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3 桐島園加と肝試し
第14話
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「ところで、結構歩いたはずなのに、全然驚かされないね」
「確かに、そういえばまだ一人も見かけてないな。ってことは、そろそろ来そうな気が……」
そう僕が言った途端、どこかから音が聞こえた。大きくはない。微かに耳に入って来るのは――風の音?
「なんか、どこかでひゅーひゅー言ってるね」
「桐島さん、それだと誰かが僕達を冷やかしてるみたいに聞こえるよ」
そうだね、と彼女。そんな冗談には興味がなかったらしい。落ち込みそうになるところをぐっとこらえ、周りに目を凝らす。おそらく、これも驚かすための演出なのだろう。中々凝っているじゃないか。
左右は多くの墓で囲まれ、暗さも手伝ってほとんど何も見えない。隠れる場所は多そうだ。注意しておかなければ、きっとどこかから急に――
「……って、え……?」
手に何か柔らかい感触。おかしいな、僕は何も持っていないはずだぞ。そう思いながら目をやると、僕の手には、桐島園加の手が握られていた。
目を丸くする僕、無表情の彼女。
「え、いや、あの、……え?」
「どうしたの山城君、そんなに慌てて」
「え、いやだって……ええ……?」
自分の身に何が起きているのか全く分からない。いや、分かるんだけど、頭が現実を理解しようとしていない。冷静になるんだ自分、ここで慌てふためいてはますます認識が遅れるだけだ。まずは整理だ。そう思い、視線を下げる。
僕の手がある。
その上に、桐島さんの手がある。
要するに、手を繋いでいる。
以上。
「……ええええ……ど、どうしたの……?」
動揺した声で、率直な疑問をぶつけた。世界中の誰もが、僕と同じ状況に立たされたら同じことを口にすることだろう。
「ちょっと怖くなってきちゃったから。……嫌、だった?」
「いや、嫌じゃないけど、そうじゃなくて、いやあ……ええ……?」
どうしてあなたはそんなに淡々と物事を話すのですか。ついさっき聞いたその理由をもう一度説明してもらいたいほど、僕の頭はフリーズしている。落ち着けと念じても落ち着いてはくれない僕の心はどうすればよいのか。この手を僕はどうしろというのか。
よく現状が呑み込めないので、とりあえず一旦深呼吸しようとしていた、その時である。
「……う、う~ら~め~し~や~!」
パニくっていた僕の耳に、突如聞き覚えのある声が響いた。と思いきや、誰かが横から飛び出してきて、僕たちの前に立ちはだかった。
「う、う~ら~め~し~や~! ううう……」
「……えっと、もしかして、坂倉……?」
「え? ……あ、や、山城君……!」
そこにいたのは、まごうことなく我らが委員長の坂倉だった。多分、坂倉のはずだった。白い着物を着て、三角頭巾を被ってはいるが、おそらく坂倉である気がした。あまりの状況変化の目まぐるしさに、自分でもだんだん自信がなくなってきた。
彼女は体を硬直させ、目を潤ませてこちらを見ている。よかった、いつもの坂倉だった、という坂倉に失礼極まりない思いが生じてきたところで、また誰かが出てきた。
「ちょっと委員長ー。何回も言ってるように、もっとドーン! と勢いよくいかないとダメだってばー」
辻谷である。苦笑気味にそう話した彼は、近くに来たところでようやく僕が誰か分かったようだった。
「おや、誰かと思いきや、我が親友の山城零君じゃあないか! 肝試し、ちゃんと楽しんでるかー?」
「親友かどうかはともかくだな……お前、まさかこのために坂倉を?」
「おう! どうだ、とんでもなく可愛くないか?」
「え、か、かわっ……!?」
満面の笑みで紹介された坂倉は、これ以上ないほど顔を赤くして俯いてしまった。彼女が纏う幽霊の衣装はクオリティが高く、彼女の小柄な体格にフィットしている。また、一見簡単そうな三角頭巾も、しっかりとした布で出来ているようで、いかなる時でもちゃんと三角を保てる作りになっているようだ。
なんという無駄な妥協のなさ。だが、確かに彼女以外に、これをここまで可愛く着こなせる女子は我がクラスにいないだろう。村雨の顔が一瞬思い浮かんだが、アイツは絶対こういう悪ふざけを嫌うから、着させること自体不可能だろう。
「いや、確かに可愛いけど、肝試しに可愛さは必要ないよな」
「か、かわいっ……!?」
「それさ、さっき雫ちゃんにも言われたんだよな。かあ、お前らは何にも分かってない! 今の時代、怖さだけを追い求める肝試しなんて古いんだよ!」
ねえ委員長、という辻谷の問いに、心ここに非ずで頷く坂倉。よく分からんが、彼は彼なりにこの肝試しを全力で楽しんでいるらしい。それに巻き込まれた形の坂倉には同情するが、その顔を見ると、案外嫌そうには感じられないので、なんだかんだで彼女も楽しめているようだ。
やはり辻谷は凄い。自分のペースに他人を巻き込む天才だ。そのスキルが少しでも僕にあれば、今ごろ桐島園加との会話で困るようなこともなかったであろうに。
……ん? 桐島園加……?
