掃除は、もう何度だってしている。
 ショコラが使うには、あまりにも品が良すぎて勿体無い気がする大きな部屋。この部屋を汚すまいと、ショコラは寝る前や朝起きてからのちょっとした時間に、かかさず掃除をしているのだ。

「ちょっとくらい、外に出たって平気ですよね」

 ショコラはドアを開けて、きょろきょろと辺りを見回した。
 キッチン横の部屋までいって、掃除道具を洗いたい。
 こそこそと廊下を出て階段を降りると、ダイニングの扉が閉まっているのが見えた。

(あれ? いつも開けっ放しなのに、なんで……)

 首を傾げながら、近づけば、中から騒がしい声が聞こえてきた。
 どうやらミルとメルが中にいるようだ。
 二人を叱るヤマトの声も聞こえてくる。
 ショコラが耳をすませていると、いきなりドアが開いた。
 ビクッとすれば、ヤマトが出てきたところだった。

「あっ、お前なんでこんなところにいるんだよ!」

「え、あの……」

 モップとバケツを握りしめて目を白黒させていると、ミルメルも飛び出してきて、ショコラに言った。

「ショコラ、こないの!」

「あっちいってー!」

「そ、そんな……」

 がーん、とショックを受けてしまったショコラ。

(な、なんで入っちゃダメなんだろう?)

 ショコラがオロオロしていると、中からリリィとシュロも出てきた。
 リリィはショコラを見て、目を丸くした。

「あら、ダメじゃないですか、ショコラさん。こんなところにいちゃあ」

「わたし、これを片付けようと思って……あと、もうお昼ですし……」

 そう言ってバケツとモップを見せると、シュロがそれをさっと受け取った。

「ささ、こんなものはわたくしめが片付けておきますから、ショコラさんは部屋でゆっくりとお休みになってください」

「さ、行きましょうね。もうお昼も用意していますから、部屋で食べましょう」

 ショコラはリリィに連れられて、部屋に戻ってきてしまった。
 ちょうどお昼時だったので、そのまま昼食の準備をして、リリィは部屋を去ってしまう。

(な、なんかみんな変……?)

 ショコラはぽつんと、閉じられた部屋のドアを見たのだった。

 ◆

 磨き抜かれたテーブルの上に頬をつけて、ショコラはぼうっとしていた。
 昼食を食べ終え、食器を下げれば、またリリィは部屋を出てしまった。
 広い部屋でひとりきり。
 何もすることがなく、ただ座っているだけ。
 仕事がないと、そわそわしてしまう。
 しっぽをいじいじして、ショコラはため息をついた。

「暇です……」

 何をしていいかわからない。
 ショコラは机にペタッと頬をつけて、昨日拾ったどんぐりを並べていた。
 ハート形のポシェットから、ころころといくつかのどんぐりが転がり出ている。
 時間がたったら虫が出てきてしまうので、昨日湯煎して、ついでに磨いておいた。そのおかげか、拾ったときよりもさらにツヤツヤになっていた。

「どんぐりさん、ころころころ……」

 ショコラはどんぐりを指でいじりながら、小さく歌った。
 ショコラはどんぐりを眺めているうちに、なんだかどんぐりたちが、この館に住む人たちに見えてきた。

「この細長いのながヤマトさんで、この小さな双子のどんぐりは、ミルとメル……それから」

 指で並べながら、ショコラはくすくす笑った。
 なんだか楽しくなってきた。
 小さな子の遊びのようだと思ったが、何をしてもいい時間だと思い直して、自由にどんぐりで遊んでいた。けれどふと、耳元であの叫び声が蘇る。


 ──早く死ねばいいのに。

「っ」

 昨日の夢が、フラッシュバックした。
 思わずびく、と飛び起きる。

「……」

 冷や汗が流れて、ショコラは固まってしまった。

(どうしよう、みんなに嫌われちゃったら……)

 先ほどのよそよそしい態度が蘇る。
 じわじわと、心臓が不穏な鼓動をたてていた。
 
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