上 下
37 / 60
異世界驚嘆中

しおりを挟む
 ティツァに案内されて俺はまず不審者の居る場所の隣の部屋に入る。
 そこに居たのはティツァと同じ年頃と見られる獣人達数人だった。

「……こ、今晩は」

 マジマジとガン見され、俺はビビりながら挨拶する。

 「うわっ!? 本当に、俺達の言葉を話すんだな」

 一番大柄な獣人が驚く。
 いえ、話しているのは日本語です。自動翻訳チートでそう聞こえているだけです。

「そいつが救世主なのか?」

 疑わしそうに話すのは小柄で狐みたいな耳と尻尾を持った男だった。

「違います」
「そうだ」

 俺とティツァの返事が同時に重なる。
 ティツァにジロリと睨まれて、俺はビクッと震えて小さくなった。

「こいつはこう言っているが、ヴィヴォさまは、こいつが間違いなく救世主だと宣言された」

 おお~っ、という声が獣人達から上がる。
 俺の正論と思える多くの言葉よりも、ヴィヴォの何の根拠もないたった一言の方が彼らには正しいのだろう。
 うん、今更反論なんかしないさ。
 俺は無駄な事はしない主義だ。
 ジロジロと動物園のパンダのように見られて、俺は居心地悪くティツァに抗議の視線を送った。

 ティツァは肩を竦めると、彼らの視線から俺を遮るような立ち位置に移ってくれる。

「不審者の様子はどうだ?」

 獣人達が、一様に驚いたように目を見開いた。

「へぇ。随分大切にしているんだな。――――ああ、奴は相変わらずだ。さっきも声が聞こえただろう。わけのわからぬ言葉を叫び続けている」

 大切にしているって、誰が、誰を?

 嫌そうにしかめられたティツァの眉を見て、その質問はしない方が良いと思った俺は賢明にも口を噤んだ。
 その表情のまま、ティツァは俺に一方の壁の方を指し示す。
 もちろん逆らったりせずに、俺はそちらに近づいた。
 外壁ではないはずの壁に、小さな窓がついている。

「向こうからはこちらが見えない術をかけてある。覗いて見ろ」

 どうやらこの窓は、隣の部屋の不審者を観察する用の覗き窓らしかった。

(すげぇ、刑事もののドラマみてぇ)

 感動した俺は、そっと窓の中の様子を伺う。

 驚いた事にそこに居たのは少年だった。
 ほっそりとした手足が重たそうな鎖に繋がれている。
 短い赤毛に赤銅色の肌。整った顔立ちの中の大きめの瞳は琥珀色だろうか。
 そんな状況にもかかわらず、ランプの灯かりを反射してキラキラと輝く強い意志がその目には見えた。

(なんで美少年なんだ?)

 鎖に繋がれた美少年なんて、いったい誰得?

 少なくとも俺じゃねぇ。
 姉貴あたりなら大喜びで小躍りしそうだが、俺的にはあのぺったんこの胸に僅かでいいからふくらみが欲しい。


『誰か聞いているのか! ――――既に本国から派遣された船団が沖合で待機しているはずだ。工作員もかなりの数が潜入している。人間の戦闘力なんか我らに比べれば赤子のようなものだぞ。戦いになり人間が敗れれば、お前達獣人だって無事ではすまないだろう!?』


 俺が無念をこらえて平らな体を凝視している間に、残念な胸の持ち主は手足を戒める鎖をモノともせず振り回し、とんでもないことを怒鳴ってくれた。

(へっ!? ……船団。人間に比べればって――――しかもあの言い様は、こいつって獣人でもないのか?)

 その発言から導き出される答えは、ひとつしかなかった。

(え、え、えぇっ~!!)


「テ、ティツァ……あいつ、有鱗種だ」


俺の声は情けなくも震えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

狼くんは耳と尻尾に視線を感じる

犬派だんぜん
BL
俺は狼の獣人で、幼馴染と街で冒険者に登録したばかりの15歳だ。この街にアイテムボックス持ちが来るという噂は俺たちには関係ないことだと思っていたのに、初心者講習で一緒になってしまった。気が弱そうなそいつをほっとけなくて声をかけたけど、俺の耳と尻尾を見られてる気がする。 『世界を越えてもその手は』外伝。「アルとの出会い」「アルとの転機」のキリシュの話です。

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……

おがこは
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?! ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。 凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

【完結】雨を待つ隠れ家

エウラ
BL
VRMMO 『Free Fantasy online』通称FFOのログイン中に、異世界召喚された桜庭六花。しかし、それはその異世界では禁忌魔法で欠陥もあり、魂だけが召喚された為、見かねた異世界の神が急遽アバターをかたどった身体を創って魂を容れたが、馴染む前に召喚陣に転移してしまう。 結果、隷属の首輪で奴隷として生きることになり・・・。 主人公の待遇はかなり酷いです。(身体的にも精神的にも辛い) 後に救い出され、溺愛されてハッピーエンド予定。 設定が仕事しませんでした。全員キャラが暴走。ノリと勢いで書いてるので、それでもよかったら読んで下さい。 番外編を追加していましたが、長くなって収拾つかなくなりそうなのでこちらは完結にします。 読んでくださってありがとう御座いました。 別タイトルで番外編を書く予定です。

俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜

琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。 ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが……… ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ…… 世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。 気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。 そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。 ※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

【完結】転生じぃちゃん助けた子犬に喰われる!?

湊未来
BL
『ななな、なんで頭にウサギの耳が生えているんだぁぁぁ!!!!』  時の神の気まぐれなお遊びに巻き込まれた哀れな男が、獣人国アルスター王国で、絶叫という名の産声をあげ誕生した。  名を『ユリアス・ラパン』と言う。  生を全うし天へと召された爺さんが、何の因果か、過去の記憶を残したまま、兎獣人へと転生してしまった。  過去の記憶を武器にやりたい放題。無意識に、周りの肉食獣人をも魅了していくからさぁ大変!  果たして、兎獣人に輪廻転生してしまった爺さんは、第二の人生を平和に、のほほんと過ごす事が出来るのだろうか?  兎獣人に異様な執着を見せる狼獣人✖️爺さんの記憶を残したまま輪廻転生してしまった兎獣人のハートフルBLコメディ。時々、シリアス。 ※BLは初投稿です。温かな目でご覧頂けると幸いです。 ※R-18は出てきません。未遂はあるので、保険でR-15つけておきます。 ※男性が妊娠する世界観ですが、そう言った描写は出てきません。

処理中です...