幽霊屋敷で押しつぶす

鳥木木鳥

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銀銃屋敷決闘

城塞と狩人

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 城があった。
「想像以上に大きいな!?」
「游理さん。失礼ですよ」
「あ、ごめんなさい」
 人の形をした幽霊屋敷に無作法を注意される社会人…
 列車を乗り継いで、降りた駅からさらに何時間も徒歩で移動してようやくたどり着いた山奥。開けた土地にそびえたつ巨大な館「銀銃屋敷」
 別世界って感じで現実感ないな。
「そんなに気を使うことはねーよ、庚、それに裏内」
 と。いつもと変わらない様子の宮上さん。ここ彼女の実家なんだよね。
 宮上家については世間一般に出回ってる噂やら、私自身の家族から聞いた程度の知識はあったから、それなりのお金持ちってイメージだったけど。それなりどころか漫画に出てくるレベルの大富豪、改めて実感する、宮上さんって私よりお嬢様っていうかブルジョワでセレブなんだ。
 数日前楽しそうに雪男を撃ちまくって、全身血やら肉片まみれだったけど。
 ちなみに本日はいつも通りの作業服姿。私と宇羅は一応スーツで来てるのに…ドレスコードガン無視。

 まあ、ある意味彼女の恰好の方が正しかったのかもしれない。

 インターフォンを鳴らすと執事とメイドに出迎えられた。いや、どこの国のどの時代だよと頭ではツッコミがガンガン鳴り響いていたけれど…実際にされたら何も言えない。
 なによりこんな異様な状態の家を見せられたら。

 銃があった。
 壁一面を埋め尽くすように飾られているのは
 拳銃、ライフル…あとあれ…バズーカみたいな。
「一応言っとくとガワだけのやつもある。さすがに全部実銃だといろいろ面倒なんだわ」
 ボソッと教えてくれる宮上さん。いやそれって弾が出る銃が大部分ってことですよね!?
 …コレクションにしては廊下や部屋に乱雑に散らばっいて、飾ってるようには見えないし。まるで取り合えず銃で家を埋め尽くすことだけ考えてるみたいな。
 …金持ちの考えることってわからない。

 借りてきた猫のように黙って屋敷の中を進む3人。
 でも一応自分の家なのに、宮上さんが何も言わないのはなんでだろう。
 彼女だけでなく荷物を運ぶメイドさんも全く話しかけようともしない。
 面識はあるはずなのに。
 まるでお互い見えていないように。
 お互い触れたくないように。


「2年ぶりですね」
 案内された食堂。ホテル並みの大きさのテーブルの向こう側に彼女は座っていた。

「あなたとここで再会するのを切望していましたよ、下」
「底…」

 一方は青いツナギ、もう一方は青いドレスをまとっている。
 ショートヘアに対してドレスの彼女の髪は蛇のように長かった。
 全く違う姿なのに。
「同じ顔…双子?」

「ええ、私は宮上底。宮上家の末端にしてこの屋敷の主。『宮上の武器』銀銃屋敷を守るために『狩人の幽霊屋敷』銀銃屋敷の解体を依頼した者です」

 名前がわからない高級そうな肉料理の味がわからないくらい、部屋の雰囲気は沈んでいて、つられてこっちの気分も下降し続けてる…帰りたいよぉ…
「とりあえずあなたがグルメ漫画を描くことはないとわかりました。あとすぐ職場放棄するその癖、いい加減どうにかしてください」
 またなんでも口に出してるこの人外…
 でもそんな軽口に癒されてしまうほどに重かった。
 
 沈黙が。

 宮上下はいつもと全く違う無表情のまま、黙々と食事をしていた。
 宮上底は微笑んだまましかし何も話さず、黙々と食事をしていた。

「………………」
「………………」
「宇羅、ここはひとつ、小粋なジョークをお願い」
「その振りで何を言っても滑るに決まってるでしょ」


「必ず」
 2年前と変わらない表情で、底は口を開いた。
「必ずあなたは戻ってくるとわかっていました、下」
「俺は戻って来たくはなかった、底」
 
 あの時。
 剪定儀式。

 という時代錯誤甚だしい儀式で。

「俺は完膚なきまでにおまえに敗北して、逃げ出したんだ」
「ええ、戦いに勝利したのは私です、ですがあの儀式の勝利者は下姉でしょう。だってこの銀銃屋敷に選ばれたのですから」
 選ばれた、選ばれてしまって。
「だから逃げ出したんだろ、俺は責任からもこの家からも、そしておまえからも」
 逃げて逃げて逃げて、そしてあの所長に拾われた。その日から今までただ祓い続けた。祓って祓って。
 
