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第四章 選んだ先の未来へ向かいます!
正妃さまの欲しいもの?
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一方、後宮の暖の日々は、あれから少し変化していた。
毎日モノアの部屋に通い食事の指導やマッサージをする代わりに、食堂の仕事を免除されたのだ。
とはいえ暖がモノアの部屋に通うことはトップシークレット。
側妃であるモノアに生理がないなどと知られるわけにはいかない。
このため表向きには、より多くの後宮の女性により良いマッサージをするために暖は仕事を免除されたのだと告げられていた。
勿論有言実行である。
「ウララ、次は私よ」
「この前マッサージをしてもらってから私すごく調子が良いの! もちろん次も予約していくわね」
「私もよ! 次の次も予約するわ」
営業(?)時間の増えた暖のマッサージは益々盛況だ。おかげで仕事をしなくなってもどこからも文句は出ていない。
反面、暖は以前にも増して大忙しになっていた。
一日のマッサージの開始は朝の厨房が一段落つく頃。途中一時間ほどの休憩を二度挟みながら表向き終わるのは夜だ。
(なんていうか午前十時始業開始で午後八時終了。昼食休憩と夕食休憩が一時間ずつある八時間労働? みたいな感覚よね)
勤務時間だけ見ればさほど厳しくないのだが、いかんせんその間ずっと暖はマッサージをしている。
「……つ、疲れた」
疲労感は半端なかった。
しかも暖の仕事はこれだけではないのである。
この後、彼女はモノアに対する治療をしなければならないのだ。
(もっとも、治療っていうよりマッサージをしながらのカウンセリングみたいな感じだけれど)
カウンセリングというのもおこがましいと暖は思っている。
……なんというか、要はモノアの愚痴の聞き役なのだ。
「もう、もうっ、酷いのよ! 正妃さまったら! 私の献上したチャームには見向きもされないで、イノトの持ってきたチャームには「美しい」って仰るの。絶対、私の物の方が高価なのに。……正妃さまはイノトがお気に入りなのよ」
女性だらけの後宮。当然そこには複雑な人間模様があり、身分の高い正妃、側妃といえどそれは変わらない。
むしろ権力争いが絡む分、妃たちの関係はより複雑に、そして陰湿になっている。
その愚痴を、モノアは毎日暖に話してくるのだ。
(まあ、今まで抱えていた鬱憤を吐き出せてモノアの精神的にはいいんでしょうけれど。……最初に会った時より、ずっと生き生きとしているわよね?)
きちんと食べてマッサージを受け、おまけに不平不満の言い放題。
これでモノアの体調が良くならないわけもない。
暖をモノアに会わせた料理長は、今も部屋の片隅で「モノアさま、すっかりお元気になられて――――」と涙ぐんでいた。
反対に、日々疲労の溜まる暖は深いため息をつく。
後宮の頂点は、魔王の正妃。
モノアたち側妃は、ピラミッド型の身分制度の二段目だ。
モノアのくどき話に度々出てくるイノトも側妃の一人だった。
どうもモノアとイノトは仲が悪いらしい。
「正妃サマ、高価モノ、イッパイ持ッテソウ。欲シイナイ、違ウ?」
魔王の正妃であれば贅沢なんてし放題に違いない。だとすれば高価な物より自分が気に入った物の方に心を動かすのではないだろうか?
暖の指摘に、モノアはガ~ン! とショックを受けたようだった。
「そんな! だったら、どんな物なら正妃さまにお気に召していただけるの?」
聞かれて暖は困った。そんなこと急に言われてもわからない。
だいたい暖は、魔王の正妃になんて会ったこともなければ見たことすらないのだ。
「……正妃サマ、ドンナ方?」
暖の質問に、モノアは大きな一つ目をパチリと瞬かせた。
「正妃さまは、ミノタウロス一族のご出身よ」
ミノタウロスとは牛の頭と人間の体を持つ魔人である。
魔界でも大きな力を持つ一族で、数も多いのだそうだ。
下女や侍女の中にも牛頭人身の姿を、暖は見たことがある。
「もっとも、正妃さまは牛の角をお持ちなだけで牛頭ではないわ。そうね、姿形ならウララみたいに人間に近いかもしれないわ。……ただものすごく大きな胸をしていらっしゃるけれど。……腰もとても細くって妖艶なお方よ」
暖の胸と腰を見、モノアは一つ目を逸らしながらそう言った。
暖と正妃の胸を比べているのは、間違いない。
(悪かったわね! 大きな胸じゃなくて!)
暖はムゥッと頬を膨らませた。ついついマッサージをしている手に力が入る。
「きゃっ! ウ、ウララ、痛いわ!」
モノアは、大きく顔をしかめた。
「ゴメン、サイ」
謝りながらも暖はちょっと強めの力でマッサージを続ける。
彼女の気を損ねたことを察したのだろう、モノアは涙目になってジッと耐えていた。
暖は少し考え込む。
(大きな胸に細い腰なんて、バランスが悪いに決まっているわ。大きすぎる胸は重くて肩が凝るって聞いたこともあるし)
そう言っていたのは暖の友人である。妹の主治医でもあった彼女は、ナイスバディな美女だ。
天は二物を与えないと言われるが彼女はその例外だろう。
モノアの背中をマッサージしつつ、暖は後ろから彼女の胸をのぞきこむ。
流石魔王の側妃と言うべきか、モノアも大きく張りのある形良い胸をしていた。
たぶんこれが魔王の好みなのではないだろうか?
