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エピローグ
2(ユウの姉視点)
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今日は最高にお天気がいい。
その事に、私 坂上唯は上機嫌で街中を歩いて行く。
気分がいい理由は他にもあった。
なんと昨晩、あの半引きこもりでダサキモの愚弟の由から電話があったのだ。
あいつから電話をかけてくるなんて、何年振りだろうか?
しかもその内容は――――
「姉貴、就職試験の過去問とか持ってるか?」
――――だった。
私は驚いた。
驚き狂喜乱舞した!
あの由が!
臆病で、何をやるにも他人から尻を叩かれなければ自ら動こうとなんてしなかった由が!
自分から私にヤル気の電話をかけてきたのだ!
これを驚かずに何を驚けというのか。
ジ~ンと感動に浸っていたら呆れて電話を切られそうになって、慌てて問題集を持参する約束をとりつけた。
「え~? わざわざ来なくったっていいよ。どっかで待ち合わせて受け取りだけすれば――」
「行くわよ! 久しぶりにゆっくり話したいし!」
「話なんかねぇよ」
「あるわよ! ……試験の傾向と対策とか、面接だってたいへんなのよ!」
「……めんどくせぇ」
「由!!」
「……わぁったよ」
テンションの低さは相変わらずだったが、それでもこれは偉大な一歩だった!
喜び勇んだ私は、そのまま母にメールする。
『由が、就職試験にやる気を出したよ! ☆c(゜ー゜*)c☆』
『え!? (゜〇゜;)マ、マジ……ヽ(゜▽゜*)乂(*゜▽゜)ノ バンザイ♪』
……顔文字好きは、我が家の共通項である。
母はきっと今夜お赤飯を炊くだろう。
何はともあれ本当に良かった。
いや、まだ就職できたわけでもなんでもないけれど。
……思えば由は子供の頃から後ろ向きな子だった。
何より他人と争う事が嫌いだ。
優しくて平和主義と言えば聞こえはいいだろうが、要は臆病でヘタレな事なかれ主義なのである。
思い出すのは、幼い頃一緒に遊んだごっこ遊びだ。
当時お気に入りだった男の子のお人形と犬のぬいぐるみ、恐竜のフィギュアを使い、私と弟は架空の世界を創り神さまごっこをよくやっていた。
それぞれを戦わせようとする私を、弟は「なかよくしなきゃだめっ!」と言って、いつも止めていた。
「そんなになかよくばっか、できるわけないでしょ!」
「できるもん!みんなおともだちだもん!」
小さな手いっぱいに人形とぬいぐるみと恐竜のフィギュアを抱え、弟は私からそれらを庇う。
その姿にムッとして、私はなおさら弟に突っかかったものだ。
「ぜったい、ムリよ!」
「ムリじゃない」
「できないってば」
「できるもん!」
睨み付ければビクビクするくせに、弟はそれだけは言い張った。
「なかよくしなきゃ、ダメだもん! ケンカするとバチがあたるから」
それは姉弟ゲンカをする私達に、よくおばあちゃんが言っていた言葉だった。
「バチなんかこわくないもん!」
「こわいよ!ぜったいこわいんだよっ……」
人形達を抱き締めて私を睨む弟は、涙目だった。
泣き虫で臆病で争い事が嫌いで――――本当に由は昔から変わらない。
まあ、優しいのは間違いないんだろうけれど。
このごっご遊びの時だって、由は人形達に罰が当たる事を本気で心配していた。
「おねぇちゃん。この子たちがケンカして、ほんとうにバチがあたったらどうしよう?」
「バカね、ゆう。そんなことほんとうにあるはずないでしょう」
「でも……」
ぎゅっと人形を抱き締めてべそをかく由は、とても可愛らしかった。
ああ、本当にあの可愛かった弟があんなになってしまうだなんて、時の流れは無情だ。
「そういうときは、ゆうがたすけてやればいいんじゃない?」
「ぼくが?」
「そーよ。たしかね、きゅーせいしゅっていうんだよ。せかいをすくうひと。このまえよんだマンガにでてたもん」
「――――ぼくがきゅーせいしゅ?」
その後、暫く私と由は救世主ごっごをして楽しんだ。
うん。我ながら仲の良い姉弟だったと思う。
成長するに連れて、由はなんだか捻くれ最近は疎遠になっていたが、久々に姉である私を頼ってくれたのだから、ここは目一杯世話をやいてやろう。
目指せ弟の就職成就!