えーと、何か忘れているような……。
「……ところでお前ら、いつの間にそんな、仲睦まじい関係になってたんだ?」
「え?」
辻谷が驚きの表情でそう洩らした。視線の先には、僕の手。
そこにあるのはつまり、僕の手に重ねられた、桐島園加の手でもあるわけで。
「――い、いや、違うんだこれは! その、なんだ、こう不可抗力というかな、なんだ、そんな感じなんだよ! 気付いたらこうなってたとか、ほら、あるじゃないか?」
「なるほどな、山城は気付いたらいつも女子の手を握ってるのか……」
人をタラシみたいに言うのはやめろ! 自分でも何を言っているのかさっぱり分からないが、釈明しないととんでもない誤解で充満してしまいそうだから、僕は必死だった。なぜ僕がこんなに必死にならなければならないのか、という考えさえ出てこないほどに。
ふと坂倉に目をやると、相変わらず顔を真っ赤にしながら、かつ頬に両手を添え、あわあわと言いそうなほどに動揺した表情をしていた。これは、もしや……。
「や、山城君……その、確かにね、私も、桐島さんは可愛いと思うし、そのね、魅力的な人だなって感じてもいたんだけど、その……さ、流石にいきなり手を握るというのは、いろんな誤解を生んじゃうから、よくないかなって、私は思うんだけど……」
「違うんだって! 話を聞いてくれよ坂倉!」
「そうだぞ山城。お前の今の状況を、雫ちゃんが見たら何て言うか……ああ怖い怖い」
「だから違うって! というか何でそこで村雨の名前が出てくるんだ!」
人の話を聞かない二人組に、自棄にも近い弁明をする僕。でも、確かにこの状況を村雨に見られた場合、大変よろしくないことが起こりそうな気はした。なぜそうなるのかは全く不明ではあるが。
「――これは、私が怖いから握ってるの」
不意に、横から声が聞こえ、場は静寂を取り戻した。
呆気に取られた全員を尻目に、声の主は尚も淡々と説明を続ける。
「私、こういうの平気なのかと自分で思ってたけど、やっぱりちょっとは怖いみたい。だから、城山君の手を少しだけ拝借させてもらったんだ」
「……そ、そう、だったんだ。それはその……すまなかったな」
辻谷が引きつり気味の笑顔で答える。村雨もそうだったが、彼女と会話をする人間は大体こういう表情になってしまうようだ。隣で、坂倉も同じようにキョトンとしている。
「山城、ちょっとこっちに来い」
なぜか少し離れた場所まで歩き、辻谷がこちらに手招きをする。桐島園加を見ると、すぐに頷いて、ゆっくりと手を離した。
少しだけもったいないことをしてしまったような気持ちになったのは、僕の気のせいだろう。そうに違いない。心の中で謎の言い分けをしながら辻谷に近付くと、こそこそと話し掛けてきた。
「お前、一体桐島に何をしたんだよ。なんだ、まさか無口なのを利用して、強引に攻めたのか?」
「変な言い掛かりを付けないでくれ。彼女の言った通り、あっちから手を繋いできたんだよ。きっと、少しでも何かで怖さをまぎらわせようとしただけじゃないか? あと、別に桐島さんは無口ってわけじゃない。ただ感情を表に出さないだけだ」
「……山城、お前って奴は、お前って奴はよお……!」
耳元で涙声になり出す辻谷。今のお前の方が、肝試しなんかよりよっぽど怖いよ。もはや僕には何がなんだかさっぱりだ。