 家族を振り払うために。

「まあ、手のかかる後輩その1、その2の面倒を見るためにいけしゃあしゃあと帰ってくる、中途半端な真似をしたんだけどな」
「いいえ、言ったでしょう。何があろうとも最後には必ずこの家に戻ってくると確信していたと」
「っ…底。相変わらずだな。人の話を聞かないし聞いているふりすらしない」
「下は変わらず臆病ですね。人の目を見てまともに話を聞くこともできない」
 臆病者。そんなこと、わかってる。わかっていてもどうしようもないんだよ。底。
 俺は怖くてたまらないんだよ。この家も、家族も。

「あの、そろそろいいですか? 姉妹の再会に水を差すようで恐縮ですが、そろそろ本件について情報共有ないし今後の行動の打ち合わせを行いたいのですが…」
 いい加減こっちの方も見て欲しい、仕事が進まないから。
「ええと、依頼人、宮上底様。あなたから伺った内容をまとめると、あなた方宮上家は祓い師専門の武器を扱う一族」
 まあこのあたりは一般に知られることだよね。
「この銀銃屋敷はその象徴であり、館自体が武器である」
 多くの銃を景観を無視して飾っているのも、銃で埋め尽くせば屋敷自体が銃になるという無茶な理屈が理由らしい。
 …いや、それは無理があるだろ。だったら切手マニアの家を手紙に貼って配達してみろって話だよね!?
 いかんいかん、いちいちツッコミ入れてたら時間がいくらあっても足りない…
「その武器、銀銃屋敷に最近になって怪異が現れた。しかもその辺の魍魎の類ではなく、その怨霊は屋敷の中から出てくる、と」
 まあ普通に考えてこんな怨霊への殺意で組み上げられた場所に近寄る奴はいないだろうけど。
 殺意、悪意でできた場所から生まれる怨霊、祟りはある。
 
 怨霊を生む存在、幽霊屋敷。

「その発生源を取り除く、つまり銀銃屋敷の中から幽霊屋敷銀銃屋敷を排除する。そのような理解でよろしいでしょうか」
「異論ありません」
「後、最初におっしゃってた『狩人の幽霊屋敷』という意味は・・・?」
「ああ、問題の怪異、と言うより怨霊ですが、その外見からです」
 怨霊。あの学園で出会った杭打ちのように。
「適当に暴れまわっては消える、そんなことを繰り返しているのでお恥ずかしい話ですが使用人にも手に負えないようでして」
「それでも、人に被害が出ていないなら幸いですよ」
「場所はどこです?」
 打ち合わせが始まってから初めて宇羅が口を挟んだ。
「中庭の時計塔です。そこから度々屋敷の中に侵入しているようでして」
 時計塔? 個人の家だよねここ。遊園地かなんかなの?


「ねえ、あのふたりって仲悪いのかな」
食事の後。
宮上さん、いやここでは下さんと呼んだ方がいいな、彼女は屋敷を見てまわると言ってさっさとひとりでどこかに行ってしまった。てっきりもっと底さんと話すことがあると思っていただけに、この反応は予想外だった。
「2年ぶりに顔合わせたんでしょ。なのになんか他人行儀っていうか。家族との関係で、私も偉そうなこと言えないけど、もっとこう…」
それとも
「えっと、その決闘? 下さんと底さんの。あくまで儀式的なもので命の危険は滅多にないって聞いたけど」
「まあ昔の決闘も相手の息の根を止めるところまではしないのが多かったみたいですが、そのあたりお家の都合って奴かもしれません。世間体というには巨大すぎますが、宮上家は祓いのための道具の作成、それのみに特化した一族です」
祓いの道具。血統の全てをより良い作品に繋げる。この銀銃屋敷もそのための道具のひとつに過ぎないのだろう。

「下。待ってたわ」
「俺は会いたくなかった」
別にどこに行くか決めてなかったのに、当たり前のように底は待ち受けていた。まるでこの屋敷の中で俺の全て見通しているように。こいつにとってわざわざ俺についてくる必要もない、会いたくなったら都合よく俺の方から来る。その程度には宮上底は宮上下を把握している。
「先ほどの食事では、あのふたりの目があるから、恥ずかしがって何も話してくれなかったのよね、ええ、必ずそうでしょう」
「…別に今さら逃亡者が屋敷の主様になんの怨みもねえ。一族の体面に泥を塗った、なんて」
「そんな訳ないでしょう。宮上の一族が重視するのは祓いのため道具を生む、これだけだから。そのとりあえずの最高傑作を目指した『銀銃屋敷』、それを完成させた宮上下は私より遥かに宮上の意思に報いているわ」
完成。幽霊屋敷「銀銃屋敷」が生み出された時。
「じゃあ一応聞いておくことがある。狩人が屋敷で暴れたというのは嘘だよな」
「そうよ」
…ちょっとは否定しろよ…まあいいか。それらしい襲撃を偽装する手間すらかけなかったのは、最初から隠す気もなかったってことだし。
「ええ、でも狩人という怨霊が出るのは本当よ」
「それで、あんたはその声を聞いたんだな」

「あなたと同じように、かしら?」

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