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虚ろな探偵を満たすもの
蜻蛉と鉄塊と探偵の混戦
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「ほんで、あんた」
「ザザ」
「そう、じゃあザザ。あんたは何でそんな姿になっとんの?」
「先代殿と同じ」
「先代? 親みたいなもん?」
「・・・さっきから質問ばかり」
しょうがない、いきなりこんな所に連れてこられたんじゃから。
気がついたら身体の傷や腐っとったとこをなにやら別のもんで代替、いや埋めたというか、とにかく治療してくれたんは間違いないようじゃし。
だったらそれなりに礼を尽くすのが筋。とはいえ。
「さっきまで怪物だったんが、いきなり人になったら驚くんが道理やろ」
「そうなのか。皆こういうものだと思っていた」
「皆って・・・」
こいつ、人間なら誰もが猿面のバケモンに変われると思っとるんか?
どういう育ち方したんじゃ。
「まあ、確かにワレのことも話さんとな」
色々知りたいことはあるが、まずはこいつに信頼されんと始まらん。
「ワレの名前はジキ。糸追ジキ」
「イトオイジキ・・・」
「そうじゃ。ギギ、改めて助けてくれた礼を言わせてくれ」
「・・・別にジキの為じゃない。助けたのは必要だったから」
必要?
「なんか理由があるんか?」」
「ああ。『土蜘蛛』の再興には異能持ちの協力がなくてはならない」
まあ、思い返せばそのままの流れでここらへんに住むようになって、もう随分になるの。
「って、またあんたか蜻蛉。私には勝てないっていい加減学習したんじゃないの!?」
「あいにくそうそう聞き分けのいいことでは、怪人はやっとれんのでな、探偵」
体当たりであの白いのの上から無理やり引き離した後、隙を見ては掴もうとするこちらと、即座にそれを振りほどく黄色矢との間でなおもぶつかり合いが続いていた。
一旦空に連れ去ってしまえばこちらの独壇場なんじゃが、そうそう甘くはないか。
おかげでこいつをワシに引き付けることには成功しとるが。
「そうか、馬鹿なのか。だったらあの白いのと一緒に、ここできっちり始末しないとね」
なんじゃ、その言い方はワレを侮っとらんか? 探偵。
「だったらその思いあがり、骨の髄まで崩さんとな!」
気合を入れ、耳蜻蛉は黄色矢へ真正面から突っ込む。
こいつの得体の知れん力は脅威じゃが、流石に空飛ぶ蜻蛉には敵わんじゃろ。
「っと。まだ浸し切ってないのに、騒々しい」
何やらよくわからんことを呟く。そうして黄色矢は紙一重でこちらの突進を避ける。
羽の刃、あの探偵兼怪人の腕を獲った斬撃も傷ひとつ負わせることは出来なかった。
またか。
こいつがここに来てから、不本意ながら何度か襲ったり襲われたりする機会はあった。身体の性能はこちらが上、異能の力込みでもそうそう苦戦するはずのない相手がとれない。
これ程刃を繰り出しても致命傷とはならず、逆にただの人の身で探偵が放つ殴打や蹴りが悉くクリーンヒット、下手すればそのまま逝ってしまいかねん威力を持つ。
そんな不条理の権化が黄色矢。
しかも戦えば戦う程こいつは強くなってるような、そんな洒落にならん想像が頭をよぎるんじゃ。
「じゃから、やっぱここで始末すべきじゃろ!」
ヤマメとかいうメイドが言った通りじゃ。
ワレらは無意識にこいつらを恐れとった。
時間がたつほど、手が付けられんことになるんは明らかじゃったのにな。
「無意識にぬるま湯につかるんが癖になっとったちゅうことか?」
戦力均衡、互いに手を出さないことが暗黙の了解になった状態を作るのに、本当に苦労したんでついついそれに甘えておった。
その頃の考えのままで、黄色矢、それにあの蛇宮を相手にやっていけると思いこんどった。
あの武装メイドに言われるまでそのことに気付かんかった、いや見ないようにしとった?