「考えてみれば、お前は鈍感なところを除けば、凄くいい奴なんだよな。うん、確かに、これは当たり前のことなのかもしれないな……」
「辻谷、僕はお前のいっていることがさっきから何一つ理解出来ない」
「いいんだ。お前は、そのままであるべきなんだ。ただ、いずれ選択の時が訪れるだろう。その時お前がどうするか、それさえ見届けられれば、俺は……」
勝手に満足気な表情をされても。もしかしてこいつは何かに取り憑かれてしまったのではなかろうか。そう思ってしまうくらいに、不気味なテンションであった。
話はそれで終わったようで、スッキリとした顔の辻谷に連れられ坂倉達の元へ戻ると。
「坂倉さん、その格好似合ってるね。私もしてみたいな」
「え、そ、そうですか……? き、桐島さんなら、もっと可愛くなると思いますよ!」
感情の籠っていないお世辞を言う桐島園加と、それに簡単に乗せられ満更でもない様子の坂倉の姿があった。同じ消極的な人間ではあるのに、ここまでタイプの違うことも珍しいだろう。恥ずかしがり屋と無表情、どちらも苦労を抱えてそうな人種だ。それだけに、そこまで相性は悪くないようだ。
「じゃ、そろそろ次のペアが来そうだから、また俺たちも隠れるか。というわけで、委員長スタンバーイ!」
「は、はい! 今度こそ、が、頑張ります!」
緊張した声の坂倉と、楽しそうな様子の辻谷。正反対のようで、なんたかんだで気の合っていそうな二人に別れを告げて、僕と桐島園加は先へと進んでいくことにした。
「ふう。なら、僕たちも行こうか」
「うん」
手が握られ直されたりは、しなかった。
「確かに、そういえばまだ一人も見かけてないな。ってことは、そろそろ来そうな気が……」
そう僕が言った途端、どこかから音が聞こえた。大きくはない。微かに耳に入って来るのは――風の音?
「なんか、どこかでひゅーひゅー言ってるね」
「桐島さん、それだと誰かが僕達を冷やかしてるみたいに聞こえるよ」
そうだね、と彼女。そんな冗談には興味がなかったらしい。落ち込みそうになるところをぐっとこらえ、周りに目を凝らす。おそらく、これも驚かすための演出なのだろう。中々凝っているじゃないか。
左右は多くの墓で囲まれ、暗さも手伝ってほとんど何も見えない。隠れる場所は多そうだ。注意しておかなければ、きっとどこかから急に――
「……って、え……?」
手に何か柔らかい感触。おかしいな、僕は何も持っていないはずだぞ。そう思いながら目をやると、僕の手には、桐島園加の手が握られていた。
目を丸くする僕、無表情の彼女。
「え、いや、あの、……え?」
「どうしたの山城君、そんなに慌てて」
「え、いやだって……ええ……?」
自分の身に何が起きているのか全く分からない。いや、分かるんだけど、頭が現実を理解しようとしていない。冷静になるんだ自分、ここで慌てふためいてはますます認識が遅れるだけだ。まずは整理だ。そう思い、視線を下げる。
僕の手がある。
その上に、桐島さんの手がある。
要するに、手を繋いでいる。
以上。
「……ええええ……ど、どうしたの……?」
動揺した声で、率直な疑問をぶつけた。世界中の誰もが、僕と同じ状況に立たされたら同じことを口にすることだろう。
