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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。
自分がどうしたいのか
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「今、魔界に入れるのは、魔物とその契約者だけじゃ。あのクソ魔王は、魔力だけは強いからの」
ディアナの言葉を聞いた暖は、以前も魔女が魔王を「クソ魔王」と呼んでいたことを思い出す。
「ディアナ、魔王、知ッテル?」
はたして、暖の問いかけに、ディアナは嫌々ながら頷いた。
「昔、一騎討ちをしたことがあっての。あ奴は魔力だけは強かったから、倒すのに三日三晩かかった」
忌々しそうにディアナは舌打ちする。
「倒したぁ?」
「勝ッタノ?」
ダンケルと暖の驚愕の叫びが重なった。
いくら力の強い魔女とはいっても、相手は魔王なのである。普通は勝てないものではないのだろうか?
信じられない二人に、ディアナは「まあな」と頷く。
「あの頃はわしも若かったからの。武闘派魔女として売り出しておった。ついつい熱が入っての。完璧に息の根は止められなかったのじゃが……うむ。若気のいたりじゃ」
ちょっぴり恥ずかしそうにディアナは頬を染める。
老魔女の武闘派仕様を想像して、暖とダンケルは顔を青くした。
「それ以上詳しく聞かない方が良いですよ。話が長くなりますからね。ちなみに、それがディアナが世界を壊しかけた最初の事件です」
リオールがこっそりと耳打ちしてくれる。
「よくよく考えてみれば、あの時の魔力の暴走も不可抗力といえるの。全ては、あのクソ魔王のせいじゃ。……うむ、わしは悪くない」
なにやら自分で納得し、頷くディアナ。
このままでは、ディアナの長い思い出話がはじまってしまうと思ったのだろう、リオールが話の方向修正をかけてきた。
「それより、ディアナ。今のこの状況でも、あなたはウララを魔界にやるつもりなのですか?」
エルフの問いかけに、ディアナはあっさり頷いた。
「ウルフィアを取り戻すためじゃ。致し方ないじゃろう」
暖は必死に首を横に振る。
「治癒魔法ナンカ、使エナイ! ソレニ、アルディア、怒ラレル!」
「アルディアは、わしに相談しろと言ったじゃろう?」
暖がアルディアの名を出せば、ディアナはそう返してきた。
確かに、アルディアは、一人で判断せずにディアナに聞けと言っていた。
しかし――――
「デモ、ソレハ、私ニ、外、出ルナッテ事デ」
決して、ディアナが良いと言ったら出ていいという事ではないだろう。
「この際、アルディアの意思は関係ない。要はお前がどう思っておるかじゃ。このまま安全なこの村で、いつ終わるともわからぬ戦が終わるのを待っておるか? それとも多少の危険はあっても魔界に行き、魔族を助けて戦を収めるか?」
ディアナはそう言って、静かに暖を見つめてきた。
――――ズルいと、暖は思う。
そんなことを言われたら、暖は行動を起こしたくなる。
そう、本当は暖だって戦争を終わらせるために何かをしたかった。
何でもいいから自分の出来る何かを。
ただ守られて安全な場所にいるのは……嫌だった。
(でも、ここは異世界で、私が勝手に動いたりしたら、みんなに迷惑をかけちゃうから……)
そう思って、暖は我慢しているのだ。
なのに、そんな風に聞かれたら――――
「……私、魔界、行ッテイイノ? 治癒魔法、使エナイ。何モ出来ナイ。……ソレデモ?」
ディアナは、ニンマリと笑った。
「行っていいかどうかではない。お前が行きたいかどうかじゃ」
「迷惑、ナイ?」
もしも暖が魔界に行き、魔族に捕まり人質になったとしたら――――
アルディアは、悪口雑言言いながら、それでも暖を助けるために無理をするだろう。
他のみんなだって、暖を助けるためならどんなムチャでもしてくれるに違いない。
(みんな、優しいもの)
身勝手に見えるディアナでさえ、実は暖を大切にしてくれているのはわかっていた。
(私のために、危険に遭って欲しくない!)