どっちにせよ・・・みっともないの。
「この汚名を雪ぐには、一発ここで汝を倒すしかないじゃろ!」
「よくわからないけど、あなたがかっこつけるのに人を巻き込まないでよね」
「何を今更。人の事情を無視してワレらを殲滅することしか考えとらんイカレた汝がそれを言うか」
少なくともこいつにとって街の平和だとかはどうでもいいものだと、はっきりわかる。
自分勝手な悪もんはどっち、という話じゃろ。
「汝らの無茶なやり方は、ワレらだけでなくこの街にとっても迷惑なん
じゃ、探偵ならそれくらい理解せい」
それがわからないなら、秩序の守り手とは程遠い。
徒に戦うことしか考えない奴は、災害と同じじゃ。
「仕方ないね」
ぐるん、と。首を回して黄色矢リカはこっちを見た。
「そうまで言われちゃ、私もまだ足りない、なんて言ってられないよね」
腕を大きく振りかぶり。
「探偵、黄色矢リカの名の下に、今からあなたの心と身体を屈服させる」
探偵はそう宣言した。
「飽きもせず遠くから撃ってきて、いい加減うっとうしいよ鉄くず!」
「あなたこそちょこまかちょこまかと動き回るの止めてください・・・撃ち続けるのは疲れるんですから」
「それで、はいそうですかと言ってくれる人間は、あなたの脳内にしかいないよ」
「・・・・」
身体がまだ上手く動かせない。
さっさと回復しないと。
このままじゃ置き去りにされたまま、色々と進行していってしまう。
ヤマメさんはいつの間にか到着していた他の探偵団の団員の銃撃を迎撃しつつ、主たる標的をヒルメに絞ってバンバンドンドン爆撃を繰り返してる。
街に不必要な被害を与えないように考えてくれている、と思う。
いやそうでなかったら私が困る。
私がふてくされて出ていったせいで街に甚大な被害がってなったら、言い訳出来なくなくなるでしょうが。
一応探偵の仕事は真面目にやってるよ?
「まずいですね」
私を守るように傍に佇むヤマメさんが、こっそり話しかけてきた。
「湧いてきた数が思ったより多い。それに何やら吹っ切れた感じであなたの同僚の動きがいい・・・主、まさか変なこと言って焚き付けたりはしてませんよね?」
「そんなことは・・・あるかも」
「嘘のつけないのがあなたの美点ですね、それから今後はその煽り癖をどうにかしてください」
「はい・・・」
おかげでこうして地べたに這いつくばってる。
「頃合いを見て逃げますよ、それは糸追ジキ、『耳蜻蛉』には通してますので」
「へえ、それがあの蜻蛉の名前なんだ」そしてやっぱりあれはジキだったのか。
だけどまずいな。
聖屋の腕について、こっちの方で苦言を呈しておくつもりだったのに。このままじゃ一方的に借りを作ったままで終わってしまう。
かと言ってここであれに潰れられたら、ただでさえ不安な戦力が更に減る。
「私の言ってたこと、先に彼女に伝えてくれた?」
「はい、バリバリ探偵事務所にブッコんで黄色矢と団長を血まつり。これだけ言えばいいんですよね」
「そんなに殺意をむき出しにしたことを言った憶えはない」
確かに大体はそういう内容になるけどさ。
「もう少し細かいことを言っておく前に主の異変を感知したので、無理を言って一緒に来てもらったんです」
「そうなんだ」
「はい、道中打ち合わせた結果、あの探偵の相手は彼女が引き受けることになりまして」
ありがたいけど、それじゃあ彼女への借りがいよいよ大きくなる。
後から無茶な要求とかされたら困るな・・・
耳蜻蛉、糸追ジキ。このあたりでいい感じに危機に陥ってくれないかな。
そこを私たちが助ければ貸し借りゼロだと言い張れるから。
・・・あ、そんな若干ゲスいことを考えてる間にだんだん手足が動くようになってきた。まだしびれとかはあるけど、これ以上はさすがに引き延ばせない。
「・・・そろそろ行けるみたい」
「では、合図をしたら」
「ええ、お願い」
一気に動いて、ここから脱出する。
「それで、ジキは・・・」
言いかけた時に。
グゥジャ!
巨大な羽虫が潰れたような音があたりに響き、吹き飛ばされてきた耳蜻蛉が地面に激突した。
「あれ、やっぱりまだ足りなかったかな」
涼しい顔で腕を振りつつ、飛んできた方向から黄色矢が現れた。
探偵は頭脳労働担当とかいう常識を、こいつは完全に忘れてると思う。
しかしまいった。
さっき思ったことだけど、こうもすぐに実現すると嫌味にしか見えない。
そして存外、黄色矢がダメージを負ってないようなのがまずい。さっきはジキの方が圧倒して見えたのに。
こいつの能力がさっき直感した種類のものだとしたら。
わたしでは黄色矢に勝てない。
「『ハガネハナビ』」
可能性があるとすれば。
「脱出は任せた。あなただけが黄色矢リカに勝てる。そのことを私は信じているから」
「・・・・承りました」
何を言ってるのか、理解してくれたかは怪しい。
第一私の推理自体、根拠もない妄想に片足突っ込んだものだし。
こういうのこそ探偵の仕事なのに、私みたいな怪人に推理させるなよ。
だけど、この時鉄仮面の下で、船織ヤマメは誇らしげに笑っていた。
そのくらいのことは私にもわかる。
「ザザ」
「そう、じゃあザザ。あんたは何でそんな姿になっとんの?」
「先代殿と同じ」
「先代? 親みたいなもん?」
「・・・さっきから質問ばかり」
しょうがない、いきなりこんな所に連れてこられたんじゃから。
気がついたら身体の傷や腐っとったとこをなにやら別のもんで代替、いや埋めたというか、とにかく治療してくれたんは間違いないようじゃし。
だったらそれなりに礼を尽くすのが筋。とはいえ。
「さっきまで怪物だったんが、いきなり人になったら驚くんが道理やろ」
「そうなのか。皆こういうものだと思っていた」
「皆って・・・」
こいつ、人間なら誰もが猿面のバケモンに変われると思っとるんか?