「ちょっと怖くなってきちゃったから。……嫌、だった?」
「いや、嫌じゃないけど、そうじゃなくて、いやあ……ええ……?」
どうしてあなたはそんなに淡々と物事を話すのですか。ついさっき聞いたその理由をもう一度説明してもらいたいほど、僕の頭はフリーズしている。落ち着けと念じても落ち着いてはくれない僕の心はどうすればよいのか。この手を僕はどうしろというのか。
よく現状が呑み込めないので、とりあえず一旦深呼吸しようとしていた、その時である。
「……う、う~ら~め~し~や~!」
パニくっていた僕の耳に、突如聞き覚えのある声が響いた。と思いきや、誰かが横から飛び出してきて、僕たちの前に立ちはだかった。
「う、う~ら~め~し~や~! ううう……」
「……えっと、もしかして、坂倉……?」
「え? ……あ、や、山城君……!」
そこにいたのは、まごうことなく我らが委員長の坂倉だった。多分、坂倉のはずだった。白い着物を着て、三角頭巾を被ってはいるが、おそらく坂倉である気がした。あまりの状況変化の目まぐるしさに、自分でもだんだん自信がなくなってきた。
彼女は体を硬直させ、目を潤ませてこちらを見ている。よかった、いつもの坂倉だった、という坂倉に失礼極まりない思いが生じてきたところで、また誰かが出てきた。
「ちょっと委員長ー。何回も言ってるように、もっとドーン! と勢いよくいかないとダメだってばー」
辻谷である。苦笑気味にそう話した彼は、近くに来たところでようやく僕が誰か分かったようだった。
「おや、誰かと思いきや、我が親友の山城零君じゃあないか! 肝試し、ちゃんと楽しんでるかー?」
「親友かどうかはともかくだな……お前、まさかこのために坂倉を?」
「おう! どうだ、とんでもなく可愛くないか?」
「え、か、かわっ……!?」
満面の笑みで紹介された坂倉は、これ以上ないほど顔を赤くして俯いてしまった。彼女が纏う幽霊の衣装はクオリティが高く、彼女の小柄な体格にフィットしている。また、一見簡単そうな三角頭巾も、しっかりとした布で出来ているようで、いかなる時でもちゃんと三角を保てる作りになっているようだ。
なんという無駄な妥協のなさ。だが、確かに彼女以外に、これをここまで可愛く着こなせる女子は我がクラスにいないだろう。村雨の顔が一瞬思い浮かんだが、アイツは絶対こういう悪ふざけを嫌うから、着させること自体不可能だろう。
「いや、確かに可愛いけど、肝試しに可愛さは必要ないよな」
「か、かわいっ……!?」
「それさ、さっき雫ちゃんにも言われたんだよな。かあ、お前らは何にも分かってない! 今の時代、怖さだけを追い求める肝試しなんて古いんだよ!」
ねえ委員長、という辻谷の問いに、心ここに非ずで頷く坂倉。よく分からんが、彼は彼なりにこの肝試しを全力で楽しんでいるらしい。それに巻き込まれた形の坂倉には同情するが、その顔を見ると、案外嫌そうには感じられないので、なんだかんだで彼女も楽しめているようだ。
やはり辻谷は凄い。自分のペースに他人を巻き込む天才だ。そのスキルが少しでも僕にあれば、今ごろ桐島園加との会話で困るようなこともなかったであろうに。
……ん? 桐島園加……?
