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第2章 ショコラと愉快な仲間達

いたずら妖精ミル&メル

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 ショコラがこの館に来て、一週間が経った。
 やることが少なかったせいか、この館での生活にも慣れてきた。
 基本的に誰も何も怒らないし、そのおかげでショコラも緊張することなく、むしろのびのびと仕事を楽しんでいる。

 孤児院でいじめられながら暮らしていた時とは、天と地ほどの差があると思った。朝はラグナルが起きるまで自由にしていていいし、夜はごはんが終われば自由時間となる。
 リリィは毎日せわしなく働くショコラを心配するが、ショコラはこれくらいなんでもないと思えた。孤児院にいた頃は、起きている間はずっと、何かしらの作業を課せられていたからだ。

 だからむしろ、何もせずフラフラしている時間の方が、不安になってしまう。
 ラグナルが寝ていたり、出かけたりして暇な時間は、できるだけ館の掃除をするようにしていた。

 リリィは、やることなど何もないというが、それは探さなければ、という意味だった。探せばやることは山のようにある。
 館の掃除がその一つだ。
 さすがにこの人数で、館を綺麗に維持することは難しい。
 だからせめて、生活スペースだけでも、と思い、ショコラは空いた時間に一生懸命掃除をしているのだった。
 
 ◆

 ラグナルが昼寝をするというので、ショコラはラグナルが寝入るのを見届けた後、館の掃除をしようと、モップとバケツを抱えてうろうろしていた。
 こうしているうちに、だんだんと館の中も覚えてきて、迷子にもならなくなった。入ってはいけない部屋は基本的にないらしく、どの部屋も好きに使っていいという。

「今日はこの部屋をお掃除してみましょう」

 よいしょ、とドアノブに手をかける。
 しかしなぜか鍵がかかっていて、開かなかった。
 そういえば、一つだけ鍵がなくなってしまって、開かない部屋があるのだとリリィが言っていた。

「鍵、どこにいっちゃったんですかね……」

 ショコラはそう呟くと、仕方ないので隣の部屋のドアを開けた。
 薄暗かったので、あかりを探してスイッチを入れると、パッと柔らかな光が部屋を照らした。どうやらそこは遊戯室のような場所だったらしく、ビリヤード台やら何やらが所狭しと置いてあった。

「うわぁ、こんなお部屋もあったんですね」

 誰も使わないせいか、やっぱり埃っぽい。
 ショコラは窓を開けると、さっそくハタキでペンペンと埃を落とし始めた。

 ◆

「っくしゅ!」

 ビリヤード台の埃を落とし、雑巾でピカピカに磨いていると、ショコラはふと背後に気配を感じた。何かコン、という音が聞こえたような気がしたのだ。

「ん?」

 振り返ってみれば、後ろの台に綺麗に並べていた玉が、バラバラになっていた。せっかくピンで留めたのに、なぜか外れていたのだ。

「あれ? おかしいなぁ」

 ショコラはまた玉を集めて、三角形に直す。
 そして元のビリヤード台の掃除に戻ろうとすれば……。

「あ、あれぇ!? ちゃんとここに置いたはずなのに……」

 また玉があちらこちらに転がっている。
 ショコラはきょろきょろと辺りを見まわした。
 なんだか気味が悪くなってきたのだ。

「あの、誰かいるんですか?」

 もちろん返事はない。
 ショコラは気味悪く思いながらも、再び雑巾を手に取る。
 すると、耳としっぽが誰かの手にむんずと掴まれた。

「ひゃあああ!?」

 ショコラはパニックになって、腰を抜かしてしまった。
 頭を抱えて震えていると、きゃっきゃと楽しそうに笑う子どもの声が、遊戯室に響き渡った。

「きゃー、おかしい!」

「あはっ、おもしろーい!」

 ショコラは恐る恐る顔を上げる。
 するとそこには、五歳児程度の姿をした子ども二人が、ふわふわと宙に浮かんでいた。

「だ、誰!?」

 水色のふわふわとした髪の少女、桃色のふわふわとした髪の少女。二人の背には、それぞれ透き通った美しい羽がついていて、どうやらそれで飛んでいるようだった。

「あーあ、見つかっちゃった」

「見つかっちゃった!」

 二人はお互いに手を合わせて握りあうと、ショコラの方を見て、ニコッと笑った。

「ミルの名前はミルティア」

「メルの名前はメルティア」

「「このおうちの妖精なの!」」

 双子の妖精は、仲良く声を揃えてそう言った。

「妖精……?」

 ショコラは首をかしげる。
 そもそも妖精族自体あまり見たことがなくて、少し興味が湧いた。
 おそるおそる立ち上がって、二人を観察してみる。

 妖精族というのは、体はとても小さいが、その身に多くの魔力を宿した種族らしい。勝手に人の家の天井裏や庭に暮らしていたりすることが多く、妖精につかれた家には幸福がやってくるという言い伝えがある。
 水色の髪の方がミルティアで、桃色の髪の方が、メルティアらしい。

「この家にずっと住んでるから、ミルたちは偉いの」

「偉いの!」

「そ、そうなんですか?」

「「そうなの!」」

 二人は手を合わせてそう言う。

「わんちゃんのお名前は?」

「お名前は?」

「わ、わんちゃん……」

 ショコラがガクッとなる。

「わたしは、ショコラと言います。ご主人様のお世話がかりをしています」

「!」

 二人は顔を見合わせた。

「ラグ様の?」

「そうです」

 ショコラが頷けば、二人はぱっと顔を輝かせた。

「耳が生えてる」

「しっぽが生えてる」

「「おもしろーい!」」

「え? ちょ、ちょっと!」

 きゃっきゃっと笑いながら、二人はショコラの耳を引っ張ったり、しっぽをひっぱったりする。

「ミル、ショコラ気に入った!」

「メル、ショコラ気に入った!」

 ひえええ、とショコラは悲鳴を上げた。

「しっぽ、引っこ抜けちゃいます!」

 そう叫んでも、ちっともいうことを聞いてくれない。

「や、やめてくださーい!」

 ショコラの悲鳴が部屋に響き渡ったのだった。
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