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怪人会議
しおりを挟む「じゃあ始めます・・・」
集合認識飽和学研究所内、第2会議室。
室内に集まった「拾人形探偵団」構成員は6名。
一応のトップである私が口火を切り、会議が始まった。
正直こういう役は向いてないんだけど。人の視線苦手だし。でも立場的にやらなきゃならないんだよな・・・
「ここまでの経緯は予定通り。井草矢森について、多少予想外の展開はありましたが、無事消去することに成功しました」
井草矢森。首吊りの探偵はカオトバシとヒャクメホウシが討った。
次の標的はもちろん決まっている。
「閉鎖切断の名探偵、名無しの井草」
矢森と同じ「井草」の姓だけで、個人の名前を持たない奇妙な名探偵。
だから「名無し」
「彼女を討つ計画に変更はありませんので」
予定通りに降臨祭の場で4番目の探偵殺しを実行する。
その為にやれることは全てやって来た。
怪人団の最終目標である「名探偵の完全抹消」
それこそがここに居る怪人たちの存在理由。
丙見ケラ、怪人「カオトバシ」
船織ヤマネ、怪人「ハガネハナビ」
鍵織ツナゲ、怪人「モザイクフウシャ」
鍵織バララ、怪人「ヒャクメホウシ」
聖屋アメ、怪人「アオマント」
そして私、芦間ヒフミ、怪人「タンテイクライ」
「その井草ですが、問題が」
船織ヤマメが後に続く。
「直近13時間、監視の眼から消えています」
ここにはいろいろな道具がある。「百眼」しかり、もちろん監視用の装置も。
「察知されないギリギリの距離から視ているので、細かい点は不明ですが」
そう断った上で、ヤマメさんは報告を続ける。
「監視を開始して以降も、同様の事態は何度か起きています」
大多数の名探偵と同様、彼女は気まぐれで、ふとした拍子に部下の前から消えることはしょっちゅうだった。だからまたか、というのが率直な感想だけど。
「また彼女の部下の動きから、降臨祭当日の予定に変更はないと思われますが、警戒は緩めるべきではないかと」
名探偵本人が今どこにいるかわからない。不安要素としては大きすぎる。でもここまで来たら延期するのも・・・どうしよう。優柔不断なのが一番駄目なのに・・・
何で秩序を守る名探偵が率先して好き勝手に振舞ってんだ。
怪人の方が規律とか諸々守ってるぞ。
「ヒフミ様、私から進言したいことが」
私が頭を抱えているととヤマメさんが口を開いた。
「何?」
「当日の『ハガネハナビ』による後方支援について」
「続けて」
「遠方からの砲撃を『亡霊鮫』による自動制御に切り替え、『ハガネハナビ』本体が直接井草を狙撃するべきかと」
亡霊鮫、ハガネハナビの外部機構。あらかじめ設定した標的を自動で砲撃しつづける装置。
「後方からの爆撃については、元々本命のヒフミ様の援護用で目くらまし程度のもの」
砲弾が撃たれた瞬間、その着弾位置を予測して避ける。常人には不可能なそんな芸当も名探偵は片手間で出来る。だから確実に仕留めるには近接戦闘しかない。それは最初からわかっていた。
だから狙撃は囮に過ぎない。本命は接近戦。
「ですのでより効果的な囮として私自身が出て、その場で狙撃をするべきです」
より確実に撃ち、相手の注意を分散させる為に。
「ひとつだけ聞かせて。砲撃を自動化した場合、迦楼羅街への被害は増加するの?」
「はい。ターゲットの反応にも依りますが、基本的に流れ弾などによる損害は増える見通しです」
いつも通り、無表情を保ったまま、淡々と、幾人もの人間が死傷する可能性を口にする。
「それに問題が?」
・・・さてどうしよう。
船織ヤマメ。標的を確実に仕留めることを優先するメイドマニア。無関係の人間を積極的に巻き込むことはしないけど、ターゲットの暗殺には副次的被害が避けられないと理解して割り切れる程には冷徹。何で丙見家で自分は普通のメイドだと押し通せたのか疑問だけど、案外メイド業界では彼女みたいなのがありふれてるのかも。
メイド業界って何だ。
とにかくヤマメさんは冷酷だけど、彼女の判断は正論だ。特に名探偵なんてモノを相手にするには、最低でも全世界の人間を巻き添えにする覚悟が必要だとは理解している。
理解出来るけど、それだとこっちが困るんだよ。
何故なら、この作戦で終わりじゃない、むしろ始まりに過ぎないのだから。
全名探偵が標的であるからには、井草を滅ぼした後も、芦間ヒフミは今の立場を続ける必要がある。差し違えるなんて愚の骨頂なんだよね。
そして芦間ヒフミが探偵で居続けるなら、無関係な人間を犠牲にしたという事実はまずい。罪悪感は遅効性の毒だ。ただでさえ精神の耐久テストじみた日常に心が耐え切れなくなるかもしれない。
偽善の極みだとは思うけど、メンタル弱者はこれくらいやらなきゃ裏切りなんて出来ないんだ。
だからケラ、頼んだ。