えーと、何か忘れているような……。
「……ところでお前ら、いつの間にそんな、仲睦まじい関係になってたんだ?」
「え?」
辻谷が驚きの表情でそう洩らした。視線の先には、僕の手。
そこにあるのはつまり、僕の手に重ねられた、桐島園加の手でもあるわけで。
「――い、いや、違うんだこれは! その、なんだ、こう不可抗力というかな、なんだ、そんな感じなんだよ! 気付いたらこうなってたとか、ほら、あるじゃないか?」
「なるほどな、山城は気付いたらいつも女子の手を握ってるのか……」
人をタラシみたいに言うのはやめろ! 自分でも何を言っているのかさっぱり分からないが、釈明しないととんでもない誤解で充満してしまいそうだから、僕は必死だった。なぜ僕がこんなに必死にならなければならないのか、という考えさえ出てこないほどに。
ふと坂倉に目をやると、相変わらず顔を真っ赤にしながら、かつ頬に両手を添え、あわあわと言いそうなほどに動揺した表情をしていた。これは、もしや……。
「や、山城君……その、確かにね、私も、桐島さんは可愛いと思うし、そのね、魅力的な人だなって感じてもいたんだけど、その……さ、流石にいきなり手を握るというのは、いろんな誤解を生んじゃうから、よくないかなって、私は思うんだけど……」
「違うんだって! 話を聞いてくれよ坂倉!」
「そうだぞ山城。お前の今の状況を、雫ちゃんが見たら何て言うか……ああ怖い怖い」
「だから違うって! というか何でそこで村雨の名前が出てくるんだ!」
人の話を聞かない二人組に、自棄にも近い弁明をする僕。でも、確かにこの状況を村雨に見られた場合、大変よろしくないことが起こりそうな気はした。なぜそうなるのかは全く不明ではあるが。
「――これは、私が怖いから握ってるの」
不意に、横から声が聞こえ、場は静寂を取り戻した。
呆気に取られた全員を尻目に、声の主は尚も淡々と説明を続ける。
「私、こういうの平気なのかと自分で思ってたけど、やっぱりちょっとは怖いみたい。だから、城山君の手を少しだけ拝借させてもらったんだ」
「……そ、そう、だったんだ。それはその……すまなかったな」
辻谷が引きつり気味の笑顔で答える。村雨もそうだったが、彼女と会話をする人間は大体こういう表情になってしまうようだ。隣で、坂倉も同じようにキョトンとしている。
「山城、ちょっとこっちに来い」
なぜか少し離れた場所まで歩き、辻谷がこちらに手招きをする。桐島園加を見ると、すぐに頷いて、ゆっくりと手を離した。
少しだけもったいないことをしてしまったような気持ちになったのは、僕の気のせいだろう。そうに違いない。心の中で謎の言い分けをしながら辻谷に近付くと、こそこそと話し掛けてきた。
「お前、一体桐島に何をしたんだよ。なんだ、まさか無口なのを利用して、強引に攻めたのか?」
「変な言い掛かりを付けないでくれ。彼女の言った通り、あっちから手を繋いできたんだよ。きっと、少しでも何かで怖さをまぎらわせようとしただけじゃないか? あと、別に桐島さんは無口ってわけじゃない。ただ感情を表に出さないだけだ」
「……山城、お前って奴は、お前って奴はよお……!」
耳元で涙声になり出す辻谷。今のお前の方が、肝試しなんかよりよっぽど怖いよ。もはや僕には何がなんだかさっぱりだ。
「考えてみれば、お前は鈍感なところを除けば、凄くいい奴なんだよな。うん、確かに、これは当たり前のことなのかもしれないな……」
「辻谷、僕はお前のいっていることがさっきから何一つ理解出来ない」
「いいんだ。お前は、そのままであるべきなんだ。ただ、いずれ選択の時が訪れるだろう。その時お前がどうするか、それさえ見届けられれば、俺は……」
勝手に満足気な表情をされても。もしかしてこいつは何かに取り憑かれてしまったのではなかろうか。そう思ってしまうくらいに、不気味なテンションであった。
話はそれで終わったようで、スッキリとした顔の辻谷に連れられ坂倉達の元へ戻ると。
「坂倉さん、その格好似合ってるね。私もしてみたいな」
「え、そ、そうですか……? き、桐島さんなら、もっと可愛くなると思いますよ!」
感情の籠っていないお世辞を言う桐島園加と、それに簡単に乗せられ満更でもない様子の坂倉の姿があった。同じ消極的な人間ではあるのに、ここまでタイプの違うことも珍しいだろう。恥ずかしがり屋と無表情、どちらも苦労を抱えてそうな人種だ。それだけに、そこまで相性は悪くないようだ。
「じゃ、そろそろ次のペアが来そうだから、また俺たちも隠れるか。というわけで、委員長スタンバーイ!」
「は、はい! 今度こそ、が、頑張ります!」
緊張した声の坂倉と、楽しそうな様子の辻谷。正反対のようで、なんたかんだで気の合っていそうな二人に別れを告げて、僕と桐島園加は先へと進んでいくことにした。
「ふう。なら、僕たちも行こうか」
「うん」
手が握られ直されたりは、しなかった。
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