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第一章 異世界の住人はとても個性的でした。
喘息発作の処置は、落ち着いて
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「何で? どうして? 言葉がわかるの?」
思わず暖は叫んでしまう。
それに対し、あからさまに耳を押さえながら、アルディアと呼ばれた青年は暖を睨んだ。
「お前は、この国の人間ではないのか? サーバス、何でこんなうるさい女を連れてきた? 私を通訳代わりに使うなと命じたはずだろう!」
物凄く横柄な口調で、サーバスを叱りつける青年。尊大で冷たい態度は、彼の美しさもあいまって、周囲を拒絶し、近寄り難くさせる。
しかし、暖はそんなことに構っていられなかった。
「私の言葉がわかるんですね! ここはどこですか!? 私、温泉に入っていてお湯に流されたら、いつの間にかここにいたんです! 全然言葉は通じないし …… お願い、私を助けてください! 私、元居た場所に帰れるんですよね!?」
暖は、今まで言いたくとも言えずに溜め込んでいた問いを爆発させた。
青年 ―――― アルディアは、益々顔をしかめた。
「うるさい。黙れ!」
「黙れるはずがないでしょう! どうして私はこんな目に遭っているの? お願い、教えて! 教えてよ!」
暖に怒鳴り返され、アルディアの目が険しくなる。
怒鳴ろうとしたのだろう。大きく息を吸い込み ――――
「……グッ」
おかしな声を出すと、突然ゲホゲホと咳き込みはじめた。
ゴホッ! と咳き込んだ後は、コンコンといつまでも咳が止まらない。
体を折りたたみ、自分で自分の胸元を掴み苦しそうに咳を続ける。
「アルディア〇〇!」
サーバスや側に居た男性が焦ったようにアルディアを取り囲む。
暖は、びっくりして固まった。
「え? ……まさか、これって、喘息の発作?」
両親を早くに亡くした暖だが、彼女には三つ歳の離れた妹がいる。守るべき妹がいたからこそ、暖は両親を亡くした悲しみに耐え、強く生きてこれたのだ。
そんな暖の妹は、喘息だった。
小さな頃は、夜中にたびたび発作を起こし、ヒドイ時は救急車を呼んで入退院を繰り返したこともある。
病弱で、儚げで、暖とは比べものにならないくらい可愛い妹。
そのせいか、十代の内に、暖より年上の頼りになる男性に見初められ、さっさとお嫁に行ってしまったのだが……
それまで、妹の面倒を見ていたのは暖だった。
つまり暖は、喘息発作の対応に慣れているのだ。
「ダメよ。周りで騒いじゃ! 喘息は相手を落ち着かせなきゃならないのよ」
言葉はわからないながらも、暖は確固たる意思を見せてアルディアの側に近寄った。
慌てる周囲を叱りつけ、アルディアの背中に触れる。
そのままそっと撫でた。
(吸入器は、…… 無いか)
暖が今まで見た範囲では、この村には、そんなものが有るほど医療器具が充実しているように思えなかった。
「大丈夫よ。落ち着いて。ゆっくりお腹で呼吸をするの。ちょっと前屈みになって」
まだ発作のおさまらないアルディアに優しく話しかけながら、暖は妹にしていたように背中を擦り続ける。
(水分補給ができればいいんだけど……)
「温かいお茶をください」
サーバスに頼んでみた。
「×××?」
やっぱり通じない。
何とかわかってもらおうと、コップで水を飲む動作をしたり少し息を吹きかけて冷ます仕草をしてみる。
ようやくウルフィアがわかってくれた。
ぬるま湯みたいなものが運ばれてくる。
「大丈夫? 飲めるようなら少しずつ口に入れて。…… そうそう、ゆっくり」
暖の言葉に従って、アルディアが苦しい息の中で少しずつお茶を飲む。
その間も暖の手は止まらずアルディアの背を撫でていた。
徐々に咳がおさまってくる。
暖が、ホッと息をつけるくらいになった頃、ようやく医師らしき人がやって来た。
「アルディア○○!」
「遅い!」
飛び込んで来た人物が慌てたようにアルディアに近寄り、それをアルディアが怒鳴りつける。
当然、彼はまた咳き込んだ。
「ダメよ、落ち着いて」
注意しながら暖はまた背を擦る。
……アルディアの呼吸は、ゆっくりと落ち着いた。
何故か、医師らしき人が、驚きに目を見張る。
「××! ○××!」
暖はその人から、スゴい勢いで詰め寄られた。
「え、え? 何?」
「お前が、あまりにも早く …… ゴホッ …… 私の発作を治したから、どうやったのかと、…… 聞いているのだ」
アルディアが苦しそうに教えてくれる。
「え? いや、私、特別なことは何もしてないわよ」
背中を擦り落ち着かせて、腹式呼吸をすすめ、水分補給をさせる。
それは、喘息の対応としては、ごく当たり前のことだ。
確かに発作は軽くおさまったが、それは暖の処置がうんぬんというより、アルディアの症状が軽かったということだろう。
なのに、医師は暖に迫ってくる。
「いや本当に何もないんで……」
暖は、首を横に振りながら後退さる。