細腰が好まれる理由も、その方が胸の大きさをより強調して見せるからだろう。
(若作りのジジイのくせして生意気だわ)
魔王を思い出した暖はムッとした。
それと同時にモノアや他の妃たちに同情する。
あんな魔王の好みに合うように努力し体調まで崩すのは、可哀相を通り越して悲惨としか言いようがない。
細すぎる腰に大きすぎる胸はバランスが悪いし、揺れる胸が邪魔にもなるはずだ。
(魔界にはブラジャーがないみたいだし)
魔界の女性の下着の中心はコルセットだった。コルセットの上部で胸の下半分を持ち上げ支えているのだ。
現代日本の機能美に優れたブラジャーに慣れていた暖には考えられないことだった。
そこまで考えて暖はポン! と閃く。
「モノア、ブラジャー、正妃サマ、アゲレバ?」
大きな胸のモノアが「大きい」と評するほどの魔界の正妃の胸。きっと彼女は揺れる胸に困っているはずだ。
現代風の胸をしっかり支えるブラジャーなら贅沢し放題の正妃も喜んでくれるのではないだろうか?
「ブラジャー?」
言われたモノアは不思議そうに首を傾げた。
「女性ノ胸、形、整エル下着! キット、正妃サマ喜ブ!」
百聞は一見に如かず。
身ひとつで後宮に送り込まれた暖は、その時ブラジャーをしていた。日本のものではなくこの世界の人間界のものだが、ブラジャーとしての形と機能は同じもの。
残念ながら着替えを持ち込めず、その後、暖はブラジャーをしたりしなかったりしているのだが、運の良いことに今日はブラジャーをしていた。
暖は、バッと勢いよく上着を脱ぐ。上半身ブラ一枚になってモノアに見せた。
「コレ、ブラジャー!」
モノアは一つ目をパチクリとさせる。
「……そんな小さな布に、正妃さまの胸は入らないわ。もちろん、私もよ」
「大キク、作ル! 当タリ前!!」
暖は、プンプンと怒った。
この後のモノアのマッサージがとても強くなってしまったことは、仕方のないことだろう。
毎日モノアの部屋に通い食事の指導やマッサージをする代わりに、食堂の仕事を免除されたのだ。
とはいえ暖がモノアの部屋に通うことはトップシークレット。
側妃であるモノアに生理がないなどと知られるわけにはいかない。
このため表向きには、より多くの後宮の女性により良いマッサージをするために暖は仕事を免除されたのだと告げられていた。
勿論有言実行である。
「ウララ、次は私よ」
「この前マッサージをしてもらってから私すごく調子が良いの! もちろん次も予約していくわね」
「私もよ! 次の次も予約するわ」
営業(?)時間の増えた暖のマッサージは益々盛況だ。おかげで仕事をしなくなってもどこからも文句は出ていない。
反面、暖は以前にも増して大忙しになっていた。
一日のマッサージの開始は朝の厨房が一段落つく頃。途中一時間ほどの休憩を二度挟みながら表向き終わるのは夜だ。
(なんていうか午前十時始業開始で午後八時終了。昼食休憩と夕食休憩が一時間ずつある八時間労働? みたいな感覚よね)
勤務時間だけ見ればさほど厳しくないのだが、いかんせんその間ずっと暖はマッサージをしている。
「……つ、疲れた」
疲労感は半端なかった。
しかも暖の仕事はこれだけではないのである。
この後、彼女はモノアに対する治療をしなければならないのだ。
(もっとも、治療っていうよりマッサージをしながらのカウンセリングみたいな感じだけれど)
カウンセリングというのもおこがましいと暖は思っている。
……なんというか、要はモノアの愚痴の聞き役なのだ。
「もう、もうっ、酷いのよ! 正妃さまったら! 私の献上したチャームには見向きもされないで、イノトの持ってきたチャームには「美しい」って仰るの。絶対、私の物の方が高価なのに。……正妃さまはイノトがお気に入りなのよ」
女性だらけの後宮。当然そこには複雑な人間模様があり、身分の高い正妃、側妃といえどそれは変わらない。
むしろ権力争いが絡む分、妃たちの関係はより複雑に、そして陰湿になっている。
その愚痴を、モノアは毎日暖に話してくるのだ。
(まあ、今まで抱えていた鬱憤を吐き出せてモノアの精神的にはいいんでしょうけれど。……最初に会った時より、ずっと生き生きとしているわよね?)
