小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重

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異世界迷走中

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「ふわぅっ~~んっ」

 部屋の中で俺はでかいあくびを1つする。
 黒髪の騎士……コヴィノアールがギロリと俺を睨み付けた。
 そう、俺は、とうとう黒髪の騎士の名前をゲットしたのだ。
 ――――いや、男の名前なんかゲットしたからって、それほど嬉しいもんでもないけどな。

 彼の名は、コヴィノアール・ジム・ドラン。42歳。
 なんと近衛第3騎士団王都駐留部隊の副隊長なんだそうだった。
 ……うん。なんとか間違えずに言えた。俺、偉い!
 ご存知のとおり黒髪黒瞳。よく見りゃ整った顔で、ハリウッドスターのジムなんたらとかいう俳優に似ているような気がする。名前と暗い過去を持つ男ってイメージがおんなじだ。
 いや、コヴィ(当然呼び方はコヴィだ。あんな長い名前いちいち呼んでいられるか)に暗い過去があるかどうかは知らないけどな。

 現在、部屋には俺とコヴィの2人だけである。
 あくびくらいしたってばち罰は当たらないだろうと思う。

 実際、ここ最近の俺はけっこう疲れていた。
 原因は、キラキラ目のおっさん達だ。

「ユウさま。この計画の統計的予測における確率モデルの特定ですが――――」
「ユウさま。この建物の建設プロジェクトの費用便益分析で――――」

 いかにも中世ですといったチュニックを着込んだおっさん達が、連日連夜俺を質問攻めにする。
 いったいどこの誰が、おっさんの質問攻めを喜ぶだろう?
 少なくとも俺は絶対ごめんだ!
 なのに、加齢臭がぷんぷんしそうなおっさん達が俺に迫ってくるのだ。
 しかし、外見はともかく、彼らは全員アディに案内されて視察した王都の工事現場の責任者や設計者といった名だたる技師達だった。
 流石、国を挙げての国家プロジェクトを任せられた男達は違う。
 彼らは優秀で、俺の持つ本来であればこの世界では何十年も先の未来にしか現れなかっただろう知識を、貪欲に吸収していく。

(これって、歴史を変えるとかいうヤバいケースじゃないのか?)

 タイムパラドックスとは少し違うかもしれないけれど、似たような現状に俺はちょっぴり眉をひそめる。
 俺はやだぞ。自分が科学技術を広めたばっかりに、この世界に戦争が起こるなんて事態は。



(……まあ、そんなわけもないだろうけどな)

 言う程には心配していない俺は、ひそめた眉をあっという間に戻した。
 なにせ俺がこの世界に来たのは、この世界の『神の賜いし御力』の所為なんだ。
 つまりは神のご意志だって事で、俺が来た事でこの世界がどうなろうとその責任は全て神にある。(きっぱり!)

 無責任だと言わば言え。
 もう既にアディとの[よろず相談サイト]でのやりとりで、俺は過ぎたる知識をこの世界に与えてしまっているんだ。
 こんな悩みは今更だし、それに俺は、あの疫病事件の時のように、自分にできる事で誰かを救えるのならば、それを行うことをためらったりしたくない!

 うわっ……今の俺、滅茶苦茶カッコよくないか?

 俺は悦に入り、自画自賛し、思いっきり自己陶酔した。
 ――――こんな場面滅多にない!

 なのに気がつけば、コヴィが冷たい目で俺を睨んでいた。
 うん。テンションが上がっている時の冷静な周囲の視線って、半端なく痛い。
 俺は心を削られて、ますますぐったりとソファーに沈んだ。


 そう、俺は今日、ようやくおっさん達のキラキラ攻撃から解放されたのであった。
 アディが「いい加減にしろ!」とおっさん達を引き離してくれたのだ。

 マジ感謝する。
 例えアディが、「お前達ばかりでユウと話を盛り上げるな!」とか、「ユウは俺の友なのに……」とか、なんだか拗ねた子供のようなセリフを連発し、生温かい目で見られたとしても、俺を助けてくれた事実には変わりはない。

 (アディ……お前、やっぱり小学生だろ)
 (こいつが国王で、この国は大丈夫なのか?)

 なんて……うん。思っても口にはしないさ。
 俺は半ヒッキーでも空気は読める男だ。

 何はともあれ、アディの命令で俺とおっさん達の話し合いは午前中に限られる事となった。
 アディやリーファが、政務や神殿のお務めから解放されるのはたいてい夕方だから、昼からその時間までが俺の自由時間となる。

 ――――本当は、アディは俺に政務の間も一緒に居て欲しいようだったが、俺は先回りして断らせてもらった。
 政務なんてとんでもない。
 エイベット卿が威嚇するように睨んできたが、俺がわざわざそんな面倒くさい事に自分から首を突っ込むような真似をするわけないだろう?

(こいつもいい加減、俺の性格くらい把握すればイイのに)

 こういった奴らの他人を量る基準は、いつだって自分だからな。
 困ったもんだと俺は思う。


 何はともあれ俺は、久しぶりの自由時間をのんべんだらりと過ごしていた。
 コヴィの冷たい目は、気にしない方向で行こう。
 俺がもう一度、大きなあくびをしようと思った時だった。
 トントンとドアがノックされる。
 コヴィが警戒しながらドアを開けて、確認してから来訪者を招き入れた。

 俺の眠気があっという間に吹っ飛ぶ。
 入って来たのは、ウサ耳の獣人……フィフィだった。

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