こっそり目くばせしたのに気付いて頷くと彼は口を開いて。
「あの、ちょっといいですか、船織さん、そしてヒフミ様」
「・・・何ですか、元主」
「一般人に被害が出ると、こちらの不利益になります」
「根拠は」
「向こうに大義名分を与えるからです。元々探偵、名探偵というのは、あらゆる目的のために、あらゆる手段を逡巡することなく選ぶ人間がほとんどです。それこそ今ここにいるような秩序攪乱分子は、街の2、3、いや世界の半分程度を犠牲にしてでも消し去るのが向こうにとって正常なことなんです]
世界のため秩序のためなら、世界も秩序も犠牲に出来る、そんな神の論理が名探偵の論理だから。
「ひとつの都市を文字通り根こそぎにするして滅ぼすなんて、それこそ神の専売特許でしょう。それを今までやらなかったのは、相手がそれをするのを一種の敗北と捉えているからです」
さらっといくつも無茶な断定をしてる。でも今は黙っておこう。下手なこと言うと後でうるさいし。
「ですが、怪人の活動で都市の被害が許容出来る範囲を超えてしまうと、そんなプライドは捨てる、少なくとも今回の井草はそういうタイプだと逸話などから推測されています」
「では、元主。被害を減らすためには手加減をすべき、と?」
「手心を加える、というよりはリソースの集中と前向きに考えて欲しいですが・・・とにかく不必要な犠牲は長期的な観点からみてマイナスにしかならないというのが現実です」
「ここでは差し迫った作戦を問題としているという認識なのですが」
「先を考えておかないと、目の前のこともうまく行かないと思います」
・・・すごい。さっきから何かいいこと言ってるようで、特に大したこと言ってない!
丙見ケラ。昔から口がうまい・・・違うな、こういう場をグダグダにするのが得意だった。ヤマメさんもそれを知ってるけど、さすがにここで指摘は出来ないよね。こんなんだから彼女の当たりが強くなるんだよケラ・・・まあ私がどうこう言う権利ないけど。
「あー・・・いいんじゃないですか、あんま目覚めの悪くなるようなことはしたくないし」
聖屋、もっと言って。
そして何となく丸く収まったような空気を作って!
「ハイハイ! 安心してください」
私のそんな期待を台無しにするように、鍵織の兄の方がいきなり挙手した。
あ、こいつ碌でもないことを言おうとしてる。
彼の妹以外の全員がそう直感した。
その空気を読まないマッドな科学者は聞かれてもいないのに話を続ける。
「巻き添えになった人間は全員収容し、治療してついでに改造すれば、どんなに爆撃しようと被害は最小限になります」
・・・やっぱり碌でもねぇ!
「元より身体機能を向上させれば、プラマイゼロどころか大幅にプラスですし」
その発想は倫理どころか論理も無視してる。そんなんで納得する人なんて。
「素晴らしい。さすがツナゲ兄、完璧な論理です!」
・・・ここにいた。
鍵織バララ。ツナゲと同じくらい頭のねじが彼方の世界にぶっ飛んだ彼の妹。
そこの反社会性人格者ふたりさあ・・・ちょっとでいいから黙っててくれないかな。これ以上場をややこしくしないでくれ。
「・・・まあ、そうですね。あまり自動機構を信頼しすぎるのも問題ですし。後方からの砲撃は威力を抑え目くらまし程度にするということで」
さすがに話が危険な方向に行ってることを察したのか、とりあえずは納得してくれたヤマメさん。こういう時に年上の人は頼りになるな・・・なかなか言えないけど。
さて、次は私の番。
「では、私の方の成果を報告させてもらいます」
成果。探偵として働いた成果。
「まず時木野、蛇宮戦闘員は、当日他所で「迎田」「柄砕」及びその関係者の移動に警備として付き添う手筈になっています」
列車で移動中の矢森を急襲し、討ちとった襲撃犯は今後どう動くか。
「探偵」芦間ヒフミに求められたのはその予測。
だから私はそれを形にした。
まず寡兵であろう襲撃者(怪人)は少数での暗殺を確実に成功させる為、戦術として今後もターゲットの移動中を狙うだろう。
そしてよりマクロな視点。次に狙うのは誰か。当然矢森と同じ井草、「名無しの井草」・・・と見せかけて、意表をついて他を狙うだろう。
単純だけどそれなりに説得力のある展開と、やや捻った展開。
「今後予想される襲撃についての予測」を作る上で、私はそのふたつの「いかにもありそうな物語の筋」を読み手が想定するように必死で文章を作成した。
その結果厄介な探偵ふたりを当日街から遠ざけることには成功した。あの山のような書類地獄を苦労して処理した甲斐があったよ、本当に。
「さすがに芦間ムナ、探偵団長は街から動かないですけど」
残念ながら、ここまでやってもまだ不安材料は残ってる。
「それに彼については不明な要素が多すぎる」
能力の正体が理解できないと、対処できない。ここまでまともな情報が何ひとつ掴めなかったのが痛いな。