私は心からその成功を青空に願った。
その事に、私 坂上唯は上機嫌で街中を歩いて行く。
気分がいい理由は他にもあった。
なんと昨晩、あの半引きこもりでダサキモの愚弟の由から電話があったのだ。
あいつから電話をかけてくるなんて、何年振りだろうか?
しかもその内容は――――
「姉貴、就職試験の過去問とか持ってるか?」
――――だった。
私は驚いた。
驚き狂喜乱舞した!
あの由が!
臆病で、何をやるにも他人から尻を叩かれなければ自ら動こうとなんてしなかった由が!
自分から私にヤル気の電話をかけてきたのだ!
これを驚かずに何を驚けというのか。
ジ~ンと感動に浸っていたら呆れて電話を切られそうになって、慌てて問題集を持参する約束をとりつけた。
「え~? わざわざ来なくったっていいよ。どっかで待ち合わせて受け取りだけすれば――」
「行くわよ! 久しぶりにゆっくり話したいし!」
「話なんかねぇよ」
「あるわよ! ……試験の傾向と対策とか、面接だってたいへんなのよ!」
「……めんどくせぇ」
「由!!」
「……わぁったよ」
テンションの低さは相変わらずだったが、それでもこれは偉大な一歩だった!
喜び勇んだ私は、そのまま母にメールする。
『由が、就職試験にやる気を出したよ! ☆c(゜ー゜*)c☆』
『え!? (゜〇゜;)マ、マジ……ヽ(゜▽゜*)乂(*゜▽゜)ノ バンザイ♪』
……顔文字好きは、我が家の共通項である。
母はきっと今夜お赤飯を炊くだろう。
何はともあれ本当に良かった。
いや、まだ就職できたわけでもなんでもないけれど。
……思えば由は子供の頃から後ろ向きな子だった。
何より他人と争う事が嫌いだ。
優しくて平和主義と言えば聞こえはいいだろうが、要は臆病でヘタレな事なかれ主義なのである。
思い出すのは、幼い頃一緒に遊んだごっこ遊びだ。
当時お気に入りだった男の子のお人形と犬のぬいぐるみ、恐竜のフィギュアを使い、私と弟は架空の世界を創り神さまごっこをよくやっていた。
それぞれを戦わせようとする私を、弟は「なかよくしなきゃだめっ!」と言って、いつも止めていた。
「そんなになかよくばっか、できるわけないでしょ!」
「できるもん!みんなおともだちだもん!」
小さな手いっぱいに人形とぬいぐるみと恐竜のフィギュアを抱え、弟は私からそれらを庇う。
その姿にムッとして、私はなおさら弟に突っかかったものだ。
「ぜったい、ムリよ!」
「ムリじゃない」
「できないってば」
「できるもん!」
睨み付ければビクビクするくせに、弟はそれだけは言い張った。
「なかよくしなきゃ、ダメだもん! ケンカするとバチがあたるから」
それは姉弟ゲンカをする私達に、よくおばあちゃんが言っていた言葉だった。
「バチなんかこわくないもん!」
「こわいよ!ぜったいこわいんだよっ……」
人形達を抱き締めて私を睨む弟は、涙目だった。
泣き虫で臆病で争い事が嫌いで――――本当に由は昔から変わらない。
まあ、優しいのは間違いないんだろうけれど。
このごっご遊びの時だって、由は人形達に罰が当たる事を本気で心配していた。
「おねぇちゃん。この子たちがケンカして、ほんとうにバチがあたったらどうしよう?」
「バカね、ゆう。そんなことほんとうにあるはずないでしょう」
「でも……」
ぎゅっと人形を抱き締めてべそをかく由は、とても可愛らしかった。
ああ、本当にあの可愛かった弟があんなになってしまうだなんて、時の流れは無情だ。
「そういうときは、ゆうがたすけてやればいいんじゃない?」
「ぼくが?」
「そーよ。たしかね、きゅーせいしゅっていうんだよ。せかいをすくうひと。このまえよんだマンガにでてたもん」
「――――ぼくがきゅーせいしゅ?」
その後、暫く私と由は救世主ごっごをして楽しんだ。
うん。我ながら仲の良い姉弟だったと思う。
成長するに連れて、由はなんだか捻くれ最近は疎遠になっていたが、久々に姉である私を頼ってくれたのだから、ここは目一杯世話をやいてやろう。
目指せ弟の就職成就!
私は心からその成功を青空に願った。
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