本当に、そう思うのに――――
「ウジウジ考えておらんで、さっさと結論を出せ!」
ディアナが、イライラと急かす。
「………………行キタイ」
ついに暖は、小さな声でそう言った。
ディアナの言葉を聞いた暖は、以前も魔女が魔王を「クソ魔王」と呼んでいたことを思い出す。
「ディアナ、魔王、知ッテル?」
はたして、暖の問いかけに、ディアナは嫌々ながら頷いた。
「昔、一騎討ちをしたことがあっての。あ奴は魔力だけは強かったから、倒すのに三日三晩かかった」
忌々しそうにディアナは舌打ちする。
「倒したぁ?」
「勝ッタノ?」
ダンケルと暖の驚愕の叫びが重なった。
いくら力の強い魔女とはいっても、相手は魔王なのである。普通は勝てないものではないのだろうか?
信じられない二人に、ディアナは「まあな」と頷く。
「あの頃はわしも若かったからの。武闘派魔女として売り出しておった。ついつい熱が入っての。完璧に息の根は止められなかったのじゃが……うむ。若気のいたりじゃ」
ちょっぴり恥ずかしそうにディアナは頬を染める。
老魔女の武闘派仕様を想像して、暖とダンケルは顔を青くした。
「それ以上詳しく聞かない方が良いですよ。話が長くなりますからね。ちなみに、それがディアナが世界を壊しかけた最初の事件です」
リオールがこっそりと耳打ちしてくれる。
「よくよく考えてみれば、あの時の魔力の暴走も不可抗力といえるの。全ては、あのクソ魔王のせいじゃ。……うむ、わしは悪くない」
なにやら自分で納得し、頷くディアナ。
このままでは、ディアナの長い思い出話がはじまってしまうと思ったのだろう、リオールが話の方向修正をかけてきた。
「それより、ディアナ。今のこの状況でも、あなたはウララを魔界にやるつもりなのですか?」
エルフの問いかけに、ディアナはあっさり頷いた。
「ウルフィアを取り戻すためじゃ。致し方ないじゃろう」
暖は必死に首を横に振る。
「治癒魔法ナンカ、使エナイ! ソレニ、アルディア、怒ラレル!」
「アルディアは、わしに相談しろと言ったじゃろう?」
暖がアルディアの名を出せば、ディアナはそう返してきた。
確かに、アルディアは、一人で判断せずにディアナに聞けと言っていた。
しかし――――
「デモ、ソレハ、私ニ、外、出ルナッテ事デ」
決して、ディアナが良いと言ったら出ていいという事ではないだろう。
「この際、アルディアの意思は関係ない。要はお前がどう思っておるかじゃ。このまま安全なこの村で、いつ終わるともわからぬ戦が終わるのを待っておるか? それとも多少の危険はあっても魔界に行き、魔族を助けて戦を収めるか?」
ディアナはそう言って、静かに暖を見つめてきた。
――――ズルいと、暖は思う。
そんなことを言われたら、暖は行動を起こしたくなる。
そう、本当は暖だって戦争を終わらせるために何かをしたかった。
何でもいいから自分の出来る何かを。
ただ守られて安全な場所にいるのは……嫌だった。
(でも、ここは異世界で、私が勝手に動いたりしたら、みんなに迷惑をかけちゃうから……)
そう思って、暖は我慢しているのだ。
なのに、そんな風に聞かれたら――――
「……私、魔界、行ッテイイノ? 治癒魔法、使エナイ。何モ出来ナイ。……ソレデモ?」
ディアナは、ニンマリと笑った。
「行っていいかどうかではない。お前が行きたいかどうかじゃ」
「迷惑、ナイ?」
もしも暖が魔界に行き、魔族に捕まり人質になったとしたら――――
アルディアは、悪口雑言言いながら、それでも暖を助けるために無理をするだろう。
他のみんなだって、暖を助けるためならどんなムチャでもしてくれるに違いない。
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身勝手に見えるディアナでさえ、実は暖を大切にしてくれているのはわかっていた。
(私のために、危険に遭って欲しくない!)
本当に、そう思うのに――――
「ウジウジ考えておらんで、さっさと結論を出せ!」
ディアナが、イライラと急かす。
「………………行キタイ」
ついに暖は、小さな声でそう言った。
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