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異世界驚嘆中
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『その家は、金と銀の色を持つ者を多く生み出すロダの一族を有している事に、常々優越感を持っていた家だ。……金と銀の光を持つ者を従えし者は、いつの日にか全ての人々を従えるだろう……という民間伝承があるからな。何の根拠もない言い伝えだが、そういった者を所有することは、我らにとって権力のステータス・シンボルになっている』
――――また、救世主伝説か?!
しかも歪曲されているし。
どんな伝言ゲームだよ!
『ロダの一族に対するその家の執着は強い。人間を連れ戻す大義名分を得た彼らの強固な主張に屈する形で、国は人間達に対する侵攻を決定した』
なんて傍迷惑な執念なんだ。
なんだかアディのおじいちゃんが逃げ出した理由がわかるような気がする。
勝手にステータス・シンボルなんかにされて、金と銀の色を持つ人間を増やすためにいろいろされてきたんじゃないだろうか。
(血統書付きの犬とかそんな感じか?)
日本の皇室にもイギリスの王室にも由緒正しいお犬さまがいたはずだ。
もちろん反旗を翻し逃げ出した理由は他にもいろいろあるんだろうけれど、この事も原因の一端だったのは間違いないだろう。
『その決定を聞いた神殿は、直ちに人間に事の次第を極秘裏に伝えるために無鱗である俺を派遣した。俺であれば人に紛れユイフィニアに接触する事ができるだろうと。……起こるだろう悲劇を防げないまでもできるだけ最小限に抑えたいと神殿は願っている。それが『神』のご意志のはずだ。――――頼む、俺をユイフィニアに会わせてくれ。そうでなければこの事をユイフィニアに伝えてくれるだけでもいい! もう、いつ我が国の侵攻がはじまってもおかしくないんだ。頼む!!』
そう言ってサウリアは額を地に付け頭を下げた。
(土下座じゃん)
この世界にも土下座ってあるんだなと俺はぼんやり思う。
当然現実逃避の思考だ。
事態の展開が急かつ大きすぎて頭が回らない。
俺は性格は醒めているくせに、パニックに弱いという全然使えない人間なんだ!
威張って言う事じゃないけどな。
あっ、やべぇ。自己嫌悪に嵌りそう。
これはさっさと問題を誰かに丸投げした方がイイだろう。
「ティツァ。有鱗種がこの国に攻めてくる。彼はそれを報せに来てくれたんだ。俺は彼をアディの元に連れて行こうと思う」
うん。それが最善策だ。
サウリアの本来の目的も、この事を王太后さまを通じて人間の王に伝える事なんだ。
俺は王太后さまじゃないけれど通訳はできる。
山間の神殿まで行って帰って来る時間なんて待っている暇はないだろう。
なのにティツァは難しい顔で考えこむ。
何を迷っているんだ?
まさか人間なんて救う必要はないとか言わないでくれよ。
「ティツァ、迷っている時間はないんだ。有鱗種の力がどれ程かはわからないけれど、国を挙げての派兵であればそれなりの武力で来ているだろう。人間と一緒に居る限り獣人だって襲われるんだ。いくら獣人が強くても、普通の獣人は余程追い詰められなければ戦ったりしないんだろう? グズグズしている間に犠牲者が出たら取り返しがつかないぞ」
俺は、俺にしては珍しく強気で言いつのった。
ホント、そんなせいで人間や獣人が有鱗種に負けたりしたら、俺は立ち直れない。
一生後悔して生きる人生なんてまっぴらごめんだ。
「――――それは、救世主としてのお前の命令か?」
ティツァはそんなふうに聞いてきた。
俺は、救世主じゃないって言っているだろう!
しかし、背に腹は代えられなかった。
つまり救世主の命令ならばティツァは従うということなんだろう。
「……………………そうだ」
もの凄くしぶしぶと、俺が悲痛な覚悟を決めて答えたっていうのに――――
「ティツァ! たいへんだっ。城の方角に火の手が上がっている!!」
狐耳と尻尾の獣人が、慌てて飛び込んできた。
俺は、どうやら間に合わなかったようだった。
――――また、救世主伝説か?!