ようやく落ち着いたアルディアが医師らしき人を止めてくれるまで、彼女は、ずっと首を振り続けるはめになったのだった。
思わず暖は叫んでしまう。
それに対し、あからさまに耳を押さえながら、アルディアと呼ばれた青年は暖を睨んだ。
「お前は、この国の人間ではないのか? サーバス、何でこんなうるさい女を連れてきた? 私を通訳代わりに使うなと命じたはずだろう!」
物凄く横柄な口調で、サーバスを叱りつける青年。尊大で冷たい態度は、彼の美しさもあいまって、周囲を拒絶し、近寄り難くさせる。
しかし、暖はそんなことに構っていられなかった。
「私の言葉がわかるんですね! ここはどこですか!? 私、温泉に入っていてお湯に流されたら、いつの間にかここにいたんです! 全然言葉は通じないし …… お願い、私を助けてください! 私、元居た場所に帰れるんですよね!?」
暖は、今まで言いたくとも言えずに溜め込んでいた問いを爆発させた。
青年 ―――― アルディアは、益々顔をしかめた。
「うるさい。黙れ!」
「黙れるはずがないでしょう! どうして私はこんな目に遭っているの? お願い、教えて! 教えてよ!」
暖に怒鳴り返され、アルディアの目が険しくなる。
怒鳴ろうとしたのだろう。大きく息を吸い込み ――――
「……グッ」
おかしな声を出すと、突然ゲホゲホと咳き込みはじめた。
ゴホッ! と咳き込んだ後は、コンコンといつまでも咳が止まらない。
体を折りたたみ、自分で自分の胸元を掴み苦しそうに咳を続ける。
「アルディア〇〇!」
サーバスや側に居た男性が焦ったようにアルディアを取り囲む。
暖は、びっくりして固まった。
「え? ……まさか、これって、喘息の発作?」
両親を早くに亡くした暖だが、彼女には三つ歳の離れた妹がいる。守るべき妹がいたからこそ、暖は両親を亡くした悲しみに耐え、強く生きてこれたのだ。
そんな暖の妹は、喘息だった。
小さな頃は、夜中にたびたび発作を起こし、ヒドイ時は救急車を呼んで入退院を繰り返したこともある。
病弱で、儚げで、暖とは比べものにならないくらい可愛い妹。
そのせいか、十代の内に、暖より年上の頼りになる男性に見初められ、さっさとお嫁に行ってしまったのだが……
それまで、妹の面倒を見ていたのは暖だった。
つまり暖は、喘息発作の対応に慣れているのだ。
「ダメよ。周りで騒いじゃ! 喘息は相手を落ち着かせなきゃならないのよ」
言葉はわからないながらも、暖は確固たる意思を見せてアルディアの側に近寄った。
慌てる周囲を叱りつけ、アルディアの背中に触れる。
そのままそっと撫でた。
(吸入器は、…… 無いか)
暖が今まで見た範囲では、この村には、そんなものが有るほど医療器具が充実しているように思えなかった。
「大丈夫よ。落ち着いて。ゆっくりお腹で呼吸をするの。ちょっと前屈みになって」
まだ発作のおさまらないアルディアに優しく話しかけながら、暖は妹にしていたように背中を擦り続ける。
(水分補給ができればいいんだけど……)
「温かいお茶をください」
サーバスに頼んでみた。
「×××?」
やっぱり通じない。
何とかわかってもらおうと、コップで水を飲む動作をしたり少し息を吹きかけて冷ます仕草をしてみる。
ようやくウルフィアがわかってくれた。
ぬるま湯みたいなものが運ばれてくる。
「大丈夫? 飲めるようなら少しずつ口に入れて。…… そうそう、ゆっくり」
暖の言葉に従って、アルディアが苦しい息の中で少しずつお茶を飲む。
その間も暖の手は止まらずアルディアの背を撫でていた。
徐々に咳がおさまってくる。
暖が、ホッと息をつけるくらいになった頃、ようやく医師らしき人がやって来た。
「アルディア○○!」
「遅い!」
飛び込んで来た人物が慌てたようにアルディアに近寄り、それをアルディアが怒鳴りつける。
当然、彼はまた咳き込んだ。
「ダメよ、落ち着いて」
注意しながら暖はまた背を擦る。
……アルディアの呼吸は、ゆっくりと落ち着いた。
何故か、医師らしき人が、驚きに目を見張る。
「××! ○××!」
暖はその人から、スゴい勢いで詰め寄られた。
「え、え? 何?」
「お前が、あまりにも早く …… ゴホッ …… 私の発作を治したから、どうやったのかと、…… 聞いているのだ」
アルディアが苦しそうに教えてくれる。
「え? いや、私、特別なことは何もしてないわよ」
背中を擦り落ち着かせて、腹式呼吸をすすめ、水分補給をさせる。
それは、喘息の対応としては、ごく当たり前のことだ。
確かに発作は軽くおさまったが、それは暖の処置がうんぬんというより、アルディアの症状が軽かったということだろう。
なのに、医師は暖に迫ってくる。
「いや本当に何もないんで……」
暖は、首を横に振りながら後退さる。
ようやく落ち着いたアルディアが医師らしき人を止めてくれるまで、彼女は、ずっと首を振り続けるはめになったのだった。
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