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異世界驚嘆中
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「おばばさま。ここを開けてください!」
「おばあさま。ユウさまは!?」
「王太后さま! お共も付けずにそんな異世界人と二人になられるなど、危険です!」
「エイベット卿! ユウはそんな奴じゃない」
喧々諤々と言い合う声が響いてくる。
扉もドンドンと叩かれた。
「ユウ! 余計な事を話せば殺すからな!」
「ユウさま。ご無事ですか?」
どうやら、扉の外にはティツァやフィフィもいるようだった。
ティツァ、獣人の言葉はどうせ人間にはわからないと思って叫んでいるんだろうが、王太后さまには筒抜けだからな。
心配してそちらを見れば、何故か王太后さまじゃなくておばあちゃんの方が眉をひそめていた。
「救世主さまに対してなんたる言い草じゃ。後でシメねばならんの」
「ユウさま。ご安心ください。この部屋は特殊な結界に守られていますから外からの声は聞こえても、中の声が外に漏れる事はありません。……あぁ、でもアディもリーファも、あんなに心配して。2人とも本当にユウさまが好きなのね」
おばあちゃん……ティツァをシメるって、まさかの実力者なのか?
そして、王太后さま、うっとりと頬を赤らめるのは止めてください。
「あんな奴じゃが、ティツァは次代の獣人族を率いる長候補の1人じゃ。フィフィもわしの血をわずかながらに引いておる。耳と尻尾は違えども、容姿はわしの若い頃に瓜二つじゃし、きっと救世主様のお役に立つじゃろう」
「アディは、夫よりも息子に似て少しは使える子ですわ。リーファも巫女としての力は私に及ばず獣人の言葉もわかりませんけれど、若い頃の私にそっくりな真面目な頑張り屋さんです。ユウさま、どうか二人をよろしくお願いしますね」
フィフィとリーファが、おばばさまと王太后さまに似ているだなんてウソだっ!!
絶対信じないぞ!
それに、俺があんなに救世主なんかじゃないって言ったこと、二人共聞いていたのか?
俺は、またしても『お義母さんは、どうして自分の都合の悪い事には、耳が遠くなるのかしら?』と、嘆いていた母親を思い出した。
ガックリと肩を落とす。
ニッコリ笑った王太后さまは、背筋をスッと伸ばすと、パチンとカッコよく指を鳴らした。
その途端、ドン! ドン! と破壊的な音をさせていた扉がついに破られる。
おそらく体当たりをしていたのだろう、コヴィが先頭に立って部屋の中に転がりこんできた。
「ユウ!」
「ユウさまっ。」
直ぐ後にアディが飛び込んできて、俺の前に出てその背に俺を庇う。
続いてリーファが駆け寄って「大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてきた。
「あらまあ、そんなに必死になって。アディ、リーファ、私はユウさまを取って食いはしませんよ?」
「おばばさまには油断をするなというのが、おじじさまの遺言です」
――――おじじさまっていうのは、前国王陛下の事なんだろうな。
本当にいったい、前国王夫妻はどんな夫婦だったのだろう?
「……余計な事を」
なんと王太后さまは、小さく舌打ちをもらされた。
「親しくお話をさせていただいただけですよ。――――ねぇ、ユウさま」
優しく笑いかけられて、俺は引きつった笑みを返す。
周囲を窺えば、既に立ち直ったコヴィが壁際に直立不動で立っていて、エイベット卿は相変わらずの苦虫を噛み潰したような顔でこっちを見ていた。
扉の外では何だかんだと大騒ぎしていたようだが、いざ王太后さまの前に出てしまえば何も言えないようである。
入口近くに居るティツァとフィフィが、目を真ん丸にして部屋の奥に座るおばあちゃんを凝視していた。
おばあちゃんがニッと笑った顔にティツァの耳がペタンと伏せられ尻尾がダランと下がる。
(あ……ばあちゃん家のタロウと同じ反応だ)
俺のばあちゃん家にはタロウという名前のオスの秋田犬がいる。
でかくて堂々とした偉そうな犬なのだが、ばあちゃんにだけはとことん弱く、ちょっと叱られてはショボンとして憐れな鳴き声を上げていた。
今のティツァの姿は、そのタロウとそっくり同じだった。
このロダという国の人間も獣人も、ヒエラルキーの頂点にいるのは、どうやらおば……ではなく、年配のご婦人のようである。
うん。良いことなんだろうな……多分。
「おばあさま。ユウさまは!?」
「王太后さま! お共も付けずにそんな異世界人と二人になられるなど、危険です!」
「エイベット卿! ユウはそんな奴じゃない」
喧々諤々と言い合う声が響いてくる。
扉もドンドンと叩かれた。
「ユウ! 余計な事を話せば殺すからな!」
「ユウさま。ご無事ですか?」
どうやら、扉の外にはティツァやフィフィもいるようだった。
ティツァ、獣人の言葉はどうせ人間にはわからないと思って叫んでいるんだろうが、王太后さまには筒抜けだからな。
心配してそちらを見れば、何故か王太后さまじゃなくておばあちゃんの方が眉をひそめていた。
「救世主さまに対してなんたる言い草じゃ。後でシメねばならんの」
「ユウさま。ご安心ください。この部屋は特殊な結界に守られていますから外からの声は聞こえても、中の声が外に漏れる事はありません。……あぁ、でもアディもリーファも、あんなに心配して。2人とも本当にユウさまが好きなのね」
おばあちゃん……ティツァをシメるって、まさかの実力者なのか?