どういう育ち方したんじゃ。
「まあ、確かにワレのことも話さんとな」
色々知りたいことはあるが、まずはこいつに信頼されんと始まらん。
「ワレの名前はジキ。糸追ジキ」
「イトオイジキ・・・」
「そうじゃ。ギギ、改めて助けてくれた礼を言わせてくれ」
「・・・別にジキの為じゃない。助けたのは必要だったから」
必要?
「なんか理由があるんか?」」
「ああ。『土蜘蛛』の再興には異能持ちの協力がなくてはならない」
まあ、思い返せばそのままの流れでここらへんに住むようになって、もう随分になるの。
「って、またあんたか蜻蛉。私には勝てないっていい加減学習したんじゃないの!?」
「あいにくそうそう聞き分けのいいことでは、怪人はやっとれんのでな、探偵」
体当たりであの白いのの上から無理やり引き離した後、隙を見ては掴もうとするこちらと、即座にそれを振りほどく黄色矢との間でなおもぶつかり合いが続いていた。
一旦空に連れ去ってしまえばこちらの独壇場なんじゃが、そうそう甘くはないか。
おかげでこいつをワシに引き付けることには成功しとるが。
「そうか、馬鹿なのか。だったらあの白いのと一緒に、ここできっちり始末しないとね」
なんじゃ、その言い方はワレを侮っとらんか? 探偵。
「だったらその思いあがり、骨の髄まで崩さんとな!」
気合を入れ、耳蜻蛉は黄色矢へ真正面から突っ込む。
こいつの得体の知れん力は脅威じゃが、流石に空飛ぶ蜻蛉には敵わんじゃろ。
「っと。まだ浸し切ってないのに、騒々しい」
何やらよくわからんことを呟く。そうして黄色矢は紙一重でこちらの突進を避ける。
羽の刃、あの探偵兼怪人の腕を獲った斬撃も傷ひとつ負わせることは出来なかった。
またか。
こいつがここに来てから、不本意ながら何度か襲ったり襲われたりする機会はあった。身体の性能はこちらが上、異能の力込みでもそうそう苦戦するはずのない相手がとれない。
これ程刃を繰り出しても致命傷とはならず、逆にただの人の身で探偵が放つ殴打や蹴りが悉くクリーンヒット、下手すればそのまま逝ってしまいかねん威力を持つ。
そんな不条理の権化が黄色矢。
しかも戦えば戦う程こいつは強くなってるような、そんな洒落にならん想像が頭をよぎるんじゃ。
「じゃから、やっぱここで始末すべきじゃろ!」
ヤマメとかいうメイドが言った通りじゃ。
ワレらは無意識にこいつらを恐れとった。
時間がたつほど、手が付けられんことになるんは明らかじゃったのにな。
「無意識にぬるま湯につかるんが癖になっとったちゅうことか?」
戦力均衡、互いに手を出さないことが暗黙の了解になった状態を作るのに、本当に苦労したんでついついそれに甘えておった。
その頃の考えのままで、黄色矢、それにあの蛇宮を相手にやっていけると思いこんどった。
あの武装メイドに言われるまでそのことに気付かんかった、いや見ないようにしとった?