しかも歪曲されているし。
どんな伝言ゲームだよ!
『ロダの一族に対するその家の執着は強い。人間を連れ戻す大義名分を得た彼らの強固な主張に屈する形で、国は人間達に対する侵攻を決定した』
なんて傍迷惑な執念なんだ。
なんだかアディのおじいちゃんが逃げ出した理由がわかるような気がする。
勝手にステータス・シンボルなんかにされて、金と銀の色を持つ人間を増やすためにいろいろされてきたんじゃないだろうか。
(血統書付きの犬とかそんな感じか?)
日本の皇室にもイギリスの王室にも由緒正しいお犬さまがいたはずだ。
もちろん反旗を翻し逃げ出した理由は他にもいろいろあるんだろうけれど、この事も原因の一端だったのは間違いないだろう。
『その決定を聞いた神殿は、直ちに人間に事の次第を極秘裏に伝えるために無鱗である俺を派遣した。俺であれば人に紛れユイフィニアに接触する事ができるだろうと。……起こるだろう悲劇を防げないまでもできるだけ最小限に抑えたいと神殿は願っている。それが『神』のご意志のはずだ。――――頼む、俺をユイフィニアに会わせてくれ。そうでなければこの事をユイフィニアに伝えてくれるだけでもいい! もう、いつ我が国の侵攻がはじまってもおかしくないんだ。頼む!!』
そう言ってサウリアは額を地に付け頭を下げた。
(土下座じゃん)
この世界にも土下座ってあるんだなと俺はぼんやり思う。
当然現実逃避の思考だ。
事態の展開が急かつ大きすぎて頭が回らない。
俺は性格は醒めているくせに、パニックに弱いという全然使えない人間なんだ!
威張って言う事じゃないけどな。
あっ、やべぇ。自己嫌悪に嵌りそう。
これはさっさと問題を誰かに丸投げした方がイイだろう。
「ティツァ。有鱗種がこの国に攻めてくる。彼はそれを報せに来てくれたんだ。俺は彼をアディの元に連れて行こうと思う」
うん。それが最善策だ。
サウリアの本来の目的も、この事を王太后さまを通じて人間の王に伝える事なんだ。
俺は王太后さまじゃないけれど通訳はできる。
山間の神殿まで行って帰って来る時間なんて待っている暇はないだろう。
なのにティツァは難しい顔で考えこむ。
何を迷っているんだ?
まさか人間なんて救う必要はないとか言わないでくれよ。
「ティツァ、迷っている時間はないんだ。有鱗種の力がどれ程かはわからないけれど、国を挙げての派兵であればそれなりの武力で来ているだろう。人間と一緒に居る限り獣人だって襲われるんだ。いくら獣人が強くても、普通の獣人は余程追い詰められなければ戦ったりしないんだろう? グズグズしている間に犠牲者が出たら取り返しがつかないぞ」
俺は、俺にしては珍しく強気で言いつのった。
ホント、そんなせいで人間や獣人が有鱗種に負けたりしたら、俺は立ち直れない。
一生後悔して生きる人生なんてまっぴらごめんだ。
「――――それは、救世主としてのお前の命令か?」
ティツァはそんなふうに聞いてきた。
俺は、救世主じゃないって言っているだろう!
しかし、背に腹は代えられなかった。
つまり救世主の命令ならばティツァは従うということなんだろう。
「……………………そうだ」
もの凄くしぶしぶと、俺が悲痛な覚悟を決めて答えたっていうのに――――
「ティツァ! たいへんだっ。城の方角に火の手が上がっている!!」
狐耳と尻尾の獣人が、慌てて飛び込んできた。
俺は、どうやら間に合わなかったようだった。
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