そして、王太后さま、うっとりと頬を赤らめるのは止めてください。
「あんな奴じゃが、ティツァは次代の獣人族を率いる長候補の1人じゃ。フィフィもわしの血をわずかながらに引いておる。耳と尻尾は違えども、容姿はわしの若い頃に瓜二つじゃし、きっと救世主様のお役に立つじゃろう」
「アディは、夫よりも息子に似て少しは使える子ですわ。リーファも巫女としての力は私に及ばず獣人の言葉もわかりませんけれど、若い頃の私にそっくりな真面目な頑張り屋さんです。ユウさま、どうか二人をよろしくお願いしますね」
フィフィとリーファが、おばばさまと王太后さまに似ているだなんてウソだっ!!
絶対信じないぞ!
それに、俺があんなに救世主なんかじゃないって言ったこと、二人共聞いていたのか?
俺は、またしても『お義母さんは、どうして自分の都合の悪い事には、耳が遠くなるのかしら?』と、嘆いていた母親を思い出した。
ガックリと肩を落とす。
ニッコリ笑った王太后さまは、背筋をスッと伸ばすと、パチンとカッコよく指を鳴らした。
その途端、ドン! ドン! と破壊的な音をさせていた扉がついに破られる。
おそらく体当たりをしていたのだろう、コヴィが先頭に立って部屋の中に転がりこんできた。
「ユウ!」
「ユウさまっ。」
直ぐ後にアディが飛び込んできて、俺の前に出てその背に俺を庇う。
続いてリーファが駆け寄って「大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてきた。
「あらまあ、そんなに必死になって。アディ、リーファ、私はユウさまを取って食いはしませんよ?」
「おばばさまには油断をするなというのが、おじじさまの遺言です」
――――おじじさまっていうのは、前国王陛下の事なんだろうな。
本当にいったい、前国王夫妻はどんな夫婦だったのだろう?
「……余計な事を」
なんと王太后さまは、小さく舌打ちをもらされた。
「親しくお話をさせていただいただけですよ。――――ねぇ、ユウさま」
優しく笑いかけられて、俺は引きつった笑みを返す。
周囲を窺えば、既に立ち直ったコヴィが壁際に直立不動で立っていて、エイベット卿は相変わらずの苦虫を噛み潰したような顔でこっちを見ていた。
扉の外では何だかんだと大騒ぎしていたようだが、いざ王太后さまの前に出てしまえば何も言えないようである。
入口近くに居るティツァとフィフィが、目を真ん丸にして部屋の奥に座るおばあちゃんを凝視していた。
おばあちゃんがニッと笑った顔にティツァの耳がペタンと伏せられ尻尾がダランと下がる。
(あ……ばあちゃん家のタロウと同じ反応だ)
俺のばあちゃん家にはタロウという名前のオスの秋田犬がいる。
でかくて堂々とした偉そうな犬なのだが、ばあちゃんにだけはとことん弱く、ちょっと叱られてはショボンとして憐れな鳴き声を上げていた。
今のティツァの姿は、そのタロウとそっくり同じだった。
このロダという国の人間も獣人も、ヒエラルキーの頂点にいるのは、どうやらおば……ではなく、年配のご婦人のようである。
うん。良いことなんだろうな……多分。
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