芦間ムナ。普段グイグイ親しげな態度を取ってるけど、本心は全く見せてないことぐらい、コミュ力低い私にだって理解できたし。全部は上手く行かないってことか・・・
「だから、陽動班は彼の足止めに全力を尽くしてください。とにかく名探偵と正体不明の探偵を同時に相手する状況になるのを防ぐ、これを念頭に置いて倒すのではなく時間稼ぎに専念するのがあなたたちに求めることですので」
陽動班。
聖屋アメ、鍵織兄妹。
本来鍵織のふたりが前線に出るのは避けるべきなんだろうけど、内の事情を考えてもここで出し惜しみする余裕はない。それに鍵織ツナゲとバララ。性格は最悪だけどそのおかげか戦闘ではやたら強いんだから・・・あんまり頼りたくないけど。
「ヒフミ様? 私と兄上に何か?」
「何でもない」
さて、ここからが探偵殺しの要。
実行班。
丙見ケラ、船織ヤマメ、そして芦間ヒフミ。
この3人で井草、閉鎖切断の女神を討ち滅ぼす。
「後で配布する書類にも記載していますが、基本は先ほど述べた通りです。前衛を『カオトバシ』『タンテイクライ』、それを後方から『ハガネハナビ』が援護するという方針で戦闘を行います」
「ボス、別にそれでいいとは思うけど、あんたらで戦えるのか?」
「私の力では不安だと言いたいのですか、アメ」
「別にそういうのが言いたいんじゃねえよ。たしかにボスは強い。ケラも名探偵を倒すのに成功した。でもそれは有利な条件で、それに相手の戦い方がある程度わかっていたからだろ」
井草矢森、拘束絞殺の名探偵。
黎明期各地の旧世界残党を討伐する際、2種類の名探偵がいた。無造作に自分の能力を明らかにして敵を圧倒した者と、能力を隠したまま敵を圧倒した者に。能力がバレた所で普通の人間には負けるはずがないという驕りが前者にあったのだろう。矢森の拘束首吊りも、散々無造作に振るっていれば攻撃力、射程、最大補足数の推測は容易い。そしてどれだけ強大でも、理解している能力相手なら、それを嵌めるのが怪人の得意分野なのだから。
「だけど今回は違うよな? 相手の権能が未知数なんだろ。団長も名探偵も。ただでさえ地力で負けてんのに、戦力分散して正面からぶつかるってことだよな」
あー・・・それ今言っちゃうかー・・・
「『薬』が効いたのはわかってるけど、問題はそれを打ち込む隙をつくることだろ。率直に言って、出来るのか。ボスとケラのふたりで」
「それは聞き捨てなりませんね、元主はともかくヒフミ様の能力を疑うとは・・・・・・・・・・・・・・・処しますか?」
いきなり殺意を出すんじゃない!
何で見た目チャラ男じゃなくてメイドマニアが一番好戦的なんだろ。それにヤマメさん、事ある毎にこっちに重い感情向けてくるのはちょっと困る。後サラッと昔の雇い主をディスるのはメイドとしてどうかと思うよ、メイドの心得なんて知らないけど。
いけないいけない。また脱線するところだった。
「少し静かにしてくれる? ヤマメ。それに聖屋」
それっぽく威圧感を出しながら言ってみる。
それに気圧されたふたりはやっと落ち着いてくれた。よかった。威圧感って悪の組織の頭には大事なんだなと実感する。
「私とケラでは名探偵に勝てない、そう言いたいのだろう」
「いや・・・俺はあくまで、能力がわかっていないままだとまずいと思って・・・もっと相手の情報を集めてから、やりやすい時に」
「・・・残念けど、名探偵と戦うのに、都合のいい、確実な機会なんて永遠に来ない」
それだけははっきりしている。どれだけ待っていても、神のような災害のような存在を相手に都合のいい展開はない。
貴種の令嬢、神子という道具でなくなったあの日それを思い知ったからこそ、私はこの組織をつくったのだから。
「そりゃ、まあそうだが・・・」
「それに無策で突っ込むわけじゃない。わかってる情報だけでも、それを基にプランはいくつも考え出せた」
実際には1、2個だけどそれを話して無駄に不安がらせるつもりはないからね。
それにどのみち最後はグダグダになる。泥仕合。私とケラは特にそれが得意なんだから。
「だからあなたたちには全力で陽動をして欲しい。それが成功の鍵」
「・・・了解。悪かったなボス、それに船織。変なこと言っちまって」
「私はともかくヒフミ様に謝罪して下さりありがとうございます、アメ」
ふぅ・・・何とか収まった。アクの強い仲間が多いと気が休まらないな~
さて、じゃあ一応締める所は締めとかないと。
「では本会議で決定した事項に基づき、名探偵『井草の閉鎖切断の女神』抹消作戦を開始します。探偵という名の災害を、私たちが地に堕とし、その全てを怪人らしく収奪しましょう」
会議は終わった。
計画は定まった。
後はそれを実行するだけ。
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