どっちにせよ・・・みっともないの。
「この汚名を雪ぐには、一発ここで汝を倒すしかないじゃろ!」
「よくわからないけど、あなたがかっこつけるのに人を巻き込まないでよね」
「何を今更。人の事情を無視してワレらを殲滅することしか考えとらんイカレた汝がそれを言うか」
少なくともこいつにとって街の平和だとかはどうでもいいものだと、はっきりわかる。
自分勝手な悪もんはどっち、という話じゃろ。
「汝らの無茶なやり方は、ワレらだけでなくこの街にとっても迷惑なん
じゃ、探偵ならそれくらい理解せい」
それがわからないなら、秩序の守り手とは程遠い。
徒に戦うことしか考えない奴は、災害と同じじゃ。
「仕方ないね」
ぐるん、と。首を回して黄色矢リカはこっちを見た。
「そうまで言われちゃ、私もまだ足りない、なんて言ってられないよね」
腕を大きく振りかぶり。
「探偵、黄色矢リカの名の下に、今からあなたの心と身体を屈服させる」
探偵はそう宣言した。
「飽きもせず遠くから撃ってきて、いい加減うっとうしいよ鉄くず!」
「あなたこそちょこまかちょこまかと動き回るの止めてください・・・撃ち続けるのは疲れるんですから」
「それで、はいそうですかと言ってくれる人間は、あなたの脳内にしかいないよ」
「・・・・」
身体がまだ上手く動かせない。
さっさと回復しないと。
このままじゃ置き去りにされたまま、色々と進行していってしまう。
ヤマメさんはいつの間にか到着していた他の探偵団の団員の銃撃を迎撃しつつ、主たる標的をヒルメに絞ってバンバンドンドン爆撃を繰り返してる。
街に不必要な被害を与えないように考えてくれている、と思う。
いやそうでなかったら私が困る。
私がふてくされて出ていったせいで街に甚大な被害がってなったら、言い訳出来なくなくなるでしょうが。
一応探偵の仕事は真面目にやってるよ?
「まずいですね」
私を守るように傍に佇むヤマメさんが、こっそり話しかけてきた。
「湧いてきた数が思ったより多い。それに何やら吹っ切れた感じであなたの同僚の動きがいい・・・主、まさか変なこと言って焚き付けたりはしてませんよね?」
「そんなことは・・・あるかも」
「嘘のつけないのがあなたの美点ですね、それから今後はその煽り癖をどうにかしてください」
「はい・・・」
おかげでこうして地べたに這いつくばってる。
「頃合いを見て逃げますよ、それは糸追ジキ、『耳蜻蛉』には通してますので」
「へえ、それがあの蜻蛉の名前なんだ」そしてやっぱりあれはジキだったのか。
だけどまずいな。
聖屋の腕について、こっちの方で苦言を呈しておくつもりだったのに。このままじゃ一方的に借りを作ったままで終わってしまう。
かと言ってここであれに潰れられたら、ただでさえ不安な戦力が更に減る。
「私の言ってたこと、先に彼女に伝えてくれた?」
「はい、バリバリ探偵事務所にブッコんで黄色矢と団長を血まつり。これだけ言えばいいんですよね」
「そんなに殺意をむき出しにしたことを言った憶えはない」
確かに大体はそういう内容になるけどさ。
「もう少し細かいことを言っておく前に主の異変を感知したので、無理を言って一緒に来てもらったんです」
「そうなんだ」
「はい、道中打ち合わせた結果、あの探偵の相手は彼女が引き受けることになりまして」
ありがたいけど、それじゃあ彼女への借りがいよいよ大きくなる。
後から無茶な要求とかされたら困るな・・・
耳蜻蛉、糸追ジキ。このあたりでいい感じに危機に陥ってくれないかな。
そこを私たちが助ければ貸し借りゼロだと言い張れるから。
・・・あ、そんな若干ゲスいことを考えてる間にだんだん手足が動くようになってきた。まだしびれとかはあるけど、これ以上はさすがに引き延ばせない。
「・・・そろそろ行けるみたい」
「では、合図をしたら」
「ええ、お願い」
一気に動いて、ここから脱出する。
「それで、ジキは・・・」
言いかけた時に。
グゥジャ!
巨大な羽虫が潰れたような音があたりに響き、吹き飛ばされてきた耳蜻蛉が地面に激突した。
「あれ、やっぱりまだ足りなかったかな」
涼しい顔で腕を振りつつ、飛んできた方向から黄色矢が現れた。
探偵は頭脳労働担当とかいう常識を、こいつは完全に忘れてると思う。
しかしまいった。
さっき思ったことだけど、こうもすぐに実現すると嫌味にしか見えない。
そして存外、黄色矢がダメージを負ってないようなのがまずい。さっきはジキの方が圧倒して見えたのに。
こいつの能力がさっき直感した種類のものだとしたら。
わたしでは黄色矢に勝てない。
「『ハガネハナビ』」
可能性があるとすれば。
「脱出は任せた。あなただけが黄色矢リカに勝てる。そのことを私は信じているから」
「・・・・承りました」
何を言ってるのか、理解してくれたかは怪しい。
第一私の推理自体、根拠もない妄想に片足突っ込んだものだし。
こういうのこそ探偵の仕事なのに、私みたいな怪人に推理させるなよ。
だけど、この時鉄仮面の下で、船織ヤマメは誇らしげに笑っていた。
そのくらいのことは私にもわかる。
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