きちんと食べてマッサージを受け、おまけに不平不満の言い放題。
これでモノアの体調が良くならないわけもない。
暖をモノアに会わせた料理長は、今も部屋の片隅で「モノアさま、すっかりお元気になられて――――」と涙ぐんでいた。
反対に、日々疲労の溜まる暖は深いため息をつく。
後宮の頂点は、魔王の正妃。
モノアたち側妃は、ピラミッド型の身分制度の二段目だ。
モノアのくどき話に度々出てくるイノトも側妃の一人だった。
どうもモノアとイノトは仲が悪いらしい。
「正妃サマ、高価モノ、イッパイ持ッテソウ。欲シイナイ、違ウ?」
魔王の正妃であれば贅沢なんてし放題に違いない。だとすれば高価な物より自分が気に入った物の方に心を動かすのではないだろうか?
暖の指摘に、モノアはガ~ン! とショックを受けたようだった。
「そんな! だったら、どんな物なら正妃さまにお気に召していただけるの?」
聞かれて暖は困った。そんなこと急に言われてもわからない。
だいたい暖は、魔王の正妃になんて会ったこともなければ見たことすらないのだ。
「……正妃サマ、ドンナ方?」
暖の質問に、モノアは大きな一つ目をパチリと瞬かせた。
「正妃さまは、ミノタウロス一族のご出身よ」
ミノタウロスとは牛の頭と人間の体を持つ魔人である。
魔界でも大きな力を持つ一族で、数も多いのだそうだ。
下女や侍女の中にも牛頭人身の姿を、暖は見たことがある。
「もっとも、正妃さまは牛の角をお持ちなだけで牛頭ではないわ。そうね、姿形ならウララみたいに人間に近いかもしれないわ。……ただものすごく大きな胸をしていらっしゃるけれど。……腰もとても細くって妖艶なお方よ」
暖の胸と腰を見、モノアは一つ目を逸らしながらそう言った。
暖と正妃の胸を比べているのは、間違いない。
(悪かったわね! 大きな胸じゃなくて!)
暖はムゥッと頬を膨らませた。ついついマッサージをしている手に力が入る。
「きゃっ! ウ、ウララ、痛いわ!」
モノアは、大きく顔をしかめた。
「ゴメン、サイ」
謝りながらも暖はちょっと強めの力でマッサージを続ける。
彼女の気を損ねたことを察したのだろう、モノアは涙目になってジッと耐えていた。
暖は少し考え込む。
(大きな胸に細い腰なんて、バランスが悪いに決まっているわ。大きすぎる胸は重くて肩が凝るって聞いたこともあるし)
そう言っていたのは暖の友人である。妹の主治医でもあった彼女は、ナイスバディな美女だ。
天は二物を与えないと言われるが彼女はその例外だろう。
モノアの背中をマッサージしつつ、暖は後ろから彼女の胸をのぞきこむ。
流石魔王の側妃と言うべきか、モノアも大きく張りのある形良い胸をしていた。
たぶんこれが魔王の好みなのではないだろうか?
細腰が好まれる理由も、その方が胸の大きさをより強調して見せるからだろう。
(若作りのジジイのくせして生意気だわ)
魔王を思い出した暖はムッとした。
それと同時にモノアや他の妃たちに同情する。
あんな魔王の好みに合うように努力し体調まで崩すのは、可哀相を通り越して悲惨としか言いようがない。
細すぎる腰に大きすぎる胸はバランスが悪いし、揺れる胸が邪魔にもなるはずだ。
(魔界にはブラジャーがないみたいだし)
魔界の女性の下着の中心はコルセットだった。コルセットの上部で胸の下半分を持ち上げ支えているのだ。
現代日本の機能美に優れたブラジャーに慣れていた暖には考えられないことだった。
そこまで考えて暖はポン! と閃く。
「モノア、ブラジャー、正妃サマ、アゲレバ?」
大きな胸のモノアが「大きい」と評するほどの魔界の正妃の胸。きっと彼女は揺れる胸に困っているはずだ。
現代風の胸をしっかり支えるブラジャーなら贅沢し放題の正妃も喜んでくれるのではないだろうか?
「ブラジャー?」
言われたモノアは不思議そうに首を傾げた。
「女性ノ胸、形、整エル下着! キット、正妃サマ喜ブ!」
百聞は一見に如かず。
身ひとつで後宮に送り込まれた暖は、その時ブラジャーをしていた。日本のものではなくこの世界の人間界のものだが、ブラジャーとしての形と機能は同じもの。
残念ながら着替えを持ち込めず、その後、暖はブラジャーをしたりしなかったりしているのだが、運の良いことに今日はブラジャーをしていた。
暖は、バッと勢いよく上着を脱ぐ。上半身ブラ一枚になってモノアに見せた。
「コレ、ブラジャー!」
モノアは一つ目をパチクリとさせる。
「……そんな小さな布に、正妃さまの胸は入らないわ。もちろん、私もよ」
「大キク、作ル! 当タリ前!!」
暖は、プンプンと怒った。
この後のモノアのマッサージがとても強くなってしまったことは、仕方のないことだろう。
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